バイオハザード:リサ・トレヴァー 〜怨霊と血濡れのトマホーク〜 作:ai試し
オリキャラ登場!
脱出ルートを確保するため、クレアとリサは再び警察署の迷宮へと足を踏み出した。
歩き出す前に、クレアは一度立ち止まり、真剣な表情でリサに注意を促した。
「いい? リサ。ここからはもっと慎重に行きましょう。ゾンビたちは扉を開けることはできるけど、鍵のかかった扉までは開けられないみたい。だから、安易に壁や扉を壊して進まないでね。音が響けば、さらに多くの怪物が集まってくるわ」
リサは不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、クレアの正論には逆らえない。彼女は「チッ」と舌打ちをするように小さく唸り、不承不承ながらもゆっくりとうなずいた。
二人は探索を開始した。クレアは棚や机の中を調べ、予備の弾薬や武器がないかを探し回る。その横でリサは、まるで工場のライン作業のように淡々とゾンビを処理していた。襲いかかるゾンビの喉元を正確に断ち切り、返り血を避けながら次から次へと屠っていく。その効率的な殺戮こそが、今の彼女にとって唯一の「日常」だった。
しばらく歩いた頃、二人は備品保管庫に辿り着いた。
ロッカーの中に、強力な武器であるグレネードランチャーが鎮座していた。だが、ロッカーには頑丈な鍵がかかっており、クレアは途方に暮れた。
「ああっ……鍵がないと開かないわね。どこかに鍵があるはずだけど……」
クレアが辺りを見回そうとした瞬間だった。
ガキィッ!!
凄まじい金属音と共に、ケースのロック部分がひしゃげた。リサが指先で鍵を強引にねじ切り、ロッカーを破って中身を取り出したのだ。
「え……!?」
呆然とするクレアに、リサは無表情のままグレネードランチャーを差し出した。
「ありがとう……というか、本当に力づくなのね」
クレアは苦笑しながらも、心強い火力を手に入れたことに安堵した。
その後、二人は地図上で「西倉庫」と記された部屋に到達した。そこには分厚い鉄格子が一部部屋を塞いでいた。
リサは鉄格子の前で立ち止まると、クレアの方を向き、「ウゥ……」とうめき声を上げた。その視線は「お前はここで待っていろ」という明確な指示だった。
戸惑いながらもうなずくクレアを背に、リサは細い両腕を鉄格子に掛けた。
ミシッ……ギギギッ!!
少女の華奢な腕に血管が浮き出し、凄まじい筋力が込められる。厚い鉄製の格子が、まるで飴細工のようにゆっくりと、しかし確実に折り曲げられていく。リサは強引に作った隙間から中へ潜り込み、目的のメダルを回収して戻ってきた。
「あなた……本当に人間なの?」
クレアの疑問は頂点に達していた。
二人はさらに奥へと進み、静寂に包まれた図書室へと辿り着いた。潜んでいたゾンビたちをリサが瞬時に片付けた後、クレアは改めて彼女に向き直った。ここなら誰にも邪魔されず、話ができると思ったからだ。
「ねえ、もう一度聞かせて。あなた、本当は誰なの? どこから来て、どうしてこんな力を持っているの?」
リサはしばらくの間、虚空を見つめていた。
自分を実験体として扱い、人生を壊したアンブレラ。自分を崖下に突き落とした世界。けれど、今は隣に、自分の正体に戸惑いながらも手を差し伸べてくれる女性がいる。
リサは喉の奥から、絞り出すように小さく呟いた。
「……リ……サ……」
それは、長い年月を経て初めて口にした自分の名前だった。
「リサ……。あなたの名前は、リサっていうのね」
クレアが優しく微笑み、もう一度問いかけようとしたその時――。
ピーッ! ピーッ!
