菓子を食べたあと、俺は宿屋の部屋で書き物などをして過ごしていた。随分前にアマリアに買ってきてもらった帳面も、ほとんどの頁が埋まってしまった。最初は立ち寄った飯屋のことなんかを書いていたけど、今では硬いことばかり記されている。
「第四次試験が終わり、今は最終試験を待つばかりである……と」
そこまで書き終えて、ふうと息をついた。第三次以降の試験内容は他言無用だから、帳面にも詳しいことを書くことは出来ない。誰かに奪われたりしたら面倒なことになりそうだしな。
旗を取ったことで、最終試験に進むことは確定しているわけだが……、その内容については全く情報がない。第一次で知力を問われ、第二次で人格を見定められ、第三次で魔法の実力を確かめられた。そして第四次では協調性を測られたと。
最終試験で待つものは何なのか。今更、改めて魔法の技量が必要になるとも思えない。宮廷魔導師として何が求められるのか? 何をもって国王陛下の前に立つことを許されるのか? 田舎から出てきた俺が考えたところで、答えは分からない。
「ん」
窓の外が少し騒がしいことに気づいた。下の通りを眺めてみると、街並みに似合わぬ高貴な服装を来た男が何人かいて、「グルート」の店主と何か話をしていた。
「何だ……?」
あたりを見回してみると、人ごみをかき分けるようにして馬車まで近づいてきている。第四次試験の結果は
「おっ、お客さん!」
その時、慌てた様子のアマリアが部屋に入ってきた。
「今すぐっ! 今すぐ下に来てくださいっ!」
「下……って、やっぱり俺宛てに」
「宮廷からですっ! 王様からですようっ!」
「……へっ?」
「いいから来てくださいっ!」
ただならぬ迫力のアマリアに連れられるまま、俺は階下に降りていったのだった。
***
「受験番号1番、キーガン・バウアー様でよろしいでしょうか」
「は、はあ……」
店の前では、いかにも召使いといった風貌の男が膝をついていた。その後ろには馬車も着いており、周囲を歩く通行人たちは奇異な目でこちらを見つめている。
「あの、あなたは……」
「バウアー様の御案内役を仰せつかりましたコニー・バルツァーと申します」
「はあ、どうも」
こんなに丁重な扱いをされたのは生まれて初めてかもしれないな。受験番号がどうとか言っているし、魔導師試験に関することなのは間違いないが。やはり合格通知にしては仰々しい気がする。
「それで、ご用件は」
「バウアー様は宮廷魔導師選抜試験の第四次試験に合格されました。おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
コニーは膝をついたまま、あっさりと合格を告げた。旗を取ったし、最終試験に進んだのは分かっていたけど……実際に聞くとほっとするな。
「つきましては、最終試験にご案内いたします。ではさっそく、こちらの車にお乗りいただけますか」
「えっ?」
「試験場へとご案内いたしますので」
試験場って……もう夕方なのに、今から試験をするんだろうか。いくらなんでも急すぎるというものだ。
「どういうことですか? 試験と言ったって、何も準備は」
「必要ございません。さあ、お乗りください」
ただ乗車を促されるばかりで、困惑するしかない。すぐ近くに立っていた店主に視線を送り、助けを求めてみる。魔導師試験の度にこんな大げさな迎えがあるなら、市井の間で噂になっていてもおかしくはないはずだが。
「コニー・バルツァーと言ったか。最終試験にこんな大仰な迎えがあるとは知らなかったが」
「今回の試験は特別です。特にバウアー様に関しましては、丁重にご案内するよう申し付けられております」
もしかして、この間の襲撃事件を鑑みての措置なのだろうか。宮廷と教会の間にいろいろな駆け引きがあったのかもしれないが……そんなの知る由もないしな。ここは素直に従うしかないだろう。
「……分かりました。では、お願いします」
「私も同乗するように仰せつかっております。失礼とは存じますが、ご容赦ください」
その言葉通り、俺が車に乗り込むと、コニーも隣に座ってきた。きっと俺の警護も兼ねているのだろう。受験生どころか、まるで賓客のような扱いだな……。
「よく分からんが、頑張れよ兄ちゃん!」
「お客さん、頑張ってください!」
外から聞こえる二人の声に応えていると、馬車がゆっくりと走り出した。街灯が照らす街並みを縫うように、車はウルムの中心部へと進んでいく。
試験場、とは言っていたが……まさかここまで来て教会に連れていかれるのではあるまいな。それだけは勘弁願いたいが。
「あの……質問をよろしいですか」
「いかがなさいましたか?」
「この車、いったいどちらへ……?」
そう問うてみると、コニーはゆっくりと口を開く。
「――宮廷の中へご案内いたします。本日、バウアー様には国王陛下との晩餐会にご出席いただきます」
「……へっ?」
「何も心配することはございません。バウアー様にはいつも通り、ただお食事を召し上がっていただければと存じます」
その言葉を聞いて、俺はただただ呆気にとられるばかりだった――