バイオハザード:リサ・トレヴァー 〜怨霊と血濡れのトマホーク〜 作:ai試し
リサの口角が吊り上がった。
目の前の巨躯――タイラントは、ただの生物兵器ではない。アンブレラという組織が総力を上げて作り上げた最高傑作の一つだ。そのプライドとも言える強固な肉体を、自分の手で粉砕できるという事実に、リサの中の狂気が歓喜に震えていた。
タイラントは無表情のまま、右腕を弾丸のような速度で突き出した。
空気を切り裂く衝撃波が走るほどの正拳突き。リサはそれを最小限の動きでかわしたが、拳がかすめただけの風圧で、彼女の頬に薄い切り傷が入った。
「……ウゥッ!」
リサは低く唸ると、地面を蹴ってタイラントの懐へ飛び込んだ。
トマホークを横一文字に振り抜く。だが、タイラントはそれを左腕で受け止めた。厚手のコートと強化された皮膚が盾となり、金属音が激しく鳴り響く。
ガキンッ!
そのままタイラントの強烈な左フックがリサの脇腹を捉えた。
ドゴォッ!!
小さな身体が後方へ吹き飛び、アスファルトに深く抉れた溝を作りながら転がる。だが、リサは衝撃を吸収するように空中で身をよじり、着地と同時にバク転で距離を取った。
(……強い。本当に強い)
心の中で笑っていた。
しかし、そのときリサの意識に、静かに、だが厳格な先住民たちの声が響いた。
『興奮するな。今のままではただの野獣だ。戦士であれ。敵の最高傑作がどのような理で動き、どのような限界を持つのか、そのすべてを読み取れ』
リサは深く息を吸い込み、瞳の中の狂気をわずかに抑え込んだ。
今度は「狩り」ではなく、「観察」に切り替える。
タイラントが再び突進してくる。その歩幅、重心の移動、攻撃への予備動作。リサはあえて懐に入らず、円を描くようにタイラントの周囲を高速で旋回し始めた。
残像が見えると思えるほどの超速移動。タイラントは翻弄されながらも、的確にリサの軌道を読み、正確無比な打撃を繰り出す。
シュバッ! ドンッ!
シュバッ! ドンッ!
リサはわざと攻撃をギリギリまで避けず、その衝撃を腕や肩で受け流しながら、タイラントの反応速度を計測していた。
(……打撃力は凄まじいが、方向転換には時間がかかる)
リサはわざと隙を見せ、タイラントに強烈なアッパーカットを許した。
ドゴォッ!!
顎を打ち上げられ、空中で一回転する。だが、リサはその衝撃を利用してさらに高く跳躍し、上空から急降下してトマホークでタイラントの肩口を深く切り裂いた。
「アンブレラ!」
挑発的に呟きながら、彼女は再び地を蹴る。
数分間の激闘を経て、リサは結論に達した。
純粋な筋力においては互角か、あるいはタイラントが僅かに上回るかもしれない。しかし、瞬発力と身のこなし、そして戦術的な柔軟性において、自分はこの怪物を完全に凌駕している。
(……もう十分だ)
リサの瞳から「観察」の色が消え、純粋な「抹殺」の光が宿った。
彼女は低く身構え、タイラントが次の攻撃を繰り出そうとした瞬間、その懐へと最速で潜り込んだ。
タイラントが右拳を振り下ろそうとしたが、リサはその腕をすり抜け、電撃的な速度で背後へ回り込む。
そのまま跳躍し、タイラントの首に飛びついた。
「アンブレラアアア!!」
絶叫と共にトマホークを全力で振り下ろし、喉元から鎖骨にかけて深く突き刺した。
タイラントが呻き声を上げ、リサを振り払おうと暴れるが、彼女はあえてその巨体にしがみついたまま、自らの体重を一点に集中させ、強引に彼を地面へと叩きつけた。
ズガァァンッ!!
