「これが、俺がここに来た目的だよ。はぁ、一気に喋ったから喉乾いた。」
自分たちの目的と任務に関する説明をし終えて一息ついたのか、テーブルに置いてあったドリンクを思い切り飲み干した黒い装飾の着いた赤い服に身を包んだ少年、"ダグーザ"に対してパイモンが尋ねる。
「それで、お前たちの目的はわかったけどまずどうするんだ?」
「まずは現場百編かな。実際にこの目で見てみないとどういう事件なのかも掴めないだろうし……というわけで、ね。ローエン。」
「……わーったよ。『現場』に案内すればいいんだろ?いいぜ。案内してやるよ。」
「ホントに!?ありがとうローエン!!」
「ったく、誰にこんな小狡い手を学んだんだか。ほら、そうと決まればさっさと行くぞ。」
パイモン「ああ、そうだな。行くぞ!!目指すは現場だ!!」
アカツキワイナリーから急いで出ていこうとするも、ディルックに呼び止められる。
ディルックがいつにも増して鋭い目つきで俺達四人の方に睨みを利かせる。その絶対に見逃さないという視線を向けられた俺たちは思わず震え上がり顔を見合わせると、あることを思い出す。
ディルック「………行くのは勝手だが、まず飲み物代を払ってもらうぞ。」
四人「「「「…………はい。」」」」」
─────そういえば、ドリンク代払ってなかった。
ドリンク代を払ってから店を出ると魔法陣が発見された現場である冒険者協会近くの裏路地に着くやいなやダグーザが持っていたバックからダナーンが飛び出す。
「ケロロッ!」
「うわっ!?こいついきなり飛び出したぞ!!」
「ダナーンは元素の流れを感じ取れるんだ。何かわかったのかもしれない!とりあえずダナーンを追ってみよう!!」
レンガの道を軽快に飛び跳ねるダナーンの後を追うと、そこには人型の機械と見覚えのある少女の姿があった。
陶器のように美しく白い肌、まるで童話に出てくる姫のような赤を基調とした短裾の華やかなドレス。
まるで宝石のような紺碧の瞳に刻まれた歯車の紋様は彼女が人間では無い事を示すかのように異彩感を放っている。
その姿はまるで超一級の職人によって精巧に造られた人形のように美しく可愛らしい。
スネージナヤを統べる女皇に忠誠を誓うファデュイ、その十一人の執行官の1人。
"傀儡"ことサンドローネがそこにいた。
「そう……周辺環境は数値上は変化無し、でも元素力だけは異常ね。ここはナタじゃなくてモンドなのに炎の元素力の数値が濃すぎるし風と炎の元素力が溶け合ってる?………ファジオ、周囲の元素力を回収して保管しなさい。近場に作った工房で調べるわよ。」
「おーい!サンドローネ!!」
「!?あ、あなた達どうしてここに!!?」
サンドローネは俺たちの姿に気づくやいなや驚いた表情を見せる。どうやら考え事に夢中で俺たちが近づいてくるのに気づいていなかったようだ。
「今日知り合った友達の仕事を手伝ってるんだ。サンドローネこそなんでここに?」
「………別に、女皇陛下の命令よ。最近モンド近郊でファデュイの行方不明者が出てるからその行方を調べてこい、というね。それにしてもめずらしい組み合わせね。旅人とパイモンと西風騎士団の騎士はまだわかるけど、まさか『黄昏』の魔術師も一緒だなんて。毎度の事ながらアナタ、一体どんな人脈してるワケ?」
『"黄昏?"』
『何それ?』
「はぁ……呆れた。何者かも知らずに彼の手伝いをしてたのね。いいわ、教えてあげる。……貴方もそれで構わないかしら?」
「まあ別に隠してたわけじゃないし。好きに話してくれていいよ。」
「そ、ならいいわ。『黄昏』、正式名称は『黄金の黄昏』という名前で活動する、魔術師達で構成された組織の事よ。」
「なあサンドローネ。さっきダグーザも言ってたけど魔術師ってなんなんだ?」
「そうね……私も詳しくは知らないけど、前に見た本によると、"かつてとある魔女から授けられた『龍の珠』を駆使して土地に溢れる元素力である『統素力』《マナ》を制御して自在に操る力を持つ賢者の事を魔術師と言うようになった"らしいわ。」
「ちょ、ちょっと待て!?さすがに新しい専門用語が多すぎてちょっと混乱してるぞ!?」
「ようするに月の輪や星の楔みたいに『龍の珠』っていう特殊な神の目を使って元素力を操る人間ってことよ。」
