バイオハザード:リサ・トレヴァー 〜怨霊と血濡れのトマホーク〜 作:ai試し
「……ふぅ」
シェリーが小さく息をつき、隣に座る少女――リサを見た。
外見は14歳ほどの美少女。透き通るような白い肌に、どこか儚げな表情。だが、その内側には始祖ウィルス、Tウィルス、Gウィルスの混成体としての怪物性と、そして崖の下で取り込んだ数多のインディアンの怨霊という、「呪い」に近い力が渦巻いている。
リサはぼーっと空を眺めていた。その瞳には時折、自分のものではないはずの、遠い時代の戦士たちの記憶が宿る。
「リサ、準備できた?」
シェリーが優しく声をかける。リサはゆっくりと視線を動かし、うめき声のような低い音を漏らした。言葉にならないが、それは肯定の意味だった。
リサの傍らには、自らの左腕をもぎ取って作り出した「骨のトマホーク」が二本、鈍い光を放っている。一本は彼女の手元に。もう一本は、犬用リュックに装備されていた。
シェリーは立ち上がり、リサの小さな手をそっと握った。そして、真剣な表情で彼女を見つめる。
「ねえ、リサ。お願いがあるの」
「……?」
「これから警察署に向かうけど……アングロサクソン系とかヒスパニック系の人に出会うかもしれない。でも、いきなり襲いかかったらダメだよ? 約束して。レッドもね」
シェリーは、リサの中に宿る激しい憎悪を知っている。征服者たちへの根深い恨み。それはインディアンの怨霊たちがもたらした感情であり、同時にリサ自身の絶望と共鳴している。
だが、シェリーはこの街で生き残るために、そしてリサがただの「復讐の怪物」にならないために、彼女を繋ぎ止めておきたいと考えていた。
リサは不満げに眉をひそめた。彼女の意識の底では、血を流し、大地を奪われた者たちの怒りが咆哮を上げている。
(殺したい……あいつらは、みんな……)
しかし、手のひらから伝わるシェリーの温もり。自分を「お姉ちゃん」のように慕い、共にシャワーを浴び肌を重ね合わせた、そして同じベッドで眠ったこの少女の純粋な瞳にだけは、リサは抗えなかった。
リサは不承不承といった様子で、ゆっくりとうなずいた。
「……ん」
低い声だったが、それは彼女なりに最大限の譲歩だった。
すると、隣で待機していたレッドが、取り合えずといった風に「ワン!」と短く、そして鋭く吠えた。
シェリーは苦笑いし、リサの肩を抱いた。
「ありがとう。行こう」
リサはシェリーに抱き寄せられた瞬間、無意識に自分の腕を彼女の背中に回し、ぎゅっと抱きしめ返した。なぜ自分がそうするのか、リサ自身にもわからない。ただ、この温もりだけが、自分を怪物ではなく「人間」側に繋ぎ止めてくれる唯一の錨(いかり)であることだけは、本能的に理解していた。
三人はゆっくりと外に出た。
目的地はラクーンシティ警察署。事前に気配を感じた限りではあまり生存者はいない様子だったが、シェリーの母親の指示通り向かう。
リサの手にある骨のトマホークは、復讐の時を待ちわびて静かに震えていた。
警察署への道は、死の静寂に包まれていた。
リサは先頭に立ち、身のこなしを極限まで低くして進む。インディアンの怨霊がもたらした戦士としての本能が、彼女に「隠密」の重要性を教えていた。足音を消し、視界の死角を利用して移動するその様は、14歳の少女の姿をした熟練の狩人のようであった。
シェリーとレッドはリサの背後を追う。リサは時折、鋭い視線で後方を振り返り、身振りの合図で彼らに警戒を促した。
やがて、止んでいた雨が再び降り始めた。
最初はしとしととした霧雨だったが、次第に激しさを増し、視界を白く塗りつぶしていく。
「……っ」
シェリーは素早くリュックから黒いレインコートを取り出し、身にまとった。そしてもう一着の小さなレインコートをリサに差し出す。
リサは怪訝そうにそれを見たが、それを羽織った。これから生存者に合うかもしれないのにずぶ濡れは不自然だなと。
レッドにも調達しておいた黒いレインコードを着せてやる。
黒いレインコートに身を包んだ二人の少女の姿は、雨の中では不気味なほどに同化していた。
