バイオハザード:リサ・トレヴァー 〜怨霊と血濡れのトマホーク〜 作:ai試し
スーパータイラントという絶望的な巨壁をなぎ倒したリサは、ゆっくりとその場から歩き始めた。足元にはかつての「最高傑作」が肉塊となって転がっている。
彼女はふらりと、待機していたクレアとシェリーの方へと歩き出した。その姿は凄惨だった。全身にタイラントの黒い血を浴び、手にはまだ脊髄の一部がこびりついている。勝利の余韻に浸るリサは、無意識に自分を助けてくれた(あるいは見守っていた)二人へ近づこうとした。
だが、そのとき。
「……ちょっと、待って! あんまり近寄らないで!」
クレアの声が鋭く響いた。
拒絶された。リサの足が止まる。
クレアに悪気はなかったはずだ。ただ、目の前の少女が犯した「解体」という行為があまりに凄まじすぎたこと、そして何より、見るに堪えないほどの返り血を浴びていたため、反射的に距離を取っただけだった。
しかし、リサの胸の中に、奇妙な感情が突き刺さった。
(……ショック?)
自分でも驚いた。狂気に支配され、人間としてのまともな心を失ったはずのリサが、たった一言の拒絶にわずかな喪失感を覚えたのだ。彼女は呆然と自分の血塗られた手を見つめ、それから不機嫌そうに口を尖らせた。
「……あー、ごめんね。怖がらせるつもりじゃなかったんだけど……見てよ、その格好。まずは体を洗わないと」
クレアは少し申し訳なさそうに言いながらも、リサの惨状を冷静に分析した。
「一旦この先の通路に安全な場所がないか確認して、それから警察署の中でシャワーを浴びて着替えましょう。このままだと、誰が見ても化け物だわ」
リサは「ウゥ……」と不満げな唸り声を上げたが、自分でも今の姿がかなり不衛生であることは認めていた。彼女は不承不承に頷き、クレアの提案を受け入れた。
移動しながら、クレアが穏やかなトーンで話し始めた。
「改めて自己紹介させて。私はクレア・レッドフィールド。こっちはリサ。あなたも名前を教えてくれる?」
リサは近くにいる小さな少女――シェリーを見つめた。
金色の髪に、透き通るような白い肌。どこからどう見ても、典型的な「アングロサクソン」の子供だった。
その瞬間、リサの脳内で復讐のスイッチが激しく点滅した。
(殺せ。この種族を根絶やしにしろ)
どす黒い殺意が衝動となってリサの指先を震わせる。トマホークに手をかけようとしたその時、精神の深層から静かで威厳のある声が響いた。
『……止まれ』
インディアンの怨霊たちの声だった。
『我らは憎しみに身を任せるアングロサクソン、ヒスパニック、征服者たちとは違う。罪なき子供に手をかけるのは、誇り高き戦士のすることではない。われらの怨讐にあまりつられるな』
その言葉に、リサの殺意は霧散した。
彼女はふう、と大きな溜息をつき、視線をシェリーから外した。代わりに、心の中で「うるさい怨霊たちだ、もともとお前たちの感情だろう」と毒づいたが、不思議と不快感はなかった。
クレアの先導に従い、3人は迷路のような地下施設をさらに進んでいく。
湿った空気と機械的な駆動音が響く中、急な階段を上りきった先に、広大な空間が広がっていた。
コンクリートの壁に囲まれ、点々と照明が灯る場所。そこには数台の車両が放置され、排気ガスの匂いがかすかに残っている。
「ここは……警察署の地下駐車場ね」
クレアが呟いた。
リサは周囲を警戒しながらも、その空間を見渡した。脱出口への道が見え始めたことへの期待と、まだこの街に潜むアンブレラの影への憎しみが、彼女の中で静かに渦巻いていた。
地下駐車場の静寂は、不吉な予感と共に塗り潰された。
リサは足を止め、ゆっくりと視線を向けた。コンクリートの柱の陰から、粘りつくような視線がこちらを射抜いている。人間だ。だが、ただの生存者ではない。その気配には特有の傲慢さと、隠しきれない卑屈さが混じっていた。
「おい! そこにいるのは誰だ! 許可なくここに立ち入るな!」
乱暴な怒声と共に姿を現したのは、警察署の所長だった。
脂ぎった顔に、はち切れんばかりの肥満体。そして何より、その風貌はリサが最も忌み嫌う「典型的なアングロサクソン」そのものだった。
その姿を見た瞬間、リサの理性が弾けた。
(見つけた……!)
