バイオハザード:リサ・トレヴァー 〜怨霊と血濡れのトマホーク〜 作:ai試し
しばらくの間、二人は沈黙の中で向き合っていた。
シェリーはリサをじっと観察する。少女の姿こそ可憐だが、その身に纏っているものはあまりにも凄惨だった。衣服はところどころ破れ、何より全身にべったりと付着したどす黒い血が、彼女の白い肌を汚している。
そして、もう一つ。
シェリーは鼻をつまみたくなる衝動に駆られた。リサからは、この街に蔓延るゾンビたちと同じ、あるいはそれ以上に濃厚な「下水道のような腐敗臭」が漂っていたからだ。
(……すごく、汚い)
シェリーの両親はアンブレラの研究員だった。彼女は子供ながらに、バイオハザードによって変異した肉体がどのような性質を持ち、どれほど不衛生で危険なものであるかを断片的に知っていた。この血を放置すれば皮膚を痛めるだけでなく、何より精神的な不快感が強いだろう。
それに、リサが激しい戦いをしてきたことは明白だ。外見こそ少女に戻っているが、どこかに深い傷を負っているかもしれない。
シェリーは勇気を出して提案した。
「……ねえ、あそこの家に入らない? 運が良ければ、シャワーが使えると思うの。血を洗い流して着替えた方がいいよ」
リサは不機嫌そうに眉をひそめた。彼女にとって、今は復讐への道の中にある。そんなところで足を止める必要はない。また体を洗う意味も分からなかった。復讐はまだまだ終わっていない。
「……ゥグッ」
低く唸り、立ち去ろうとするリサ。だがその時彼女の意識の中で怨霊たちが強く囁いた。
『行け。肉体を清めることは、精神を整えることに繋がる。それにこの小さな娘に傷がないか確認してやるがいい。それは戦士としての義務だ』
リサは不満げに口を尖らせたが導きには逆らえない。彼女はゆっくりとシェリーの方を向き、小さく本当に小さく頷いた。
「……よかった! 行こう」
シェリーはパッと表情を明るくした。言葉こそ話せないみたいだが提案を受け入れてくれたことが嬉しい。
二人は慎重に周囲を警戒しながら近くにある一軒の民家へと向かった。幸いなことに窓は閉まっており、荒れた様子はない。シェリーが先にドアを開け中へとリサを促した。
念のためリサはシェリーを制止し、入れ替わるように自分が前に立ち中へ歩みを進める。
家の中は静まり返っていた。リサが鋭い感覚を活かして家中を巡回し、生存者も死者もいないことを確認する、中型犬が1匹いたが部屋に鍵をかければ問題ないだろうと、彼女はリビングの真ん中でぼうっと佇んだ。その瞳には焦点がなく、ただ空虚に空間を見つめている。
その間、シェリーは慌ただしく家の中を探った。幸運にも、クローゼットには持ち主が逃げ出した際に残していったと思われる、清潔なワンピースやTシャツがいくつか残っていた。
「……見つけたよ。ねえ、一緒にシャワー浴びよう?」
シェリーの提案に、リサは感情のない瞳で彼女を見た。
バスルームへ移動すると、そこには狭いシャワーブースがあった。湿り気を帯びた空気の中、二人の少女は向き合う。
リサにとって、「恥じらい」という概念はとうに失われていた。彼女は迷いなく、身に着けていたボロ布のような衣服に手をかけ、さらりと脱ぎ捨てた。
さらりと露わになったのは、14歳の瑞々しさを湛えた肢体だ。白磁のように白い肌は、汚れこそ付いているが、驚くほど滑らかで張りがある。まだ幼さが残る胸の膨らみと、しなやかな腰のライン。それは、ウイルスによる強化の結果なのか、彫刻のように完璧な造形をしていた。
「……っ!」
シェリーは思わず息を呑み、顔を赤くして視線を逸らした。
彼女にとって、全裸で目の前に立つ少女の姿はあまりにも衝撃的だった。それでも、リサは何事もなかったかのように、そのまま淡々とシャワーブースへと足を踏み入れる。
シェリーは心臓を高鳴らせながら、おどおどと自分の服を脱ぎ始めた。指先が震え、ボタン一つ外すのにも時間がかかる。白く細い肩が露出し、恥ずかしさに身をよじらせながらも、彼女は急いでリサの後を追った。
「あ、待って! 先に浴びていいよ!」
狭いブースの中、二人の少女が密着するように並ぶ。
リサはシャワーの蛇口をひねると、降り注ぐ温かい湯の中に身を任せた。だが、彼女はただ立っていた。石鹸を使うことも、体を擦ることもせず、ただ天から降る雫に打たれている。
(……洗わないの?)
