バイオハザード:リサ・トレヴァー 〜怨霊と血濡れのトマホーク〜 作:ai試し
なので南の島で大人のお姉さんとの個人授業(ゾンビサバイバル)は延期になりました。
物語は、リサが南極のアンブレラ基地へと向かう旅路へと遡る。
怨霊の導きに従い彼女は南へと向かっていた。しかし、人間としての身体能力を遥かに超えた力を持つリサにとっても、「海」という環境はあまりに絶望的だった。彼女は泳ぎ方を知らなかったし、何より人間の肺では水中の世界は死の領域でしかない。
最初は、だひたすらに海底を歩いた。
冷たく重い海水が全身を圧迫し視界は濁った青に染まる。リサは海底の砂地に足を踏みしめ泥にまみれながら南へと進んだ。だがどれほど身体能力が高かろうとも呼吸までは止まらない。
「……っ、ガハッ!!」
肺が限界を迎え激しく咳き込む。彼女はたびたび水面まで浮上し空気を肺いっぱいに吸い込み再び暗い海底へと沈んでいった。その繰り返しはあまりに効率が悪く絶望的な旅だった。
だが、リサの体内には地球上のあらゆる生物を凌駕する「進化」の種が眠っていた。
始祖、T、そしてGウィルス。それらが互いに融合し、共鳴し合い、環境への適応という本能に従って彼女の肉体を書き換え始めた。
まず、呼吸の間隔が伸びた。肺の構造が変化し酸素を大量に長時間、体内に蓄積できるようになる。
次に移動手段が変わった。海底を歩くのではなく「泳ぐ」という概念を身体が理解し始める。
ズブッ、ミシミシと音が鳴る。
リサの指と指の間そして足に薄い皮膜が張り出した。水かきだ。
それは美しくはない、生物兵器としての無骨な進化だったが、これにより彼女は水中で自由自在に方向転換し、加速することが可能になった。
しかし、この静かな海に、リサという「異物」の侵入を快く思わない捕食者がいた。
暗い深海の底から、鋭い三角形の背びれが音もなく接近する。
巨大なサメだった。サメにとって、水中で不自由な動きをするリサは絶好の獲物にしか見えなかった。
ガアァッ!!
猛烈な速度で突進してきたサメがその巨大な顎をリサの肩に突き立てようとした瞬間――。
リサの瞳に狂気の光が宿った。彼女は反射的に自らの腕から生成した骨のトマホークを振り抜いた。
水中で抵抗を受けるため、威力は半減していた。だがウィルスによる超人的な筋力はそれを補って余りあった。
ズバァッ!!
鈍い音と共に、サメの頭部が斜めに切り裂かれた。鮮血が海中に舞い、真っ赤な雲となってリサを包み込む。
リサはうめき声を上げながら、事切れたサメの肉に飛びかかった。
怨霊の導きか、あるいは生存本能か。彼女は血まみれの口でサメの肉を貪り食った。捕食することで得られるエネルギーが、さらなる進化を加速させる。
腹を満たしたリサは、再び南へと向かった。水かきを得た彼女の速度は上がり、海はもはや絶望の場所ではなく、狩場へと変わりつつあった。
サメを喰らい、肉体的な充足を得たリサだったが、海にはさらに狡猾で強力な捕食者が潜んでいた。
ある時のことだ。海面付近を泳いでいたリサの周囲に、黒と白のコントラストを持つ巨大な影たちが現れた。海のギャング、シャチの群れである。
彼らにとって水かきを生やして不器用に泳ぐリサは未知の生物であり同時に最高の「玩具」に見えた。
最初は小さなちょっかいだった。側面に体をぶつけたり急加速して目の前から消えたりする。だがシャチたちの遊びは次第にエスカレートしていった。彼らは組織的にリサを追い詰め水面へ上がる道を塞いだのである。
「……んぅ!!」
リサが呼吸のために浮上しようとするたび巨大な黒い壁が立ちはだかる。シャチたちはわざと彼女の進路を遮り、もどかしそうに暴れるリサを見て、まるで嘲笑うかのように高い音で鳴き声を上げた。
リサにとってこれは遊びではない。呼吸ができなければ死ぬという生存に関わる切実な問題だった。
怒りに任せ、リサは骨のトマホークを大きく振り回した。
しかし、水中の機動力において生物兵器である彼女といえど生まれながらの海洋生物であり高い知能をもつシャチには及ばない。鋭い斬撃は空を切りシャチたちは軽やかにそれを回避して再びリサを翻弄する。
(……っ!!)
