俺だけの聖域   作:ゆずみかん#HQ

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#2 沈黙の会話

白布のやつ、相変わらず配慮の欠片もねーな。

 

「こいつはすず。お前と同じ病気の同じバカだ。…太一、こいつ監視しとけ。」

 

「いや、なんで俺が」と俺が反論する間も与えず、白布そう言い捨てた。

挙句、仕切りのカーテンを全開にしたまま消えた。 


残されたのは、真っ白な顔で天井を見上げている女の子と、車椅子で乗り込んできた俺。

 

(……あ。見覚えあるわ、この子。)

 

マスク越しでも分かった。


先日、白布と治と一緒に「おにぎり宮」で飲んだ時、カウンターの端っこで死んだように突っ伏して出汁だけ飲んでた子だ。


治が「小学校からの腐れ縁やねん。」って、困ったように笑って紹介してたっけ。 


そうか、あの時からもう相当キてたんだな。

 

…にしても、気まずい。


女の子が寝てるところに、こんなデカい男をノーガードで晒すなんて、白布の神経を疑う。

案の定、彼女—すずは気まずそうに寝返りを打ち、俺に背を向けた。

「……あー、ごめん。……閉めるわ、これ。」

 

自分でも引くくらい、声が掠れてる。

一言出すだけで、喉の奥を剣山で全力で突き刺されたような痛みが走る。

これは萎える。

自分で閉めようと手を伸ばしたが、今の俺にはこの数センチが遠い。

指先が、絶妙に届かない。

 

「……あ、ごめん。私がやるよ。」

 

すずが体を起こそうとしたが、すぐに「……っ、あ、やっぱり無理だ...。」と喉を押さえて顔を顰めた。


彼女の声も、俺と同じくらい死んでる。

 

ああ、この子も相当キついんだな。


「お疲れ」とか、何か声をかけようとしたが、喉の奥から迫り上がってくる咳のせいで言葉にならない。

 

「あ、ダメ!」

 

彼女が掠れた声で俺を制し、ホワイトボードを差し出してきた。

 

『ダメだよ、喋ったら悪化するって白布先生が言ってるから。言いたいことはここに書いて!』

 

…なるほど、合理的。 


差し出されたボードを受け取り、短く書き殴る。

 

『サンキュ。川西太一、大4、経済。』

 

すずの目が、少しだけ見開かれた。

 

『私も大4! ○大の農学部。川西くんは?』

 

まさかの同大。 


理系か。


白布と同類なんじゃねーか?
俺は心の中で小さく毒づき、ボードを返した。

 

『同大か。すごいな、こんな場所で同級生に会うとは。よろしく。』

 

彼女がその文字を見て、マスク越しにふふっと肩を揺らした。

 

声を出せば激痛。

喋れば白布に怒られる。 


そんな最悪なロスタイムの始まりだったけど。 


 

沈黙の中でペンが走る音だけが響くこの時間は、案外、退屈しのぎにはなりそうだった。

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