バイオハザード:リサ・トレヴァー 〜怨霊と血濡れのトマホーク〜 作:ai試し
静まり返った署長室で、シェリーは改めて自分のことを話し始めた。
「私の名前はシェリー・バーキンです。お父さんとお母さんは……どちらもアンブレラ社で研究員をしています」
「お母さんから電話があったんです。『警察署が一番安全だから、すぐにそこへ行きなさい』って。だから私はここに来ました」
クレアはシェリーの話を静かに聞き、先ほどの署長の言葉と照らし合わせた。
「……なるほどね。きっと署長はあなたの母親から連絡を受けていたんでしょう。保護することを頼まれていたし、同時にあなたをどこか特定の場所へ連れて行くことも指示されていたはずよ」
レオンは部屋を見回した。豪華なデスクに、並べられたトロフィーや書類。そして何故か大量の剝製。
「……この部屋になにか手がかりがあるかもしれない。一度調べてみよう」
レオンとクレアは、シェリーがリサをガードしている間に、机の引き出しやキャビネットの中身を確認し始めた。
そして、レオンはある一冊のファイルを見つけ出した。表紙には極秘のスタンプが押され、中には詳細な報告書と通信記録が綴られていた。ページをめくるたび、レオンの表情が険しくなっていく。
「……信じられない」
レオンの声は低く、怒りに震えていた。
そこには、警察署長という立場を利用してアンブレラ社と完全に癒着し、街で起きていた不審な事件や行方不明者の報告を組織的に隠蔽していた証拠が克明に記されていた。正義の番人であるはずの署長は、金と権力のために、市民を見捨てていたのだ。
さらに、ファイルの後半には衝撃的な事実が記されていた。
このラクーンシティを地獄に変えた原因――街中に溢れたゾンビや怪物の正体は、アンブレラ社が保有していた生物兵器用ウィルスの漏出によるものであること。そして、それを会社側が「事故」として処理させようとしていたことが明文化されていた。
「こんなことが……まともな人間がやっていいはずがない」
レオンが資料を机に叩きつける。
その様子を見ていたリサの瞳に、再び暗い光が宿った。彼女は言葉こそ発しなかったが、本能的に理解していた。この部屋に充満していた権力という名の腐臭の正体を。
(アンブレラ……アングロサクソン……)
リサの手の中にある骨のトマホークが、ギチリと音を立てて握りしめられた。憎悪の対象が明確になったとき、彼女の周囲にみえないどす黒いオーラのようなものが渦巻き始める。
レオンが絶望的な資料に憤慨している間、クレアはもう一方の棚から一通のメモ書きを発見した。そこには特定の周波数と、アクセスコードが記されていた。
「……見て。これ、アネット・バーキン博士への専用回線よ」
その名を聞いた瞬間、シェリーがびくりと肩を揺らした。
「お母さん……?」
クレアはシェリーの肩にそっと手を置き、提案した。
「この街で何が起きているのか、そしてどうすればここから脱出できるのか。おそらく、アンブレラの内部事情を詳しく知っているアネット博士なら、答えを持っているはずよ。連絡を取ってみましょう」
レオンも同意し、一行は部屋のデスクにある通信装置へと集まった。
一方のリサは、大人の会話には全く興味がない様子だった。彼女にとって、書類の中身や政治的な駆け引きなどどうでもいいことだ。リサが求めているのは、アンブレラへの復讐だけである。
「……ん」
