バイオハザード:リサ・トレヴァー 〜怨霊と血濡れのトマホーク〜 作:ai試し
ラクーンシティの街並みは、もはや日常として都市の機能を完全に失っていた。
リサたちは路地裏を縫い、建物の影から影へと移動しながら慎重に前進した。道中、放棄された商店や民家から保存食や飲料水、おかしなどの物資を「ちょろまかし」ながら、シェリーの体力と精神的な余裕を確保していく。
リサはもはや単なる怪物ではなかった。怨霊たちの導きによる戦術的な移動と、生物兵器としての超感覚により危険なエリアを巧みに回避していた。
そして、意外なほどあっさりと一行は目的地であるラクーンシティ警察署(R.P.D.)へと辿り着いた。
重厚な石造りの外壁に囲まれたその場所はまるで外界から隔離された要塞のように静まり返っていた。本来ならば正面から入るのが定石だろうが、リサはそれを拒んだ彼女にとって「正門」とは罠の入り口に等しい。
リサは迷わずシェリーをひょいと肩に担ぎ上げた。
「きゃっ!」
小さく声を上げたシェリーだったが抵抗はしなかった。リサを信頼していたし、何よりこの怪物のような少女に従っていれば今のところ自分は安全なのだという確信があった。
リサは軽やかな身のこなしで高い門扉を乗り越え、敷地内へと忍び込んだ。
警察署のに足を踏み入れる前からリサと彼女の中に宿る怨霊たちは同時に「それ」を感じ取った。
空気が震えている。
物理的な振動ではない。殺意と憎悪そして圧倒的な破壊衝動を伴った「何か」が猛烈な速度でこちらに向かっている。
(……来る)
リサは唸り声を上げシェリーに身振り手振りで指示を出した。
(…隠れろ)
言葉にはならないが、その切迫した表情がすべてを物語っていた。リサはシェリーとレッドを担ぎ敷地内にある建物の屋上へと登らせた。そこなら視界が開けており、かつ地上からの急な襲撃を避けられる。
「リサ……?」
不安げに問いかけるシェリーに、リサは一度だけ短くうなずき、レッドの目をじっと見つめた。
『この子を守れ』
怨霊の声が犬の精神に直接刻み込まれる。レッドは低く唸り忠実な番犬としてシェリーの傍らに陣取った。
リサは再び軽やかに塀を乗り越え警察署へと続くメインストリートへと降り立った。
ちょうどその時、空から冷たい雨が降り始めた。
アスファルトに叩きつけられる雨音が不気味な静寂を塗り替えていく。
リサは骨のトマホークを握りしめ、雨に濡れる道路の先を凝視した。
遠くから聞こえるのは、雷鳴か。あるいは――。
ズシン、と大地が揺れた。
雨のカーテンの向こう側から、重厚な足音と共に絶望的なまでの威圧感を纏った影が姿を現そうとしていた。
タイラントの登場に意識を奪われた一瞬。それは生物兵器同士の戦いにおいて隙となった。
「ガァアア!」
腕を失ったはずのネメシスが、地べたに転がっていた燃え尽きた車両の残骸を強引に掴み上げ、リサに向けて全力で投げつけた。
凄まじい重量の鉄塊が空を切り裂き、リサへと襲いかかる。
(……っ!)
リサは瞬時に反応し、側方へ跳んだ。爆音と共に車体がアスファルトに激突し、火花と破片が飛び散る。だが、この攻撃の真意はダメージを与えることではなく、「距離を置くこと」にあった。
その隙に、ネメシスは飛びつき路上に捨てたグレネードランチャーを回収し、素早く通常弾を装填した。
しかし、リサが車体を避けた瞬間、背後からもう一つの絶望が襲いかかる。
突撃し、に間合いを詰めていたタイラントが巨大な拳を振り下ろしたのだ。
「アンブレラァ!!」
リサは振り返りざまにその拳を最小限の動きで躱し骨のトマホークを横一閃に薙いだ。
鋭利な骨の刃はタイラントの防弾コートごとその分厚い胸板を深く切り裂いた。タイラントがよろめく。リサにとってこの個体の攻撃速度は先ほどのネメシスよりも緩慢に感じられた。
(ここで終わらせる!)
