宮廷魔導師選抜試験を記念受験した田舎者   作:古野ジョン

40 / 40
キーガンの虚飾

 コニーに宮殿の中へと案内してもらったが、やはり外見と同じく質素なつくりをしていた。豪奢な飾りつけはいらぬという合理主義なのだろうか。少し手狭な広間からは左右に廊下が続いていて、時おり従者が行き来している。

 

「やあ、バウアー君。ここで会えて嬉しいよ」

「なんだよ、その恰好」

 

 先に到着していたであろうヘルマンが現れたのだが、なんだか貴族のような格好をしていた。いや、実際に貴族ではあるからおかしいことではないのだが。

 

「今日はみんなお揃いさ」

「というと?」

「向こうの部屋に用意があるんだ。案内してもらうといいよ」

 

 ヘルマンは廊下の奥を指さした。国王陛下の前に出るには少々心もとない服装だったから、助かった。いや、むしろそういう意図なのかもしれない。安易に外見で印象を左右されないように……という考えがあるのだろう。

 

「バウアー様、どうぞこちらへお越しください」

 

 近くにいたコニーが、ヘルマンと同じ方向を指した。やっぱり着替えが必要みたいだな。

 

「じゃあ、俺も行ってくるよ。またあとで」

 

 一旦ヘルマンに別れを告げて、コニーと共に廊下を歩き出したのだった。

 

***

 

「……では、お召替えは以上になります」

「ど、どうも……」

 

 姿見に映った自分の姿には、とても違和感があった。やや大きめのローブに袖を通していることもあってか、服に()()()()()()といった印象だった。自分がこの装いに見合う人間なのかは分からないな。

 

「お手荷物はこの部屋に置いていっていただきます」

「と言いますと?」

「受験者の皆様に狼藉を働くような方はいらっしゃらないと存じますが。念のためでございます」

 

 陛下と卓を囲む以上、物騒な品を携行するのは許されないということか。全員に着替えさせたのも、服の下に武器を隠すのを防ぐためかもしれないな。しかし……それこそ魔法を使えばどうとでも出来そうなものだが。

 

()()()では不規則に魔法が発生しています。ご留意ください」

「あっ、はい」

 

 考えを読み取られた気分だ。第三次試験のときと同じように、簡単に魔法が使えぬように工夫してあるという意味だろう。

 

 もっとも、最終試験が国王陛下との晩餐会であることを皆が知ったのは今日になってからのはずだ。陛下をどうにかしようと事前に計画を立てるのは不可能に近い。あまり考え過ぎても仕方ないか。

 

「バウアー様、お手荷物は?」

「いえ、ないです」

「結構でございます。それでは、ご案内を」

 

 コニーに連れられるまま、俺は会場へと向かったのだった。

 

***

 

 一人で会場に足を踏み入れると、静謐な空気に身を包まれた。真っ赤な絨毯の踏み心地は柔らかく、足元からもただならぬ雰囲気を感じ取ることが出来る。

 

「へえ……」

 

 いくら質素な宮殿と言っても、晩餐会の部屋は煌びやかに飾られていた。天井からは美しい照明が吊り下げられており、長い卓の上には色とりどりの花が据えられている。ただ窓がなく、地味な色の壁に囲まれているので、やや暗い印象も受けた。

 

「……」

 

 他の九名は既に卓を囲んで座っており、神妙な面持ちで待っていた。緊張しているのだろう。実際、自分も胸の鼓動が速くなっている。

 

「……ん」

 

 卓の一番端に座るヘルマンまで、心なしか緊張しているように見えた。珍しいな。どちらかといえば、どんな時でも平常心を保っている人間だと思っていたが。流石に最終試験ともなると気が気でないのかもしれない。

 

 いつまでも部屋の入口に留まるわけにもいかないので、俺は卓に向かって歩いていき、席に腰を落ち着けた。ふうと息を吐き、さりげなく周りを見回してみる。

 

 まず、俺の真正面に空席があるが……ここは国王陛下の席だ。(陛下から見て)ひとつ右の席には澄ました顔のエレナがいる。少しばかりは緊張してそうだが、それでも他の者たちに比べれば落ち着いているようにも見えた。ヘルマンも同じく向かい側、俺から見て右斜め前の席に座っている。

 

