バイオハザード:リサ・トレヴァー 〜怨霊と血濡れのトマホーク〜 作:ai試し
1話 町
ラクーンシティへ向かう道のりは、彼女にとって単なる移動ではなかった。それは、自分の中に眠る「戦士」を呼び覚ます儀式のようなものだった。
怨霊の導きは正確だった。リサが街の境界に辿り着いたとき、そこにはすでに文明の崩壊が始まっていた。立ち込める煙、遠くで聞こえる悲鳴、そして絶え間なく響く銃声。
しかし、地上から入ればすぐにアンブレラの追手や武装した軍人に捕捉されるだろう。怨霊は彼女に、地下へと潜ることを示した。
ガコンッ!
リサは路上に転がっていた重い鉄製のマンホールの蓋を、片手で軽々と跳ね飛ばした。14歳の少女の細い腕からは想像もつかない筋力だ。彼女は暗い穴の中へと滑り込み、湿った下水道を突き進んだ。
やがて、街の中心部へと通じる出口に辿り着いたとき、リサはゆっくりと地上へ這い上がった。
そこは地獄だった。火に包まれたビル、路上の死体、そして――。
「……ア……」
目の前を歩く、皮膚が剥がれ落ちた「元人間」たちがいた。ゾンビだ。
リサにとって彼らは同類に近い存在かもしれないが、今の彼女には不要なゴミにしか見えなかった。
一匹のゾンビが、腐った呻き声を上げてリサに襲いかかる。
だが、リサの反応は電撃的だった。タイラントやネメシスですら追いつけないほどの瞬発力で、彼女はゾンビの懐に潜り込む。
シュバッ!
手にしたトマホークが空を裂いた。
鈍い音と共に、ゾンビの頭蓋が真っ二つに割れ、黒い血が路面に飛び散る。リサは表情一つ変えず、そのまま次の標的に向かって跳躍した。
その身のこなしは、もはや生物の域を超えている。歴戦のインディアン戦士としての記憶が、彼女の肉体を完璧に制御していた。
ゾンビたちが群がるが、リサにとってそれは単なる「身体能力の慣らし運転」に過ぎない。トマホークを振るうたびに、腐った肉片が舞い、道が開いていく。
(……アンブレラ。)
狂気に支配された意識の中で、リサは獲物の匂いを嗅ぎ取っていた。
しかしそのとき、路地裏から鋭い銃声が響いた。
「やめて!! こっちに来ないで!!」
切羽詰まった、若く切なげな女性の声だ。
リサは反射的に身を隠し、様子を伺った。そこには、数匹のゾンビに囲まれながらも必死に銃を構える一人の女性がいた。
赤いベストを身に纏い、強い意志を宿した瞳を持つ女性――クレア・レッドフィールドだ。
クレアは弾切れを起こし、絶体絶命の状況に陥っていた。ゾンビの一匹が彼女の喉元に手を伸ばそうとしたその瞬間。
ドシュッ!!
凄まじい衝撃波と共に、ゾンビの頭部が消失した。
そこに立っていたのは、返り血を浴びた小さな少女だった。
「……っ!?」
クレアは目を見開いた。この地獄のような街に、まだまだ大人とは言えない少女が一人で、しかも手斧を持って立っている。
「大丈夫!? 怪我はないの? 早く逃げなきゃ!」
クレアが慌ててリサの手を取ろうと伸ばした。しかし、リサは鋭い動きでその手を振り払う。
彼女の瞳には深い警戒心と、消えない狂気が宿っていた。今の彼女にとって、人間は復讐の対象であるか関係ないかだ。
目の前に現れた少女は、あまりにも小さく、そして危うかった。
返り血に染まった白い肌と、虚空を見つめるような瞳。クレアは恐怖よりも先に、保護欲が勝った。この地獄に放り出された子供を放っておけるはずがない。
「お願いだから私と一緒に来て! ここにいたら殺されちゃうわ!」
しかし、リサはクレアの言葉など聞いていなかった。
彼女の脳内では、今、目の前にいるこの女が「敵」か「味方」か、あるいは「復讐すべき対象」であるかを判別する処理が行われていた。
奇妙な沈黙が二人を包んでいた。
クレアは、この正体不明の少女を一人で歩かせるわけにはいかないと判断した。たとえ怪力を持っていても、精神的に不安定な子供であることに変わりはない。
「とりあえず、警察署へ行きましょう。あそこなら生存者が集まっているかもしれないし、状況が分かるはずよ」
リサは答えなかった。ただ、精霊の導きが「アンブレラの痕跡を追え」と囁いている。警察署という場所が、この街の混乱の中心であり、アンブレラに関わる情報の宝庫であることを直感的に悟った彼女は、ゆっくりと頷いた。
道中、クレアは何度もリサに話しかけた。
「どこから来たの? 家族は一緒なの?」
「何か食べたいものはある?」