「そういうことか、それならまだわかりやすいな。」
ダグーザ「あくまで魔術師と呼んでるのはソレイユの民くらいみたいだけどね。ともかくサンドローネさん。あなたには『黄昏』の捜査に協力していただきたい。事件について何か分かったことがあれば提供していただきたいのだけどいいかな?」
「……まあ今はそのほうが懸命よね。いいわ、旅人に免じて協力してあげる。ファジオ。データをリストアップして?」
サンドローネに命令されたファジオからビッシリと文字と表がプリントされた1枚の紙が出てくる。
「おお……なんか出てきたぞ。」
「……っていうかコピー機能あるんだね。ファジオ」
「当然よ。戦闘から私生活まで少なくとも10機能以上はあるわ。……とりあえず事件を私達なりに調べた結果をファジオにリストアップさせたから、どう使うかは貴方に任せるわ。」
「ありがとう!サンドローネさん!!」
「それじゃあ私はもう行くから。」
「待てよサンドローネ!?もう行っちゃうのか??」
「別々に捜査したほうが捗るでしょう?……それにそんな大勢で動くような趣味は私にはないわ。行くわよ。ファジオ。」
そう言って彼女は踵を返すとファジオと呼んだ機械人形を従えてスタスタとその場を立ち去っていく。
その背中を冷たく見つめていたローエンは俺に対して呟く。
「あーあ、行っちまったよ。あのまま野放しでいいのかよ。……サンドローネといえばファデュイのお偉いさんだろ?」
「いいんじゃない?サンドローネは信頼できるよ。」
「………ハッ、それは旅人の『友達』だからか?」
「だから無条件に信じてるわけじゃないけどね。だけどサンドローネはここで裏切る人じゃなくて、ちゃんと利がある場合は協力してくれる人だと思う。」
「……ふーん、ま、お前が信頼するのは勝手だけどよ。俺はそこまであの『傀儡』サマは信用できねぇな。」
「ちょ、ちょっと!?どこ行くのさローエン!!?」
「別に、ちょーっと散歩くだけだ。」
「おい待てって!?……行っちまった。まったくどいつもこいつもスタンドプレーが酷すぎるぞ……。」
「仕方ないなぁ……ダナーン、ローエンを追いかけてくれ。」
「ケロッ!!」
「ありがとう、頼んだよ。」
「ケロケロっ!!」
「おいおい……ただのカエルにローエンを追いかけさせるつもりか?あいつ仮にも騎士団の隊長だぞ。」
「ただのカエルじゃないさ。」
「へ?」
「……ダナーンは幼い頃から寄り添い続けてきた俺の友達だよ?それにコイツはちょっと特別なんだ。」
「あのなぁ、いくら友達だからって『ちょっと特別』は買い被りすぎなんじゃないのか?」
「ま、大丈夫だよ。ダナーンは賢いから。」
「ほんとかぁ?」
「ホントホント♪」
「ローエンのことはダナーンに任せておくとして、俺達だけでもサンドローネがくれた資料について調べてみよう。」
「うーん、今はそうするしかないかぁ……じゃあ図書館にでも行ってみるか。」
とりあえず俺達三人はサンドローネが渡してくれた資料を手に図書館へと歩いていく。
だが俺達は気づかなかった、建物の物陰から俺達を監視する人影があったことを。
─────── 一方その頃。
とある人気のない湖でサンドローネと部下たちは白いローブを身に纏い仮面を付けた痩せぎすの男が密談していた。
「まさか10年前のあの時潰したはずなのに、まだ活動してたなんてね。……いったい誰の差し金かしら?」
「おかげさまで。新たな『枢機卿』の選定も進み、新たな主の導きの元、貴女方ファデュイによって受けた痛手も完治しつつあります。」
「そう、それで今回はその『新たな主』の指示でわざわざソレイユから悪魔を解き放ったってわけかしら?」
「……ご想像にお任せします。ですが私の受け持つ任務と貴方の任務、相違はないはずです。どうです?同じ雪国の組織同士手を取り合いませんか?異邦から現れた旅人や魔術師よりは信用出来るはずです。」
「……愚問ね。貴方達と手を組むはずが無いでしょう?」
「………理由を、お聞きしても?」
「別に?貴方たち『龍樹正教の生き残り』よりも旅人達の方が信頼できるってだけよ。」
