バイオハザード:リサ・トレヴァー 〜怨霊と血濡れのトマホーク〜   作:ai試し

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嘘です!警察署なんて全て嘘です!


9話 警察署

降りしきる雨の中、リサはふと思った。

両手に握った骨のトマホークは、戦いにおいては最強の武器となるが、移動にはひどく邪魔だ。捨てることもできない。これは自分の体の一部であり、先祖たちの怒りの結晶なのだから。

 

(……後で、どこかに固定する方法を考えよう)

 

リサはそう思うと、目の前の警察署の外壁に軽く足をかけた。

凄まじい脚力で壁を蹴り上げると、重力を無視した弾丸のような速度で垂直に駆け上がる。雨粒が激しく横に流れるほどの加速で、彼女は一気に屋上へと到達した。

 

屋上の隅、雨を避けるように身を潜めていたシェリーとレッドが、突然現れたリサに肩を跳ねさせた。

 

「リサ!」

 

シェリーが歓喜の声を上げ、駆け寄ってくる。その小さな顔には不安と安堵が入り混じっていた。

リサは彼女に対し、喉の奥で低く、「……ゥ」と唸った。それは彼女なりの精一杯の挨拶であり、「無事だ」という合図だった。

 

シェリーは弾むようにリサの手を握ろうとした。しかし、そこには鋭利な骨の斧が二本、しっかりと握られていた。

指先が触れそうになった瞬間、シェリーはふと気づき、ぴたりと手を止める。

 

(あ……手が、塞がってる)

 

リサは困惑したように自分の手とシェリーを交互に見た。手を離せば斧が落ちるし、握ったままだと少女の手を取ることができない。

リサは不器用にトマホークをわずかに浮かせて見せたが、それでも十分な距離は縮まらなかった。

 

しかし、シェリーにとってそんなことは些細な問題だった。彼女はリサの手に触れる代わりに、その全身をじっくりと見つめ、確認し始めた。

 

「怪我はない? どこか切られてない?」

 

シェリーはリサの腕や肩、そして雨に濡れた服の間から覗く肌に、傷がないかを確認しようとする。

リサにとって、タイラントやネメシスとの死闘など、この強靭な肉体をもってすれば「擦り傷」程度の認識でしかなかったが、シェリーの瞳には本気の心配が宿っていた。

 

(……なんで、こんなに)

 

リサは不思議だった。自分は怪物であり、血に塗れた復讐者だ。なのに、この小さな少女は、まるで壊れやすい宝物を扱うように自分を気遣う。

その温かな視線に、リサの胸の奥で渦巻く狂気が、ほんの一瞬だけ凪いだ。

 

隣でレッドが「ワン!」と短く吠え、同意するようにリサの足元に鼻を擦り付けた。

屋上の冷たい雨が降り続く中、シェリーは不安げに警察署の屋上から入口へと歩き出した。

「ここから中に入って、誰かいないか探してみよう?」

 

その瞬間、リサの手が素早くシェリーの肩を掴み制止した。

リサは鋭い視線で周囲を警戒させると、ゆっくりと建物の外壁に耳を寄せた。人間としての聴覚を遥かに超越した、生物兵器としての超感覚。

 

(……感じる)

 

うごめく死者の気配を腐敗し、不規則なリズムで蠢く亡者たちの足音。

警察署の中には夥しい数のゾンビたちが徘徊している。同時に、微弱ではあるが恐怖に震えながら息を潜めている「生者」の気配もいくつか感知できた。

 

リサは身を起こし、シェリーに向かって身振り手振りで伝え始めた。

指を折って数を数えるような仕草をし、その後で腕を前に突き出し歩き出す。死者の表現だ。胸に手を当てて生存者がいることを示した。

 

「……えっ? 中にゾンビががいるの?」

 

シェリーは困惑しながらもリサの意図を汲み取った。

死者がうじゃうじゃいるという事実に一瞬絶望し肩を落とすが、それでもまだ生きている人間がいるという言葉に深く安堵のため息をついた。

 

「よかった……本当に誰かいるんだね」

 

希望を見出したシェリーは、再びリサの腕を引こうとした。

「早く行こう、リサ! 助けられるかもしれないし、私の母さんの手がかりがあるかもしれないから!」

 

