俺の、往生際が悪くて、最高に最低で不謹慎な愛。
どう伝えようか。
一瞬いつものリード・ブロックが働きそうになったが、やめた。
俺の飾らないそのままの想いを、ただこいつにぶつけるだけでいい。
こいつがそうしたように、その方が真っすぐ響くんだ。
「俺は…お前のこと、本当はただの戦友だなんて思ってねぇ。1人の女として、お前が好きだ。」
すずの目が信じられないといった様子で見開かれる。
壁に掛かった時計の秒針がチクタクと刻む音だけが、急に大きく耳に届いた。
病室の常夜灯のわずかな光に、熱でうるんだ瞳が反射して、ただただ綺麗だ。
「でも、自惚れるな。俺がお前にこんなにも惚れてしまったのは、お前が完璧に魅力的だったからじゃねぇ。お前がめんどくさくて、救いようがないくらい自意識過剰の塊で、他人の優しさに怯えて独りで地獄に落ちるような、そんな不器用な奴だからだ。…でも、そんな格好悪い姿のまま泥臭くあがいて、真っ直ぐ生きようとするお前の生き方に、俺の計算はとことん狂わされた。目が離せなくなったんだ。」
すずは、唇を小さく震わせたまま、何も言えずに俺を見つめている。
廊下の奥から、遠くで救急車のサイレンが微かに聞こえては消えていく。
「どんなに格好悪く泥を啜っても、往生際悪く理想にしがみついて、ふとした瞬間に嘘偽りのない素直な笑顔を見せてくれる…そんなお前の一番近くに、俺はずっと居たかったし、支えてやれる自信があった。お前の隣に無条件に居座り続けられる治を、蹴散らしてでもな。」
噓偽りなくなんて簡単に言ったけど、自分事になるとどうしてもプライドがチラつく。
負け確の恋心に対する、ジェラシー全開の自爆告白。
クソだせえ。
そんな自嘲の感情に、一瞬逃げたくなる。
でもそんな俺を射止めるように、病室の常夜灯は照り続けた。
「お前がシャバに出て、また『光』の中で勇者様として背伸びして生きる姿も、俺は全部眩しいと思ってるし、守りたい。だけどな、俺が隣に居ると、お前の弱さを知っているせいで、お前が無理した瞬間に俺のこの『傲慢さ』がお前のプライドごとぶち壊して、影に引きずり戻しちまう。それはお前が『自分に誇りを持って生きたい』っていう理想の邪魔になるんだわ。お前のその背伸びを、何も言わずにただ丸ごと受け止めてやれる器は、俺にはねぇ。…だから、お前の『これからの居場所』って役目だけは、喜んで治にくれてやる。」
俺は一歩、ベッドの距離を詰めた。
シーツが擦れる音が、妙に生々しく夜の空気を震わせる。
すずの視線を絶対に逸らさせないだけの気迫で、言葉を重ねた。
「でもな、お前にとっては長い人生のたった1か月だとしても、俺にとっては俺の理屈を全部ゴミ箱行きにしてでも守りたい存在に出会えた、一生ものの1か月なんだよ。だから、感謝なんて綺麗ごとで、俺のこの1か月を終わらせられると思うなよ。」
すずの瞳から、ついに一筋の涙が頬を伝って、常夜灯の光の中に落ちた。
彼女は痛む喉を震わせ、掠れた声で、でも逃げずに真っ直ぐ俺の目を見て、言った。
「…ごめん。太一。私は…太一のことを、そういう意味で、好きには、なれん。」
はっきりと、残酷に突きつけられたお前の拒絶。
でも、その顔は、申し訳なさそうに濁すようなずるい顔じゃなかった。
俺の想いに全力で向き合った、勇者様の顔だった。
「分かってるよ。だから言っただろ、自惚れるなって。」
俺はわざと意地悪く笑ってみせる。
「振られたからって、俺が大人しく身を引いて、ただの『いい思い出の男』になってやる義理はねぇんだよ。言っておくが、『振っちゃったから、太一のために距離を置かなきゃ不誠実だ』なんてチンケな気遣い、一瞬でも見せたら許さねぇからな。お前が俺をどう振ろうが知ったこっちゃねぇ。これからシャバに出ても、これまで通り、気遣いも優しさもない、狂った関係でいろ。お前が俺だけに見せてくれた醜い部分も、この不謹慎な病室の空気も、治には到底踏み込めない、俺だけの聖域だ。俺のこの『一生ものの刻印』を、お前の胸に一生刻んだまま、バカで最低な戦友のままでいろよ。分かったな?」
すずは涙を流したまま、でも、全てを受け入れる覚悟の笑顔を浮かべた。
「うん…望むところや。これからもよろしく、戦友。」
すずを苦しめ続けた、「勇者様」で居なきゃならないという、強迫観念。
それからやっと解放されて、少しだけ肩の力が抜けて素直になれたとしても。
俺にとってはたった1人の、愛しくて不器用なバカ。
そんなこいつの恋人になれなくても、ナンバーワンになれなくても。
俺はこいつの人生の特別な場所に、一生居座り続けるオンリーワン。
俺らしくなくて、俺らしい、最高に傲慢な決意。
ああ、やっと、本当に、俺のポジショニングを確定させられた。
「…明日のバトル。どうせ3回とも俺の勝ちだろ。俺がルール決めるターンが2回来るはずだから、ルール先出ししとくわ。」
入院2日目にしてこいつに「マスク外せ」って言った。
あれはただの病室の中だけのルールだ。
だけど、これから言うことは、この閉ざされた聖域のルールをぶち破って、お前のこれからの人生に土足で踏み込むっていう、本当の意味で最低で踏み込んだ命令だ。
「1つ目の命令。入院記念に俺とツーショット撮れ。ただのツーショットじゃない。点滴つけたままで、ピースの片方の指を体温計にした、最強に不謹慎な一枚だ。お前がシャバで勇者様として生きる時、その笑顔の裏にあるこの『影』を、いつでも思い出せるように。」
大真面目に語る俺に、すずは「何それ、ほんとバカ」って涙の混じった声で微笑む。
毒づきながらも、「体温計ピースってこんな感じ?」って、俺に向けてやってみせる。
そんな愛しいバカに、俺はさらに畳みかけた。
「そして2つ目の命令。…LINE寄越せ。」
暗闇の中で、俺のスマホの画面が白く光り、すずの顔を照らす。
すずは迷いなく自分のスマホを重ね、QRコードを読み込んだ。
画面の中で、新しいトークルームが開く。
記念すべき一通目は、もう決まっている。
デートの誘い、これ一択だ。
振られたって関係ねぇ。
俺たちの不謹慎なゲームは、ここからシャバへ続くんだから。
廊下の足音もまばらになり、ますます深みを増した深夜の病院の空気。
その中で、その空気を無視するかのように光る、俺らのスマホ。
俺にはその光が、退院しても追放されない聖域獲得への勝利宣言のように思えた。