「これは手厳しい。……ですが貴方の言うことは不可解だ。それほどにまであの『旅人』に入れ込む理由が貴方方にあるのですか?あなたがたファデュイと旅人の関係は味方ではなく、むしろ敵だ。現に『旅人』によって2人の執行官が葬られ、2人の執行官が『失踪』している。
……それなのに、貴方は旅人を信頼していると言った。……いったい、かの『月満ちる地』で旅人と何があったのです?」
「貴方達に教える義理は無いわ。……さっき女皇陛下を敬愛していると言ってたけど、貴方達は『あの時犯した罪』を忘れたわけではないでしょう?それでよく『敬愛』とか『協力』とか軽々しく口に出来たものね。」
「………そうですか、残念ですな。ではそろそろ失礼いたします。……鼠がいるようですので。」
「一刻も早くそうなさい。こっちは顔も見たくないんだから。」
「ふふ、相変わらず手厳しい……では失礼します。この国の辺境に存在する『炎の龍が住まう街』、そこで『枢機卿様』が待っていますので。」
男はそう言い残して立ち去っていく。その背中を見たサンドローネはため息を吐いて思わず呟く。
「そう、アレとは顔を合わせたくないものね。」
だが彼女は仮面の男との話が済んだ後、壁の方を向いて鋭い視線を向ける。
「………そこに隠れてるのは分かってるのよ。姿を見せなさい。」
「………さすがファデュイの執行官第七位の傀儡サマだ。俺の尾行もお見通しってワケか。」
「当然よ。あの程度の尾行も気づけないなんてファデュイの面目が丸潰れだわ。……それで、いったいなんの用かしら?事と次第によっては氷漬けになることも覚悟なさい。」
「ひえーおっかねぇ。まあバレちまったから白状するが、俺はアンタが信用できねぇ、アンタが悪いわけじゃないが『ファデュイ』はウチの神サンと栄誉騎士を襲ったって聞いたんでな。」
「当然ね。……自分の国に拠点を置き自分の国で色々やらかした敵国の幹部なんて、仮に立場が逆だったら私だって信じないわ。それでどうするの?敵討ちでもするつもり?」
「はっ、別に俺はそんなんに興味はねぇよ。……ま、やる事は変わらねぇがな……!」
ローエンが思い切り踏み込んでから放った槍による鋭い突きをサンドローネが宙に顕出した大剣で受け止める。
刃と刃がぶつかり合うことで起こる激しい鋼鉄音と眩しい火花、それが騎士と執行官の戦いの始まりを告げるゴングだった。
「いきなりなにすんのよ……ッ!?」
「アンタが信用に足る人間か測るにはこれが一番手っ取り早いってことだッ!!執行官サマの実力とやらを見せてくれよッッ!!」
「……くっ、タルタリヤといい戦闘狂はこれだから!……ファジオ!!」
機械人形が放った氷の弾丸の雨がローエンに襲い掛かる。
だがローエンがバトンの要領で槍を回すと次々と氷の弾は軽快な金属音と共に弾かれる。
そして弾丸を弾き終えるとすかさず槍をサンドローネの方へと突きつけようとするが、サンドローネが虚空から呼び出した大剣『超越の鍵』の刃によって阻まれた。
激しくぶつかり合う刃と刃、その剣戟は一般人が見れば2人の得物すらも認識できないほどに素早く、激しい攻めと攻めの応酬。
だがサンドローネとの蒸気を逸した戦闘ですらもローエンは心から愉しそうに嗤う。
彼にとってはこれほど心が踊ることはない。まさしく愉悦、まさしく快楽。
一方的な蹂躙もいいが、強者との戦闘こそが自分を自分だと証明してくれると、彼は本気で彼女との戦いを楽しんでいた。
ローエンが大剣を弾き飛ばそうとすると腹を重い何かで殴られる鈍い感覚がした。
「……へっ、マジかよ……!」
「ぶち抜きなさい!ファジオ!!」
サンドローネの離脱とともに彼女の背後に隠れていたファジオが姿を表す。
ゼロ距離からの氷元素による超高火力ビーム。
それが彼女に搭載された奥の手のひとつだった。
「てめぇ!容赦なしか!!?………嘘だろ……!!」
辛うじて槍で防いだローエンだが、微かな隙を見逃すほどファデュイ執行官『傀儡』は甘くない。
空中に映し出されたディスプレイをタップすると二対の巨大なビットが姿を表し、ローエン目掛けて高火力の閃光が放たれる。 光はローエンに間違いなく直撃した。そのはずだった。だが鈍い激突音と共に地面に落ちたはずなのに、ローエンは身軽に立ち上がり、嗤いを崩さずにサンドローネに刃を向ける。