リサは再び前方を指差し、静かに移動を開始した。
警察署の建物が見えてきたとき、リサは即座に道路脇の瓦礫の陰に身を潜めるよう合図を送った。三人は息を殺し、雨のカーテン越しに巨大な警察署の建物を伺う。
「……あそこ!」
シェリーが小さく声を上げ、屋上を指差した。
そこには、救助用と思われるヘリコプターが一機、待機していた。この地獄のような街から脱出するための希望が見えた瞬間だった。
しかし、その希望は残酷に打ち砕かれる。
ヘリコプターはバランスを崩して激しく傾く。制御を失った機体は、凄まじい衝撃音と共に警察署へ突っ込んでいった。
轟音が街に響き渡り、雨の中に黒い煙が立ち上る。
シェリーは呆然と、その光景を見つめていた。
もしかしてとの希望が失われた絶望感。だが、リサの反応は違っていた。
リサは墜落したヘリの方を冷たく見据えながら、ゆっくりと骨のトマホークを握りしめた。彼女はこの街からの脱出などする気はなかった。彼女にあるのは、アンブレラと征服者への巨悪への復讐心だけである。
墜落したヘリの轟音がまだ耳に残る中、リサは決断した。正門から堂々と入れば敵に気づかれる可能性がある。ならば、最も高く、俯瞰できる場所から状況を把握すべきだ。
「……っ!」
リサは迷うことなくシェリーの腰を片腕で抱き寄せ、もう一方の手でレッドも抱えた。
14歳の少女の細い腕とは思えない剛力。そのまま垂直に跳躍すると、三人の身体は重力を無視したかのような速度で警察署の外壁を駆け上がった。
「きゃあっ!?」
シェリーが悲鳴を上げる間もなく、リサは塀を軽々と飛び越え、中庭の植栽や配管を足場にして、目にも止まらぬ速さで屋上へと到達した。
始祖ウィルスとG・Tウィルスの複合効果に加え、怨霊たちの戦士としての身のこなしが融合し、彼女はもはや生物的な限界を超えた移動を実現していた。
屋上に降り立ったリサは、まず周囲に脅威がないかを確認し、シェリーとレッドを静かに地面に下ろした。
雨に濡れたコンクリートの冷たさが伝わってくる。二人は息を整えながら、先ほどヘリが墜落した方向へと視線を向けた。
その時だった。
警察署の内部と中庭を隔てるの柵の向こう側に一人の男が立っていた。
コートを羽織り青いシャツに身を包む、鋭い眼差しで周囲を警戒している青年――レオン・S・ケネディである。
リサの瞳が瞬時にして獲物を捉える猛禽類のように細まった。
(……アングロサクソン)
男の顔立ち、骨格、醸し出される雰囲気。それはリサの中に眠る怨霊たちが激しく憎悪する「征服者」の色をしていた。
リサの喉から、「グルル……」という、人間とは思えない低く、地響きのような唸り声が漏れ出す。右手に握った骨のトマホークに力が入り、指関節が白くなる。
今すぐにでも柵を飛び越え、その首を撥ね飛ばしたい。本能的な殺意がリサを突き動かそうとしたその瞬間、小さな手が彼女のレインコートの裾をぎゅっと掴んだ。
「だめ! リサ、お願い!」
シェリーが必死な表情でリサを見上げた。
「約束したよね? いきなり襲いかかったらダメだって。彼はただの生存者かもしれない。ねえ、お願い、リサ!」
リサはレオンを睨みつけたまま、シェリーの切実な訴えに耳を傾けた。
心の中で憎悪が「殺せ! 征服者を滅ぼせ!」と咆哮しているが、目の前の少女の瞳がそれを上書きする。
リサは激しく鼻を鳴らし、不承不承といった様子でトマホークをゆっくりと下ろした。だが視線だけは依然としてレオンに向けられており、そこには明確な「殺意」と「警戒」が宿っている。
シェリーはリサが約束を思い出してくれたことに安堵し、小さく息をついた。そして、困り顔でリサに相談を持ちかける。
「……ふぅ。ねえ、リサ。あそこの人、どうしようか? 助けに行くべきだと思うけど……いきなり近づいたら怖がらせちゃうし、悪い人なら、危ないしどうしたらいいかな?」
リサは答えず、ただ冷たい目でレオンを見つめ続けていた。その表情は、「もし彼がアンブレラの人間だったり、シェリーに危害を加えようとしたりすれば、即座に引き裂く」という静かな宣告のようであった。