肺が焼けるように熱い。酸素不足で意識が朦朧としいい加減に電撃を使用するかと思い始めたその時だった。
ドォォォン!!
海中を震わせるような凄まじい衝撃波が走り、シャチたちの群れを一瞬にして散らした。
リサの目の前に現れたのは山のような巨躯を持つマッコウクジラだった。
そのクジラの瞳には深い悲しみと激しい憎しみが同居していた。かつて自分の子供をシャチに襲われ、失った絶望を知る親であった。この個体にとって目の前で弱者をいたぶるシャチの群れは許しがたい仇敵そのものだった。
マッコウクジラは怒りの咆哮と共に、巨大な頭部でシャチの一匹を弾き飛ばした。さらに、その身に比してあまりに巨大な尾びれを力強く振り抜く。
バァァァン!!
水圧による衝撃波だけでシャチたちは方向を見失い、パニック状態で散っていった。
リサは激しく喘ぎながら水面に上がり空気を吸い込んだ。そして再び潜り目の前で静かに泳ぐマッコウクジラの姿を凝視した。
そこには単なる大きさだけではない、「効率的な移動」の究極形があった。あの巨大な尾びれがあれば、今の自分のような不自由な泳ぎ方ではなく、一撃で海を切り裂く速度を手に入れられるはずだ。
その時、シャチとマッコウクジラの激突によって海中に舞った細胞片や粘液がリサの皮膚に触れた。ウィルスの特性である「環境適応」と「遺伝子吸収」が猛烈な勢いで作動し始める。
(……あれが、欲しい)
リサは呼吸を整え、もう一度深く潜った。彼女はマッコウクジラの巨大な尾びれをじっと観察し、自らの肉体にその構造をコピーすることを本能的に望んだ。
リサの体内にあるウィルスが狂喜に震えていた。
目の前で悠然と泳ぐマッコウクジラの遺伝子情報――とりわけ、あの海を切り裂く巨大な尾びれの構造こそが、今この瞬間に必要な「正解」だった。
ミシッ……メキメキッ!!
激しい音と共に、リサの肉体は再構築された。
Gウィルスの進化能力が、マッコウクジラの強靭さと、リサ自身が取り戻した14歳の美少女としての「完成された造形」を融合させある種の究極的な形態へと導いたのだ。
水の中でゆっくりと視界が開ける。
そこには伝説から飛び出してきたかのような息を呑むほどに美しい人魚となったリサの姿があった。
腰から下は滑らかで宝石のように輝く鱗に覆われた巨大な尾びれへと変わっている。その鱗は光の角度によって真珠色に輝き、水流に合わせてしなやかに波打つ。
上半身は透き通るような白い肌を持つ14歳の美少女のままだが、その美しさは人間を超越していた。濡れた長い髪が海中で幻想的に舞い瞳には深海の静寂と狂気が同居している。
それは見る者を惹きつけ、同時に底知れぬ恐怖を感じさせる「人魚」という名の生物兵器だった。
リサは自らの尾びれをゆっくりと動かした。
一振りするだけで、海中を舞う光の粒子と共に、弾丸のような速度で加速する。水抵抗など存在しないかのように、彼女は優雅にそして猛烈な速さで海を切り裂いた。
(……ふふ)
言葉にはならないが、リサの口角がわずかに上がった。
新しく得た身体の感覚を確かめるようにリサは海中をゆったりと舞っていた。
真珠色に輝く尾びれがしなやかに波打ち指先まで至る白い肌が深海の青い光に照らされて幻想的に浮かび上がる。自分でも驚くほどの速度と軽やかさだった。
だが、その静寂を破ったのは再び現れた黒い影たちだった。
シャチの群れである。彼らはマッコウクジラという巨大な脅威が去ったことを確認し再びリサへと狙いを定めた。しかし今度の彼らの瞳に「遊び」の色はない。自分たちの遊びを邪魔したクジラへの苛立ちと八つ当たりに近い怒りが目の前の小さな獲物へと向けられていた。
「……んぅ」
リサは低く唸った。恐怖などない。むしろ今の彼女にとってこの再襲撃は完成したばかりの新しい肉体をテストするための絶好の「準備運動」に過ぎなかった。
シャチたちが一斉に加速し四方からリサを包囲して衝突しようと突き進む。
かつてなら翻弄されていたはずの攻撃。だが今のリサなら十分に対応できる。
シュッ!!
