バイオハザード:リサ・トレヴァー 〜怨霊と血濡れのトマホーク〜 作:ai試し
警察署の屋上に、鋭い風を切る音と共に第一分隊が降り立った。合計十名の精鋭たちだ。彼らは迅速に円陣を組み、屋上の四隅に警戒網を張り巡らせた。
「目標は建物内に潜伏している。慎重に進め」
隊長の合図と共に、彼らはゆっくりと扉から中へと足を踏み入れた。警察署の廊下は死のような静寂に包まれている。懐中電灯の白い光が、埃の舞う空気と血塗られた壁を照らし出していた。
隊員たちは互いの背中をカバーし合いながら、ミリ単位で視線をずらして前進する。彼らは訓練されたプロであり、不必要な音は一切立てない。
ふいに、天井付近からかすかな風切り音がした。
「――ッ!?」
先頭を歩いていた隊員の視界に、黒い影が横切った。反射的にMP5を構え、トリガーを引こうとした瞬間、その男の身体が宙に浮いた。
音もなかった。
ただ、天井の配管から伸びた強靭な触手が彼の首を巻き付け、凄まじい速度で暗闇へと引きずり込んだのだ。
「接触! 敵襲!」
隊長が叫ぶと同時に、残りの隊員たちが一斉に銃口を向け、至近距離で乱射を開始した。狭い廊下に激しい銃声が鳴り響く。しかし、弾丸は虚しく壁や床を穿つばかりだ。
リサはそこにいた。だが、「人間」の動きではなかった。
彼女は壁を走り、天井を蹴り、重力を無視した三次元的な軌道で射線を完全に見切りながら移動していた。銃口が向けられるよりも早く、彼女は死角へと潜り込む。
「クソッ! 伏せろ! グレネードだ!」
後方にいた隊員が、迅速にグレネードランチャーを肩に担ぎ、リサの姿が見えた方向へ砲撃した。
リサは、空中で飛んできたグレネードの弾頭を触手でガッチリと掴んでいた。
彼女は無表情に、掴んだままの爆弾をそのまま撃った男の方へと放り投げた。
「なっ……!?」
絶叫が上がる暇もなかった。至近距離での再爆発。肉片と血飛沫が壁に塗りたくられ、一瞬にして二人の隊員が消し飛んだ。
爆発の衝撃で廊下が揺れる中、第一分隊の生き残りたちは後退しながら射撃を続けた。彼らの訓練された精神は、目の前の光景に激しい拒絶反応を示していた。弾丸を避け、爆弾を投げ返し、そして今閃光のような速度で間合いを詰めてくる少女。
「撃て! 止まるな! 撃ち続けろ!」
隊長の怒号が飛ぶ。MP5の銃声が重なり合い、リサの身体に数発の弾丸が掠めた。しかし、彼女は痛みなど感じていないかのように加速した。
リサにとって、この狭い廊下は最高の狩場だった。
彼女は壁を蹴り上げると、天井の梁を支点にして跳躍し、隊員たちの頭上を飛び越えた。空中で身体を捻った彼女が、骨のトマホークを鋭く振り下ろす。
鈍い音が響いた。
最前列にいた隊員のヘルメットごと頭蓋が叩き割られ、彼は悲鳴を上げる間もなく絶命した。
「化け物め……っ!」
生き残った隊員の一人が、震える手で再びグレネードランチャーを構えた。今度は冷凍弾だ。生物の動きを止めるための特殊弾薬が放たれる。
しかし、リサの反射神経はそれを上回っていた。
彼女は弾道が見えた瞬間、身体を不自然な角度に折り曲げて回避すると同時に触手で打ち据えた、隊員の足首を正確に捉え彼を猛烈な勢いで壁へと叩きつけた。
骨が砕ける嫌な音が廊下に響く。
「ぐああああっ!」
苦しむ隊員に対し、リサは無表情に歩み寄った。彼女の瞳には、かつて自分を弄んだアンブレラへの底なしの憎悪が宿っている。
「逃げろ! 全員退避――」
隊長が叫ぼうとしたが、その言葉は最後まで口から出なかった。
リサの触手が、音もなく彼の口を塞ぎ、そのまま喉奥まで深く突き刺さったからだ。
「ガ……ッ、ゴフッ……!」
絶望的な窒息感の中で、隊長は自分たちが「狩る側」ではなく、ただの「餌」としてここに招かれたことを理解した。リサは彼の首を絞め上げながら、低く、地鳴りのような声で呟いた。
「……アン……ブレラ……」
それは言葉というよりも、呪いに近い響きだった。
リサはそのまま隊長を壁に叩きつけ、トマホークで最後の一撃を加えた。
静寂が戻った廊下には、血の海と、破壊された装備だけが残されていた。リサは返り血を浴びたまま、ゆっくりと顔を上げた。
