バイオハザード:リサ・トレヴァー 〜怨霊と血濡れのトマホーク〜 作:ai試し
Reベロニカまで待ってたら忘れそうなので投稿
凍てつく南極の風が吹き荒れる中クレアとスティーブは絶望的な状況の中アンブレラの極秘基地へと足を踏み入れていた。施設内はゾンビがあふれ、不気味な機械音が響いている。彼らが辿り着いたのは基地の中心に位置する巨大なメインホールだった。
そこには張り詰めた緊張感の中で対峙する二人の人物がいた。
一人は冷徹な瞳で状況を支配しようとする男、アルバート・ウェスカー。
そしてもう一人は氷の玉座に君臨し傲慢な笑みを浮かべる美女、アレクシア・アシュフォード。
ウェスカーの目的はアレクシアが完成させた生物兵器「ヴェロニカウィルス」の奪取。対するアレクシアは自分の巣を汚し至宝を盗もうとする不届き者を抹殺しようとしていた。
クリスが物陰から彼らを密かに見守る中、静寂を切り裂く凄まじい衝撃音がホールに鳴り響いた。
ドガァァァン!!
壁の強化コンクリート壁を突き破り巨大な質量が猛烈な勢いでホールの中央へと降り立った。
土煙が舞い上がり床には深いクレーターができている。その中心に立っていたのは長い髪を振り乱し殺意に満ちた瞳をした14歳の美少女――リサ・トレヴァーだった。
「……っ!?」
ウェスカーの表情が初めて劇的に歪んだ。彼はラクーンシティでの惨劇を知っている。あの不死身の怪物リサ・トレヴァーがなぜここにいるのか。彼は戦慄し冷静な仮面の下で即座に逃走経路を計算し始めた。
一方のアレクシアは興味深そうに目を細めた。彼女は目覚めて間もなく、情報をあまり知らない。彼女にとってリサは資料の中で見た「おもしろい失敗作」に過ぎない。
「あら……。失敗作がお出迎えに来てくれたかしら?」
アレクシアは傲慢な笑みを浮かべたままゆっくりとリサの方へ歩み寄る。
「いいわ、実験体。あなたのその無様な姿を私のベロニカで美しく浄化してあげる」
だが、リサの口から出たのは言葉ではなかった。それは地獄の底から響くような絶叫だった。
「アン……ブレラァァ!!」
うめき声に近い咆哮がホールに反響する。アレクシアがその傲慢さゆえに油断しリサへとさらに近づこうとしたその瞬間だった。
リサの背後から目視不可能なほどの超高速でどろりとした肉色の触手が伸びた。
それはアレクシアが反応できる速度を超えていた。
ズシュッ!!
「……っ!? あがっ!!」
鋭い触手がアレクシアの首の後ろ、脊髄の中枢へと深く、正確に突き刺さった。
アレクシアの身体が激しく跳ね上がり断末魔のような悲鳴すら上げられず、ビクンビクンと痙攣し始める。彼女の誇り高き瞳から光が消え、意識がリサという巨大な意思に塗り潰されていく。
触手が脊髄を貫いた瞬間、アレクシアの身体は弓なりに反り返り、喉からヒュッという短い絶叫が漏れた。
意識はある。だが指先一つ動かせない。自分の身体が自分のものではなくなり、どろりとした冷たい憎悪とママへの思い、リサの記憶が触手を通して流れ込んでくる感覚にアレクシアは生まれて初めて「恐怖」を知った。
それはある種の奇蹟だった。アレクシアというベロニカウィルスに適合した強靭な体だったからこそリサによるウィルスの浸食に耐えられた。
リサはアレクシアの神経系を完全に支配し、彼女の喉を、肺を、声帯を、操り始めた。
それはもはや言葉ではない。数十年分の絶望と癒えることのない肉体的な苦痛、そして愛する者を奪われた喪失感が凝縮された「呪い」の叫びだった。
傀儡となったアレクシアの口が無理やりこじ開けられる。そこから放たれたのは地獄の底で数千回繰り返されたであろう、慟哭に近い絶叫だった。
「アンブレラァァァ!!!!! 殺してやる……! 全員、一人残らずこの手で引き裂いて殺してやる!!!」
ホール全体が物理的に震えるほどの咆哮。ウェスカーは思わず耳を塞ぎ後退りした。その声には理性を捨てた怪物の怒りと同時にママを亡くした幼い子供のような悲しみが混在していた。
リサの意識がアレクシアの口を通じてさらに深く激しく叫び続ける。
「家族と暮らしてしいただけだったのに!!ママ!! ママと一緒に逃げたいだけだったのに! なんで……なんで私から全部奪った!! この地獄に突き落としたのはお前らだ!!」
リサはアレクシアの身体を無理やり激しく震わせ、まるで自分の胸を掻きむしるかのように、傀儡のアレクシアの手を動かす。