リサが冷徹な視線でレオンを射抜いていたその時、警察署の内部からもう一人、人影が現れた。
赤いジャケットに身を包んだ女性――クレア・レッドフィールドだ。彼女はレオンの姿を見つけると、安堵した表情で彼のもとへと駆け寄っていった。
「……!」
シェリーが小さく声を上げる。屋上から見下ろせば、二人は互いの無事を確認し合い、激しく言葉を交わしていた。雨音にかき消され会話内容は聞こえない、その身振り手振りからは再会した喜びと、困惑があることが見て取れた。
「何か話してるみたい……」
シェリーは顎に手を当て、悩ましげに考えている。
この街で出会う人間が必ずしも敵とは限らない。しかし、同時に誰も信じられない状況であることも理解していた。それでも、あの二人のやり取りにはアンブレラのような冷酷さやゾンビのような狂気は感じられない。
「ねえリサ。見て、あの二人……なんだか仲が良さそうじゃない? 女の人も警察署の中から出てきたし、だったら、あの人たちなら大丈夫な気がするんだけど、どう思う?」
シェリーは期待を込めてリサに意見を求めた。
しかし、リサの反応は鈍い。彼女は依然として無表情のまま柵の向こうの二人を見据えていた。
リサには彼らの会話がはっきりと聞こえていた。
ウィルスによる身体能力の強化に加え、インディアンの怨霊たちが持たらした鋭敏な感覚が雨音というノイズを突き抜け、遠く離れた二人の声を彼女の耳に届けていたからだ。
(……生存確認。脱出ルートの模索。互いの状況報告……)
彼らの会話には、征服者としての傲慢さや、実験体への虐待のような卑劣さは含まれていなかった。ただ純粋に、この地獄から生き延びようとする人間の必死さと仲間を想う心だけが聞こえてくる。
リサの心の中では、依然として「アングロサクソンの血を流せ」と囁き続けている。だが、同時に彼らが持つ「生きたい」という意志は、全ての人間が持つ意思だった。
(……チッ)
リサは心の中で舌打ちをした。
本来なら即座に排除すべき対象なのだが、シェリーがこれほどまでに彼らに期待している。それに、今のところ彼らがアンブレラの回し者である証拠もない。
リサは不承不承といった様子で、ゆっくりと小さくうなずいた。
それは「認めた」ということではなく、「とりあえず今は見逃してやる」という妥協の印だった。
「よかった! リサがそう言ってくれるなら心強いよ!」
シェリーはパッと表情を明るくさせ、リサに抱きつこうとした。リサはそれを軽くかわしたがその視線だけは依然としてレオンに向けられていた。
(……アングロサクソン。もし一歩でも間違えれば、その喉笛をトマホークで断ち切ってやる)
黒いレインコートに身を包んだ美少女の瞳に、一瞬だけ不気味な光が宿った。
柵を隔てたレオンとクレアは、互いの無事を確認して安堵していたが、問題があった。柵に鍵がかかっており、物理的に合流することができないのだ。二人は柵越しに現状の把握と今後の計画について話し合う。
しかし、その平穏な時間は長くは続かなかった。
先ほどのヘリ墜落時の凄まじい衝撃音は、この街に潜む「飢えた者たち」にとって最高の招待状だった。
「……来たわね」
クレアが低く呟き、銃を構える。中庭の四方から、皮膚が剥がれ落ち、濁った瞳をしたゾンビたちが、ゆっくりと、だが確実に二人の方向へと集結し始めていた。
屋上からその光景を見ていたシェリーは、顔を青くした。
「リサ! あの人たち、囲まれちゃう! お願い、助けてあげて!」
リサは小さく鼻を鳴らした。正直なところ、ここで彼がゾンビに食い荒らされるのを特等席から眺めていたいという衝動があった。アングロサクソンの男が絶望に染まる顔を見るのは、きっと心地よいはずだ。
だが、シェリーの真っ直ぐな視線がリサを射抜く。
リサは不承不承ながら、深くうなずいた。
そして、レッドに向かって短く指示を出す。
「……ん」
その合図で、レッドはシェリーの側に寄り添い、彼女を保護するように陣取った。
一方、地上ではレオンとクレアが困難な状況に直面していた。