シェリーは不思議そうにリサを見た。同時に、彼女の指先がリサの白い肩や腕に触れる。生存者として、体にゾンビの噛み傷や不自然な変色がないかを確認するためだ。
濡れた肌は吸い付くように滑らかで、温かい湯気が二人を包み込む。至近距離で見つめ合う二人の少女。リサの虚ろな瞳と、シェリーの不安げな瞳が交差した。
「ねえ、洗わないの? そのままだと汚れが落ちないよ」
シェリーが問いかけるが、リサは小首を傾げるだけだ。「洗う」という行為の意味さえ忘れてしまったかのように、ただ流れる水に身を任せている。
業に煮やしたシェリーは棚にあったボディソープを手に取り泡立てたスポンジをリサの肩に乗せた。
「もう、じっとしてて。私が洗ってあげるから」
シェリーの小さな手が丁寧にリサの体を洗いはじめた。
柔らかな泡が、リサの白い肌の上を滑る。鎖骨のくぼみに溜まる泡、そして緩やかな曲線を描く背中へと、シェリーの手がゆっくりと動いていく。
リサはされるがままになっていたが、内心では小さな正体不明の不快感を覚えていた。
(……なんで、この子が私を洗ってるの?)
自分の方が年上だ。はずだ。記憶の中の自分はこの子よりもずっと大人だったはずなのに、今はこうして年下の少女に甲斐甲斐しく世話を焼かれている。その状況が彼女のプライドをかすかに刺激した。
それでもシェリーの手つきは優しかった。そうわずかに感じた。
皮膚と皮膚が触れ合うたびに、リサの中に眠る「人間としての記憶」が微かに疼く。温かい湯気と石鹸の香りに包まれ、二人の少女の境界線が曖昧になっていくような、危うい時間が流れていた。
リサの全身を丁寧に洗い終えたシェリーは、満足げに微笑むと、「次は私の番ね」と言って自分を洗い始めた。
濡れた髪が頬に張り付き、湯気に上気した肌が桜色に染まっている。その無防備な姿を、リサはぼーっと見つめていた。
シェリーが自分の体を洗い流している間、リサはただ静かに彼女を見つめていた。
狭いシャワーブースの中で、降り注ぐ湯気が二人の少女を濃密な白い霧で包み込む。濡れた髪が白く滑らかな肌に張り付き、水滴が鎖骨のくぼみを伝って胸の谷間へとゆっくりと流れ落ちていく。その光景はあまりにも無防備で、この地獄のような街には似つかわしくないほどエロティックな純真さに満ちていた。
(……傷は?)