「お前たちの血でこの乾いた心を満たしてやる! 骨まで砕いて殺してやる!絶望の中で死ね!! アンブレラ……アンブレラァァーーーッ!!!」
それはもはや生物兵器の咆哮ではなく、一人の少女が人生を奪われたことへの究極の抗議だった。
アレクシアの声で語られるリサの憎悪はあまりに純粋であまりに重い。
その叫びは凍てつく南極の基地という冷徹な空間を真っ赤な殺意と絶望の炎で焼き尽くしていくようだった。
ウェスカーは戦慄した。彼が見たのは単なるウィルスの適合者ではない。復讐という名の唯一の目的だけで形を成した、「最悪の怪物」だった。
絶望的な叫びがホールに消え入った後、リサは満足げに触手を引き抜いた。
ガッ!!
用済みとなった傀儡――アレクシアを、ゴミ屑でも捨てるかのように乱雑に放り投げる。
「あぐっ……!」
アレクシアの身体は虚空を舞いコンクリートの壁に激しく叩きつけられた。鈍い音と共に彼女は床にうづくまり、呼吸さえままならない状態で絶望的に身悶えている。
リサはゆっくりとウェスカーに向き合う。その全身からどろりとした青白い光が脈動するように溢れ出している。
始祖、T、G、そしてベロニカ。あらゆるウィルスの力、そして核の残滓までをも宿した彼女の肉体は今や生物兵器としての頂点に達していた。
リサの瞳がウェスカーを捉える。
その殺意に満ちた視線が固定された瞬間、リサの身体がバネのようにしなった。弾丸のような速度で彼へと飛びかかろうとしたまさにその時――。
『――警告。基地自爆シーケンスが作動しました。残り時間まであと10分です』
一瞬リサの意識が逸らされる。
無機質なアナウンスの声がホールに鳴り響いた。
このタイミングを待っていたかのように、ウェスカーの動いた。
「……不運だったな、リサ・トレヴァー」
閃光!
ウェスカーの手から放たれた高輝度の閃光手榴弾が爆発した。視界が真っ白に染まり一瞬だけリサの反射神経が鈍る。そのわずかな隙を逃さずウェスカーはウィルス適合者としての超人的な身体能力を全開にし光から逃げる影のように高速で後方へと消えていった。
「ガアァッ!!」
視界が戻らずとも気配を頼りに、リサは怒りに任せて骨のトマホークを全力で振り下ろした。
ドォォン!!
床のコンクリートが砕け散り、深い亀裂が入る。だが、そこにウェスカーの姿はなかった。彼はすでに逃走し闇へと消え、すさまじい速度でこの場を脱出した後だった。
静まり返ったホールにリサの不機嫌な唸り声だけが響く。
「……うぅ!!」
獲物を逃した苛立ち。その怒りの矛先はすぐ近くで弱々しく震えているアンブレラへと向けられた。
リサはゆっくりと首を回し壁際でうづくまっているアレクシアを見た。
トマホークを肩に担ぎ血のように赤い瞳をぎらつかせながら、リサは一歩ずつ確実にアレクシアへと近づいていく。その足音が死刑へのカウントダウンのように冷たく響いた。
リサの足音が近づいてくる。死の予感にアレクシアは身をすくませた。
だが、不思議なことに今の彼女には恐怖よりも先に「違和感」があった。
自分の視界が極端に低くなっていることにも着ていたドレスが不自然にぶかぶかになり足首まで裾がズルズルと引きずっていることにも彼女は気づいていなかった。ただ、身体がひどく軽く心細い感覚があるだけだった。
それ以上に彼女を混乱させていたのは、脳内にこびりついて離れない「記憶」だ。
リサに操られていたあの数分間、触手を通じて流れ込んできたのは単なる憎悪ではなかった。それはどろりとした暗闇の中に灯る、たった一つの小さな光のような記憶。
(……なんだろう、今の感覚は)
アレクシアは自覚していなかった。
自分がいつの間にか冷凍睡眠前の12歳の姿に戻っていたことも。そして、リサの魂から流し込まれた「家族への渇望」が、彼女の凍りついた心に深く突き刺さったことも。
ただ、頭の中で一つの単語が止まらないレコードのように何度も繰り返されていた。
(……ママ)
その言葉の意味をアレクシアは知らない。
アシュフォード家の人間として完璧な後継者として育てられた彼女にとって「親」とは管理し、利用し、あるいは乗り越えた壁に過ぎなかったからだ。温もりや愛情といった概念は彼女の辞書には存在しない。存在しないはずだ。
なのに、どうしてだろうか。
リサの記憶にある「ママ」という響きが今の自分にとって耐え難いほど切なく心地よく感じられる。
(ママ……? ママって……なあに?)