しかし、リサは頑なに動こうとしなかった。

彼女の脳内では、今猛烈な疲労感が押し寄せていた。タイラントを屠り、ネメシスを切り刻んだ死闘。肉体こそ再生能力で回復しているが、体力は消耗しているし精神的消耗もある。怨霊たちもささやく、今は休めと。

 

(……今は、休みたい)

 

今の状態でゾンビの巣窟に飛び込むのはめんどくさい。それに生存者がいたところで彼らが自分のような怪物を見てどう反応するか。パニックになって銃を乱射されるかあるいはアンブレラの協力者である可能性だってある。

万全の状態でない限り不確定要素の多い「人間」という生き物を相手にするのは面倒だった。

 

だが、リサにはそれを伝える手段がない。

「疲れたから休憩したい」「生存者が信用できるか分からないから後でいい」などという複雑な事情を、唸り声と身振り手振りだけで説明するのは不可能に近かった。

 

リサは不機嫌そうに鼻を鳴らし、屋上の床にどさりと座り込んだ。

そして、「今はダメだ」と言いたげにシェリーを体で軽く体で押し戻して、そのまま目を閉じた。

 

座り込んだまま、リサは唸り声を上げて考え込んでいた。

 

(……もう一度、昨日の家に戻るか?)

 

あそこなら安全に休めるし、食料もあった。シェリーを肩に担いで街を横断すればいい。だが、ふと自分の両手を見た。そこには、自分の骨から作り出した二本のトマホークがしっかりと握られている。

この武器は今の彼女にとって心強い相棒であり誇りだが、物理的に「手が塞がっている」という致命的な問題があった。

 

(……担げない)

 

無理に運ぼうとすれば、シェリーを落とすか、あるいはトマホークを捨てることになる。後者は絶対にありえない。

 

リサは不満げに口を尖らせた。

もう一つ、切実な問題があった。今の自分はひどく汚い。ネメシスの腐敗した血とタイラントの粘液が全身にこびりつき、雨に洗われてはいるが、それでも不快感は消えない。

 

(……洗いたい)

 

服を着替えたいし、生存者との接触に不都合が出る。

警察署の中に入るのはまだ早い。まずは休息と洗浄だ。それをシェリーに伝えなければならない。

 

リサはゆっくりと立ち上がると、改めてシェリーに向き直った。

今度は言葉ではなく、「状況」を演じることで伝えようと考えた。

 

まず、自分の腕や服についたどろどろの血を指差し、顔をしかめて「汚い」という表情を作る。

次に、雨を浴びながら手をかざしてシャワーを浴びるような仕草をし、最後に自分のまぶたを指で押し下げて「眠い」ことをアピールした。

 

(……これで伝わるはずだ)

 

リサは自信を持ってシェリーを見つめた。唸り声こそ出ないが、その視線には「とにかく今は休んで洗いたいのだから、わかってくれ」という強い意志が込められていた。

 

しかし、ただの奇妙なダンスである。

リサの奇妙なダンスのような身振りをじっと見ていたシェリーは首を傾げながらこう問いかけた。

 

「え……? リサ、もしかして中に入ったらまずお風呂に入りたいの?」

 

(……惜しい。半分正解、警察署には入りたくない!)

 

リサはもどかしさに、思わず手を振り回し、「違う!」と激しく唸った。

 

シェリーは不思議そうにリサを見上げた。彼女にとって、ゾンビと怪物が徘徊する警察署という絶望的な状況の中で、「お風呂に入りたい」という要望はあまりにも平和すぎて、現実感がなかった。

 

(違う! そうじゃない!)

 

リサはもどかしさのあまり、眉間に深く深くしわが刻まれる。「今はダメだ」「休息が必要だ」ということを伝えたいが、言葉が出ないストレスで頭から煙が出そうだった。

 

リサはもう一度試みた。

今度は大げさに、自分の頭を両手(トマホークを握ったまま)で抱え、ガクンと膝をついて「疲れ果てた人間」の演技をした。そして、指を口に当てて「しーっ」という動作をし、その後で横に寝転がるジェスチャーを見せた。

 

シェリーは困惑した様子でレッドを見た。レッドもまた、「ワン?」と首を傾げている。

 

「リサ……? 体調が悪いの? どこか怪我してるの?」

 

(違う! 怪我じゃない! ただ疲れてるだけだ!)