リサはつまらなそうに鼻を鳴らすと、足元でじっとこちらを見ていたレッドに視線を向けた。彼女は自分の指先から小さな骨の破片を生成し、それを犬のおもちゃのようにレッドに投げ与える。レッドは嬉しそうにそれを追いかけ、リサの膝の上で転がりながらじゃれ合い始めた。
殺戮兵器としての狂気と、少女としての無邪気さ。その危うい同居こそが、今のリサ・トレヴァーという存在だった。
レオンが通信装置を操作し、音声をスピーカーとマイクに切り替える。
「……繋がるか」
静寂の中、電子的な接続音が数回響いた後、ノイズ混じりの音声が流れ出した。
『――こちらアネット・バーキン。アイアンズ署長? シェリーが見つかったの?』
冷徹で、どこか疲弊した女性の声。シェリーはその声を聞いた瞬間、瞳に涙を浮かべた。
スピーカーから流れる声に、シェリーはたまらずマイクへ身を乗り出した。
「お母さん! お母さんなのね!」
『シェリー! 無事だったのね……よかった』
一瞬だけ、アネットの声に母親としての慈愛が混じった。しかし、その温もりはひどく短かった。アネットはすぐに事務的な、それでいて切迫したトーンに戻り、核心を問う。
『……ところで、リサ・トレヴァーはそこにいるの?』
シェリーが答えようとしたとき、レオンが前に出た。
「俺はレオン・S・ケネディ。新人警官だ。アイアンズ署長は……既に死んだ。シェリーとリサは一緒に警察署まで来た」
『……そう。アイアンズが死んだか』
アネットの声に悲しみはなく、むしろ当然の結果であるかのような響きがあった。レオンが続けて現状について質問しようとしたが、アネットはそれを冷酷に遮った。
『いいから聞きなさい。今この瞬間も、リサを回収するためにアンブレラの特殊部隊がそちらに向かっているわ。彼女は会社にとって極めて重要なサンプルよ。捕獲されるか、あるいは処分されるか――どちらにせよ、そこに居続けるのは自殺行為だわ』
レオンとクレアの顔に緊張が走る。リサの方は相変わらずレッドと遊びながらも、「アンブレラ」という単語に反応し、わずかに耳をぴくりと動かしていた。
『いい? 私の指示に従いなさい。まず、シェリーを市街地にある孤児院まで連れて行きなさい。孤児院には隠し通路がある。そこで次の指示を出すわ。脱出路についてもね。』
アネットは淡々と孤児院の場所を伝え、返答を待った。
レオンとクレアは視線を交わした。
アンブレラの特殊部隊が向かっているという警告は無視できない。それに、子供であるシェリーを安全な場所へ導くことが最優先だ。
「……分かった。彼女を連れて孤児院に向かう」
レオンの答えに、返事が1言あり、通信はプツリと切れた。
静まり返った署長室でリサがゆっくりと顔を上げた。彼女の瞳には先ほどまでの退屈さは消え獲物を待つ狩人のような鋭い光が宿っていた。特殊部隊が来るという。それはリサにとって復讐するための絶好の餌食が自ら歩いてきてくれることを意味していた。
通信が切れた後、レオンとクレアは深刻な面持ちで話し合いを始めた。
「シェリーを孤児院へ連れて行くこと自体は恐らく問題ない」
レオンが低い声で切り出す。「だが……問題はリサだ」
レオンとクレアが最も懸念していたのは、アンブレラの特殊部隊のことだった。相手はバイオテロや生物兵器の処理に特化したプロの集団だろう。新人警官と大学生という素人に等しい自分たちが、そんな精鋭部隊を相手にシェリーを守り抜きながら移動できるのか。正直に言って、荷が重すぎた。
そのとき、レッドと遊んでいたリサがゆっくりと彼らに近づいてきた。