リサはさらに踏み込み、タイラントの喉元へトマホークを突き立てようとしたその時――。
ドォォン!!
激しい爆発音が至近距離で鳴り響いた。
ネメシスが放った通常弾が、リサを妨害するように発射された。気づき躱したが猛烈な衝撃波に押し出され、リサは後方へ大きく吹き飛ばされた。
「……ガハッ!」
泥水にまみれながらもリサが顔を上げると、そこには異様な光景があった。
切断されていたネメシスの左腕がうごめく触手のような肉塊となって猛烈な速度で再生し元の形を取り戻していたのだ。
(……チッ)
リサの脳内で、インディアンの怨霊たちが低く分析的にささやいた。
『リサ。この黒いコートの方は、先ほどの個体とは違う。状況を判断し、連携して汝を妨害する知能を持っているな』
単なる破壊衝動に従うタイラントに対し、ネメシスは「目的」を遂行するための最適解を導き出そうとしている。
雨の中、再生した腕でランチャーを構え直すネメシスと、再び無表情に歩み寄るタイラント。
リサは口端から血を拭い、骨のトマホークを強く握りしめた。
目の前にはアンブレラの最高傑作たちが二人。だが、彼女の瞳にあるのは恐怖ではなく、燃え上がるような復讐心だった。
降りしきる冷たい雨が、アスファルトに叩きつけられていた。視界を遮る白濁した雨幕の中、リサは二体の絶望的な巨躯に狙われていた。
目の前には岩のようにどっしりと構えたタイラントが立ち塞がり、そのさらに奥ではネメシスが距離を取りながら獲物を狙い定める猟師のような視線でこちらを凝視している。
リサにとって、この状況は絶望ではなく歓喜だった。復讐の対象が一度に二体も揃ったのだから。
しかも、相手はアンブレラ社が心血を注いだ最高傑作たちである。特に後方のネメシスが構えるグレネードランチャーは、一度の命中こそ致命傷にはならないまでも、直撃すればリサに対して十分な威力を持っていた。
リサの脳内で、インディアンの怨霊たちが冷徹にささやいた。
『簡単だ、リサよ。目の前の鈍重な巨躯を使い、後方の射線を潰せ』
(……言われなくても分かっている!)
リサは獣のような咆哮を上げ地を蹴った。その加速は凄まじく雨粒が彼女の周囲で弾け飛ぶ。
ネメシスが即座に反応しランチャーの銃口を向けた。だが、リサの速度は生物兵器としての想定速度を遥かに上回っていた。
タイラントが巨大な拳を振り下ろそうとしたその瞬間、リサはその懐へと深く飛び込んだ。
彼女はそのまま、ネメシスの視界から自分の姿が完全に消えるまで、タイラントの巨体に密着して潜り込む。今リサを狙う弾道上にはあろうことか味方であるはずのタイラントという「肉の壁」が立ちはだかっていた。
ネメシスは焦った。標的を失い、銃口の先にいるのは自社の製品であるタイラントのみ。射線を確保しようと横へ移動しようとするがリサはタイラントの体が盾になるよう動き狙いがつけれない。
(今だ!)
リサは骨のトマホークを鋭く振り抜いた。あえて両断して盾を壊さないよう加減しつつも、タイラントの側面に深い斬撃を刻み込む。激痛に身悶えするタイラントをそのまま力任せに前方へと押し出した。
巨大な肉の壁を前面に据えたまま、リサは猛烈なスピードでネメシスへと突き進む。
その光景はまるで、破砕機に向かって突っ込んでいく弾丸のようだった。
(接近はまずい!)
