推しの魔法少女を助けたいTS転生魔法少女   作:きし川

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華野香織 ①

 香織は天井を眺めていた。

 眠らなければと思っても、眠れそうになかった。

 今日も学校に登校するつもりだったが、昨晩、無理をして戦いに行こうとしたせいで体調が悪化し、休まざるおえなかった。

 分かっていた。

 体調を崩した状態で変身すれば、こうなることは分かりきっていた。

 でも、どうしても、行かなくちゃいけなかった。

 

 昨日、悪夢を見た。

 親友の双葉が魔物の結界に囚われ、貪られる夢を。

 悲鳴をあげて、飛び起きて、妖精フワンソンから魔物出現の報せを受けた。

 悪夢の光景が脳裏に浮かび、時間的に双葉が外出しているはずがないと分かっていても、居ても立っても居られず──飛び出した。

 

 魔法少女エーテルヴェールへと変身して、窓から飛び降り、走る。

 ヴェールは転移の魔法を使えない。空も飛べない。だから、全力で走った。

 身体に障るとフワンソンから忠告されてもヴェールは逸る気持ちを抑えきれなかった。

 悪夢が現実になることを何よりも恐れていた。

 けれども、気持ちとは裏腹に身体はついていかない。

 変身によって身体能力が上がっていても、香織の元々の体力や膂力は低いのだ。

 頭痛と倦怠感、鉛のように重い脚に苛立ちながら、フワンソンの案内でなんとか辿り着いたのは市内の公園。

 すでに魔物は退治され、その場にいたのは魔法少女が一人だけ。

 腰マントが特徴の軽装な衣装に身を包んだ赤い瞳の魔法少女──エーテルノワールが立っていた。

 

 ヴェールはノワールが苦手だ。

 会うたびにあなたは魔法少女に不適格だと言ってくる。昨晩もそうであった。しかし、彼女の言っていることに間違いはない。だから、足早に家に戻って悔しさに枕を濡らした。

 

 身体が弱い、魔法が弱い。

 エーテルズヴェールは弱い魔法少女だ。

 

 一方、エーテルノワールはどうだ。

 青い瞳の魔女の姿のマジシャンフォームによる多彩な魔法。

 赤い瞳の戦士の姿のファイターフォームによる強力な打撃。

 ヴェールにないものを全部持っている。

 唯一、彼女より優れているところと言えば魔力量ぐらいだ。

 

 なぜ自分はこんなに弱いのか。

 こんなことで双葉を守れるのか。

 香織は力のない自分に腹が立つ。無意識に掛け布団を握りしめていた。

 

「ノワールとの実力差を悩んでいるのか、香織」

「フワンソン……」

 

 机の上に降り立つ緑の羽毛を持つ一羽の鳥。自分を魔法少女に選んでくれたパートナー。察しの良いこの妖精は香織の悩みを容易く看破した。

 

「うん……ねぇ、フワンソン。私、魔法少女に向いてないのかな。双葉を守るなんて、私にはできないのかな……」

 

 香織は弱音を吐いた。

 珍しいことである。

 普段なら親にすらこんなことを言わないのにと、言ってからかおは自分に驚いた。

 今の現状に心が思いの外、堪えているのだろう。

 フワンソンは頭を振る。

 

「そんなことはない、君は魔法少女に相応しい人間だとも。そもそも君が自分と比べているノワールは魔法少女の中でも特異な存在である。君でなくとも彼女と比べれば劣る者はいる。それに、君がノワールより弱いからといって、それが親友である彼女を守れない理由にはならない」

 

 妖精の言葉に香織の心は少しばかり癒された。しかし、それでもやはり力が欲しい。

 幼いころからずっと側にいてくれた双葉(しんゆう)

 身体が弱いせいで誰も関わろうとしてこない中で、唯一側にいてくれた幼馴染。

 何としてでも守るんだ、今まで助けてくれたことの恩を返すんだ。

 香織はこの世界がとても危険だということを知っている。

 魔物は前触れなくやってきて、悲しい別れを作り出す。

 なにより双葉は香織にとって、たった一人の友達だ。もしいなくなってしまったらと思うだけで恐ろしい。

 この世界は突然そういう事が起こる。

 だから、魔法少女になれる自分が守らなきゃいけないんだ。

 

「もっと強くなりたい……強くならなくちゃ、ダメだ。ノワールよりも強くならないと双葉を守れない」

 

 今の自分を弱いと断じるノワールを超えることができれば双葉を守れる。

 悪夢が見せた最悪の光景が近い将来、親友との死別を来るという予感に思えて、香織は不安を募らせた結果、そう考えた

 

「どうしても不安に感じてしまうのだな、香織」

 

 フワンソンは思案に耽った。魔法少女へのアドバイスや手助けはパートナー妖精の責務である。

 少女の望みを叶えられる──応えられる物を妖精はすでに持っていた。

 

「香織、これを……」

 

 フワンソンは何もない空間からあるものを啄み、机の上に置いた。

 それは腕輪である。全体が赤くメタリックな光沢を放ち、水晶が一つ嵌め込まれている。

 

「それは……?」

 

 香織が上体を起こして、腕輪に目をやって尋ねた。

 フワンソンは答える。

 

「これはフュージョンリングという魔法の道具で、この水晶に保管された魔物と融合することでその魔物の力を得ることができる。つい最近、開発された物だ」

 

 それを聞いた香織は驚きで目を見開く。

 魔物の力を得る。

 にわかに信じがたいことだ。

 

「それって大丈夫なの? 魔物は人間を襲うんじゃ……」

 

 香織がそう訝しみながら言うと、フワンソンは頭を振った。

 

「それについては問題ない。これに補完されている魔物は人間を襲わないように調整されている──この魔物が君を(・・)襲うことはない」

「……それを使えば私は、ノワールを越えられる?」

 

 香織の質問にフワンソンは頷く。

 

「この魔物の能力は倍化(ブースト)。君の力や魔法はノワールより弱い。だが、フュージョンにより倍化の力を得ればノワールを超える事ができる」

「倍化……」

 

 香織は頭の中でフワンソンの説明を反芻する。

 自分の力が倍になる。

 頭の中でその力を使う自分を想像した。一昨日、戦った大蜘蛛を一撃で粉砕する木の巨人。

 その圧倒ぶりを脳裏に浮かべて、香織は笑みを浮かべた。

 

「ありがとう、フワンソン。それがあれば、きっと双葉を守れる」

 

 ベッドから出て、机に置かれたフュージョンリングに手を伸ばす。喉から手が出るほどに求めていた力を前に身体の体調のことなど意識の外だった。

 だが、その手が腕輪に届く前にフワンソンから待ったが入る。

 突然の制止に香織は、一瞬だけムッとした。

 

「香織、逸る気持ちはわかるが、今は身体を休めるべきだ。どれほど力が強くてもコンディションが悪ければ十全に振るうことはできない」

 

 もっともな指摘に香織は頷く。でも、心の片隅でほんの少し、お預けにされた苛立ちがあった。

 

「……そうだね、ごめんフワンソン」

 

 おずおずとベッドに戻り布団を被る。立ち上がったせいか、気分がまた少し悪くなった。

 でも、不快感はさほど感じない。

 身体が回復すれば、ノワールを超える力を振るえる。

 その楽しみが不快感を軽減していた。

 

 そのフュージョンリングが本来の歴史において自分の命を奪う物であるなど香織は知る由もなかった。 

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