「ようこそ、最終試験へ!」
凛とした声が部屋中に響き渡る。名誉あるシュタインバッハの名を継ぎ、この国を治めている存在だ。年齢も性別も関係なく、圧倒的な風格があった。
「腹が空いただろう! さあさあ、早く食事にしようじゃないか!」
陛下が両手を叩くと、ぱんと乾いた音が聞こえた。すると俺たちの前にぼんやりと皿の輪郭が見え始め……徐々に具現化していく。その上には肉を加工した前菜料理が載っており、俺たちはいきなり虚を突かれることになった。
「えっ!?」
「いつの間に!?」
「諸君との語らいを給仕に聞かせる謂れはないからね!」
再び豪快に笑ったあと、陛下は俺の向かい側に座った。コニーが「食事の際は遠慮する」とは言っていたが、まさか給仕すら部屋に入れないとは。徹底しているな。
「ふむふむ……なるほどな!」
陛下は卓を囲む受験生を見回して、ひとりで頷いていた。俺たちの身分なり成績なりは事前に知っているはずだから、顔ぶれを再確認したのかもしれない。
半ば呆気に取られていると、陛下と目が合った。俺がナイフを動かしていないことに気がついたのか、ニコッと微笑んで口を開く。
「遠慮することはない。食べたまえ」
「は、はい……」
「すまんが酒は用意していないんだ。これでも試験だからな、はっはっは!」
などと言ってはいるものの、陛下の右手にはしっかりと杯が握られていた。……その中身、ぶどう酒では? 飲んでいないと国王などやってられないという意味だろうか。
俺は恐る恐るナイフを動かし、肉のパテを小さく切った。フォークで口に運んだが、あまり味は分からない。……国王の前で礼儀作法を間違えない自信がある人間がいるのだろうか。一度会ってみたいものである。
「君がエレナ・アーレントかな?」
「はっ、はい」
不意に、陛下が右隣に顔を向けた。不意を突かれたエレナは素っ頓狂な声を上げ、戸惑ったような表情を見せている。エレナは物怖じしない人間だと思っていたけど、流石にこの状況では緊張するのか。
「アーレント予備学校のご令嬢と聞いたよ。君の魔法は父君仕込みかい?」
「はい。その……父をご存じなのですか?」
「魔導師の多くが父君を恩師と慕っているからね。宮廷への均質的な人材の供給は、間違いなく父君の功績と呼んでいいだろう」
「光栄に存じます。感謝いたします」
エレナは素直に礼を言っていたが、俺は少し違和感を覚えた。均質的、というのは果たして肯定的な言葉なのだろうか。「グルート」の店主も言っていたが、予備学校のせいで突き抜けた人材が合格しなくなったという面もあるはずだ。……単に磊落な君主というわけではなさそうだな。
「最終試験に残った女性は君だけか。苦労しなかったかい?」
「いえ。相手が何であろうと倒す覚悟で受験しています」
「そうか。君は勇敢だな」
陛下はぐっと杯を傾け、ふうと息をついた。さっきとは違い、互いに本音で話しているように見える。同じ女性同士で思うところがあるのかもしれないな。
「次は5番の君だ。君の生まれは……」
エレナとの話に満足したのか、今度は違う受験生と話しかけていた。内容はさっきと同じで、家柄やら出自やらについて聞いている。
しかし……第二次試験の際にそのあたりの項目は評価されているはずだよな。この期に及んで陛下自らが問う理由はあまり分からない。
会話の相手が次から次へと移るうちに、陛下の笑い声がより響くようになってきた。酒が進んだせいもあるだろう。陛下はよく飲み、よく食べる。国王というのは健啖家であらねばならないのだろうか。
「でして、それからっ……」
「あっはっは、本当かい!? そりゃ愉快な話だなあ……!」
大笑いする陛下についつい乗せられて、ざっくばらんに話をする受験生もいるが……それがこの
「では次、ヘルマン・マイスナーはどこにいるっ?」
「はい、こちらに」
陛下は左を向いて、一人挟んで隣り合うヘルマンに話しかけた。この部屋に入った時からそうだが、この男にしてはやけに緊張しているのが気になるな。
「君は……マイスナー家の息子かっ! 先代の頃は世話になったな!」
「自分の家はもう何十年も宮廷魔導師を送り込んでいませんから。買い被りですよ」
「何を言う! マイスナー家の力がなければ魔法の基礎理論は発展していない!」
「ありがとうございます。大変恐縮に存じます」
やはり貴族というだけあって、陛下にも名が知れているんだな。しかし……ヘルマンはこんなに硬い言葉遣いをする男だったかな。もちろん国王陛下に敬意を表するのは当然だが。少し気味が悪いくらいだ。
あまり詳しくはないが、宮廷魔導師選抜試験が制度化されたのは先代の若い頃だと聞いたことがある。何十年も魔導師を送り込んでいない、とヘルマンは言っていたが。やはり魔導師試験に阻まれてきたのだろうか。
などと考えているうちにも、宴は進み、次々に豪華な料理が現れていく。もっとも、この場において味覚を楽しんでいるのは国王陛下だけだろう。俺なんか、辛うじて肉と魚のどちらを食べているのか感じ取れるくらいのものだ。
「……なるほどな! よし次、キーガン・バウアー!」
「はっ、はい」
不意に名前を呼ばれた。改めて前を向き直すと、陛下は赤くなった顔でじっと俺のことを見つめている。睨まれているわけではないが、凄まじい眼力を感じずにはいられない。
「話は聞いている。いろいろと災難だったようだな」
「お、お気遣いいただきありがとうございます」
他の受験生が怪訝そうな表情を見せている中、俺は礼の言葉を述べた。やはり陛下にも父さんの件は伝わっていたのか。いくらヴィットマンが手を尽くしてくれたとはいえ、この人は簡単に教会を悪くは言えないはずなのに。ありがたいことだな。
「それでだ。ひとつ聞きたいことがある」
「はい」
陛下は再び杯に口をつけ、あっという間にぶどう酒を飲み干した。ぷはっと息をつくや否や、今までにない鋭い視線を俺に向けて、口を開く。
「――殺したか?」
「……はい?」
「父君を手にかけた連中は、とっくに殺したのだろう?」
少し周りがざわつく。冗談かと思ったが、陛下の眼差しはいたって真剣だった――