彼女は満足げに鼻を鳴らすと、再び暗闇の中へと消えていった。次の獲物が、恐怖に震えながらこちらへ来るのを待つために。
警察署の地上階を包囲していた第二分隊の十名は、極めて慎重に正面玄関から突入した。盾役を先頭にした堅牢な陣形は、前部からの攻撃を遮断することを目的としていた。
だが、彼らが想定していたのは「前から来る敵」であり、「上から降ってくる絶望」ではなかった。
リサはシャンデリアの影に張り付いたまま、獲物たちが陣形を組んでホールに散開する瞬間を待っていた。
(今だ)
リサは音もなく天井を蹴り跳躍した。
重力に従い真っ直ぐに落下し、陣形のど真ん中に文字通り「突き刺さった」。着地の衝撃で床のタイルが砕け散り、周囲の隊員たちが反応する暇もないほどの至近距離に彼女は現れた。
「――ッ!?」
リーダーが叫ぼうとした瞬間、リサの右腕が閃いた。
骨のトマホークが空を切り、隣にいた隊員の喉笛を正確に断ち切った。鮮血が噴水のように舞い上がり、周囲の隊員たちのバイザーを赤く染める。
「敵襲! 撃て!!」
至近距離でMP5が乱射される。しかし、リサはそこで止まってはいなかった。
彼女は弾丸が届くよりも速く、身体を低く沈めて潜り込み、触手を鞭のようにしならせて周囲の足首を一斉に薙ぎ払った。
ドサリ、と同時に数名の隊員が地面に転がる。
「ぐあああ!」
無防備に晒された彼らの頭上から、リサは容赦なく柄で破砕する。メキメキという鈍い音と共にヘルメットごと頭蓋が潰れる。それは戦闘ではなく、単なる撲殺だった。
「化け物め! どけ! グレネードを撃たせろ!」
後方にいた隊員が必死にグレネードランチャーを構えようとした。だが、リサはそれを許さない。
彼女の背中から伸びた触手が、弾丸よりも速くその男の腕を掴み、そのまま強引にねじ切った。
「ぎゃあああああ!!」
絶叫がホールに響き渡る。リーダーを含めた残りの隊員たちがパニックに陥り、後ずさりしながら銃を乱射したが、リサは笑うように彼らの間をすり抜けていく。
彼女の動きは速すぎた。
ある者は触手で壁に叩きつけられある者はトマホークで身体を二分された。
わずか数十秒のことだった。
精鋭と呼ばれた第二分隊の十名は、一人残らず肉塊となって床に転がっていた。
リサは返り血を浴びたまま、ゆっくりと自分の手を見た。
心地よい破壊衝動と共に、彼女の中の怨霊たちが歓喜の声を上げていた。
リサは静かに顔を上げまだ外にいる「残りの獲物」たちへと意識を向けた。
警察署の外では、第三分隊と後方支援部隊が異様な静寂に包まれていた。
突入した第一、第二分隊からの通信が完全に途絶えたからだ。
「……おい、どうなっている? 報告しろ!」
地上で指揮を執る作戦隊長は、無線機に向かって苛立たしく声を張り上げた。返ってくるのは不気味なノイズだけだった。精鋭たちがこれほど早く沈黙するなど、想定外のことだ。
「接触した可能性が高い。だが、相手がたった一体の生物兵器であるはず。数的優位はこちらにあるはずだ」
隊長は自分に言い聞かせるように呟いた。彼はリサが単なる生物兵器ではなく、怨霊の導きを得た戦士であることを知らない。彼らにとって彼女は「強力な個体」に過ぎず、最新装備で包囲すれば制圧できるという慢心があった。
「残りの全隊員、突入準備! ロケットランチャーを最前線に配置しろ。建物ごと吹き飛ばす覚悟で進むぞ!」
彼らはついに、最後の切り札であるロケットランチャーを構え正面から押し入ることを決定した。強力な火力があれば、どのような怪物であっても逃げ場はないはずだ。
しかし、その時だった。
警察署の正面玄関の扉が、ゆっくりと不気味に開いた。
そこには、返り血で真っ赤に染まった14歳の少女が、ぼーっと虚空を見つめて立っていた。
彼女の手には、血塗られた骨のトマホークが握られている。
「……目標確認! 撃て!!」
隊長の号令と共に、最前列のロケットランチャーが火を噴いた。
凄まじい衝撃波と共に、超高速の弾頭がリサに向かって一直線に突き進む。直撃すれば人間はおろか、並の生物兵器ですら消し飛ぶ威力だ。
だが、リサは避けなかった。
彼女はただ、右腕から伸びた触手を、まるで羽虫を払うかのような速さで突き出した。
(バチィッ!)