「どうしたぁ?ファデュイの力ってのはそんなもんかよ!」
「……呆れた。私達の砲撃を食らってまだ立ってるなんて、あなたホントに人間なの?」
「………ちっとだけ『別のモン』が間借りしてるんでな。
これでも常人よりは少しだけ頑丈なのさ。」
「はぁ、ちょっと頭を冷やせば簡単に済むと思っていたけれど、
そう簡単にはいかないようね。」
「そんなに利口だったら騎士団なんか入ってねぇよ。……さぁ、戦り合おうぜ。」
「…………これだから戦闘バカは。……地面にキスしても文句は聞かないわよ。」
槍を構えるローエンと全ての砲門を開き、全力で迎え撃とうとするサンドローネ、まさしく一触即発だ。
おそらく、次の瞬間に勝負が決まるのだろう。この戦いを見ていることしか出来なかった彼女の部下が固唾を飲んで上司を見守る。
だが、そんな決死を分ける緊張状態の中で、不意に戦闘に割り込むような快活そうな少年の声が聞こえてきた。
『はい、そこまで。』
「「!?」」
激しい音と共に空からありったけの炎の雨が降る。それはサンドローネとローエンの戦闘を中断させるには十分な威力だった。炎の雨が止んだ先に立っていたのはまるで太陽のように真っ赤な髪に、物語に出てくる王子のように豪華でありながら爽やかな服装マントを靡かせ、少年は2人を見据える。
「お前は……っ!」
「誰ッ!?」
「誰が言ったか知らないが、ここはカッコよく名乗るとしよう!!聞いて驚け!見て驚け!!俺の名はダナーン!『黄金の黄昏』のエージェント『薪炎のダナーン』である!!!」
「『黄金の黄昏』のエージェント……?そう、さっきの彼以外にもいたのね。」
「……ダナーンお前、
「まあなんとかなったからヨシ!……それにしても驚いたぞ。ダグーザに頼まれてお前を追っていたら執行官殿とお前が派手に喧嘩してたんだからな。どうせお前から吹っかけたんだろ?」
「………」
「目を逸らすなバカモン。……ともかく、サンドローネさん、今回は我が友がすまなかった。……コイツは後でコレの上司と共におもいっきり叱っておくのでどうか気を悪くしないで欲しい。」
「別に気にしてないわよ。職業柄、急に喧嘩をフッこまれるなんて散々あるもの。……それよりあなたは別働隊って所かしら?さっきは一緒にいなかったわよね。」
「いやまぁ……色々あってな。」
ダナーンは何かを隠すように苦笑する。
サンドローネはそれを察してか、話を次に移した。
「そ、まあどうでもいいわ。それよりアンタ達、これからどうするの?」
「それはこっちのセリフだ人形女。てめぇさっき『龍樹正教』っつってたろ。もしそれがガチならいくら執行官様でも一人じゃ到底手に負えない問題なんじゃねえのか?」
「『龍樹正教』だって!?龍樹正教といえばかつてスネージナヤに存在した巨大宗教組織だろう!?数年前にその存在を危惧したファデュイと冬契軍が組んだ『反龍樹同盟』との抗争で壊滅したと聞いたがまだ生きていたのか!?」
「……ホント、変なところだけ察しがいいのね。
その通りよ。この事件にはこの二つの都市を巻き込んだ事件に10年前に潰したはずの『龍樹正教』が関わってるという情報をウチのエージェントが掴んでね。だからこそ女皇陛下は今回執行官である私をモンドに派遣したのが、今回の経緯ってワケよ。」
「なるほどな。つまりアンタは自分のケツを拭きに来たワケか。」
「品の無い表現だけど有り体に言ってしまうとそうね。……ここまで知られてしまったなら仕方ないわね。アンタ達、私の任務に協力しなさい?」
「は?」
「いきなり攻撃してきた相手を野放しにできるわけないでしょ。それにいきなり現れた貴方!」
「……俺の事か?」
「貴方は何より怪しすぎる。」
「うっ!?」
「というわけで、貴方達は今回手元に置いておいた方がいいと判断したから、これからアンタ達は私の任務に同行してもらうわ。」
「「は……?はぁぁぁぁっ!!?」」
ローエンとダナーンは唖然として思わず驚愕の悲鳴をあげる。
こうして、普段だったらまず組まれるはずがない奇怪な
皆さんお察しの通り今回出てきた新組織は原作本編におけるファデュイと同じ枠です。