バイオハザード:リサ・トレヴァー 〜怨霊と血濡れのトマホーク〜   作:ai試し

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15話 孤児院

血の海へと化した警察署の前で、リサはふと足を止めた。

 

彼女の脳裏に、不思議な感覚が湧き上がった。それは「姉」としての本能のようなものだった。自分を慕い、抱きついてくるあの小さな少女――シェリー。彼女と一緒に過ごした時間、一緒に浴びたシャワー、そして温もり。狂気に支配されたリサの心の中に、不器用ながらも「大切な家族」という認識が芽生えていた。

 

(……おみやげ)

 

文字は読めないし、言葉を操ることもままならない。だが、彼女の中で一つの確信が生まれた。

旅先から戻る時は、何か立派なものを贈らなければならない。それが「姉」としての務めであり、情愛の証であるという、奇妙にねじ曲がった義務感だった。

 

リサは周囲を見渡した。そこには、つい先ほどまで自分を殺そうとしていた男たちが遺していった、黒光りする鉄の塊が転がっている。

 

ロケットランチャー。グレネードランチャー。そして、山のように積み上がった弾薬。

 

普通の人間に見ればそれは死の道具に過ぎない。だが、リサにとってこれらは「強力で、立派なもの」だった。自分を強くしてくれた武器であり、アンブレラという強者を打ち倒すための道具だ。

(こんなに立派なものを贈れば、シェリーも喜ぶはずだ)

そんな、あまりにも残酷で的外れな確信が彼女の胸を満たしていた。

 

リサは丁寧に、そして効率的に「お土産」を回収し始めた。

 

まず、地面に突き刺さっていた最高品質のロケットランチャーを拾い上げると、それを背負った。次に、機能的なグレネードランチャーを二挺、腕に固定するように保持する。さらに、転がっている弾薬箱から、冷凍弾や高爆発弾などの弾頭を一つひとつ丁寧に拾い集め、触手を用いて自身の身体に巻き付けたり、適当な袋に詰め込んだりした。

 

その姿は、まるで戦利品を集める狩人のようでありながら、同時に幼い子供が宝探しに興じているような、奇妙な純粋さを孕んでいた。

 

「……シェリー……」

 

小さく、掠れた声で名前を呼ぶ。

想像の中のシェリーが、これらの兵器を見て目を輝かせ、「わあ、すごいねリサお姉ちゃん!」と喜んでいる光景が浮かんだ。リサは満足げに鼻を鳴らした。

 

十分な量のお土産が集まったところで、リサは一度だけ警察署の建物を振り返った。

 

アンブレラの精鋭たちはすべて消えた。

ここはもう、ただの肉塊が転がる箱に過ぎない。

 

リサは背負った兵器の重みを心地よく感じながら、ゆっくりと歩き出した。

向かう先は、シェリーが待つ孤児院。

 

14歳の美少女の姿をした怪物は、大量の重火器を抱えてラクーンシティの廃墟へと消えていった。その足取りは、再会を心待ちにする姉のように、どこか軽やかだった。

 

リサは、心の中で何度もシェリーの喜ぶ顔を思い描きながら、意気揚々と孤児院へと足を進めた。背中には巨大なロケットランチャー、腕にはグレネードランチャー。まるでサンタクロースがプレゼント袋を抱えるかのように、彼女は「最高のお土産」を運んでいた。

 

(……シェリー!)

 

期待に胸を膨らませて孤児院の門をくぐったリサだったが、そこで彼女を待ち受けていたのは、凍りつくような静寂だった。

 

「…………」

 

誰もいない。

人の気配どころか、生き物の鼓動さえ聞こえてこない。あんなに賑やかで温かい再会を想像していたのに、目の前にあるのは埃っぽい廊下と、冷たい空気だけだった。

 

先ほどまでの高揚感は、潮が引くように消え去った。代わりに、胸の奥からどろりとした不安がせり上がってくる。リサは激しく辺りを見回し、うめき声を上げながら孤児院の中を探索し始めた。

 

「シェリー……! シェリー!!」

 

言葉にならない叫びを上げながら部屋を巡るが、返事はない。だが、絶望に飲み込まれそうになったとき、リサの鋭い嗅覚があるものを捉えた。

 

(……レッド)

 

1階にある大きな部屋のに奥に見るからに親しい地下へ降りる梯子があった、そして、そこにはシェリーを守る番犬レッドが残したマーキングがあった。

 

(ここに……いた)

 

