俺だけの聖域   作:ゆずみかん#HQ

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#13 共犯者の熱伝導

白布の「ブルーシート張るぞ」っていう脅しが効いたのか、深夜の病室はやけに静かだった。

点滴の液が一定の速さで落ちる音と、隣のベッドから聞こえる、少しだけ落ち着いた寝息。

 

(…あー。喉、痛ぇ…。)

 

唾を飲むたびに、意識が強制的に覚醒する。

でも、昨夜のあの「絶望的な沈黙」とは違う。

すぐ横に、俺と同じようにボロボロになりながら、それでも「次は勝つ」なんて息巻いている不屈の勇者がいるから。

 

俺は、暗闇の中で自分の指先をじっと見つめた。

さっき、一瞬だけ見た、すずの顔。

赤くなった頬と、少しだけ潤んだ目。

…「いかつい女」なんて、どの口が言ったんだよ、俺。

 

(…あんな顔で「怖い」なんて言われたら、治は絶対放っておけねーわな。)

 

ふと、また治の名前が頭をよぎる。

あいつら2人の間に何があったのか、俺は知らない。

でも、あんなに脆くて、必死に自分を保とうとしているすずが、治の前でだけは「鎧」を脱げなかった理由は、なんとなくわかる気がした。

 

たぶん、近すぎるんだ。

近すぎて、過去を知られ過ぎているからこそ、弱っている自分を見せるのが死ぬほど怖いんだろう。

 

俺は、サイドテーブルに置かれたホワイトボードに、そっとペンを走らせた。

明日、彼女が起きるまでには消してしまう、自分だけの備忘録。

 

キュキュ、と静かな病室に不釣り合いな摩擦音が小さく響く。

インクが掠れないよう、いつもより少しだけ筆圧をかけて、一文字ずつ。

 

『すずお前、笑ってる方がマシだわ

 泣いてる顔は、もう、お腹いっぱい

 次は俺が負けてやるから、またなんか面白い罰ゲーム、

 お前も考えとけよ』

 

書き終えて、ふっと鼻で笑う。

負けてやる、なんて言ったが。

…多分、実際に体温計を挟んだら、俺はまた1分後の勝利を願うんだろう。

 

ふと隣を見ると、すずが寝返りを打って、こちらを向いた。

布団から少しだけはみ出た彼女の手が、何かを探すように微かに動く。

俺は、自分の手を伸ばして、その指先にほんの少しだけ触れた。

熱のせいで、お互いの体温がどこまでが自分のもので、どこからが相手のものかわからない。

 

じわり、と指先から侵入してくる熱が、弱った心臓を急かすように叩く。

ただの熱のせいだ、と自分に言い訳をする。

 

「…おやすみ、バイオテロリスト。」

 

掠れた声で小さく呟いて、俺もゆっくりと目を閉じた。

明日の検温、また38℃超えてたら、今度は白布に何を言われるだろう。

 

でも、そんな「明日」が来るのが、今は少しだけ楽しみだった。

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