思考を介さず、身体が反応した。電光石火の踏み込みと共に、骨のトマホークが空を切り裂き、所長の首へと一直線に突き進む。
「リサ、やめて!!」
クレアの悲鳴のような制止が響いた。
リサはわずかに軌道をそらしたが、それでもトマホークは所長の右腕に深く食い込んだ。
「ぎゃあああああ!!!」
絶叫が駐車場にこだまする。鮮血が舞い、所長はその場に崩れ落ちた。だが、リサの瞳には慈悲などない。獲物を仕留めるまで止まらない猛獣のように、彼女は再び斧を振り上げようとした。
しかし、恐怖で錯乱した所長が、なりふり構わず喚き散らし始めた。
「ああっ! 化け物だ! 怪物が出たぞ!! アンブレラ! アンブレラに報告しろ! クレア・レッドフィールドの殺害と、この私を傷つけたリサ・トレヴァーを捕獲しろ! 」
その言葉は、静まり返った駐車場に冷酷な事実を突きつけた。
この男はアンブレラの協力者であり、自分たちを罠に嵌めようとしていたのだ。
リサの喉から、地獄のような唸り声が漏れた。
(アン……ブレラ……!)
怒りで視界が赤く染まる。今度こそ、この豚のような男の首を撥ね飛ばし、その汚い血で地面を塗り潰してやる。リサがトマホークを振り下ろそうとしたそのとき――。
ガシッ!!
背後から強い力で抱きしめられた。
返り血にまみれたリサの体に、クレアが躊躇なく飛びつき、その細い腕でリサの動きを封じたのだ。
「ダメよ! リサ、止めて!!」
リサは激しく身悶え、クレアを突き放そうとした。だが、クレアは必死に抱きついたまま、耳元で強く訴えた。
「まだ殺しちゃダメ! この男から情報を引き出すのよ! アンブレラの計画、脱出方法……全部聞き出さないと私たちはここから出られないわ!」
その論理的な言葉が、リサの中に残るわずかな理性に届いた。リサは激しく呼吸を乱しながらも、次第に力を抜いていった。それでも、目は依然として獲物を狙う猛禽のように所長を凝視していた。
その後、抵抗する所長をリサは蹴り、クレアは手近なロープで拘束し、床に転がした。リサはその後ろに立ち、トマホークの刃を男の頬に軽く当てては、不気味に唸り続けていた。
そのときだ。
ガガガガッ!! という重々しい金属音と共に、駐車場のシャッターの音が響き渡った。
逆光の中に、一人の若い男のシルエットが現れる。
肩にショットガンを担ぎ、疲弊しながらも鋭い眼光を失っていない青年――レオン・S・ケネディだった。
彼は目の前の光景に絶句した。
縛り付けられて震える所長と、返り血だらけで斧を持つ美少女、そして彼女を宥めるクレア。おびえる美少女。
「……状況を説明してもらえるか? 誰が、何をしたんだ」
レオンの困惑した声が響く中、リサはゆっくりと彼に視線を向けた。
(アングロサクソン……?)