 受験者の面子を見るに、第四次試験で一班だったもの――すなわち旗取り合戦に勝利したもの――が多いというわけではないようだった。ヴィットマンの言葉通り、勝敗だけが選考基準ではなかったのだろう。

 

 ところで、俺がここに座った時点で受験者はすべて揃ったことになる。となれば、間もなく陛下が来てもおかしくはないな。

 

 宮廷魔導師たちを従え、この国を統べる存在。国内の諸勢力との均衡を保ちながらも、圧倒的な存在感を誇るその人物が――俺たちの前に現れようとしているのだ。

 

「諸君! 待たせたかな!」

「えっ?」

「なんだ?」

 

 どこからともなく声が聞こえて、受験者たちが戸惑いの表情を見せた。快活かつ明朗。一度聴いたら忘れられない声色だな――

 

「やあ、選ばれし十名の精鋭たちよ!」

「「!?」」

 

 その時、卓越しの真正面に見えていた()の一部が扉のごとく開いた。そこに立っていたのは、気高い金髪を備えたうら若き女性。青色のマントを翻し、頭上の王冠を美しく輝かせている。その右手には――格式高い金色の杖。

 

「諸君に会うのを楽しみにしていた! 今宵は素晴らしい宴にしようじゃないか!」

 

 天に向かって笑い声をあげるその姿は、まさに豪傑としか言いようがなかった。若くして王位を継承し、この国の支配者として君臨する絶対的存在。先代の政策を継ぎ、魔導師を官吏として据えるこの人こそ――

 

「我が名はヘートヴィヒ・シュタインバッハ! ようこそ、最終試験へ!」

 

 俺たちにとって、最後の試験官であった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

皇帝に成りたくない男の不本意奴隷ハーレム(作者:サイリウム)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

転生者の主人公が皇位争いから上手くドロップアウトしようと思ったら、奴隷たちに囲まれてる話。▼伯爵家の四男エドモンドは、転生者である。彼はきたる皇位継承戦に向けて功績を積むため、両親からダンジョン攻略を命じられてしまう。しかも所属する国家が奴隷を推進する国だったため、不本意ながら購入することに。彼自身は奴隷たちに反乱されぬ様に程よい“雇用関係”を築こうと思って…


総合評価:5415/評価:8.12/連載:12話/更新日時:2026年08月18日(火) 17:00 小説情報

フィンレーベン 千年図書館の魔法使い(作者:魔宮ことな)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

転生したらランクアップする度に寿命が延びる魔法使いの世界で、今日も図書館に引きこもってる話。


総合評価:10809/評価:8.85/連載:6話/更新日時:2026年08月15日(土) 00:02 小説情報

転職のスキル授かったらそりゃ全職極めるに決まってんだろ(作者:水色の山葵)(オリジナル現代/冒険・バトル)

人より道のりは長いが、ダンジョン中毒の彼にはあまり関係がない。▼カクヨムにも投稿してます。▼https://kakuyomu.jp/works/2912051601499000526


総合評価:8013/評価:7.94/連載:39話/更新日時:2026年08月13日(木) 07:03 小説情報

0.1%の積み重ね(作者:仮面のカルメン)(原作:HUNTER×HUNTER)

HUNTER×HUNTERの世界に転生したフクリ。▼戦闘の才能は普通。努力もできればしたくない。▼そんな彼が作ったのは、念能力に使えるメモリが毎日0.1%ずつ増えていく能力「複利」。▼時間を味方につけ、増え続けるメモリで新たな能力を作りながら、少しずつ強くなっていく。▼これは、才能ではなく“積み重ね”で最強を目指す男の物語。▼※時系列、年齢がおかしくなってい…


総合評価:6595/評価:7.68/連載:46話/更新日時:2026年08月11日(火) 12:40 小説情報

そいつの開発者、俺なんだが(作者:束田せんたっき)(オリジナルSF/コメディ)

なんか学生時代の黒歴史が、未来でディストピアの管理AIをやってたんですけど。国家ぐるみのストーキングやめてね。▼《真面目なあらすじ》▼高城之男へ一致せよ。▼タカギニアでは、すべての人間が、三百年前に死んだ偉人・高城之男とどれだけ似ているかで評価される。似ている者には栄光を、似ていない者には屈辱を。▼管理番号11-F-283-D503、平野平人。彼は一致度0.…


総合評価:6540/評価:8.24/連載:43話/更新日時:2026年08月18日(火) 19:15 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>