ネメシスの擬似的な知能が警報を鳴らした。接近戦になれば、先ほどのような惨劇が繰り返される。彼は咄嗟に判断し目の前に迫りくる「タイラントとリサの塊」に向けて、距離を強制的に空けるため足元へグレネードランチャーを発射した。
ドォォォン!!
凄まじい爆風と火炎が路上の雨水を一気に蒸発させた。
だが、リサはタイラントの巨体に完全に身を隠していた。爆風の直撃を正面から受けたのは重症を負ったまま盾にされていたタイラントである。
轟音と共に、機能停止したタイラントの体が後方へ吹き飛んだ。
リサは用済みとなったタイラントを、まるで不要なゴミを捨てるかのように路上の壁へと放り投げる。
泥水と血にまみれながらも、リサは構える。
雨に濡れたアスファルトの上に立つ14歳の美少女の瞳には、狂気と憎悪が混ざり合った冷たい光が宿っている。
対峙するネメシスは、ランチャーを構え直し、喉から不気味な唸り声を上げた。もはやそこにあるのは「捕獲」という任務ではない。どちらかが完全に破壊され、肉塊となって地に伏すまで終わらない、泥沼の殺し合いだけだった。
雨は激しさを増し、視界は白く塗り潰されていた。
ネメシスは自らの弱点を理解していた。近接戦になれば勝ち目はない。彼は後退しながらも絶え間なく攻撃を仕掛け、リサとの間に物理的な距離と障壁を作り出そうとした。
ドォォン! ガシャァッ!!
グレネードランチャーから放たれる爆発弾と共に、ネメシスの右腕から伸びた触手が周囲の瓦礫や燃え尽きた車両、さらには街を封鎖するために設置されていた金属製のバリケードを強引に引きちぎり、リサへと投げつけた。
「ガァッ!」
リサは空中で身をよじり、飛んでくる鉄塊を紙一重で回避する。だが、次から次へと降り注ぐ瓦礫の雨と爆風が彼女の進路を塞いでいた。
弾丸を切らして隙ができるまで待つのも一つの手だろう。しかし、リサの中にあるのは忍耐ではなく、焦燥に近い激しい憎悪だった。
(……面倒くさい!)
リサは唸り声を上げ、あえて真っ向から突っ込んだ。
爆風を身に受けながら、瓦礫の隙間を縫うようにジグザグに加速する。骨のトマホークを構え、一歩、また一歩と確実に距離を詰め、ネメシスの喉元へと手が届くところまで迫った。
あと数メートル。
ネメシスが最後の一撃を放とうとランチャーの銃口を下げたその時だった。
――ズゥゥンッ!!
大地が、先ほどよりも遥かに激しく揺れた。
リサの背後、つい先ほど「ゴミ」のように放り投げられたはずのタイラントがいた場所から、凄まじい衝撃波と共に肉が弾ける音が響き渡った。
(!?)
リサが反射的に振り返ると、そこにはもはや「帽子を被った紳士な処刑人」の姿はなかった。
破裂した防弾コートを脱ぎ捨て、剥き出しになったのは赤黒い筋繊維の塊と、巨大な鉤爪のような指先。皮膚を突き破って現れた、醜悪で禍々しい真の姿――『スーパータイラント』がそこにいた。
その咆哮は雨音さえもかき消し、周囲の窓ガラスを粉砕させた。
絶望的なまでの破壊力を備えた超級生物の復活。そして、目の前には依然として武器を構え機会を伺うネメシス。
リサは骨のトマホークを強く握りしめ、狂気に満ちた笑みを浮かべた。
目の前で咆哮を上げるスーパータイラント。その圧倒的な威圧感に、普通の人間なら心停止を起こすだろう。だが、リサの思考は極めてシンプルだった。
(……あいつが完全に立ち上がる前に、こいつを片付ける)
リサはネメシスへと視線を戻した。もはや駆け引きなど不要だ。一気に距離を詰め、その首を骨のトマホークで断ち切る。そう決めた瞬間、リサの身体が弾かれたように加速した。
しかし、ネメシスは単なる生物兵器ではなかった。彼はリサの速度と殺意を正確に読み取っていた。そして彼が出した結論は「共倒れ」という最悪の賭けだった。
(……逃がさない)
ネメシスは後退するのをやめあえてリサを受け入れる形で足を止めた。そして、予備の弾薬を含むグレネードランチャーが爆発するよう自分自身の足元に向けて至近距離で叩き込んだ。
ドォォォーーン!!!