リサが尾びれを一回、鋭く振る。
それだけで凄まじい加速が生まれ、彼女の身体は一筋の白い閃光となってシャチたちの包囲網を容易に突破した。追いつこうとするシャチの側面を、すり抜ける瞬間に骨のトマホークで深く切り裂く。
ズバァッ!!
鮮血が海中に舞う。
リサは優雅な身のこなしで海を舞いながら次々と襲い掛かるシャチたちに致命的な斬撃を与えていった。美しき人魚の姿をした怪物が海で残酷な舞踏を繰り広げる。
パニックに陥ったシャチたちはもはや獲物を狩る側ではなく逃げ惑う側に回っていた。
群れの多くが撤退していく中、リサはある1頭に狙いを定める。
リサはその背中を見つめ冷酷な笑みを浮かべた。
リサは尾びれを最大限に打ちつけ、水流を切り裂いて猛追を開始した。
逃げるシャチは群れの中でも最大級の個体だった。巨躯を活かして必死に水流を蹴りリサから距離を置こうとする。だがその絶望的な逃走劇こそがリサにとって最高のトレーニングとなった。
加速し、方向転換し、水圧を読み切る。
人魚としての身のこなしが完全に肉体に定着していく。リサは海中の水流を完璧に掌握しまるで獲物を追い詰める矢のように一直線に距離を詰めた。
「……ッ!!」
逃げるシャチの死角に回り込んだ瞬間リサは強靭な尾びれで急制動をかけ同時に上半身を鋭く捻った。
骨のトマホークが白銀の弧を描きシャチの分厚い背鰭の付け根から脊髄へと深く突き刺さる。
ズバァッ!!
致命傷。巨体は激しく痙攣し海中で大きく跳ね上がった。
リサはその獲物に迷わず食らいついた。人魚としての美貌を血で汚しながら彼女は本能のままにシャチの肉を貪る。強者の肉を取り込むことで、彼女の細胞はさらに海への適応を進めていく。
その凄まじい喧騒に誘われ再びマッコウクジラが姿を現した。
かつての恩人が戻ってきたのだ。しかし、そこにいたのは助けを必要とするか弱い少女ではなく血塗られた海の中で静かに佇む美しい人魚だった。
マッコウクジラは不思議そうに大きな瞳でリサを見つめた。
そこにはもはや恐怖や弱さはなく海の生物兵器にふさわしい威厳と狂気が宿っていた。
リサはゆっくりと海面へ向かって泳ぎ出した。
彼女はあえてマッコウクジラの側へと寄り添いその巨大な身体の隣で並んで泳ぐ。広大な紺碧の世界を種を超えた奇妙な共生関係のような静寂の中で進んでいく。
そこには地上では決して見ることのできない幻想的な世界が広がっていた。
太陽の光が海面に当たり、屈折して海へと降り注ぐ。それはまるで数千万本の細い銀色の糸がどこまでも深く暗い底へと降りていくかのような光景だった。その光のカーテンにリサの真珠色の鱗が反射し彼女自身がひとつの光の粒子となって海に溶け込んでいる。
「……っ」
リサはふと自分の周りを舞う小さな生き物たちに気づいた。
名もなき極小のプランクトンや、透き通った身体を持つクラゲたちがまるで宇宙を漂う星々のように彼女の周囲を回っている。彼らが放つ淡い生物発光が深い紺碧の海の中に点々と灯り幻想的な星座を描き出していた。
マッコウクジラがゆっくりと尾びれを振るたびに巨大な水流が生まれ海底から色とりどりの砂や貝殻が舞い上がる。それはまるで深海の雪のようにゆっくりと降り注ぎリサの白い肌に触れては静かに消えていった。
(……きれい)
言葉にはならない。だがリサの心の中にそんな感情が芽生えた。