「クソッ、鍵が開かない! クレア、一旦引いて別のルートを探そう!」
「ええ、ここにとどまれば袋叩きにされるわ!」
二人が諦め、別々に避難しようとしたその瞬間だった。
空から、黒い影が音もなく降ってきた。
――ドサッ、という衝撃音すらしない。
ただ、雨のしずくがわずかに舞い上がっただけのような、不自然なほどの静寂を伴った着地。
レオンの真後ろに、黒いレインコートに身を包んだ小柄な少女が突然現れた。
14歳ほどの美少女。だがその手には、禍々しい白さを放つ骨のトマホークが握られている。
レオンは背後に気配を感じた瞬間、反射的に身を翻し、銃を構えようとした。
だが、彼の訓練された反応速度をもってしても、その動きはあまりに遅すぎた。
「……っ!?」
視界が急激に回転する。
何が起きたのか理解するよりも早く、レオンの身体は宙に浮いていた。黒いレインコートを纏った少女――リサが、彼の腰を片腕で軽々と抱え上げたのだ。
柵の向こう側でその光景を見たクレアは、目を見開いて絶句した。
「な……っ!?」
リサにとって、成人男性の体重など、怨霊の力と強化された筋力の前では羽毛のようなものだった。彼女はレオンを抱えたまま、物理法則を無視した速度で柵を飛び越える。
そして、クレアが呆然と見つめる目の前に、音もなく着地した。
だが、リサは彼を優しく下ろすつもりなど毛ったくもなかった。
彼女はレオンの首根っこを掴んでいた手をパッと離し、そのまま地面に向かって「放り出した」。
――ドスンッ!
「ぐふっ……!」
泥水が跳ね上がり、レオンは見事に顔面から地面に叩きつけられた。
救出という名目ではあるが、そこには明確な「アングロサクソンへの嫌がらせ」が込められていた。リサはわざとらしく冷ややかな視線を彼に落とし、鼻を鳴らした。
「ちょっ……! 大丈夫なの!?」
クレアが慌ててレオンに駆け寄り、泥まみれの彼に手を貸す。
レオンは口の中の泥を吐き出しながら、信じられないという表情で自分を放り出した少女を見上げた。
「今のは……何なんだ……」
目の前に立つ少女は、14歳ほどの幼い外見をしている。しかし、その手に握られた骨のトマホークと、感情を排した凍てつくような瞳は、彼女が普通の人間ではないことを雄弁に物語っていた。
レオンが泥だらけの顔を上げ、驚愕と困惑が混ざり合った表情で彼女に声をかけようとした。
「おい、君! 今のは一体……」
だが、リサは彼のことなど最初から存在しなかったかのように、完全に無視した。
返事一つせず、踵を返して屋上へと視線を向ける。彼女にとっての優先事項は、アングロサクソンの男への親切ではなく、ただシェリーとの約束を果たしたことだけだった。
リサは再び驚異的な跳躍を見せ、一瞬で屋上の縁まで駆け上がると、待っていたシェリーのもとへと戻っていった。
「もー……リサったら」
出迎えたシェリーの顔には、感謝よりも先に、若干のあきれ顔が浮かんでいた。
リサがレオンを雑に放り出したことを、おそらく屋上から見ていたのだろう。彼女はリサのこういう「気まぐれな残酷さ」にある程度慣れてしまっていた。
一方、地上に残されたレオンとクレアは、呆然と空を見上げていた。
あまりに速く、そして不自然に消えた少女の正体を突き止めたい衝動に駆られ、再び声を上げようとする。
「待ってくれ! 名前だけでも――」
しかし、彼らにそれを許す時間は残されていなかった。
雨の中を這い寄ってきたゾンビたちが近寄ってくる。腐敗した肉の臭いが風に乗って漂い、喉を鳴らす不気味な唸り声が周囲を包み込む。
「レオン! 喋ってる場合じゃないわ、早く!」
クレアがレオンの腕を強く引き、彼を促した。
救助してくれた正体不明の少女への疑問は一旦脇に追いやり、二人は目前の危機から逃れるために、急いで警察署の内部へと身を潜めた。
重い扉が閉まり、外の世界と遮断される。
静寂に戻った屋上では、リサが再び骨のトマホークを弄びながら、警察署の中へと消えた「生存者」の気配を、冷たい瞳で追っていた。
警察署の内部から鈍い音が響いてきた。
――パン! パンッ!!
