バイオハザード:リサ・トレヴァー 〜怨霊と血濡れのトマホーク〜   作:ai試し

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12話 クレア、レオン

やがて、建物から響いていた不規則な銃声が止んだ。

遠くで何かが壁を掻きむしる音や、湿った足音が聞こえてくるが、少なくとも激しい交戦は終わったようだ。

 

リサはゆっくりと立ち上がり、シェリーの肩をポンと叩いた。

「……ん」

合図と共に、彼女は再び慣れた手つきでシェリーを片腕に抱え、もう一方の手でレッドの首輪を掴む。

 

リサは屋上から垂直に降下し、警察署の正面玄関付近へと軽やかに着地した。地面に触れる瞬間に膝を深く曲げ、衝撃を完全に吸収するその動作には、一切の無駄がない。

 

彼女は静かにシェリーとレッドを下ろす。

 

リサはシェリーに向き直ると、耳を指し、その後で建物の中を指差す身振りをした。「よく聴け」という合図だ。

 

シェリーもまた、息を止めて耳を澄ませた。

すると、厚い扉の向こう側から、かすかに人間の話し声が聞こえてきた。

 

「……っ!」

シェリーは驚いたように目を見開き、リサに向かって大きくうなずいた。生存者がそこにいる。

 

二人は玄関近くで会話をしているようだ。おそらく、戦いを終えて一息ついているか、次の行動を相談しているところだろう。

 

リサは、自分から中に入ることを促すように手をかざした。

 

リサが先頭に立ち、骨のトマホークを構える。その後ろに、不安げながらも期待を込めた表情のシェリー。

そして最後尾に、低く唸り声を上げながら警戒するレッド。

 

2人と1匹は一列に並び、ゆっくりと警察署の重い扉へと手をかけた。

 

ギィ……という鈍い音と共に入り口がゆっくりと開いていく。

 

重い扉が開き、警察署の玄関ホールへと足を踏み入れた2人と1匹の前に、先ほど中庭で見た男女――レオンとクレアが立っていた。

 

張り詰めた空気がホールを支配する。

レオンは反射的にハンドガンを構えていたが、相手が子供を連れていることに気づき、銃口を斜め下へと向けたまま警戒態勢を維持している。対するリサは、獲物を狙う猛獣のような鋭い視線でレオンを射抜いていた。

 

リサはゆっくりと、身に纏っていた黒いレインコートのボタンを外し、肩から滑り落とした。その下から現れたのは、14歳ほどの美少女の姿。しかし、その瞳には人間離れした狂気と、インディアンの怨霊がもたらす冷徹な戦士の意志が宿っている。

 

「……あの、あなたたちが生存者の方ですか?」

シェリーがリサの背後から、おずおずと声をかけた。

 

クレアがレオンに視線を向け、小声で囁く。

「レオン、子供よ。攻撃するなんてありえないわ」

しかし、レオンは納得いかない様子で、肩をすくめて反論した。

「……いいかクレア、この子供はさっき俺をひっつかんで、柵の内側にぶん投げたんだぞ。冗談抜きに人間とは思えない力だった」

 

シェリーは、レオンの言葉に少しだけ申し訳なさそうな顔をしながら、リサの背中にぴったりと隠れていた姿を、肩越しに顔だけをちょこんと出し、控えめに名乗る。

「……シェリー・バーキンです」

 

その言葉に反応したのか、クレアが柔らかい表情で微笑んだ。

「私はクレア・レッドフィールドよ。よろしくね、シェリー」

 

その瞬間だった。

「グゥ……ッ!!」

リサが低く、地を這うような唸り声を上げた。

レオンは身構えるが、リサの視線はどこか不快そうに彼らを見定めている。レオンもまた、状況を把握しようとフルネームを名乗った。

「レオン・S・ケネディだ」

 

(アングロサクソン……それにヒスパニック……)

リサの内側で怨霊がざわめき、憎悪が沸き上がる。しかし、後ろにいるシェリーとの約束その衝動を辛うじて繋ぎ止めていた。

 

「この子、リサは……その、うまく話せないんです」

シェリーがフォローするように説明する。

 

気まずい沈黙が流れる中、クレアはこの張り詰めた緊張感を打破しようと、自ら歩み寄るようにして自己紹介を始めた。

「私は大学生なの。もともとはラクーンシティにいる兄を探しに来たんだけど……まさかこんなことになるとは思わなかったわ」

 

クレアの穏やかな声がホールに響く。リサは相変わらず唸り声を上げていたが、次第にその鋭さは消えていった。彼女は構えていた骨のトマホークを、だらりと力なく下げる。

 

それを見たレオンも、「ふぅ」と小さくため息をつき、銃をゆっくりとホルスターに戻した。

 

完全な信頼関係にあるとは言い難いが、少なくとも今この瞬間、互いに引き金を引くことはないだろうという奇妙な合意が形成された。ようやく冷静に会話ができる環境が整ったのだった。

 

緊張が少しだけ緩んだところで、シェリーも身につけていたレインコートを脱ぎ、リサに手渡した。そして、隣でじっとこちらを伺っていた相棒を紹介する。

 