彼女はまず、自分の胸を指差した。それから、足元の床を強く叩く。
さらに視線を移し、シェリー、レッド、クレア、そしてレオンを順番に指差すと、手のひらを外側へと大きく払った。
「……え?」
レオンが呆気に取られた顔をする。だが、リサの意図を正確に理解したのはシェリーだった。
「リサ……? ここに残るっていうの……?」
シェリーの声が震える。リサは感情の見えない瞳でじっとシェリーを見つめていた。その意味するところはシェリーにとっては明白だった。
『私はここに残り、特殊部隊を殺す。その間にシェリーは孤児院へ行け』
「そんな! 一人で戦うつもり!? 危ないよ!」
シェリーがリサの服の裾を掴み、哀切に訴える。リサがいくら強くても、軍隊を相手にするのは無謀に思えた。
しかし、リサは僅かに微笑むように口角を上げた。彼女にとってこれは犠牲ではなく「狩り」なのだ。自分を弄んだ組織の犬たちが自ら死地へやってくる。これ以上の愉悦はない。
リサは優しくシェリーの頭を撫でた。その手つきは驚くほど穏やかで、慈しみに満ちていた。そして、大きく一度だけうなずき「大丈夫だ」と伝えた。
最後に、リサは隣にいたレッドの頭をポンと叩いた。
鋭い視線を犬に向け、「シェリーのことを頼む」と無言で念を押す。
レッドはリサの意図を汲み取ったのか、一度だけ力強く「ワン!」と吠え、忠誠を誓うようにシェリーの足元に寄り添った。
レオンは複雑な表情でリサを見た。
「……正気か? 相手が誰か分かっていて言っているんだろうな」
リサは答えず、ただ骨のトマホークを指先で軽く回した。その動作には絶対的な自信と、底知れない殺意が込められていた。
クレアは困惑した表情で、リサの小さな背中を見つめていた。
「……信じられないわ。あんなに小さくて、見た目はただの女の子なのに。こんな状況で一人で残るなんて、正気とは思えない」
彼女にとってのリサは、どれだけ身体能力が高かろうと、守られるべき子供に見えていた。踏ん切りがつかず、リサの手を引いて一緒に連れて行こうとするクレアに、レオンが静かに、だが断定的な口調で声をかけた。
「クレア、決断しろ。今は二手に分かれるのが最善だ」
「でも――!」
「あの身体能力を見たろう。俺たちが一緒にいたところで、彼女の動きを制限して足手まといになるだけだ。むしろ、彼女が戦う邪魔になる可能性の方が高い」
レオンの言葉は現実的で正論だった。自分たちがここに留まっても、特殊部隊からシェリーを守り抜ける保証はない。リサという最強の盾が敵を引き付けている間に、守るべき子供であるシェリーを安全圏へ運ぶこと。それが最も優先すべきことだった。
クレアは唇を噛み締め、リサとシェリーを見た。そして、しぶしぶ頷いた。
「……分かったわ。あなたの言う通りね」
その言葉を聞いた瞬間、シェリーがたまらずリサに飛びつき、強く抱きしめた。
「リサ! 絶対に……絶対に生き残ってね! また会おう、約束だよ!」
リサは突然の衝撃に一瞬だけ体を硬くしたが、やがてゆっくりと腕を回し、シェリーの背中をポンポンと叩いた。言葉はない。けれど、その動作には「分かっている」という静かな信頼が込められていた。
その後、レオンが地図を広げ、リサに説明する。指で警察署から孤児院までの最短ルートをなぞった。リサは返事ようなうめき声をあげた。恐らく理解の合図だろう。
「……行くぞ」
レオンの声と共に、一行はゆっくりと歩き出した。リサを武器庫に案内し自分たちは弾薬を補給できたが彼女とまた会えるだろうか?