不意に、脳内で怨霊たちがどす黒い情熱を伴って囁いた。
『検分せよ。この小さな肉体が、征服者の毒に侵されていないか。その瞳で、隅々まで暴き出せ』
リサは導かれるまま、じっとシェリーを見つめた。
それは単なる視線ではなかった。獲物の急所を探る捕食者のような、あるいは解剖学的な興味を持つ研究者のような、鋭く、深く、皮膚の下まで見透かすような視線だ。
リサの瞳は、まずシェリーの濡れた肩から始まり、緩やかな曲線を描く背中、そして幼いながらもしなやかな腰のラインへとゆっくりと這うように移動していく。
視線が触れる場所ごとに、シェリーはまるで見えない指でなぞられているかのような錯覚に陥り、身震いした。濡れた肌の上にリサの強烈な凝視が張り付き、逃げ場のない快感と緊張感が彼女を包み込む。
(……見られてる)
シェリーは恥ずかしさに顔を赤らめながらも、不思議とその視線から逃れられなかった。湯気に上気して桜色に染まったシェリーの頬と、陶器のように白いリサの無表情な顔。至近距離で交差する二人の少女のコントラストが、背徳的な耽美さを際立たせていた。
その時、リサの中で奇妙な衝動が突き上げた。
先ほど自分を洗ってくれたシェリーへの「お返し」という名目の、支配欲に近い感覚だ。「私の方が年上なのだから、この小さな体を管理してやるのは当然だ」という、断片的な自尊心が彼女の胸に灯った。
リサは不器用に手を伸ばし、棚に残っていた石鹸を手に取った。
そして、されるがままだった先ほどとは対照的に、今度は自分がシェリーの体を洗おうとした。
「あ……っ」
リサの手つきはひどくぎこちなかった。戦い以外の方法で誰かに触れることなど、もう何十年もしていなかったからだ。泡を立てた手が、時折強く当たりすぎたり、不自然な方向に動いたりする。だが、その不器用さが逆に生々しく、シェリーの心拍数を跳ね上げた。
「ふふっ、ちょっとくすぐったいよ」
シェリーはクスクスと笑いながら、されるがままに身を委ねた。
「ありがとう。リサ……だよね? あなたって意外と丁寧なんだね」
冗談めかして語りかけるシェリーの声は、狭いバスルームの中で心地よく反響していた。温かい湯気と石鹸の香りに包まれ、外の世界の地獄が遠く離れた異世界の出来事のように感じられた。二人の少女だけが共有する、密やかで濃密な時間。
水滴が肌を滑り落ちる音だけが響く中、ふいにシェリーがリサの腕にすがりついた。
最初は、ただの甘えのような仕草だった。しかし、その指先がリサの白い腕に食い込むほど強く握りしめられたとき、空気が一変した。
「……っ」
シェリーの呼吸が不自然に速くなる。
彼女はリサの肩に額を押し当て、ぐっと唇を噛みしめた。目を見開き、必死に何かを堪えようとしている。震える肩、強張った背中。彼女は今、自分の内側から溢れ出しそうになっている「何か」を、全力でせき止めていた。
リサは困惑した。
(……どうした?)
言葉にならない問いが頭をよぎる。リサにとって、人間的な感情の機微などとうに失われたものだった。目の前の少女がなぜ震えているのか、なぜ自分に縋り付いているのか、その理由が全く理解できない。
だが、限界はすぐに訪れた。
「……う、ぅ……っ」
喉の奥から、押し殺した小さな嗚咽が漏れた。
それはダムが決壊するように、ゆっくりと、だが決定的に崩れていった。シェリーはリサの胸に顔を埋め、声を押し殺しながら泣き出した。激しく号泣するのではなく、ただひたすらに、耐えきれなくなった悲しみが涙となって溢れ出していく。
地獄のようなラクーンシティ。
頼みの綱であった母親からは電話で「警察署へ行きなさい」という突き放した指示だけ。道中、見たこともないおぞましい怪物たちが徘徊し、昨日までの日常がすべて砂のように消え去った絶望感。
12歳の少女が一人で背負うには、あまりにも重すぎる孤独だった。
