宮廷魔導師選抜試験を記念受験した田舎者   作:古野ジョン

32 / 42
未発見のエレナ

 号砲と共に、第四次試験の幕が上がった。俺たち一班は作戦通りに展開し、旗の捜索を続けている。

 

「こちら1番、全員の位置を把握している。9番、進路を北東に」

『9番、了解』

 

 俺は最初の集結地点に留まり、探索魔法で全員の動きを追いつつ、通信魔法で連絡をとっていた。試験場の領域は東西に広がっており、一班が西側から、二班が東側から攻める恰好だ。他の九名は集結地点から放射状に広がり、旗を探している。

 

『こちら31番、1番聞こえるかな』

「はい1番、どうぞ」

 

 31番――すなわちヘルマン――は真東の方に進んでいる。二班の敵と遭遇する可能性が一番高いと言っていいだろう。

 

『敵の位置は捕捉出来ているかな?』

「いや、まだ。恐らく魔力量を絞って、こちらの探索魔法に引っ掛からないようにしている」

『了解。気を付けて進むよ』

 

 二班にはエレナがいるが、彼女は俺の探索魔法を知っているからな。少しでも魔法を使えば探知されることを理解しているだろうから、仲間にも注意するように伝えているに違いない。

 

「東側に展開している班員へ。歩行速度を考慮すれば、そろそろ二班と会敵する可能性がある。注意されたし」

 

 こちらは一名ずつの単独行動だが、向こうがどう来るかはまだ分からない。十人がまとめて、ということは流石にないだろうが……。いずれにしても、魔法を使ってくれなければ探知しようがないからな――

 

『こちら24番、敵と接触した!』

 

 耳をつんざくような声が聞こえた。探索魔法で再確認してみると、北東方向に進んでいた24番の近くに、三人の魔力反応がある。

 

「状況は!」

『現在、三人と交戦中! 挟撃された!』

「31番と19番は24番の援護に!」

『駄目だっ、打開できなっ……』

 

 そこで通信魔法は途切れてしまい、24番を示していた輝点が消えた。恐らく三名からの同時攻撃に耐えきれなかったのだろう。やはり一対三では不利か。

 

『こちら56番、同じく会敵!』

「敵の人数は!」

『こっちも三人だ! いったん後方に下がって立て直す!』

 

 56番は南東方向に展開していたはずだし、やはり東側から二班が進撃してきているのだろう。向こうは複数名ずつの隊を組んできているというわけだな。

 

『こちら31番、指示を頼む』

「探索魔法でも確認したが、向こうは三名ずつの隊を組んでいる。ひとりで会敵すれば各個撃破の可能性が高い」

『じゃあ、こっちも隊を組めば』

「いや、まだだ。少しでも気配を消して、()の散布に努めてほしい」

 

 一度後ろに下がらせて再集結するのは、選択肢としてなしではないが……それではばらばらに展開させた意味がない。この森に満遍なく種を撒くことが出来れば、こっちのものなんだ。

 

『こちら9番、向かってくる三名を確認した。まだ気づかれてはいない』

「了解。可能ならそのままやり過ごして、東側に進んでくれ」

『了解した』

 

 24番、56番、9番が遭遇したのはすべて三名の隊だ。……全員が十人だから、一人余るな。探索魔法でも、敵は九名しか捕捉出来ていない。()()()がいるのか?

 

「こちら1番、まだ二班のうち一名を探知出来ていない。潜伏している可能性があるから、注意せよ」

 

 24番は倒されてしまったが、9番は東側に進むことに成功している。恐らく31番もうまくやり過ごしたはずだ。

 

「5番と13番に告げる。西側に種を撒き終えたら、進路を東側に変えてほしい」

『了解!』

『了解』

 

 西側にいる二人は敵と遭遇する可能性は低いはずだ。となれば、東側に進んで捜索範囲を広げた方がいい。今のところ、まだ旗は見つかっていないしな。

 

 やはり気になるのはまだ未探知の一名だ。潜伏しているのか、あるいは……俺のように後方で指揮を執っているのか。

 

「56番、会敵した三名の中にエレナ・アーレントは含まれていたか?」

『いや、いなかった』

「9番は?」

『こちらも確認していない』

 

 ……なるほど。恐らく向こうの班で一番の実力者はエレナのはずだ。24番が遭遇した隊については分からないが……彼女だけが別行動をとっている可能性があるな。

 

「31番、急いで東側に進んでほしい。エレナを探してくれ」

『了解。やっぱりお嬢さんは要注意ということかな』

「その通りだ。もし見つけた場合でも、戦闘はせずに離脱してくれ」

『逃げきれればね』

 

 ヘルマンがそう言うということは、やはり一対一でもエレナと戦うことは避けたいということか。俺とは違って、エレナには戦闘の心得もあるはずだし。

 

 エレナは未だに魔力を使っていない。やはり潜伏しているのか? どこか高所を陣取って、俺たちの班を狙撃……とか。あるいは他の九名に戦闘を任せて、旗探しを一人で請け負っているとか。

 

 彼女は魔法に関しては人一倍の自信があるのだろう。何を仕掛けてくるのか分かったものじゃないな。何も気づかないうちに、火力魔法でどんと撃たれる……なんてのはごめんこうむりたい。

 

「31番、状況は」

『二班の集結地点まで来たけど……お嬢さんは発見できない。どこかに隠れているかも』

「了解。引き続き旗とエレナを探してくれ」

 

 なんだか不気味だな。他の隊に注意をそらして、自分だけ別行動をとる意味を考えたい。わざわざ魔力を使わずに、いったい何を――

 

「!」

 

 わずかに落ち葉の擦れる音がして、思わず後ろを振り向く。すると、そこにあったのは――顔まで泥まみれになりながら、俺に向かって杖を振り下ろそうとするエレナの姿だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。