「……あ、この子はレッドです。私の番犬なんです」

シェリーがそう言ってレッドをなでると、赤い毛並みの犬は誇らしげに小さく吠えた。レオンとクレアは、犬が装備している不気味な骨のトマホークに一瞬目を奪われたが、今はそれを追求する余裕はなかった。

 

シェリーは少し不安げな表情になりながら、ここに来た理由を話し始めた。

「……お母さんに、電話で警察署に避難しなさいって言われて。だから、ここに来ました」

 

その言葉を聞いたレオンの表情が曇る。彼は自身の状況について語り出した。

「俺は……ここで働く予定だった新人警官だ。だが、赴任直前に突然待機命令が出てしまってな。その後ずっと連絡が取れなくなったから、様子を見に来たんだ」

 

運命の皮肉に、レオンは自嘲気味に口角を上げた。期待して訪れた職場が、今や地獄へと変わっていたのだ。

 

レオンは視線をホールの奥、暗がりにある待機スペースの方へと向けた。

「……あそこに、重傷を負った先輩警官が一人休んでいる。意識もほとんどないし、まともに動ける状態じゃない」

 

さらに彼は、絶望的な事実を付け加えた。

「今のところ、この署内を探索したが……警察署は壊滅している。生き残っている人間は、おそらく俺たちとそこの警官だけだろうな」

 

その言葉に、シェリーの顔から血の気が引く。リサは感情を読み取らせない無表情のままだったが、レオンの話を聞いてわずかに眉をひそめた。

 

(アンブレラ……)

リサの脳裏に、自分と母親を地獄へ突き落とした組織の影がよぎる。この街を、そしてこの警察署という秩序の象徴さえも、彼らは容易く破壊したのだ。

 

静まり返ったホールに、遠くで何かが壊れる鈍い音が響いた。生存者が少ないということは、それだけここが「化け物たち」に支配されていることを意味していた。

 

静まり返ったホールに、突然、二階の扉が激しく開く音が響き渡った。

 

「やっと来たか! こののろまな小娘め!!」

 

怒鳴り声を上げながら現れたのは、警察署の署長だった。彼は階段を駆け降りながら、狂気に満ちた目でシェリーに向かって突き進んでくる。その顔には、法を守るべき警察官としての誇りなど微塵もなく、ただ醜い執着だけが張り付いていた。

 

「さっさとこっちに来い! お前さえ連れて行けば、わしはアネット博士に助けてもらえる。この街から脱出できるんだ! アンブレラに尽くしたこのわしが、こんなところで死ぬものか!!」

 

あまりにも身勝手で衝撃的な発言に、シェリー、クレア、そしてレオンは呆然と立ち尽くした。しかし、一人だけ即座に反応した者がいた。

 

リサである。

 

(アンブレラ……)

その単語を聞いた瞬間、リサの瞳から理性が消え、純粋な殺意が爆発した。彼女は弾かれたように地を蹴り、鋭い骨のトマホークを署長の頭上へと振り下ろす。

 

「リサ、だめ!!」

 

シェリーの悲鳴のような制止の声が響いた。リサは反射的に腕をひねり、攻撃を逸らした。しかし、全力で振り下ろされた刃は署長の脚に深く突き刺さった。

 

「ぎゃああああっ!!」

絶叫と共に、署長は階段から転げ落ち、床に無様に這いつくばった。だが、それでも彼は血を流しながらわめき続ける。

「わ、わしは警察署の署長だぞ! さっさとこい、この小娘!!そっちの娘は殺してやる!」

 

その光景にレオンが即座に反応した。リサのあまりに速すぎる攻撃速度と殺意に危機感を覚えた彼は、反射的に銃口をリサへと向けた。

「動くな! 」

 

クレアは怪我をした署長に駆け寄ろうとしたが、レオンが鋭く制止する。

「行くな、クレア! この子は危なすぎる!」

レオンはクレアを背後に庇いながら、ゆっくりと署長リサへ近づき、状況をコントロールしようとした。

 

だが、その時だった。

 

低く不気味な唸り声が聞こえてきた。

重傷で休んでいたはずの先輩警官――マービンが、いつの間にか動き出し、這いずっていた署長に襲いかかったのだ。

 

「ガハッ……!?」

絶叫が悲鳴に変わる。ゾンビと化したマービンは署長の喉笛に深く歯をを突き立て、何度も、何度も激しく噛みついた。

 

「あ……ああ……」

血反吐を吐きながら、署長は痙攣し、やがてその瞳から光が消えた。アンブレラに魂を売った男の最期は、彼が守るべきだったはずの部下に食い殺されるという皮肉な結末であった。

 

獲物を仕留めたマービンはゆっくりと顔を上げ、次に近い標的であるレオンの方へと向き直った。その目は濁り理性の欠片もない。

 

レオンは苦渋の表情で引き金を引き、一発の銃弾をマービンの頭に撃ち込んだ。

乾いた音がホールに響き、先輩警官は静かに崩れ落ちた。

 

「……マービン……」

クレアが小さく、絶望に満ちた声でその名を呟いた。

 