信じられないことに、リサは飛来したロケット弾を、触手で正面から「キャッチ」していたのだ。
隊員たちの間に戦慄が走った。
ロケット弾を触手で止めるなど、物理法則への冒涜に等しい。
リサは無表情なまま、体を触手ごと円を描くように回し
「……アンブレラ……」
かすれた声で呟くと、リサはそのまま弾頭を全力で投げ返した。
空気を切り裂く轟音と共に、投げ返されたロケット弾が隊員たちの陣形へと突き刺さった。
(ドォォォーン!!)
凄まじい爆発が起こり、最前列にいた数名の隊員が吹き飛ぶ。土煙と火炎が視界を遮り、生き残った者たちがパニックに陥りながら銃を乱射した。しかし、彼らは決定的なことを見落としていた。
弾頭を投げ返した瞬間、リサは止まっていなかった。
彼女は爆風に紛れ、ロケット弾と同じベクトルで、弾丸のような速度で突撃していたのだ。
「なっ……!? どこだ! どこに――」
視界が開けた瞬間、隊員たちが目にしたのは、炎の壁を突き破って現れたリサの姿だった。
彼女は爆風を盾にするかのように、真っ直ぐに彼らの中心へと飛び込んできた。
「うああああっ!」
絶叫と共にMP5が火を噴くが、リサは空中で身体を捻り、弾丸の軌道を最小限の動きで回避しながら、そのまま最前列の隊員の胸元に激突した。
(ガッ!!)
鈍い衝撃音。
リサの体重は14歳の少女としては途方もなく思い、その衝突エネルギーは疾走する大型バイクに匹敵していた。正面からぶつかった隊員は肋骨を完全に砕かれ、後方の数名を巻き込んでドミノのように吹き飛んだ。
「撃て! 距離を取れ! 離れろ!!」
隊長が喉を枯らして叫ぶ。だが、一度懐に入られた彼らに逃げ場はなかった。
リサは着地と同時に、地面に転がる隊員の腕を触手で掴み、それを棍棒のように使って周囲の敵を殴りつけた。
(グシャッ!)
装備していたヘルメットがひしゃげ、血飛沫が舞う。
リサの動きには一切の迷いがない。怨霊たちが導く歴戦の戦士としての本能と、アンブレラへの純粋な憎悪が、彼女を完璧な殺戮マシンへと変えていた。
「グレネード! グレネードを使え!!」
後方の隊員が必死にランチャーを構えるが、リサはすでに彼の背後にいた。
いつの間にか移動していた彼女は、男の首の後ろに骨のトマホークを突き立てた。
「……アンブレラ……」
低く、冷たい呟き。
そのままトマホークを深く押し込み、リサは彼を盾にするようにして、残りの隊員たちへ向けて不敵な視線を向けた。
もはやそこにあるのは戦いではなく、一方的な処刑だった。
生き残った隊員たちは、もはや精鋭としての誇りなど捨て去っていた。彼らの目に映っているのは、最新兵器を嘲笑い、同僚を紙屑のように引き裂く「不可解な怪物」だけだった。
「化け物……! こんなもの、人間が勝てるわけがない!」
ある隊員が錯乱し、弾切れのMP5を投げ捨てて逃げ出そうとした。だが、リサの触手は逃げる獲物を逃さない。背後から伸びた黒い触手が彼の足首を捉え、凄まじい力で地面に叩きつけた。
(ズガァンッ!)