頭部からコンクリートに激突したタイラントの頭蓋が砕け、衝撃で周囲のアスファルトにクモの巣状の亀裂が走る。
同時に、限界まで負荷がかかったトマホークの刃が「パキィッ」と不吉な音を立てて大きく欠損した。
リサはタイラントの死体に足をかけ、ゆっくりと立ち上がった。
壊れた斧を見つめ、一瞬だけ寂しげな表情を浮かべたが、すぐに警察署の中から聞こえる生存者たちの危機的な状況に気づき、再び咆哮して内部へと駆け戻った。
警察署のホールは、今や阿鼻叫喚の地獄へと変わっていた。
ホールを這いまわる三体のリッカー。その異様な姿に、クレアたちは本能的な恐怖を感じながらも武器を構える。
クレアはハンドガンと、先ほどリサが力ずくで壊して手に入れたグレネードランチャー。黒人警官は使い古されたハンドガン。そして、先住民の子孫である男は、どこで手に入れたのか強力なマグナムを握りしめていた。
「来るわ!!」
クレアが鋭い叫びと共にグレネードランチャーの引き金を引いた。
ドォォン!!
爆発的な衝撃波がホールに響き渡り、最前線にいたリッカーの一体が肉片となって飛散した。しかし、残る二体は爆風を避けるように壁や天井を蹴り、瞬時に方向を変えた。
一匹はクレアへ。もう一匹は黒人警官と先住民の男へと分かれた。
近づいてくるリッカーに合わせ、クレアは素早くグレネードランチャーを捨て、ハンドガンへと切り替える。
一方、黒人警官と男の前では絶望的な光景が広がっていた。
黒人警官は、これまでの探索で負った脇腹の重傷を片手で押さえながら、必死にハンドガンを連射する。
「死ね! この化け物!!」
だが、リッカーの強靭な皮膚にハンドガンの弾丸はほとんど効果がなく、怪物はひるむことなく距離を詰める。そこへ、男がマグナムの引き金を引いた。
ドォォン!!
凄まじい銃声と共にリッカーの身体が大きくのけぞった。しかし、完全な撃破には至っていない。
そのわずかな隙間を突き、リッカーが猛烈な速さで跳躍した。
「ぐああああっ!!」
悲鳴が上がった。リッカーの鋭い爪が黒人警官の胸部を深く切り裂き、そのまま彼を地面に叩きつける。絶望的な出血。黒人警官は、最期まで抵抗しようとしたが、やがて虚ろな瞳で天井を見上げ、静かに息を引き取った。
「そんな!!」
クレアもまた、自分に向かってくるもう一匹のリッカーにハンドガンを撃ち込む。だが、弾丸はリッカーの頭部をかすめるだけで決定打にならない。
次の瞬間、リッカーの巨大な爪がクレアを襲った。
ガギィッ!!
クレアは反射的に構えていた銃身で攻撃を受け止めた。衝撃で身体が後方へ激しく吹き飛び、背中を大理石の床に打ち付ける。
「……っ!!」
肺の中の空気がすべて押し出され、クレアは激しく咳き込みながら、意識を朦朧とさせていた。
その間、先住民の男は何とか体勢を立て直し、目の前のリッカーに向けてマグナムをぶっ放した。
ドォォン!!
至近距離からの射撃が命中し、リッカーの頭部が弾け飛んだ。一体を仕留めたものの、男の肩は激しく震えていた。
だが、安堵したのも束の間だった。
クレアを吹き飛ばしたもう一匹のリッカーが、獲物を変えて彼の方へと向き直ったのだ。
「くそっ!!」
男は慌ててマグナムをリロードしながら後退りし、逃げ回る。
そこへ、素早く意識を取り戻したクレアが必死に援護射撃を開始した。
「こっちよ! こっちに来なさい!!」
ハンドガンの銃声がリッカーの注意を引きつける。その隙に男が再び銃口を向けたが、極限状態の中では照準が定まらず、弾丸はリッカーの横を虚しく通り過ぎた。
そのとき、リッカーが突然、クレアの方へ向き直った。
獲物を変え、最も脆弱なところを突こうとしたのだ。
シュルルッ!!
鞭のような速度で、リッカーの長い舌が真っ直ぐに伸びた。標的はクレアの心臓だ。
「危ない!!」
クレアはとっさに腰のナイフを抜き、盾にするように突き出した。舌はナイフに当たり、軌道がわずかに逸れたが、それでも凄まじい衝撃が彼女の腹部を打った。
「うぐっ……!!」
激痛に身体が折れ曲がる。だが、この一瞬のリッカーの隙こそが、男にとって唯一のチャンスだった。
男はリロードを終え、マグナムを撃ち抜いた。
ドォォォン!!