リサは忌々しそうににアンブレラの死体に視線を落とした後、ふんと顔を背けた。どうせ死ぬなら私が殺したかったと。

 

署長の無様な死とマービンの最期。あまりに凄惨な光景に、先ほどまであった束の間の平穏は完全に消え去っていた。

 

ホールには再び、張り詰めた殺気が充満する。

レオンはリサの底知れない身体能力と、先ほどの爆発的な殺意を目の当たりにし、銃口を彼女から外すことができなかった。対してリサもまた、自分に銃を向けるレオンを敵と見なし、骨のトマホークを再び鋭く構える。

 

今にも火花が散らんとするその状況に、シェリーが飛び出した。

 

「やめて!! やめてください!!」

 

シェリーは必死な形相でリサの方へと駆け寄り、レオンとクレアに向かって叫んだ。

「リサは……リサは、アンブレラにひどいことをされたんです! ずっと閉じ込められて、恐ろしい実験をされて……! だからアンブレラの関係者が大嫌いで、憎いだけなんです!!」

 

その声には、涙が混じっていた。シェリーはそのままリサの体に飛び込むように抱きつき、自分自身の小さな体で彼女を銃口から守るようにして制止した。

 

「お願い……もう争わないで!!」

 

リサは、背中に感じられるシェリーの温もりと、震える鼓動に戸惑ったように目を瞬かせた。鋭く向けられていたトマホークの先がわずかに揺れる。彼女にとって、この小さな少女だけが、この地獄のような世界で唯一信頼できる存在だった。

 

その光景を見たクレアが、静かにレオンへ語りかけた。

「レオン、もういいわ。落ち着いて」

 

レオンは、シェリーの必死な表情と、彼女に抱きしめられて困惑したように立ち尽くすリサを見た。相手は怪物のような力を持っているが、その心には深い傷がある。それを突きつけられたレオンは、ゆっくりとだが確実に銃口を下げた。

 

「……ああ。分かった」

 

レオンは小さく溜息をつき、完全に銃を下ろした。最悪のタイミングでの出来事だったが今は生存者同士協力が必要だろう。

 

クレアが、沈黙に包まれた一同に呼びかける。

「……一度、情報を整理しましょう。さっきの男の半紙も含めて、ここからどう脱出するか、そしてこの街で何が起きているのかを」

 

シェリーはリサに抱き着いたまま、「うん……!」と強く同意した。レオンもまた、重い足取りで彼らの輪に加わった。

 

不気味な静寂に包まれた警察署の中で、奇妙な共同戦線が結ばれようとしていた。

 

「……場所を変えましょう」

 

クレアが周囲の状況を確認しながら提案した。

「さっき署長が出てきた部屋なら、まだ調べていないわ。彼があんなになってもこもっていたのなら、少なくとも今のところは安全な場所のはずよ」

 

一行は慎重に足を進め、二階にある署長室へと移動した。

その道中、シェリーはリサの左手をぎゅっと握りしめていた。もしまたリサが殺意に駆られたとき、いつでも彼女を繋ぎ止められるように。

 

重厚な扉を閉め、鍵をかけたことでようやく外界から遮断された空間が確保される。それぞれが椅子や壁に寄りかかり、落ち着いたところで、改めて話し合いが再開された。

 

シェリーはリサの隣に座り、改めて彼女の置かれた状況について説明した。

「……リサは、アンブレラによる非道な実験を受けてきたみたいで。だから、アンブレラの関係者はもちろんですが……その、アングロサクソン系やヒスパニック系の方々をすごく嫌っているんです」

 

レオンとクレアは顔を見合わせた。「人種への憎悪」という、この暴動事件の中ではあまりに異質な要素に戸惑いを隠せない。

 

「……どうしてそこまで?」

レオンが疑問げに問いかける。するとシェリーは、嘘をついた。

「たぶん……リサに酷いことをした研究者や監視員たちが、みんなそういう見た目をしていたからだと思います。彼女にとって、その外見は『自分を痛めつける人間』の象徴になってしまったんだと思います」

 

レオンは自分の顔を触った。自分こそがまさに、リサが嫌悪する「アングロサクソン」を持ち合わせている。だからこそ、先ほどまでリサから向けられていた視線があれほどまでに鋭かったのだと理解し、冷や汗が流れた。

 

一方でクレアは、別の疑問を口にする。

「でも……さっきの署長の言葉、聞いたわよね? シェリー、あなた自身のことも『連れて行けば助けてもらえる』と言っていた。リサがアンブレラを憎んでいるなら、なぜあなたと一緒にいるの?」

 

それは残酷な問いだった。署長の言葉によればシェリーはアンブレラの関係者に思える。

 

しかし、シェリーは迷いなく、隣のリサの手を強く握りしめて答えた。

「リリサは子供を殺したり傷つけたりするような人じゃないもの」

 

リサはぼーっと天井を見上げていたが、シェリーに強く手を握られた瞬間、小さく「ん」と鼻を鳴らした。それは肯定の意味だったのか、あるいは単なる癖だったのか。

 

それでも、その無表情な美少女の瞳には、狂気とシェリーに対するは信頼が宿っていた。

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