コンクリートの地面に頭から叩きつけられた男は、絶叫すら上げられず絶命した。
「……っ!!」
ついに追い詰められた隊長は、震える手で腰のハンドガンを抜き、リサに向けて発砲した。しかし、リサは弾丸が自身の頬をかすめることさえ意に介さず、ゆっくりと彼に歩み寄る。
彼女の足取りは静かだったが、その存在感は巨大な捕食者のそれだった。
リサは隊長の目の前で止まると、首をわずかに傾け、彼を見た。14歳の美少女という外見からは想像もつかない、深淵のような暗い瞳。
「あ……あう……」
隊長は言葉にならなかった。彼は自分が率いていた部下たちがすべてこの少女の手によって屠られたことを理解した。総勢四十名の精鋭が、一人残らず肉塊になったのだった。
リサはゆっくりと右手を上げた。
骨のトマホークを構えるのではない。彼女は、隊長の胸元にあるアンブレラのロゴマークを指差した。
「……アンブレラ……」
隊長が恐怖で失禁し、崩れ落ちた瞬間。
リサの触手が彼の頭蓋を拘束し、空中に吊り上げた。
「やめろ……! 頼む、助けてくれ!!」
許しを請う声など、リサには届かない。彼女にとってこの男は人間ではなく、自分と家族から全てを奪った「征服者」の末裔に過ぎなかった。
(メキッ)
鈍い音と共に、隊長の首が不自然な方向に折れた。
抵抗する術もなく、アンブレラ特殊部隊の最後の一人が絶命した。
静寂が戻った警察署の前には、血と硝煙、そして兵器だけが散らばっていた。
リサはふと視線を上げ、遠く離れた上空を見た。そこには、地上で起きた大虐殺を信じられない思いで見守っている輸送ヘリが数機、ホバリングしていた。彼らは地上の惨状に戦慄し、救援か撤退か判断に迷いながら様子を伺っていた。
(……逃がさない)
リサは足元に転がっていた、ロケットランチャーへと手を伸ばした。
人間であれば、その重量と反動に苦労するであろう兵器だが強化されたリサにとって、それは単なる「軽い道具」に過ぎない。
彼女は慣れない手つきでランチャーを肩に担いだ。狙いのつけ方など知らない。しかし、彼女の中にあるインディアンの怨霊たちが、戦士としての記憶と本能をリサに注ぎ込んだ。
ついさっきみた弾道から、狙い方、風の読み方、そして「獲物」を仕留めるタイミング。
怨霊たちの導きが、リサの視界に仮想的な弾道を赤い線のように描き出した。
(シュゥゥゥーーーッ!!)
ロケット弾が空へと放たれた。
通常なら、飛行中のヘリを射抜くのは至難の業だ。だが、導きを受けた一撃は正確に、最も近くで様子を伺っていた輸送ヘリの燃料タンク付近へ突き刺さった。
(ドォォォーーン!!!)
空中で巨大な火球が巻き起こり、ヘリの一機が真っ二つに裂けて燃え上がりながら地上へと墜落した。
その光景を見た残りのヘリのパイロットたちは、戦慄した。
地上の化け物が、あろうことか自分たちの主兵装を使いこなし完璧な精度で仲間を撃墜したのだ。もはやここには「捕獲すべき対象」などおらず、ただ「逃げ出さなければならない死神」がいるだけだった。
「退避しろ! 全機、直ちに撤退!!」
無線から悲鳴のような怒号が飛び、残りのヘリはなりふり構わず最大加速で方向転換し、ラクーンシティの灰色の空へと逃げ去っていった。
リサは弾が切れたロケットランチャーをガラクタのように地面に置くと、ふぅ、と小さく息をついた。
彼女は再び、静まり返った警察署の中へと足を踏み入れる。
アンブレラの精鋭たちを掃除し終えた今、彼女の心には、遠く離れた場所で不安そうに待っているであろうシェリーへの想いが、かすかに灯っていた。