リサの瞳に、再び危険な光が宿った。
レオンを見た瞬間、リサの肩がピクリと跳ねた。
金髪に近い明るい茶髪、整った顔立ち。そして何より、その佇まいに漂う「アングロサクソン」特有の気配。
(……まただ。)
リサは喉の奥で低く唸ると、獲物に飛びかかる豹のような姿勢を取った。骨のトマホークを握る手に力がこもり、いつでも首を撥ねられる準備が整う。
だが、その動きを完全に予期していたクレアが、電撃的な速さでリサの前に割り込んだ。
「ダメ!! 約束したわよね、リサ!」
クレアはリサの両肩を強く掴み、至近距離で視線をぶつけた。
「この人はレオン! 私が言った通り、絶対に殺しちゃいけない人よ! いい? 分かったわね!」
リサは激しく抵抗した。体をよじらせ、クレアの手を振り払おうとする。「ウゥーッ!!」と不機嫌極まりない声を上げ、鋭い視線でレオンを射抜く。今すぐにでもこの「征服者」を切り刻んでやりたい衝動が渦巻いている。だが、クレアの必死な表情と、先ほどの約束という呪縛に、なんとか踏み止まった。
リサは納得いかない様子で、わざとらしく大きく溜息をつき、後退した。それでも視線だけは獲物を逃さない猛禽のようにレオンに固定されている。
クレアはリサを制止しながら、シャッターの外側にいるレオンに向かって声を張り上げた。
「レオン! そのシャッターはどうやって開けるの!? 外から操作できる?」
「……いや、外からは無理そうだ。中からしか開けられない仕組みみたいだ」
困惑するレオンの声を聞いた瞬間、リサはふんっと鼻を鳴らした。そして、足元で震えている所長の方へゆっくりと視線を移すと、何の躊躇もなくその太い腹を思い切り蹴り上げた。
「ガハッ!!」
「リサ! やめなさいってば!」
クレアが慌てて制止するが、同時に所長に問い詰める。
「 このシャッターの開け方はどうなっているの!?」
所長は苦悶の表情で口を噤み、ただガタガタと震えている。それを見たリサは、「あぁ、そうか」と言わんばかりに、今度はより深く、正確に肋骨のあたりを蹴り込んだ。
「ぎゃああああ!! カードキーだ! カードキーを使えば開く! 俺の……俺のポケットの中にある!!」
悲鳴に近い告白。クレアは素早く所長のポケットからカードキーを回収し、シャッターの操作パネルに差し込んだ。重々しい音と共にシャッターがせり上がり、外の空気が流れ込む。
「さあ、入って!」
クレアはレオンを迎え入れながらも、リサが彼に襲いかからないよう、さりげなく彼女とレオンの間に立ちはだかった。
レオンが中に入ると、クレアは機先を制して切り出した。
「レオン、信じてほしいんだけど……この所長が、この街で起きた惨劇に関わっている可能性が高いわ。アンブレラと繋がっている」
レオンは縛り付けられた所長の情けない姿と、彼が先ほどまで上げていた錯乱した叫び声を思い出した。警察署の所長が正気であるはずがない。
「……ああ。外にいても、あいつの喚き声がうっすら聞こえていた。にわかには信じ難いがな」
「ここは危険だし、静かに話せる場所はある?」
レオンは所長に目線をやり
「所長室ならまだましだろう、地下から直接所長室に行けるルートがあるはずだ。案内するよ」
レオンが先導し、一行は移動を開始した。
だが、問題は拘束された所長だ。彼は口を開けばリサへの恐怖を喚き散らすため、非常に「うるさい」。
クレアが近くにあった汚れた布をひっ掴むと、リサに目配せをした。
リサは不快そうに鼻を鳴らしたが、この機会に男に苦痛を与えられることに気づくと、口角をわずかに上げた。
彼女は乱暴に所長の口の中に布をねじ込み、猿ぐつわを作った。そして、男の足首を掴むと、まるでゴミ袋を引きずるようにして床の上をズルズルと引きずり始めた。
「グゥ……!!」
リサはわざと段差に男の体をぶつけたり、わざとらしく強く引きずったりしながら、愉悦に浸った表情で所長室へと向かった。その背中からは、「アングロサクソンをいたぶる快感」が滲み出ていた。