号砲と共に、第四次試験の幕が上がった。俺たち一班は作戦通りに展開し、旗の捜索を続けている。
「こちら1番、全員の位置を把握している。9番、進路を北東に」
『9番、了解』
俺は最初の集結地点に留まり、探索魔法で全員の動きを追いつつ、通信魔法で連絡をとっていた。試験場の領域は東西に広がっており、一班が西側から、二班が東側から攻める恰好だ。他の九名は集結地点から放射状に広がり、旗を探している。
『こちら31番、1番聞こえるかな』
「はい1番、どうぞ」
31番――すなわちヘルマン――は真東の方に進んでいる。二班の敵と遭遇する可能性が一番高いと言っていいだろう。
『敵の位置は捕捉出来ているかな?』
「いや、まだ。恐らく魔力量を絞って、こちらの探索魔法に引っ掛からないようにしている」
『了解。気を付けて進むよ』
二班にはエレナがいるが、彼女は俺の探索魔法を知っているからな。少しでも魔法を使えば探知されることを理解しているだろうから、仲間にも注意するように伝えているに違いない。
「東側に展開している班員へ。歩行速度を考慮すれば、そろそろ二班と会敵する可能性がある。注意されたし」
こちらは一名ずつの単独行動だが、向こうがどう来るかはまだ分からない。十人がまとめて、ということは流石にないだろうが……。いずれにしても、魔法を使ってくれなければ探知しようがないからな――
『こちら24番、敵と接触した!』
耳をつんざくような声が聞こえた。探索魔法で再確認してみると、北東方向に進んでいた24番の近くに、三人の魔力反応がある。
「状況は!」
『現在、三人と交戦中! 挟撃された!』
「31番と19番は24番の援護に!」
『駄目だっ、打開できなっ……』
そこで通信魔法は途切れてしまい、24番を示していた輝点が消えた。恐らく三名からの同時攻撃に耐えきれなかったのだろう。やはり一対三では不利か。
『こちら56番、同じく会敵!』
「敵の人数は!」
『こっちも三人だ! いったん後方に下がって立て直す!』
56番は南東方向に展開していたはずだし、やはり東側から二班が進撃してきているのだろう。向こうは複数名ずつの隊を組んできているというわけだな。
『こちら31番、指示を頼む』
「探索魔法でも確認したが、向こうは三名ずつの隊を組んでいる。ひとりで会敵すれば各個撃破の可能性が高い」
『じゃあ、こっちも隊を組めば』
「いや、まだだ。少しでも気配を消して、
一度後ろに下がらせて再集結するのは、選択肢としてなしではないが……それではばらばらに展開させた意味がない。この森に満遍なく種を撒くことが出来れば、こっちのものなんだ。
『こちら9番、向かってくる三名を確認した。まだ気づかれてはいない』
「了解。可能ならそのままやり過ごして、東側に進んでくれ」
『了解した』
24番、56番、9番が遭遇したのはすべて三名の隊だ。……全員が十人だから、一人余るな。探索魔法でも、敵は九名しか捕捉出来ていない。
「こちら1番、まだ二班のうち一名を探知出来ていない。潜伏している可能性があるから、注意せよ」
24番は倒されてしまったが、9番は東側に進むことに成功している。恐らく31番もうまくやり過ごしたはずだ。
「5番と13番に告げる。西側に種を撒き終えたら、進路を東側に変えてほしい」
『了解!』
『了解』
西側にいる二人は敵と遭遇する可能性は低いはずだ。となれば、東側に進んで捜索範囲を広げた方がいい。今のところ、まだ旗は見つかっていないしな。
やはり気になるのはまだ未探知の一名だ。潜伏しているのか、あるいは……俺のように後方で指揮を執っているのか。
「56番、会敵した三名の中にエレナ・アーレントは含まれていたか?」
『いや、いなかった』
「9番は?」
『こちらも確認していない』
……なるほど。恐らく向こうの班で一番の実力者はエレナのはずだ。24番が遭遇した隊については分からないが……彼女だけが別行動をとっている可能性があるな。
「31番、急いで東側に進んでほしい。エレナを探してくれ」
『了解。やっぱりお嬢さんは要注意ということかな』
「その通りだ。もし見つけた場合でも、戦闘はせずに離脱してくれ」
『逃げきれればね』
ヘルマンがそう言うということは、やはり一対一でもエレナと戦うことは避けたいということか。俺とは違って、エレナには戦闘の心得もあるはずだし。
エレナは未だに魔力を使っていない。やはり潜伏しているのか? どこか高所を陣取って、俺たちの班を狙撃……とか。あるいは他の九名に戦闘を任せて、旗探しを一人で請け負っているとか。
彼女は魔法に関しては人一倍の自信があるのだろう。何を仕掛けてくるのか分かったものじゃないな。何も気づかないうちに、火力魔法でどんと撃たれる……なんてのはごめんこうむりたい。
「31番、状況は」
『二班の集結地点まで来たけど……お嬢さんは発見できない。どこかに隠れているかも』
「了解。引き続き旗とエレナを探してくれ」
なんだか不気味だな。他の隊に注意をそらして、自分だけ別行動をとる意味を考えたい。わざわざ魔力を使わずに、いったい何を――
「!」
わずかに落ち葉の擦れる音がして、思わず後ろを振り向く。すると、そこにあったのは――顔まで泥まみれになりながら、俺に向かって杖を振り下ろそうとするエレナの姿だった。