コニーに宮殿の中へと案内してもらったが、やはり外見と同じく質素なつくりをしていた。豪奢な飾りつけはいらぬという合理主義なのだろうか。少し手狭な広間からは左右に廊下が続いていて、時おり従者が行き来している。
「やあ、バウアー君。ここで会えて嬉しいよ」
「なんだよ、その恰好」
先に到着していたであろうヘルマンが現れたのだが、なんだか貴族のような格好をしていた。いや、実際に貴族ではあるからおかしいことではないのだが。
「今日はみんなお揃いさ」
「というと?」
「向こうの部屋に用意があるんだ。案内してもらうといいよ」
ヘルマンは廊下の奥を指さした。国王陛下の前に出るには少々心もとない服装だったから、助かった。いや、むしろそういう意図なのかもしれない。安易に外見で印象を左右されないように……という考えがあるのだろう。
「バウアー様、どうぞこちらへお越しください」
近くにいたコニーが、ヘルマンと同じ方向を指した。やっぱり着替えが必要みたいだな。
「じゃあ、俺も行ってくるよ。またあとで」
一旦ヘルマンに別れを告げて、コニーと共に廊下を歩き出したのだった。
***
「……では、お召替えは以上になります」
「ど、どうも……」
姿見に映った自分の姿には、とても違和感があった。やや大きめのローブに袖を通していることもあってか、服に
「お手荷物はこの部屋に置いていっていただきます」
「と言いますと?」
「受験者の皆様に狼藉を働くような方はいらっしゃらないと存じますが。念のためでございます」
陛下と卓を囲む以上、物騒な品を携行するのは許されないということか。全員に着替えさせたのも、服の下に武器を隠すのを防ぐためかもしれないな。しかし……それこそ魔法を使えばどうとでも出来そうなものだが。
「
「あっ、はい」
考えを読み取られた気分だ。第三次試験のときと同じように、簡単に魔法が使えぬように工夫してあるという意味だろう。
もっとも、最終試験が国王陛下との晩餐会であることを皆が知ったのは今日になってからのはずだ。陛下をどうにかしようと事前に計画を立てるのは不可能に近い。あまり考え過ぎても仕方ないか。
「バウアー様、お手荷物は?」
「いえ、ないです」
「結構でございます。それでは、ご案内を」
コニーに連れられるまま、俺は会場へと向かったのだった。
***
一人で会場に足を踏み入れると、静謐な空気に身を包まれた。真っ赤な絨毯の踏み心地は柔らかく、足元からもただならぬ雰囲気を感じ取ることが出来る。
「へえ……」
いくら質素な宮殿と言っても、晩餐会の部屋は煌びやかに飾られていた。天井からは美しい照明が吊り下げられており、長い卓の上には色とりどりの花が据えられている。ただ窓がなく、地味な色の壁に囲まれているので、やや暗い印象も受けた。
「……」
他の九名は既に卓を囲んで座っており、神妙な面持ちで待っていた。緊張しているのだろう。実際、自分も胸の鼓動が速くなっている。
「……ん」
卓の一番端に座るヘルマンまで、心なしか緊張しているように見えた。珍しいな。どちらかといえば、どんな時でも平常心を保っている人間だと思っていたが。流石に最終試験ともなると気が気でないのかもしれない。
いつまでも部屋の入口に留まるわけにもいかないので、俺は卓に向かって歩いていき、席に腰を落ち着けた。ふうと息を吐き、さりげなく周りを見回してみる。
まず、俺の真正面に空席があるが……ここは国王陛下の席だ。(陛下から見て)ひとつ右の席には澄ました顔のエレナがいる。少しばかりは緊張してそうだが、それでも他の者たちに比べれば落ち着いているようにも見えた。ヘルマンも同じく向かい側、俺から見て右斜め前の席に座っている。
受験者の面子を見るに、第四次試験で一班だったもの――すなわち旗取り合戦に勝利したもの――が多いというわけではないようだった。ヴィットマンの言葉通り、勝敗だけが選考基準ではなかったのだろう。
ところで、俺がここに座った時点で受験者はすべて揃ったことになる。となれば、間もなく陛下が来てもおかしくはないな。
宮廷魔導師たちを従え、この国を統べる存在。国内の諸勢力との均衡を保ちながらも、圧倒的な存在感を誇るその人物が――俺たちの前に現れようとしているのだ。
「諸君! 待たせたかな!」
「えっ?」
「なんだ?」
どこからともなく声が聞こえて、受験者たちが戸惑いの表情を見せた。快活かつ明朗。一度聴いたら忘れられない声色だな――
「やあ、選ばれし十名の精鋭たちよ!」
「「!?」」
その時、卓越しの真正面に見えていた
「諸君に会うのを楽しみにしていた! 今宵は素晴らしい宴にしようじゃないか!」
天に向かって笑い声をあげるその姿は、まさに豪傑としか言いようがなかった。若くして王位を継承し、この国の支配者として君臨する絶対的存在。先代の政策を継ぎ、魔導師を官吏として据えるこの人こそ――
「我が名はヘートヴィヒ・シュタインバッハ! ようこそ、最終試験へ!」
俺たちにとって、最後の試験官であった。