レッドのマーキングがあるということは、シェリーも一緒にここに入ったはずだ。確信を得たリサはすぐに飛び込もうとしたが、ふとあることに気がついた。

 

彼女は自分の身体を見た。

全身が赤黒かった。U.S.S.の隊員四十人を屠った返り血が、乾いてどす黒くこびりついている。皮膚には硝煙の匂いが染み付き、見た目は完全に「戦場から戻ってきた怪物」そのものだった。

 

(……汚い)

 

リサは足を止めた。

彼女の中にある、自覚なき「姉としてのプライド」が警報を鳴らしていた。こんなに血まみれの姿でシェリーの前に現れたら、きっと怖がらせてしまう。再開の抱擁もできないだろう、お土産を渡す時は、綺麗な格好でなければならない。

 

リサは地下への階段を一度見つめ、それからゆっくりと2階へと方向を変えた。

幸いなことに、孤児院の2階にはシャワー室がある。

 

彼女はまず、職員の部屋や寮のような個室を巡り、自分に合うサイズの服を調達した。

 

その後、リサはシャワー室へと向かった。

 

 

降り注ぐ白濁とした湯煙が、狭いシャワー室を幻想的な空間へと変えていた。

リサは衣服を脱ぎ捨て、その白磁のような肌を晒した。14歳の美少女に戻った彼女の肢体は、生物兵器としての強靭さを秘めながらも、見た目にはあまりに儚く、危ういほどに艶やかであった。

 

温かい湯が肩から滑り落ち、赤黒い返り血をゆっくりと洗い流していく。

だが、身体の汚れと共に流れ出たのは、激しい殺戮の記憶ではなく、胸の奥に深く刻まれた「あの子」との記憶だった。

 

(……シェリー)

 

リサは目を閉じ、心地よい湯の感触に身を任せた。すると、意識は自然と、かつてシェリーと共に浴びたあのシャワーの時間へと引き戻されていく。

 

そこにあったのは、言葉を超えた親密さだった。

狭い空間で肩が触れ合い、互いの体温を感じ合った時間。リサの記憶の中で、シェリーの姿が鮮やかに浮かび上がる。

 

12歳という、少女から女へと移ろう境界線に立つシェリーの肢体。それは、リサ自身の強化された身体とは対照的に、あまりに脆く、しなやかだった。

湯気に濡れて透き通るような白い肌は、まるで最高級の真珠のように淡い光を放ち、滴る水滴がその滑らかな曲線を描いて瑞々しい肌を流れ落ちていく。

 

リサは思い出す。

シェリーが小さな手を伸ばし、リサの背中や肩を丁寧に洗ってくれた時のことを。

指先が肌に触れるたび、微かな電撃のような熱が走り、心臓が高鳴った。子供特有の柔らかい掌が自分の皮膚の上を滑る感触。それは、この世界で唯一、今のリサが「怪物」ではなく何かとして扱われた瞬間だった。

 

(ああ……)

 

リサは無意識に、自分の肩をそっと撫でた。

そこにはまだ、シェリーの指先の温もりが残っているような錯覚があった。湯気に包まれた二人の空間は、外界の地獄から切り離された崩れやすい聖域であり、そこではただ純粋な、肌と肌の触れ合いだけが全てだった。

 

リサの呼吸が次第に深くなる。

記憶の中のシェリーは、恥じらいながらも、信頼しきった瞳でこちらを見つめていた。その視線こそが、リサにとって何よりも甘美な毒となり、彼女の孤独を揺さぶっていた。

 

記憶の奔流はさらに深く、熱い場所へとリサを誘う。

今度はリサがシェリーを洗ってやった時の感覚が、指先に鮮明に蘇った。

 

濡れた髪が肩に張り付き、湯気に濡れて赤らんだシェリーの小さな背中。そこに触れた瞬間、リサは息を呑んだ。あまりにも柔らかく、吸い付くような肌の感触。それはまるで熟れきった果実のように瑞々しく、指先で触れるだけで壊れてしまいそうなほどに繊細だった。

 

(……あぁ……)

 

リサの手が、無意識に自らの肢体をなぞる。

シェリーの華奢な肩から、緩やかな曲線を描く腰のラインへ。指先を通じて伝わってきた、少女特有の甘い体温と、石鹸の香りが混じり合った芳醇な香り。リサにとってそれは、この世で最も贅沢な快楽であり、同時に胸を締め付けるほどの切なさであった。

 