銃声だ。それも一発ではなく、間隔を空けて数回。おそらく先ほどの二人が、建物内でゾンビや得体の知れない化け物たちと交戦しているのだろう。
シェリーは身を乗り出し、不安げに階下を見つめた。
「リサ! また銃声が聞こえるよ。あの人たちが危ないんじゃないかな?」
リサは小さく鼻を鳴らし、シェリーの肩を軽く押してとどめた。
そして、指を口に当てて「静かに」という合図を送り、さらに手のひらを下に向け、「ここで待機しろ」ということを身振り手振りで伝えようとした。
だが、リサは言葉を失っているため、複雑な意図を伝えるのは至難の業だ。
一度目のジェスチャーでは、シェリーに「休憩しよう」という意味に捉えられてしまった。リサは少し不機嫌そうに眉をひそめ、二度目、より強調して「音が止むまで動くな」という合図を送った。
「……あ、待ってればいいの?」
ようやく理解したシェリーだったが、すぐに不安が顔を出した。
「でも、今助けてあげないと間に合わないかもしれないよ! 行こうよ、リサ!」
リサは激しく首を振った。
彼女の中には、戦士としての冷徹な計算があった。
(……不慣れな人間と一緒に戦えば、誤射される、シェリーに当たれば最悪死んでしまう、もちろん当てさせはしないが)
特に、銃という武器を持つものがいる中で乱戦になれば、事故が起こる可能性は極めて高い。それに何より、今のリサにとって彼らは「助けるべき対象」ではなく、「シェリーが望むから殺さない対象」に過ぎない。
もちろん、そんな思考を身振り手振りで伝えることは不可能だった。
「もうっ! リサは…何か理由があるんだよね…」
シェリーが頬を膨らませて不満げに呟いたが、リサはそれを無視して再び耳を澄ませた。
「……ん」
音が止むまで待つ。それが最も効率的であり、かつ安全な方法だ。
不承不承ながらもシェリーは諦めて座り込み、レッドはそんな主人の隣で、退屈そうに大きなあくびをした。
やがて、建物から響いていた不規則な銃声が止んだ。
遠くで何かが壁を掻きむしる音や、湿った足音が聞こえてくるが、少なくとも激しい交戦は終わったようだ。
リサはゆっくりと立ち上がり、シェリーの肩をポンと叩いた。
「……ん」
合図と共に、彼女は再び慣れた手つきでシェリーを片腕に抱え、もう一方の手でレッドの首輪を掴む。
リサは屋上から垂直に降下し、警察署の正面玄関付近へと軽やかに着地した。地面に触れる瞬間に膝を深く曲げ、衝撃を完全に吸収するその動作には、一切の無駄がない。
彼女は静かにシェリーとレッドを下ろす。
リサはシェリーに向き直ると、耳を指し、その後で建物の中を指差す身振りをした。「よく聴け」という合図だ。
シェリーもまた、息を止めて耳を澄ませた。
すると、厚い扉の向こう側から、かすかに人間の話し声が聞こえてきた。
「……っ!」
シェリーは驚いたように目を見開き、リサに向かって大きくうなずいた。生存者がそこにいる。
二人は玄関近くで会話をしているようだ。おそらく、戦いを終えて一息ついているか、次の行動を相談しているところだろう。
リサは、自分から中に入ることを促すように手をかざした。
リサが先頭に立ち、骨のトマホークを構える。その後ろに、不安げながらも期待を込めた表情のシェリー。
そして最後尾に、低く唸り声を上げながら警戒するレッド。
三人は一列に並び、ゆっくりと警察署の重い扉へと手をかけた。
ギィ……という鈍い音と共に入り口がゆっくりと開いていく。