クレアが持っていた無線機から、激しいノイズと共に黒人警官の声が響いた。
『クレア! 聞こえるか! 至急、玄関ホールに戻れ! 事態が変わったぞ!』
切迫した声に、二人は顔を見合わせた。リサは再び無表情な怪物へと戻り、トマホークを握りしめる。彼女にとっての「日常」である破壊と復讐の時間へと、物語が加速し始めていた。
図書室での探索を終え、黒人警官からの無線連絡を受けて玄関ホールへと戻ったときだった。そこには、先ほどまでいなかった一人の男が立っていた。
泥に汚れ、疲れ切った表情をしているが、その鋭い眼差しと褐色の肌は、この街の住人とは異なる異質な気配を湛えていた。彼は混乱の中で警察署に逃げ込んできた避難民の一人だった。
その男を見た瞬間、リサの動きが止まった。
トマホークを握る手が震え、彼女の大きな瞳が驚愕にまで見開かれる。リサは吸い寄せられるように男へと歩み寄り、そのまま彼の胸に顔を埋めて、子供のように激しく泣き出した。
「……っ!?」
男は戸惑い、自分に向けられた突然の抱擁に身を硬くした。
クレアが慌てて間に入り、リサの肩を抱きながら尋ねる。
「どうしたの!? 知り合いなの? 彼のこと知ってるの?」
男は困惑した様子で首を振った。
「いいえ……初めて会う子です。一体どういうことだ?」
そのときだった。
リサが泣き止み、ゆっくりと顔を上げた瞬間、彼女の瞳から意識が消えた。焦点の合わない虚ろな眼差しとなり、彼女の肉体は単なる「器」へと変わる。
同時に、密閉されたはずの警察署のホールに、ありえない現象が発生した。
窓はすべて閉まり、扉も固定されている。それなのに、どこからともなく猛烈な突風が吹き荒れ始めたのだ。床に散らばった書類が舞い上がり、シャンデリアが激しく揺れる。
そして、リサの口から「声」が漏れた。
それは一人の少女の声ではなかった。老人のしわがれた声、戦士の猛々しい咆哮、母親の慈愛に満ちた囁き――数百人、数千人もの人間が同時に同じ言葉を紡いでいるような、重層的な共鳴音だった。
『……我が血脈の子よ』
その声がホールに響き渡った瞬間、クレアと黒人警官、そして見知らぬ男は金縛りにあったかのように動けなくなった。リサという器を通して、彼女に宿る「インディアンの怨霊たち」が一時的に顕現したのだ。
『我らは、かつてこの地でアングロサクソンなる侵略者に虐殺され、崖下へと突き落とされた者たちの魂である。絶望の中で渦巻いていた我らに、ある一人の少女が落ちてきた』
風がさらに激しくなり、リサの周囲に不可視の旋風が巻き起こる。怨霊の声は、彼女が辿ってきた地獄を語り始めた。
『リサ・トレヴァー。アンブレラという名の怪物たちに人生を弄ばれ、肉体を壊され、尊厳を奪われた悲劇の少女。彼女が崖下へと落ちたとき、我らは彼女の中に、我らと同じ絶望と、激しい憎悪を見た』
怨霊たちは、リサの記憶を読み取り、それを言葉にして伝えた。実験体として人生を消費された苦しみ、そして崖下の処刑場で自分たちと出会い、力を得たこと。
『我らは彼女に力を貸した。この肉体を再構築し、戦士の技を与え、復讐の牙を授けた。彼女が憎むのは、彼女を怪物にしたアンブレラ。そして、我らを虐殺したアングロサクソンとヒスパニックなる者たち。その恨みは深く、血でしか洗えない』
語られる内容はあまりにも残酷だった。しかし、同時にそれは、今のリサという怪物が、いかに深い悲しみの果てに生まれたかを示す告白でもあった。
風が次第に凪いでいく。
消えゆく共鳴声は、最後に切実な願いを彼らに託した。
『……この子は、あまりにも哀れな魂だ。狂気に支配されながらも、その根底にあるのはただ、愛されたかったという願いのみ』
怨霊の声は、クレア、黒人警官、そして目の前の男へと向けられた。
『お願いだ。この子が復讐を遂げ、その魂が浄化されるまで……どうか彼女を守ってやってくれ。この悲劇の少女に、もう一度だけ人間としての温もりを与えてほしい』
ふっと風が止み、静寂が戻った。
同時にリサは「ハッ」と意識を取り戻し、瞬きを繰り返した。彼女は自分がなぜ男の胸に顔を埋めていたのか、そして今、この空間で何が起きていたのかを全く覚えていなかった。