自分とは決定的に違う、脆く儚い肢体。

その対比こそが、リサの中にある保護欲と、それ以上に激しい「所有欲」に似た情動を掻き立てていた。

 

記憶の中で、リサは濡れた身体のままシェリーを正面から抱きしめた。

密着した肌と肌の間には隙間などなく、互いの心拍が直接伝わってくる。シェリーの小さく震える呼吸が背中に当たり、リサはその華奢な体を壊さないように、けれど逃さないように、深く、深く腕を回した。

 

抱きしめた時の、あの圧倒的な「生」の感触。

柔らかな胸元が自分の肢体に押し付けられ、互いの体温が溶け合う感覚は、リサに自分がまだ生きていることを、そして誰かを愛することができることを思い出させてくれた。それは生物兵器としての本能ではなく、一人の少女としての、人間としてのあまりにも純粋な渇望だった。

 

「……シェリー……」

 

シャワー室に、かすかな吐息のような声が漏れる。

現実の静寂の中で、リサはしばらくの間、その心地よい余韻に浸っていた。湯気と共に消えていく記憶の残滓を追いかけるように、彼女は自分の肌に残る空虚な感触を噛みしめた。

 

(……熱い)

 

リサは迷わずレバーを操作し、温度設定を冷水へと切り替えた。

 

ザァッ!!

 

冷水が全身を流れ心地よい。脳を包んでいた過剰な熱が瞬時に消え去った。皮膚が引き締まり気がし、意識は再び鋭い覚醒状態へと戻る。

 

(……私は、何をしていた?)

 

シャワーを浴びながら立ち尽くすリサの瞳から、先ほどまでの艶やかな情愛は完全に消えていた。代わりにそこに宿ったのは、底の見えない暗い狂気と、冷徹な殺意である。

本当にあったかもわからない甘い記憶など最早存在しない。今この瞬間にも彼女を突き動かしているのは、心臓の鼓動さえも憎しみに染めるほどの、アンブレラへの凄まじい殺意だった。

 

「……アン……ブレラ……」

 

喉の奥から絞り出した声は、先ほどまでの吐息とは正反対の、死神の唸り声であった。

リサは乱雑にタオルで身体を拭うと、調達した服を素早く身にまとった。アンブレラを殺さなければならない。

 

彼女は傍らに置いていたロケットランチャーやグレネードランチャーなどの重火器を改めて確認した。

シェリーへのお土産にする記憶など彼女には存在していない。

改めて見る、これほどの火力があれば、あの警察署で会ったレオンとクレアという二人の生存者にとって、大きな助けになるだろう。

 

曲がりなりにも、彼らはこの地獄のような街で生き延びようとする人間だ。アンブレラという共通の敵を持つのであれば、彼らに武器を供給することは合理的である。

 

リサは装備を整えると、迷いなく1階の部屋へと戻った。

そこには地下へと続く暗い梯子が口を開けている。

 

彼女は一歩、また一歩と、淡々と地下への階段を降りていく。

足音は静かだが、その胸の中では黒い殺意がドロドロとしたマグマのように滾っていた。

それは地下から感じる異様な気配のせいかもしれない。

 

地下に待ち受ける運命が何であろうと、彼女はアンブレラのすべてを破壊し尽くすまで止まることはないだろう。

 

 

リサが地上の精鋭たちを一方的に蹂躙していたその頃、シェリー、レオン、そしてクレアの一行は、ようやく目的地である孤児院に辿り着いていた。

 

道中の状況は過酷だった。街のいたるところで飢えたゾンビや正体不明の怪物が彼らの行く手を阻んだが、不思議なことに、同行する二人の戦いぶりは異常なほどに洗練されていた。

 

レオンは新人警官とは思えないほどの正確な射撃と冷静な判断力で道を切り開き、クレアもまた、ただの女子大生とは思えぬ身のこなしでナイフさえも巧みに操り、危うい局面を乗り切っていた。シェリーはそんな彼らの背中を見ながら、リサ以外の「頼れる人物」がここにいることに、かすかな安堵感を覚えていた。

 

孤児院のどこか重苦しい空気の中、一行はアネット博士が指示した通信装置のある部屋へと辿り着く。

 

レオンが緊張した面持ちで通信機を操作し、アネットに連絡を入れた。ノイズ混じりの音声がスピーカーから流れ出す。

 

『……聞こえる? レオン警官』

 

アネットの声は冷たく、どこか切迫していた。シェリーはその声を聞いた瞬間、懐かしさと同時に、言いようのない不安に襲われた。

 