凄まじい爆発が路上の中心で巻き起こった。
視界を塗り潰すほどの白い閃光と猛烈な熱風。ネメシスは自らの肉体を犠牲にしてリサという最大の脅威を道連れにしようとしたのだ。
(!?)
超人的な反射神経を持つリサは、爆発の直前、本能的に後方へと大きく跳躍した。
衝撃波が彼女の背中を叩き、泥水と共に後方へ押し戻される。爆煙の中から現れたネメシスは全身に深い火傷を負い皮膚が焼け爛れていたが、それでもなお生存していた。
だが、リサが着地した瞬間、彼女の背後に「暴走した怪物」が立ちはだかっていた。
ガアァァァッ!!
完全に覚醒し、理性を捨て去ったスーパータイラントだった。
彼はもはやアンブレラの指示など待っていない。目の前にいる自分を惨めに扱い肉の盾として利用した小さな少女への怒りと本能的な破壊衝動だけが彼を突き動かしていた。
リサが振り返る暇もなく、巨大な鉤爪が空を切り裂いた。
キィィィン!!
間一髪で骨のトマホークで防いだが、衝撃だけで足元の地面がひび割れ、リサの身体は後方へ数メートル弾き飛ばされた。
腕に伝わる痺れが、スーパータイラントの筋力が以前とは比較にならないほど跳ね上がっていることを告げていた。
前には焼け爛れた執念のネメシス。
右には破壊の化身となったスーパータイラント。
口端からわずかに血が漏れた。リサはそれを不快そうにぺっと地面に吐き捨て、視線を上げた。
目の前には、山のような巨躯となったスーパータイラント。その鉤爪は鋭く、一撃で車を真っ二つにするほどの破壊力を秘めていた。
ガアァッ!!
スーパータイラントが長いリーチを活かし、猛烈な速さで爪を振り下ろす。
しかし、リサの瞳にはその軌道が明確に見えていた。彼女は最小限の動きで身をひねり、骨のトマホークの腹で爪を受け流す。金属音が激しく鳴り響き、火花が雨の中で散った。
『……単純なのは変わりないな』
脳内で怨霊たちが冷ややかにささやく。
スーパータイラントは圧倒的なパワーを持つが、その攻撃は本能に忠実であり、戦士としての「技」はない。リサは舞うようにその猛攻を躱し、隙あらば鋭い切り込みを入れた。だが、相手の皮膚があまりにも強固なため、決定打を与えるまで深く踏み込むことができない。
(……見切った)
リサが呟いた瞬間、彼女の身体が弾かれた。
スーパータイラントが繰り出した剛腕の懐へ潜り込み、骨のトマホークを最大速で振り抜く。
ズバァッ!!
鮮血が舞い、スーパータイラントの右腕が根元から切り飛ばされた。絶叫する巨躯。リサはそのまま勝ち名乗りを上げるため、とどめの一撃を叩き込もうと踏み込んだ。
だが、その瞬間、戦場にさらなる狂気が介入した。
「ギィィィアアア!!」
爆炎の中から現れたのは、もはやネメシスという個体の形を保っていない「何か」だった。
全身からおびただしい数の触手をのたうちさせ、理性を完全に喪失して暴走したネメシスである。彼は周囲にあった車やバリケードをまとめて掴み上げ、リサに向けて乱射するように投げつけた。
(っ!)