わけがわからなかった。
自分が何を求めているのかさえ分からないまま、ただその単語だけを反芻する。
それは理性の領域ではなく魂の深い部分でリサと共鳴してしまった結果だった。
目の前まで、血のように赤い瞳をした怪物が辿り着いた。
トマホークが振り上げられる。本来であれば絶叫して逃げ出す場面だ。だが、12歳の姿に戻ったアレクシアは自覚のないままにリサを見上げた。
その瞳に宿っていたのはかつての傲慢な軽蔑ではない。
自分の中にある「空白」を埋めてくれるかもしれない何かを無意識に求めるような幼い子供の眼差しだった。
リサが振り下ろそうとしたトマホークが、アレクシアの喉元数センチのところで止まった。
「……まま」
小さく、震える声だった。
12歳の姿に戻ったアレクシアは自分でもなぜその言葉を口にしたのか分かっていなかった。ただリサの中にあったあの切ない記憶に導かれ本能的にその響きを求めただけだった。
だが、その一言がすべてを変えた。
リサの精神に宿るインディアンの怨霊はアレクシアの魂の深層を見た。そこにあったのは傲慢な女王ではなく、愛を知らずに凍りついた孤独な子供の姿だった。
(……止まれ、リサ。この子を殺してはならぬ)
怨霊の声がリサの脳内に響く。
しかし、今度のリサは簡単には従わなかった。彼女は激しく首を振り低く唸り声を上げる。目の前にいるのは自分に地獄を与えたアンブレラの幹部だ。なぜ許さねばならないのか。
「んぐぅ!!」
リサの全身が再び青白く光り出す。それは怒りと不満の爆発だった。周囲の空気がビリビリと震え、床のコンクリートに亀裂が入る。彼女は今にもトマホークを振り下ろそうと殺意を最大限にまで高めた。
(待て! 憎しみだけで動くならお前は自分を壊したアンブレラと同じ人間になるだけだ。この子は更生されるべき子供だ。誇りある戦士として弱き者をいたぶるのはやめなさい)
「……!!」
怨霊の静かだが強い説得にリサの動きが止まった。「アンブレラと同じ」という言葉が彼女の心を激しく刺激した。
リサは激しい憤慨と共に手にしたトマホークを全力で床に叩きつけた。
ガシャァァァン!!
凄まじい衝撃音がホールに響き渡り床に巨大な穴が開く。それは彼女の妥協の印だった。
リサは不機嫌そうに鼻を鳴らすとうずくまっていたアレクシアの襟足を乱暴に掴みそのまま自分の背中にひょいと担ぎ上げた。まるで大きな荷物を運ぶような雑な扱いだったがそこには奇妙な保護の意思が含まれていた。
リサはそのまま物陰で様子を伺っていたクリス、クレア、スティーブの方へと向き直った。
「……っ! リサ!」
クレアが安堵したように声を上げる。だが、同時に基地の自爆カウントダウンの警告音が激しく鳴り響いた。
「もう時間がないわ! 急いで避難しましょう!!」
クレアが手を叩き、切迫した表情で提案する。
クリスが先頭に立ちリサと彼女が背負うアレクシア、そしてスティーブを誘導し、一行は崩落し始める南極施設から脱出を開始した。
***
こうして彼らは死の淵から間一髪で脱出した。
その後、彼らを乗せた飛行機の中でリサは再びアレクシアと向き合うことになる。