「あぁ、こちらレオンだ。シェリーを連れて孤児院に着いた。ここからどうすればいい?」

 

レオンの声は落ち着いており、次の指示をアネット博士に仰ぐ。

 

『いい、そこにある制御パネルを操作しなさい。特定のコードを入力すれば、地下へと続く隠し通路が起動するはずよ』

 

アネットは事務的に指示を与え続ける。娘への気遣いなど微塵も感じられないその口調に、隣で聞いていたクレアが眉をひそめた。

 

『いいから急いで。迷わず、すぐにシェリーを私のところへ連れてきなさい。それがこの街から脱出するための唯一の方法よ』

 

要求はシンプルだった。隠し通路を通り、最速で自分のもとへシェリーを届けること。

 

通信はそこで一方的に切れた。

残されたのは、静まり返った部屋と、母親の冷徹な命令に戸惑うシェリーの小さな背中だけだった。レオンとクレアは顔を見合わせる。この街の狂気は、家族という絆さえも変質させてしまっているのかもしれない。

 

レッドはシェリーを励ますように吠えると、なぜか隠し通路で付近でおしっこをしていた。

 

彼らはまだ知らなかった。アンブレラの特殊部隊と違う脅威が自分たちに迫っていることを。

 

 

 

ラクーンシティの外郭。高度に秘匿されたアンブレラの指揮センターでは、今、絶望的なまでの沈黙が流れていた。

 

モニターに映し出されていたのは、通信が途絶える直前に送信された、血塗られた惨状の断片である。そこにいたはずの精鋭たち――U.S.S.の一隊が、文字通り「消滅」したことが報告された瞬間だった。

 

「……なんだと? 全滅だと!?」

 

一人の幹部が椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。その顔は怒りと困惑に歪んでいる。

 

「ふざけるな! 誰を派遣した!? 適当な新人を送り込んだというのか!」

 

問い詰められた作戦担当者が、震える声で回答する。

 

「……いえ。派遣したのはU.S.S.の中でも精鋭中の精鋭です。過去にネメシスの集団脱走事案を処理した部隊でした」

 

その言葉に、室内にいた幹部たちが一斉にざわついた。

ネメシスという最強の生物兵器を処理できた部隊が、たった一体の「失敗作」によって全滅させられたというのか。ありえない。論理的に不可能な話だ。

 

「……う、うそだろ……」

 

一人の幹部が力なく椅子に深く沈み込み、呻いた。

「タイラントも、ネメシスも、そしてU.S.S.の精鋭まで……。この会社の最高傑作たちが、『失敗作』に負けたというのか!?」

 

その絶望的な空気を切り裂くように、別の幹部が机を激しく叩いて怒鳴り声を上げた。

 

「黙れ! 恥を知れ! 今すぐ、今すぐにでもタイラントを追加派遣しろ! 物量で押し潰せばいいだけだ!」

 

しかし、作戦担当者は絶望的な表情のまま首を振った。

 

「不可能です。すでに『ラクーンシティ滅菌作戦』の予定が存在しており、実行はほぼ決定されております。核による浄化まで時間はありません。今から新たな兵器を輸送しても間に合いません」

 

室内に再び重苦しい沈黙が訪れた。

彼らにとって、リサ・トレヴァーというサンプルは計り知れない価値を持つ。始祖ウィルスにT、Gまでもが混在し、さらに正体不明の要因で強化された個体だ。それを核で焼き尽くすなど、科学者としての損失が大きすぎる。

 

「ああ……もったいない。あんなに貴重なサンプルが……」

 

嘆き悲しむ幹部たちの横で、ただ一人、冷徹な笑みを浮かべている男がいた。彼は眼鏡のブリッジを指で押し上げ、満足げに呟く。

 

「いいじゃないか。結果こそが全てだ」

 

その声に、周囲の視線が集まる。

 

「バーキン博士は素晴らしいウィルスを残してくれた。想定外の進化、想定外の強さ……それこそが我々が求めていた『正解』への道だ。たとえ今回、サンプルを失ったとしても、このデータがあればアンブレラは必ず究極の生物兵器にたどり着くだろう」

 

狂気に満ちた自信。

彼らはリサという個人の絶望や憎しみなど微塵も考慮していない。ただ、彼女がもたらした「結果」だけを貪欲に欲していた。




月の光を浴びながらピアノの前に座るリサ
さぁ奏でてやろうアンブレラ…!お前達の為のレクイエムを!!
隠し通路は開かなかった!
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