ただ、頬に涙が伝っていることだけが分かった。
リサは不思議そうに自分の頬を触り、それから不機嫌そうに鼻を鳴らして、さっと男から離れた。
クレアは言葉を失っていた。目の前の少女が背負わされた運命の重さに、胸が締め付けられる思いだった。彼女はゆっくりと歩み寄り、リサの小さな手をそっと握った。
「……分かったわ。私たちがついてる。もう、一人で泣かなくていいからね」
リサは突然の手繋ぎに戸惑い、「ウゥ……」と不機嫌そうな声を漏らした。だが、その瞳には先ほどまでの狂気だけではなく、幼い子供のような不安がわずかに混じっていた。
静寂が戻った玄関ホールに、重苦しい沈黙が流れた。
クレアは呆然と自分の手を見た後、隣にいる黒人警官と、そして目の前の褐色の男に視線を向けた。
「……ねえ、今のは……現実よね? 幻覚じゃないわよね?」
彼女の声は震えていた。数百人の声が重なり合い、密閉された空間に突風が吹き荒れる。そんな超常現象を目の当たりにして、正気を保つのに必死だった。
黒人警官もまた、信じられないといった様子で額の汗を拭った。
「ああ……現実だろうな。私の人生で、これほど不可解なことは一度もなかったが……今のあの『声』は、どう考えてもこの世のものではない」
三人は、先ほどリサ(あるいは彼女に宿る怨霊)が語った情報を必死に整理しようとした。
アンブレラによる非道な人体実験。崖下の処刑場。アングロサクソンへの根深い憎悪。そして、今のリサという存在は、ウイルスと怨霊が融合した「復讐の器」であるということ。
クレアはゆっくりと視線を移し、まだ困惑した表情を浮かべている男に問いかけた。
「あなた……さっきの声が言っていた『血脈の子』っていうのは、あなたのことよね? あなたは……先住民の方なの?」
男は静かに頷いた。
「……ああ。私の家系は代々、この地方の先住民族の流れを汲んでいる。だが、それがどうしてこの少女に関わっているのかは分からない」
すると、黒人警官が深くため息をつきながら口を開いた。
「ありえない話だと思っていたが……歴史的な事実としては整合性が取れるな。かつてこのラクーンシティの近辺にある山岳地帯で、アングロサクソン系の入植者たちによる先住民の集団虐殺があったという記録がある。崖から突き落とされた犠牲者が多かったという話も聞く。……まさか、怨念が本当に実在して、この子に宿っていたとはな」
クレアはリサを見た。
美少女の姿をした怪物は、相変わらず不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、トマホークの刃をじっと見つめている。彼女の中に眠る数百年の恨みと、アンブレラへの絶望的な憎しみが、どれほどの質量を持っているのか。クレアは想像して眩暈がした。
「リサ……」
クレアが優しく声をかけようとした、その時だった。
――ガランッ!!
不自然なほどに静かに、しかし重々しく、警察署の正面玄関の巨大な扉が開いた。
入り口から差し込む月光が、ホールの床に長い影を落とす。
そこに立っていたのは、人間ではなかった。
身の丈二メートルを超える巨躯。その身には、銃弾も刃も寄せ付けない厚手の防弾防刃コートが隙なく身に着けられていた。フードを深く被ったその姿は、死神のような威圧感を放っている。
感情を一切排除した冷徹な瞳が、フードの隙間から鋭く光る。
アンブレラ社がリサ・トレヴァーという「異常個体」の戦闘力を測定し、その回収、あるいは排除するために送り込んできた最高傑作――タイラントだ。
タイラントはゆっくりと視線を動かし、ホールにいる生存者たちを完全に無視した。彼にとって、脆弱な人間など風景の一部に過ぎない。彼の標的はただ一点。トマホークを握る小さな少女、リサだった。
リサの瞳から、先ほどまでの涙が消えた。
代わりに宿ったのは、底なしの暗い殺意。彼女は低く、喉を掻き切るような獣の呻き声を上げると、ゆっくりとタイラントに向かって歩き出した。
その足取りは静かだったが、一歩ごとに床がわずかに震えている。
最強の生物兵器と、怨霊を宿した復讐の少女。二つの「怪物」が対峙し、警察署のホールに張り詰めた殺気が充満した。