 

リサは激しく首を振った。そして、今度は警察署の入り口を指差し、そこに大きな「×」印を描くように腕を交差させた。その後で、自分とシェリーを指差し、外の方向を指して「あっちへ行こう」という動作をした。

 

ようやく、シェリーの表情に変化が現れた。

彼女はふむと考え込む。

 

「……あ! そういうこと? ここに入るのは危ないから、一旦別の場所で休みたいってこと?」

 

リサは大きく頷いた。激しく、何度も。

(そう! その通り! 正解!)

 

しかし、シェリーはまだ疑問が残っていた。

「でも、外に出るのはもっと危ないよ? リサなら大丈夫だと思うけど、私は……」

 

リサはすぐに反応した。彼女はトマホークを構える仕草を見せ、その後で自分の胸を叩いた。

(私がいる。お前を守る。だから安心しろ)という不器用なアピールだった。

 

その視線には、怪物としての狂気と奇妙なほどの信頼感と保護欲が込められていた。シェリーはその眼差しに射抜かれ小さく微笑んだ。

 

「……うん。リサと一緒にいれば、大丈夫だね」

 

ようやく意思疎通が完了した。

リサは満足げに鼻を鳴らすと、再び屋上の縁に立ち、街のどこに「静かで、お風呂があって、安全な場所」があるかを考え始めた。

 

リサは自分の手元にある二本の骨のトマホークを見た。

先ほどの意思疎通で、外へ出ることは決まった。しかし、やはり両手に武器を持っているとシェリーを運ぶことができないし、何より不便だ。

 

(……預けるか)

 

リサは視線を隣にいたレッドに向けた。

ウィルス適合犬となったレッドは、知能が高まっており、ある程度の指示なら理解できる。リサは一本のトマホークを取り上げると、その柄の部分をレッドの口元に差し出した。

 

「クゥ?」

 

レッドは不思議そうに首を傾げたが、リサの意図を察し、ゆっくりとそれを咥えた。

だが、すぐにレッドは不満げな表情を浮かべ、口の中でトマホークをガタガタと鳴らした。形状が口に合っておらず、保持しにくいということだろう。

 

(……調整してやる)

 

リサは再び斧を取り上げると、自身の能力で骨の構造をわずかに変化させた。柄の部分に緩やかな曲線を持たせ、犬がしっかりと噛み込めるようなグリップへと作り替える。

再度渡すと、レッドは満足そうにそれを深く咥え込んだ。そして誇らしげに首を振り、空中の雨粒を切り裂くような動作を見せた。

 

(……ふん。もしもの時は、こいつに戦わせてもいいかもしれないな)

 

だが、ずっと口に咥えさせて歩かせるのは効率が悪いし、見た目にも不自然だ。できれば丈夫なリュックのようなものを探し、そこに固定して背負わせたい。

 

さて、次に行くべき場所をリサは考えた。

まずはペットショップだ。レッドのために何か便利な道具や、あるいは犬用の装備がないか探りたい。その後で、昨日見つけたような「静かで安全な民家」を探す。さらに、今のシェリーの格好では雨で風邪を引く。自分のような怪物には関係ないが、小さな人間である彼女にはレインコートが必要だ。

 

(……よし)

 

リサは決心すると、まずレッドにトマホークをしっかり咥えさせたまま固定させると、空いた片腕でシェリーをひょいと担ぎ上げた。

肩に担がれたシェリーは、「わあっ!」と声を上げながらも、リサの安定した足取りに身を任せた。

 

「どこに行くの、リサ?」

 

リサは答えられない。ただ、前方を指差し、「いい場所へ行く」という意思を込めて低く唸った。

雨に煙るラクーンシティの街並み。そこには依然として地獄が広がっているが。

 

最強の復讐者と、人見知りの少女、そして骨の斧を咥えた犬。

奇妙な2人と1匹は警察署の屋上を後にし、再び混沌とした街へと繰り出した。

 

ラクーンシティの外縁部。厳重に管理されたアンブレラの監視拠点では、数人の研究員と警備責任者が、モニターに映し出される映像を凝視していた。

そこには、言葉では言い表せないほどの「衝撃」が記録されていた。

 

画面の中では、アンブレラが心血を注いで作り上げた最高傑作の一つ、ネメシスが、一人の少女――リサ・トレヴァーによって完膚なきまでに破壊されていた。

 