アンブレラの冷たい実験室。血と薬品の臭いが充満した地下施設。絶望だけが支配していた彼女の世界に、「純粋な美しさ」という概念が流れ込んできた瞬間だった。
透き通るような青から、深い紫へ、そして底知れぬ黒へと移り変わるグラデーション。
水圧さえも心地よい抱擁のように感じられリサはただこの静寂に身を任せていた。隣で泳ぐマッコウクジラの心拍音が海を通じて低く穏やかなリズムとして伝わってくる。その鼓動は大地のような安心感を彼女に与えた。
美しさは時に残酷なほどに心を揺さぶる。
だが、その美しさこそが彼女の中にある復讐心をより鮮明にする。
これほどまでに美しい世界を調和を乱す汚らわしい人間たちがウィルスという毒で塗り潰そうとしている。
リサは再び前を見た。
この静寂と美しさを守るためではない。ただ、この世界に相応しくない「征服者」たちを排除するためだけに彼女はこの自らの体を武器にして南へと向かう。
幻想的な光のカーテンを切り裂き、リサは再び深く潜った。
その瞳には、深海の美しさと同じ分だけの、冷徹な殺意が宿っていた。
怨霊の導きは続き、まだ目的地は遠そうだった。だが、絶世の美貌を持つ人魚となったリサはその強靭な尾びれで海を切り裂き迷いなく南へと突き進んでいた。
しかし、ある地点に達したとき彼女の精神に深く根ざしているインディアンの怨霊が鋭く制止をかけた。
(……止まれ。この先に、何かがある)
リサは急ブレーキをかけ、水中に大きな渦を作った。
不審に思った彼女はゆっくりと海面に浮上し、周囲を見渡す。だが、視界に広がるのはどこまでも続く紺碧の水平線だけだった。何も見えない。しかし、怨霊が指し示す方向には確かに何かを感じる。
リサは導きに従い進路をわずかに変えた。
しばらく泳ぎ続けると霧の向こうから険しい岩肌を持つ一つの島が姿を現した。
そこが「ロックフォート島」であることを今の彼女が知る由はなかった。
島に近づくにつれリサの感覚がをある種の刺激が突き抜いた。
それはかつて自分を地獄へ突き落としたあの感覚だ。下水管や地下施設から海へ漏れ出している濃密で腐敗したTウィルスの気配。本能的な嫌悪感と共に激しい殺意がリサの胸に燃え上がった。
(……アンブレラ)
彼女は低く唸り声を上げると島の海岸へと猛スピードで突進した。
波打ち際に激突する直前、リサの肉体に再び劇的な変化が訪れる。海中での移動に特化した美しい鱗の尾びれがミシミシと音を立てて分裂し再び二本の足へと組み変わった。
水飛沫を上げて上陸した彼女の姿は14歳の美少女に戻っていた。
濡れた髪が肌に張り付き白い肌が月光に照らされる。だが、その可憐な外見とは裏腹に彼女の手には自らの骨から生成された無骨なトマホークが握られていた。
リサはゆっくりと立ち上がり衣服を整えることもせずただ真っ直ぐに島に見える、不気味な施設の方を見据えた。
呼吸をするたびにTウィルスの知覚が強くなる。それは彼女にとって最高の獲物の在処を示す道標だった。
「……アンブレラ」
掠れた声でそう呟いたリサの瞳にはもはや理性の欠片はほとんどなかった。あるのはただ、目の前にあるすべてを破壊し屠り尽くしたいという純粋な復讐心だけだ。
彼女はトマホークを構え、獲物を狩る獣のような足取りで陰謀が渦巻くロックフォート島の施設へと突き進んでいった。
ロックフォート島まで泳いで参った!