「父君を手にかけた連中は、とっくに殺したのだろう?」
陛下の眼差しはいたって真剣だった。父さんを手にかけた――襲った、くらいの意味合いだろうが――連中を殺したのか、という問いかけ。何を期待しているのかは分からないが、コニーの言いつけ通り、正直に答えるしかない。
「いえ、殺していません」
「ほう。肉親の命を脅かした無法者を、君は何もせずに放っておくのだな?」
「自分はただの受験生です。役人でも兵士でもありませんから」
「君は才能ある魔導師と聞いている。なぜ殺そうとしない?」
「自分の魔法はこの国のためにあります。私怨を晴らすためではありません」
唐突に始まった物騒な会話に、他の受験生たちは戸惑いを隠せていない。一方で、陛下は碧い瞳をじいっとこちらに向けていたが、やがて豪快な笑い声をあげた。
「はっはっは!
「というと……」
「余の城下で私刑など言語道断! 神は許してもこの冠が許さないさ!」
許しも得ずに犯人を断罪するなど、国王たる自分への不敬である……と言いたいのだろう。もちろん、俺だって父さんを襲った連中を許すつもりはない。だからと言って、せっかく伯父から受け継いだ魔法の才を人殺しに用いてしまえば同じ穴の狢だ。
「ああ、安心したまえ。既に
「と、仰いますと」
「王権を侮辱せし連中がウルムを跋扈するなど不愉快極まりない。奴らの首を今日の献立に入れようかと思ったくらいだ」
「……恐れ入ります」
陛下の眼光がさらに鋭さを増した。見た目こそ若き女性だが、心の内には強烈な闘争心が秘められているのが分かる。絶対的な存在感。それがこの人物を君主たらしめる所以なのだろう。
もし魔導師試験を受けることを考えなければ、国王陛下と相見えることもなかったはずだ。田舎で過ごしていた頃を思うと、この国の中心部に自分がいることが信じられないな。
「陰気な話はやめようじゃないか。キーガン・バウアー、君はウルムの生まれではないそうだな」
「はい。田舎から出てまいりました」
「余は地方からも人材を求めているのだが、なかなか集まらないのだ。試験の知らせも送っているのだけどね」
試験の知らせ、とは俺が解読を頼まれたあの文書のことだろうな。仮に寄り合いの長から読むように言われなければ、俺は魔導師試験について知る機会すら得ることが出来なかったに違いない。
「……陛下。意見を具申させていただいてもよろしいでしょうか」
「ほう。聞こうじゃないか!」
陛下は俺の方を見て、目をらんらんと輝かせていた。不遜だとなじられるかとも思ったが、寛容な心の持ち主で助かったな。
「田舎には文字を解せる者が少ないのです。自分の村でもそうでした」
「ふむ」
「ですから、あのような形式の知らせでは必要としている者に伝わらないかと存じます。別の告知方法に改めれば、もう少し地方からの受験生を増やすことも可能かと」
「……」
俺の意見を聞くと、陛下は口元に手を当てて考え込んでいた。コニー曰く、陛下は聡明な人物だという。なんとか聞き入れてもらいたいが――
「そうか。次回の試験では改めようではないか!」
「よ、よろしいのですか?」
「気に入った。この場で余に意見を申したのは君が初めてだ」
陛下はいたくご機嫌だった。身分の違いを恐れず、はっきりと物申す人間の方が好みなのだろう。だが、不諱と不敬は紙一重。最終試験という場においては危険な行いだったかもしれないな……。
「安心したよ。君のような人材が来るなど、地方にも望みはあるな」
「恐れ入ります」
「余のような
これは弱音、なのだろうか。教会の影響が強い田舎においては、魔法を推進する立場である陛下は支持を得にくいのかもしれない。
陛下はゆっくりと杯を傾けた。無法者に対する強烈な怒りがあったかと思えば、為政者としての悩みもあると。市井の人々、教会、貴族、そして魔導師。欲望が幾重にも絡み合うこの国の頂点に立つことは、容易なことではないだろうな――
「小娘が嫌いなのは田舎者だけじゃねえんだよ」
声のした方に振り向いた途端、照明の硝子が砕ける音がした。同時に光が失われ、部屋中が闇に包まれる。
「うわっ!?」
「なんだ!?」
「陛下ッ!」
大多数の受験生は腕で顔を覆って硝子の欠片から身を守ろうとしていたが、エレナだけは咄嗟に陛下に覆いかぶさった。俺は微かな物音に注意を払い、敵襲に備えていたが――今度は一転して閃光が走る。
「ぐわあっ!?」
「ぎゃあっ!」
暗闇に慣れようと瞳が開いたところに、今度は鮮烈な光。皆は視界を奪われ、混乱に陥っている。俺も眩しさに目を閉じてしまったが、それでも耳だけは――田舎で夜に魔法を練習していた時と同じように――澄まし続けた。
「!」
がちゃんと皿が割れる音がして、足音が近くなる。行儀の悪いことに、誰かが卓の上に乗ったのだ。反射的に自分も上がろうとしたが――風魔法に弾かれてしまった。
「でっ!?」
「悪いな、バウアー。お前の出る幕じゃねえんだ」
「ちょっとあんた、何をして――」
「七光りは黙ってな!!」
「きゃあっ!?」
再び閃光が走った。恐らくエレナを火力魔法で吹き飛ばしたのだろう。なぜこの部屋で魔法を使えるのか。なぜ俺たちを邪険にするのか。……そんなことはどうでもいい。あと一歩、この試験さえ受かれば宮廷魔導師になれるのに――
「ヘートヴィヒ・シュタインバッハ。マイスナー家を代表して、お前の命を頂戴する」
どうして陛下に杖を突きつけているんだ、ヘルマン……!