弾丸は正確にリッカーの頭部を貫通した。怪物の身体が大きく跳ね上がり、死へのカウントダウンが始まる。
しかし、生物兵器としての執念は恐ろしかった。
頭部を貫かれながらも、リッカーは最後の力を振り絞り、伸ばしていた舌を弾いた。
ドシュッ!!
「……あ」
短い声が出た。
リッカーの鋭い舌が、ちょうど男の胸部を深く貫いていた。
静寂が訪れる。
死にゆくリッカーと、その身体に貫かれたまま致命傷を負った先住民の男。そして、腹部を押さえながら呆然とその光景を見つめるクレア。
警察署のホールには、もう動く人間は一人もいなかった。ただ、血の海の中で静寂が支配していた。
唸り声と共に、警察署のホールに一人の少女が舞い戻ってきた。
タイラントを屠り、勝利の余韻に浸っていたはずのリサだったが、目の前の光景を見た瞬間、その表情から色が消えた。血の海の中で絶命しかけている先住民の男。そして、腹部を押さえて苦しむクレア。
「……っ!!」
リサは弾丸のような速さで男のもとへ駆け寄った。
膝をつき、震える手で彼を支える。その瞳には、狂気ではなく、深い悲しみと喪失感が宿っていた。
腹部の傷を押さえながら、クレアもまた、ふらつく足取りで二人のもとへ辿り着いた。
「……大丈夫!? 今、救急キットを持ってくるから!!」
だが、男は弱々しく首を振った。リッカーの舌に貫かれた胸部は、もうどうしようもない致命傷だった。彼はクレアに向かって、静かに微笑んだ。
「……いいんだ。もう遅い。それより……君自身の傷を優先してくれ」
そして男は、視線をリサに向けた。
リサは彼の服の裾をぎゅっと握りしめ、消え入りそうな声で呻いていた。男は残された最後の力を振り絞り、彼女の手の上に自分の手を重ねた。
「……君の中にいる、私の先祖たちに伝えてくれ。……彼らの誇りと、恨みを……そして、この地で失われたすべての魂を……どうか安らかに導いてくれと」
それが最期の言葉だった。
男の瞳から光が消え、その身体はゆっくりと脱力した。リサの中に宿る血脈のの繋がりが、ひとついま、断ち切られた。
静寂がホールを包む。
だが、それは平穏ではなく、嵐の前触れのような重苦しい沈黙だった。
突然、リサの身体がガクガクと激しく震え始めた。
彼女の口から、またあの「共鳴する声」が漏れ出す。しかし今度は、怒りではなく、絶望的なまでの嘆きだった。
『ああ……悲しき血脈よ! 最後の灯火が消えた! この理不尽な世界で、我らの誇りを継ぐ者がまた一人失われたか!!』
リサの意識は完全に怨霊に支配されていた。
彼女は突然、自分の右腕で左手首を強く握りしめた。指が肉に食い込むほどの力だ。
「……リサ!? 何をしてるの!?」
クレアが悲鳴を上げた。だが、リサは止まらない。
グキィッ!!