リサは反射的に後方へ跳んだ。瓦礫が彼女を追い越して地面に激突し、凄まじい土煙が舞う。
暴走したネメシスはそのまま弾丸のような速度で突撃してきたが――彼はリサを無視した。
標的は、腕を失い無防備な姿を晒していたスーパータイラントだった。
「ガアッ!?」
驚愕に目を見開くスーパータイラントを、ネメシスの触手たちが網のように絡めとる。
逃れる間もなく、ネメシスは巨大な口を裂いてスーパータイラントの肩口に噛み付いた。
(……!?)
リサは呆然とその光景を見た。
ネメシスは同族であるはずのタイラントを、獲物として捕食し始めていたのだ。触手が肉を締め付け、引きちぎり、貪り食う。生物兵器としての究極の生存本能が、目の前の強大な有機物を「栄養源」として認識したのだろう。
雨の中で繰り広げられる、醜悪な怪物の共食い。
リサは骨のトマホークを肩に担ぎ直し、その光景を冷めた目で眺めていた。
(……アンブレラの最高傑作たちってのは、本当に救えない連中ね)
雨の中、スーパータイラントを捕食し、その膨大な有機物を吸収し始めたネメシスの姿は、もはや生物というよりは「飢えた肉塊」だった。体躯はさらに肥大し、皮膚の下で筋肉と触手が不気味にうごめいている。
リサの脳内で、インディアンの怨霊たちが困惑したようにささやいた。
『……これは少々、面倒なことになりそうだな。あのような怪物を取り込めば、再生力も攻撃力も跳ね上がるだろう』
今のネメシスは進化の真っ最中だ。このまま待てば、さらに強力な力を手に入れた「究極体」が完成してしまう。それではシェリーを雨の中これ以上待たせてしまう。
『リサよ。提案がある。……二刀流だ』
その言葉を聞いた瞬間、リサの瞳に狂気の色が濃くなった。
彼女は迷うことなく、自らの左腕を掴むと凄まじい力でねじ切り引きちぎった。
「ガアッ!!」
激痛などない。あるのは破壊への衝動だけだ。
引きちぎられたばかりの肉塊が怨霊たちの力と複合ウイルスの超速再生能力によって瞬時に再構成される。血飛沫と共に現れたのは、右手に持つものと対になる白く鋭利な「骨のトマホーク」だった。
リサが二本の斧を構え終えたときちょうどネメシスによる捕食が終わった。
スーパータイラントという最高級の栄養源を取り込んだネメシスは、その身体構造を再構築し、さらなる進化を遂げようとしていた。皮膚が裂け、骨格が組み替わる。
だが、リサはそんな進化を待つ、礼儀を尽くすつもりはなかった。
変化が終われば強くなるなら、変わる前に殺せばいい。それが彼女と怨霊の結論だった。
「アンブレラァアア!!」
怨霊は囁く。
『大地の恵みを貪りすぎた獣は足取りが重くなる。今のあやつはただの肥満した肉塊に過ぎぬ』
絶叫と共にリサは地を蹴った。
雨の路面を切り裂き弾丸のような速度で突撃する。両手に握られた骨のトマホークが白く閃いた。
ネメシスは不完全な形態のまま、驚愕に目を見開いた。進化をする余裕など微塵もない。リサの姿は迫ってくる、二本の斧がX字を描いて、進化途中の肉塊へと猛烈に振り下ろされた。
雨は激しさを増し、視界を白く染めていた。だが、その白いカーテンを切り裂いて突き進むリサの姿だけは鮮明だった。
「ギィィアアア!!」
暴走し、スーパータイラントを取り込んだネメシスが絶叫した。その身体から、鞭のように鋭く長い無数の触手が四方八方へと弾け飛ぶ。一撃一撃がコンクリートを砕き、アスファルトを抉り取るほどの威力を持っていた。
だが、今のリサには二本の斧があった。
シュッ! ザシュッ!!