この温かい湯気と、不器用なリサの体温に触れた瞬間、彼女が張り詰めていた「冷静な生存者」としての仮面が、音を立てて崩れ去ったのだ。
リサは完全に呆然としていた。
腕の中にいる小さな生き物が、なぜこれほどまでに震えているのか。涙とは何なのか。共感という機能が失われた彼女にとって、シェリーの慟哭はただの「不可解な現象」に過ぎなかった。
それでも、リサは突き放すことができなかった。
しばらくして、シェリーはハッとしたように顔を上げた。
自分の失態に気づき、涙で濡れた瞳を瞬かせながら、慌てて身を引く。
「ご……ごめんなさい! 変なことして……っ」
彼女は恥ずかしさと申し訳なさで顔を真っ赤にし、何度も小さく頭を下げた。そして、リサの虚ろな瞳をまっすぐに見つめ、震える声で懇願した。
「お願い……おいていかないで。一緒にいてほしいの」
その言葉に、リサの中に宿る怨霊たちが激しく反応した。
『見よ! この孤独を! 征服者たちの身勝手な実験と傲慢が、この幼き魂をここまで追い詰めたのだ!』
怨霊たちは憎悪を滾らせ、アンブレラへの殺意をさらに増幅させる。
だが、リサ本人は相変わらずポカンとしていた。
(……おいていく? )
彼女にとっての目的地は復讐の果てにある。しかし、腕の中にあったあの震える温もりだけは、どうしようもなく記憶に刻まれていた。
リサは何も答えず、ただぼーっとシェリーを見つめていたが、やがて小さく、本当に小さく頷いた。
それが「一緒にいてあげる」という意味なのか、単に納得しただけなのかは分からない。だが、孤独な二人の少女の間になにかが芽生えたのかもしれない。
シャワーを終えた二人は、湿り気を帯びたバスルームから脱衣所へと移動した。そこには先ほどシェリーがクローゼットから選び出した衣服が置かれている。
リサは相変わらずだった。彼女にとって服とは単に身体を覆う布に過ぎない。濡れたままの肌に、乱暴にバスタオルを押し当て、水滴を拭き取るというよりは、皮膚を赤く擦り付けるような雑な動作で済ませようとした。
「もう! そんなんじゃ全然拭けてないよ!」
シェリーは呆れ顔でリサの手からタオルを取り上げた。
彼女はリサの背後に回ると、丁寧に、そして慈しむようにタオルでリサの肌を包み込んだ。濡れた白い肩から始まり、うなじ、そしてしっとりと湿った背中のラインに沿って、ゆっくりと水分を吸い取っていく。
至近距離でリサの無防備な裸身を改めて目の当たりにし、シェリーは再び顔を赤らめた。だが、同時に不思議な親密さが彼女を包んでいた。タオル越しに伝わるリサの体温。それは怪物のものではなく、確かにそこに生きている少女の熱だった。
そして、着替えが始まった。
リサは迷いなく、真っ白なTシャツに袖を通した。体にフィットするサイズ感のシャツは、彼女の瑞々しい肢体の未成熟な曲線を露骨に強調し、薄い生地の下でわずかに盛り上がる胸のラインと、引き締まったウエストを浮き彫りにさせた。さらに、短いショートパンツを履くと、白磁のような太ももが惜しみなく露わになる。それは可憐な少女の姿でありながら、同時に捕食者のような危うい色香を纏っていた。
一方のシェリーは、恥ずかしそうに Tシャツを被った。彼女にとってはその服さえも少し大きく、襟ぐりがゆるいため、動くたびに白い鎖骨や肩が覗く。半ズボンを履き、ベルトでぎゅっと締めると、幼い少女らしい儚さと、必死に生きようとする健気さが同居した姿になった。
二人が並んで立つと、そこには奇妙な対比があった。
未成熟ながら美しさをもち狂気を宿す14歳の怪物リサと、まだ幼く、わずかに震える肩を抱えた12歳の人間シェリー。濡れた髪から漂う石鹸の香りと、衣服の下に隠された異質な身体能力。その耽美な光景は、静まり返った家の中で異様な調和を見せていた。