 

 

 

「……ありえない」

 

責任者が呆然と呟く。

映像の中のリサは、まるで舞うように動き、ネメシスの重厚な攻撃を紙一枚でかわしていた。そして、自らの骨から作り出した二本の斧で、生物兵器の頂点にあるはずの怪物を「切り刻んで」いた。

 

さらに彼らを戦慄させたのは、その後の展開だった。

一度は撃破されたはずのタイラントがスーパータイラントへと変貌し、圧倒的な破壊力を見せたが、それさえもリサにとっては「少し手強い獲物」に過ぎなかった。

「ネメシスが暴走し、スーパータイラントを捕食……その結果生まれた融合形態までもがわずか数分で沈黙しただと?」

 

研究員の一人が震える声で報告する。

映像の最後には血塗れの少女が冷徹な瞳で死体を突き刺し確認作業を行う様子が映っていた。そこには生物兵器としての効率的な殺戮だけでなく、底知れない「憎悪」が同居していた。

 

アンブレラにとってリサ・トレヴァーはもともと「失敗作」として処理されたはずの個体だった。しかし、今モニターに映っているのは、Tウィルス、Gウィルスの特性を完全に制御し、さらに未知の身体能力と戦闘技能を身につけた、「究極の生物兵器」へと進化した姿だった。

 

「タイラントが敗北し、ネメシスが暴走して自滅に近い形となり、最終的にすべてを屠った……。一体、彼女に何が起きたというのだ」

 

彼らが最も恐れたのは、リサの強さそのものではない。

彼女が単なる破壊衝動で動いているのではなく、明確な「意志」を持ってアンブレラの兵器を排除しているということだ。

 

(もし、この個体がアンブレラの施設まで辿り着いたとしたら……)

 

想像しただけで、責任者の背中に冷たい汗が流れた。

 

ラクーンシティからの報告映像は瞬時にアンブレラ本社の最上層部へと転送された。

豪華な執務室でその映像を見た幹部たちは静まり返っていた。彼らにとって、ネメシスの敗北は単なる「事故」では片付けられない衝撃だった。

 

「想定外だ……。ネメシスをこれほどまでに容易く、完膚なきまでに破壊する個体が存在するとは」

 

一人の幹部が冷徹な眼差しで画面の中のリサを見つめながら呟いた。

彼らにとってネメシスは、あらゆる状況に対応できるよう設計された究極の追跡者であるはずだった。それが失敗作に翻弄され追跡するどころか後退し、文字通り「肉塊」へと変えられた。

 

しかし、同時にある種の興奮が彼らを支配し始めていた。

生物兵器の開発において、「想定外の結果」こそが最大の進歩を意味するからだ。

 

「……なるほど。やはりバーキン博士の功績は計り知れないな」

 

別の幹部が満足げに口角を上げた。

ウィリアム・バーキン。Gウィルスの生みの親であり、アンブレラにとっても危険で、かつ有能な研究者だった。彼を抹殺しその成果だけを吸収するという計画は正解だったと改めて確信した。

 

「リサ・トレヴァー……失敗作だと思っていたが、結果的に彼女こそが『真のGウィルス』を体現する個体となったということか」

 

Gウィルスの本質は「絶え間ない変異と進化」。

リサはTウィルス、始祖ウィルス、そしてGウィルスの特性を併せ持ちさらに未知の要因(バーキン博士の調整)によって精神的な制御と戦闘技術を手に入れた。もはや彼女は単なる生物兵器ではなく、生物としての到達点に近づいている。

 

「これほどの個体を失うのは損失すぎる。破壊して消し去るのではなく生け捕りにしその解析データをすべて抽出せよ」

 

幹部の決定は迅速だった。

ネメシスのような単純な追跡者では不十分だ。高度な戦術と特殊装備を備えたアンブレラの精鋭特殊部隊(U.S.S.)を派遣し、あらゆる手段を用いて彼女を拘束することを決定した。

 

「捕獲せよ。どのような犠牲を払おうともだ。彼女を手に入れれば我々はさらに進歩できる」

 

ラクーンシティという地獄の中で、リサ・トレヴァーという存在は、アンブレラにとって脅威であると同時に、喉から手が出るほど欲しい「至宝」へと変わっていた。

 

 

 




こぉ~んな最低の警察署には何の未練もない
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