しかし、リサからの返答は一切ない。ただ、しどけなく歩きながら、「ウゥ……」という不機嫌そうな唸り声を漏らすだけだった。その様子は、まるで気難しい飼い主に従う猛獣のようだった。
行く手を阻むゾンビたちが現れるたび、リサが電光石火の速さで飛び出した。
トマホークが空を切り、肉と骨を砕く鈍い音が響く。クレアが銃を構える必要すらなかった。リサはまるで掃除をするかのように効率的にゾンビを処理し、返り血を全身に浴びていた。
「ちょっと、待って!」
ふと立ち寄った空き家で、クレアはたまらず声を上げた。
リサの服は血に染まり、見るに堪えない状態だった。お人好しのクレアは、家の中に残されていた清潔な子供用の服を見つけ、リサに着替えを促した。
「いい? 女の子なんだから、できるだけ綺麗にしておいた方がいいわ。それに、そんなに血を浴びていたら、誰が見ても化け物だと思われちゃうわよ」
リサは不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、抵抗せずに着替えに従った。新しい服に身を包んだ彼女は、再び完璧な「可憐な美少女」に戻っていた。だが、その手には依然として血塗られたトマホークが握られており、そのコントラストが異常な狂気を際立たせていた。
やがて二人は、街の象徴ともいえる巨大な警察署へと辿り着いた。
重厚な石造りの建物を見上げながら、リサは静かに殺意を研ぎ澄ませる。ここには必ず、「アンブレラ」たちが潜んでいるはずだ。
リサはゆっくりと顔を上げ、クレアを凝視した。その瞳には、14歳の少女とは思えないほどの深い憎悪と、底知れない闇が渦巻いている。
リサは口を開いた。しかし、喉から出たのは言葉ではなく、獣のような呻き声に近い音だった。
「……アン……ソ……?」
途切れ途切れの、聞き取りにくい発音。クレアは耳を疑い、首を傾げた。
「え? 何て言ったの? ごめんなさい、よく聞こえなかったわ」
リサは不機嫌そうに眉をひそめた。もう一度、今度は少しだけ声を張り上げて問いかける。だが、言語能力が退化している彼女にとって、「アングロサクソン」という長い単語を正しく発音することは至難の業だった。
「……アンッ……ソ……グ……!」
「やっぱり分からないわ。体調が悪いの? どこか怪我をしてるの?」
親切心から身を乗り出すクレア。だが、それがリサの逆鱗に触れた。
理解されないことへの苛立ちと、自分の中に渦巻く怨霊たちの怒りが爆発する。
ガキンッ!!
リサは手に持っていたトマホークを、全力でアスファルトの地面に叩きつけた。
凄まじい筋力による衝撃で、分厚い道路がクモの巣状にひび割れ、火花が散る。クレアは悲鳴に近い声を上げて後ずさりした。少女の腕から出たとは思えない破壊力だ。
リサは地面に突き刺さった斧を掴んだまま、顔を真っ赤にして叫んだ。
「アンッ!!」
(アングロ!)
「ソクソン!!」
(サクソン!)
二つの単語に分けて、喉を掻き切るような絶叫。それは問いかけというよりは、断罪の宣告に近い響きだった。
クレアは呆然とした。あまりにも支離滅裂な言葉だが、必死に思考を巡らせた結果、なんとかその意味を汲み取った。
「……え? アングロサクソン……? 私が、イギリス系の血筋かどうかを聞いてるの?」
なぜこの状況でそんなことを聞かれるのか。疑問は山ほどあったが、リサの殺気立った表情を見て、クレアは慌てて首を振った。
「違うわ! 私はアイルランド系よ! アングロサクソンじゃない!」
その答えを聞いた瞬間、リサの肩から力が抜けた。瞳に宿っていた鋭い殺意がわずかに和らぎ、代わりに深い虚無感が戻ってくる。
アイルランド系。それはリサと怨霊たちの記憶において、アングロサクソンに侵略される側であり、恨みの対象ではない。
しかし、今度はクレアの方に疑問が湧いた。
目の前の少女は、見た目こそ白人(アングロサクソン系)に見える。だが、なぜ自分をそんな風にカテゴライズして問いかけてきたのか。
しかし、今度はクレアの方に強烈な違和感が湧いた。
目の前の少女を改めて見る。透き通るような白い肌に、整った顔立ち。どう見ても彼女こそが、典型的なアングロサクソン系の容姿をしている。
「……っていうか、あなたはどうなのよ」
クレアは怪訝そうに眉をひそめた。
「見たところ、あなたこそ正真正銘のアングロサクソンに見えるけど。どうして自分と同じルーツの人を、そんなに憎んでいるような聞き方をするの?」
自分の種族を憎む者。あるいは、見た目とは違う正体を持っているのか。