右手のトマホークで襲いかかる触手を叩き落とし、同時に左手のトマホークで横から迫る肉塊を切り飛ばす。
手数が増えたことで、リサの防御と攻撃は完璧な調和を見せていた。かつてなら回避に専念していた場面でも、今は切り裂きながら前進することができる。
ネメシスにとって、目の前の少女はもはや生物ではなかった。あらゆる攻撃を無効化し、着実に死へと近づいてくる「死神」そのものだった。
捕食こそ終わったが、スーパータイラントの膨大なエネルギーを完全に制御しきれていない。吸収が不完全なため、再生が追いつかない。
振り回せば当たるはずの濃密な触手の嵐もリサの双刃によって次々と切断されていく。切り落とされる速度が再生される速度を完全に上回っていた。
(……終わりよ)
リサは心の中で冷たく言い放った。
最後の一撃を叩き込むため、彼女はネメシスの懐へと深く潜り込んだ。触手が絡みつくよりも早く、右手の斧が肩口に深く突き刺さり、左手の斧が喉元を横一文字に切り裂いた。
ザシュッ!! ズガァッ!!
慈悲などという言葉は、リサの辞書にはない。
彼女はそのまま怒涛の連撃を繰り出した。右から左へ、上から下へ。骨のトマホークが肉を断ち、骨を砕き、内臓を撒き散らす。
「ガ……ハッ……」
絶叫さえも許されなかった。
ネメシスの巨躯はリサの双刃によって切り刻まれ、文字通りバラバラに解体されていった。最強の生物兵器として設計された肉体も、復讐という名の狂気と戦士の技を併せ持つ少女の前では、ただの肉塊に過ぎなかった。
やがて、激しい攻撃が止まった。
激しい肉撃音が止み、そこにはただ、絶え間なく降り続く雨音だけが残されていた。
足元には、かつて最強と呼ばれた生物兵器たちのなれの果てが、醜い肉塊となって転がっている。
リサは荒い呼吸を繰り返しながら、静かにその死体に近づいた。
この手の怪物たちはしぶとい。完全に生命活動が停止したのか、あるいは再生の機会を伺って潜伏しているだけなのか。それを確かめる必要があった。
リサは自身の腕から一本の鋭い触手を伸ばし、ネメシスの心臓があったと思われる中心核へと深く突き刺した。
(……静かだ)
脈動はない。神経系の電気信号も途絶えている。
スーパータイラントを取り込みさらなる進化を遂げようとした怪物は、リサの双刃によって完全に断ち切られた。ここにあるのはただの腐敗し始めた有機物の山に過ぎない。
ふと、リサの脳裏に記憶の断片が浮かんだ。
自分が受けた数えきれないほどの実験。その過程で、自分にもネメシスと同じような「制御用」あるいは「強化用」の生物埋め込み処置が施されていたはずだ。
(……私の中にも、あいつと同じものがいたのかしら)
だが、すぐにリサはその思考を打ち切った。
そんなことはどうでもいい。自分が何であるか何を投与されたかなど、今の彼女にとっては何の意味も持たない。重要なのは目の前の敵を屠ったこと。そして、まだこの地獄の中に守るべき少女がいるということだ。
「……ゥゥ」
リサは低く唸り声を上げた。それは勝利の咆哮ではなく焦燥に近い声だった。
戦いが長引いた。シェリーは今頃どうしているだろうか。屋上で雨や不安に震えていないか。レッドがちゃんと彼女を守っているだろうか。
リサは血に染まった骨のトマホークをゆっくりと引き抜き、振り返った。
雨に煙る警察署の建物を見上げ、リサは急ぎ足で歩き出した。
狂気に支配された怪物としての自分ではなく、今はただ、一人の少女に寄り添う「お姉さん」として戻らなければならない。
勝ったッ!バイオハザード3完!