人間の特殊部隊という怪物たちとは違ったまた別の脅威、戦術を駆使し襲い掛かってくるであろう。
振り返ると、そこには静かに佇む14歳の少女の姿があった。彼女は骨のトマホークを肩に担ぎ、レッドがシェリーを守るように歩く後ろ姿を、じっと見送っていた。
警察署という閉鎖された建物に一人取り残されたリサ。しかし、その表情には孤独など微塵もなかった。ただ、これから訪れる「獲物」たちへの飢えだけが彼女の瞳の中で赤く燃えていた。
シェリーたちが警察署の裏を抜け、雨に煙る街へと消えていった。
静寂が戻ったホールで一人残されたリサの耳に、低く、重厚な声が響いた。それは肉体を持たぬ者の声――彼女の中に宿るインディアンの怨霊であった。
(……奴らをお前が引きつけねばならぬ)
怨霊の声は冷徹だった。
(敵を引き付けるには、まず「罠」を張らねばならん。今この瞬間も警察署の外は監視されているはずだ。怪物二体を短時間で屠ったことが征服者どもにに伝わっている以上、奴らは空から、あるいは遠方からお前の動向を伺っているだろう)
リサは無表情のまま、ゆっくりと屋上へと続く階段を駆け上がった。
怨霊の導きに従い、彼女は屋上の縁に立ち、あえて目立つように周囲を見回し始めた。まるで、ここを拠点として立て籠もるつもりであるかのように。
(見せろ。お前がこの地の主となり、領域を掃除している姿を。そうすれば奴らは、ここを拠点と利用としていると勘違いするはずだ)
リサは屋上から飛び降りた。
着地した場所は、警察署の正面玄関付近に群がっていたゾンビたちの真っ只中だった。
「グゥ……ッ!!」
骨のトマホークが閃光のように走り、一振りで複数のゾンビの体が弾け飛ぶ。それは戦闘というよりは、庭の手入れをするような淡々とした作業だった。
驚異的な瞬発力と反射神経により、リサは襲い掛かるゾンビを完膚なきまでに粉砕し、警察署の周囲を「安全」にしていった。
瞬く間に周囲の掃討を終え、血の海の中に立ったリサは、空を見上げた。
雨が続く灰色の空に、獲物の気配を感じ取る。
(……来たか)
怨霊が満足そうに囁いた。
リサはゆっくりと警察署の中へと戻り、重い扉を閉めた。暗い廊下でトマホークを肩に担ぎ、壁に背を預けてじっと待つ。
彼女の瞳には、狂気と共に冷徹な計算が宿っていた。
さあ、来い。アンブレラの犬ども。
この地獄の門を潜った瞬間、お前たちの絶望が始まる。
ラクーンシティの灰色の空を切り裂き、大型の輸送ヘリが低空飛行で警察署へと向かっていた。機内には、アンブレラ社が誇る精鋭特殊部隊「U.S.S.(Umbrella Security Service)」の隊員たちが、冷徹な表情で装備を確認している。
コックピットから、地上に潜伏する監視員からの通信が入った。
『こちら監視員。対象――リサ・トレヴァーの動向を報告する。5分前に対象が警察署内部への進入を確認した。また、進入直前に周辺の活性死者を掃討していたことから、対象は警察署を拠点として利用しようとしている可能性が高いと判断される』
隊員たちの間にある種の緊張が走った。彼らが機内のモニターで事前に見せられた映像には、かつて最強の生物兵器として設計されたネメシスとタイラントが、一人の少女によって完膚なきまでに破壊される光景が記録されていた。。
しかし、彼らはプロだ。恐怖よりも、アンブレラへの忠誠が勝る。
U.S.S.の装備は贅沢だった。分隊ごとに2丁のグレネードランチャーが支給され、弾薬には通常の高爆発弾に加え、生物兵器の動きを鈍らせるための「冷凍弾」が支給されている。さらに、個人装備としてMP5サブマシンガンと手榴弾を備え、作戦の切り札として重量のあるロケットランチャーも支給されていた。
モニターから視線を外した隊長が、低くしわがれた声で命令を下す。
「いいか、相手は人間ではない。だが、生物である以上、弱点はある。冷凍弾で動きを鈍らせ、確実に捕獲しろ」
隊長は作戦マップを指し示した。
「作戦を開始する。第一分隊はヘリボーンにより屋上へ強行降下せよ。同時に第二、第三分隊は地上から警察署を完全に包囲し、鼠一匹逃さず追い詰める。対象の回収が優先だが、抵抗がある場合は……手足をぶっ飛ばしても構わんどうせ化け物だ」
ヘリのローター音が激しく鳴り響き、U.S.S.の精鋭たちは死神のような黒い装備に身を包み、警察署へと降り立つ準備を整えた。
彼らは自分たちが狩る側だと思っていた。
だが、暗闇の中で待ち構えるリサにとって、彼らはただの「新鮮な獲物」に過ぎなかった。