鈍い音が響いた。リサは自らの左腕を肘から下まで、雑巾を絞るようにねじ切り、そのまま強引に引きちぎったのだ。鮮血が舞い、凄まじい破壊音と肉の裂ける音がホールにこだまする。
しかし、そこに絶叫や苦痛はなかった。
引きちぎられた左腕の骨と肉が、黒い霧のような怨霊の力に包まれ、瞬時に変貌していく。生物兵器としての再構築能力と、先祖たちの呪術的な力が融合し、肉を削り、骨を練り上げる。
数秒後。
リサの手には、かつてのトマホークを遥かに凌駕する、禍々しくも美しい「白い骨の斧」が握られていた。それは彼女自身の骨から創造された、文字通り身体の一部となった究極の武器だった。
そして、さらにクレアを戦慄させたことが起きた。
引きちぎられたはずの左腕が、見る間に肉付き、骨が繋がり、皮膚が再生していく。まるでビデオを早戻ししているかのような超速再生。わずか十数秒で、彼女の左腕は完全に元の状態に戻っていた。
「……信じられない」
クレアは後ずさりした。目の前にいるのは、もはや人間でも、単なるウイルス感染者でもない。死と再生を司る、神話的な怪物だった。
本能的な恐怖がクレアを支配しそうになった。だが、ふとリサの顔を見た。
骨の斧を握りしめ、絶望に打ちひしがれてうつむく少女の姿。彼女は最強の力を得たが、同時に誰よりも孤独で、誰よりも残酷な運命に翻弄されている。
(……この子は、化け物じゃない。ただ、あまりにも悲しいだけなのよ)
クレアは震える足で立ち上がり、リサの肩にそっと手を置いた。
恐怖よりも強い、ある種の使命感。この地獄のような街で、この孤独な少女を一人にしてはいけない。守らなければならない。
リサはゆっくりと顔を上げ、クレアを見た。
その瞳にはまだ狂気が渦巻いているが、骨の斧を握る手は、わずかに震えていた。
ラクーンシティの外縁部に設置されたアンブレラの臨時監視拠点。そこでは、絶句したままモニターを見つめる男たちがいた。
画面に映し出されていたのは、信じられない光景だった。
自社が誇る最高傑作の一つであり、歩く要塞とも言うべきタイラントが、小柄な少女の一撃で吹き飛ばされ、最後には喉元を断たれて地面に叩きつけられるまでだ。
「……馬鹿な。ありえない」
現場の監視員が震える声で呟いた。彼らが目にしたのは、単なる力による勝利ではない。タイラントという究極の生物兵器を、完膚なきまでに解体した圧倒的な「格の違い」だった。
映像は即座に本社の分析官たちへと送信された。
特に戦闘技能評価を担当する分析官は、リサの動きをスローモーションで何度も繰り返し再生し、眉をひそめた。
「おかしい。あまりにも不自然だ」
彼はモニターを指差した。
「見てみろ。この身のこなし、重心の移動、そして敵の攻撃を最小限の動作で回避するタイミング……。これは単なるウイルスの身体能力向上によるものではない。長年の経験に基づいた、極めて洗練された『戦士』としての戦闘技能だ」
分析官にとって、リサ・トレヴァーは過去に廃棄されたはずの、制御不能な失敗作だった。そんな彼女が、突如としてプロの軍人か熟練の戦士のような格闘術を身につけて現れるなど、生物兵器といえどあり得ない。
そこで彼らの注目は、リサともに行動する一人の女性へと移った。
赤いベストを纏い、強い意志を宿した瞳を持つ女性――クレア・レッドフィールド。
「……レッドフィールドだと?」
分析官がデータベースを高速で検索し、ある人物のファイルを開いた。そこには、かつての洋館事件(アークレイ研究所事件)でアンブレラの機密施設を壊滅させかけ、その後も組織にとって目の上のたんこぶであり続ける男――クリス・レッドフィールドの写真があった。
「クレアは……クリスの妹か」
ここで、アンブレラ内部に一つの「決定的な推測」が浮かび上がった。
彼らにとって、怨霊や呪いといった非科学的な概念など存在しない。ならば、この不可解な現象を説明できる唯一の論理的な結論は一つしかなかった。
(……そうか。クリス・レッドフィールドが、リサを保護していたのか)
分析官の脳内で、点と点が線でつながった。
「洋館事件の後、あるいはその過程で、何らかの変化や進化を遂げた生物兵器リサを、クリスが密かに回収し、匿っていた。そして、彼女に高度な戦闘訓練を施し、自らの駒として育成していた……ということか」
それは完全なる勘違いだった。しかし、あまりにも完璧すぎるリサの戦いぶりを見た彼らにとって、この推測こそが最も「合理的」に思えた。クリスという男ならやりかねない。そして、そう考えなければ自分たちの最高傑作が失敗作一人に屠られた屈辱を正当化できない。
「結論は出た。リサ・トレヴァーは単なる失敗作の生存個体ではない。クリス・レッドフィールドの手によって『戦闘訓練』された危険な個体だ」
管理官の冷徹な声が室内に響いた。
「直ちに、特殊部隊を投入せよ。目標はリサ・トレヴァーの捕獲、および同行者の排除だ。彼女を再び我々の手に入れれば、次世代の生物兵器の進化にさらなる発展が期待できるだろう」
アンブレラ社は、自分たちが相手にしているのが「怨霊たちの怒りを背負った復讐の化身」であることに気づかぬまま、最悪の方向へと舵を切った。
オリキャラは犠牲になったのだ説明回というその犠牲にな