クレアは慎重にリサを見つめた。美少女の皮を被っているが、この子は普通の人間ではない。地面を砕く怪力と、獲物を定めるような眼光。
リサはクレアの問いに答えず、ただフンと鼻を鳴らして顔を背けた。
自分の名前を教える気などさらさらないし、自分がかつて何であったかなど、この女に話す必要はない。今の彼女にとって、言葉は復讐の対象を識別するための道具でしかなかった。
奇妙な沈黙が二人を包んでいた。
クレアは、この正体不明の少女を一人で歩かせるわけにはいかないと判断した。たとえ怪力を持っていても、精神的に不安定な子供であることに変わりはない。
「とりあえず、警察署へ行きましょう。あそこなら生存者が集まっているかもしれないし、状況が分かるはずよ」
リサは答えなかった。ただ、精霊の導きが「アンブレラの痕跡を追え」と囁いている。警察署という場所が、この街の混乱の中心であり、アンブレラに関わる情報の宝庫であることを直感的に悟った彼女は、ゆっくりと頷いた。
道中、クレアは何度もリサに話しかけた。
「どこから来たの? 家族は一緒なの?」
「何か食べたいものはある?」
しかし、リサからの返答は一切ない。ただ、しどけなく歩きながら、「ウゥ……」という不機嫌そうな唸り声を漏らすだけだった。その様子は、まるで気難しい飼い主に従う猛獣のようだった。
行く手を阻むゾンビたちが現れるたび、リサが電光石火の速さで飛び出した。
トマホークが空を切り、肉と骨を砕く鈍い音が響く。クレアが銃を構える必要すらなかった。リサはまるで掃除をするかのように効率的にゾンビを処理し、返り血を全身に浴びていた。
「ちょっと、待って!」
ふと立ち寄った空き家で、クレアはたまらず声を上げた。
リサの服は血に染まり、見るに堪えない状態だった。お人好しのクレアは、家の中に残されていた清潔な子供用の服を見つけ、リサに着替えを促した。
「いい? 女の子なんだから、できるだけ綺麗にしておいた方がいいわ。それに、そんなに血を浴びていたら、誰が見ても化け物だと思われちゃうわよ」
リサは不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、抵抗せずに着替えに従った。新しい服に身を包んだ彼女は、再び完璧な「可憐な美少女」に戻っていた。だが、その手には依然として血塗られたトマホークが握られており、そのコントラストが異常な狂気を際立たせていた。
やがて二人は、街の象徴ともいえる巨大な警察署へと辿り着いた。
重厚な石造りの建物を見上げながら、リサは静かに殺意を研ぎ澄ませる。ここには必ず、「アンブレラ」たちが潜んでいるはずだ。
しかし、二人が署の門をくぐったとき。
遥か遠くのビルの屋上から、高性能な望遠レンズが二人を捉えていた。
「……目標を確認。生存者を保護していると思われる個体を発見した」
潜伏していたアンブレラの工作員は、冷徹な声で無線に報告した。彼の任務は市街地の生存者の動向監視と、重要データの回収である。
レンズ越しに見えるのは、赤いベストの女性と、その横に立つ小柄な少女だ。だが、工作員は違和感を覚えた。少女が持つ斧の一撃でゾンビを屠る様や、人間離れした身のこなし。それは明らかに普通の子供ではなかった。
「正体不明の異常個体を確認。映像データを送信する」
工作員は即座にシャッターを切り、高解像度の写真と追跡映像をアンブレラ本社のサーバーへと送信した。彼にとって、目の前の少女が誰であるかなど知る由もない。ただ、「排除すべき異常個体」あるいは「回収すべきサンプル」として報告したに過ぎなかった。
――数分後。
遠く離れたアンブレラの機密管理センター。
送信されてきた映像をAIが解析し、過去の膨大な被験者データベースと照合させたその瞬間。モニターに赤い警告灯と共に、ある人物のファイルが跳ね上がった。
【一致率99.8%:個体名 リサ・トレヴァー】
画面に表示されたのは、かつて実験によって醜く変貌し、最終的に崖下へと消えたはずの悲劇的な被験者の記録だった。
管理官は椅子から身を乗り出し、信じられないといった表情でモニターを見つめた。
「……リサ・トレヴァーだと? 馬鹿な、記録上で死んでいるぞ。しかも、なぜこんな姿に……」
美しく若返った姿で、殺意を撒き散らす怪物。
アンブレラにとってただの遺物が、再び現実となって街に現れたことを、本社の管理官だけが真っ先に知ることとなった。
クレアがアイルランド系という設定はないはず