眼の前の景色が変わり、私は森の中にいた。
ずいぶん深い森だ。
昼だというのに薄暗い。
そして、なにより森の奥から漂う異様な魔力──闇の魔力を肌で感じる。
「香織……」
杖を持つ手に力が入る。
前回のような失敗は許されない。
必ず、彼女を助けてみせる。
『ノワール、くれぐれも慎重に行きなさい。何があるか分からないわ』
「……分かってる」
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
冷静に、警戒しながら森の奥へ進む。
「……っ」
奥へ進むに連れ、闇の魔力の濃度が増して、黒い霧に視えてきた。おかげでただでさえ薄暗いのにより暗い。
それに……心なしか息苦しい。
闇の魔力が私にとって……いや魔物以外の生物にとって、決して良いものではないというのがよく分かる。
『っ……ノワール!』
ワルルが叫ぶのと同時に後ろに跳ぶ。
次の瞬間、木の幹から飛び出した針のようなものが、私のいた場所を貫いていた。
……木が攻撃してきた?
さっきまで何の変哲もない木が、どうして……?
『闇の魔力を浴び続けたせいね……半ば魔物化しているわね』
「そんなことも出来るものなの……?」
『闇の魔力は魔物の源よ。体内に蓄積されていけば、魔物が憑依したのも同じよ』
「じゃあ、香織も……急ごう!」
森の奥へと駆け出す。
ポーチの中からワルルが「落ち着きなさい!」と声を張る。
大丈夫、我武者羅に突撃しても良くないのは分かってる。だから、無警戒で突っ込むつもりない。
「エーテル・スフィア」
私の周囲に六つの紫色の球体が浮かぶ。この球体は私の意思で縦横無尽に動かすことができる。そして、砲丸のように重い。
『来るわよ!』
強い風が吹いたわけでもなく、木々の枝がざわざわと揺れ──大きくしなった。
振り下ろす気だ。
「撃ち抜け!」
球体の一つを飛ばし、枝が振り下ろされる前にへし折る。
「さらに、もう一本!」
球体を操作して、軌道を反転、別の木の枝も撃ち貫いて折る。
これぐらいなら球は一つでいけるか。
球がジグザグな軌跡を描いて邪魔をしてくる枝を折っていく。
へし折りながら、奥へ進む。
闇の魔力の濃度が上がってきた……香織はもうすぐそこだ。
「な……っ!?」
目の前に黒い渦が現れて、足を止める。
渦は周囲の黒い霧を巻き込んで、渦の中心に黒い塊を作る。それはやがて、ひどく曖昧な形をした獣に変わり、四つ足を身に着けた。
犬……だろうか?
かろうじてそう見えるソレは、犬が牙をむき出しにするようにして飛びかかってきた。
「遅い!」
後ろに跳びながらエーテル・スフィアの光球を放つ。
光球が顔面にめり込み、犬のようなものはその後ろにあった木に叩きつけられ、地面に落ちる。
輪郭が乱れ、姿形が崩れ──黒い粒子となって霧散した。
「……消えた?」
『いまのは、高濃度の闇の魔力が魔物として実体化……』
「
『普通はありえないことだけど、今なら可能よ。魔物とは雪だるまのようなもの。小さな核に魔力を足していくことでその存在を維持・増強できる。だけど、そうやって成長していく段階では存在を維持できないほどに脆弱。だから、こちら側の無機物や知性の低い生き物に憑依して身を守る殻にする──でも、ここは魔力がありえないほど多い。殻がなくとも存在できる』
闇の魔力の濃度が濃すぎると、こんな風になるのか……。となると、奥へ行けば行くほど魔物が行く手を阻むことになる。
「……っ」
飛び退いた時の衝撃でまた胸の痛みが主張を始めた。
けれど、足を止めるほどじゃない……。
だから、前へ進む。
闇の魔力の濃度が上がり霧がよく濃くなってきた。中心部は近い。
『来るわよ!』
宙に複数の黒い渦が現れた。
高濃度環境下による自然発生にしてはあまりに密集しすぎている。
誰かの意図を感じる──私の進行を阻みたい誰かの。
渦が黒い塊になり、様々な姿形をした魔物へ変わっていく。
犬に、鳥に、……蛸もいる。
陸上、水棲関係なく──統一感のない雑多な群となって、立ち塞がった。
「そこを退きなさい」
エーテル・スフィアの光球を全て操作して放つ。
六つの光球が群れを穿ち、まっすぐな道を切り開く。
だが次の瞬間には、道は次から次へと現れる魔物に埋められる。
「数が多すぎる……っ」
エーテル・スフィアでは魔物の群れを突破できそうにない。
でも、ビームで薙ぎ払えばいけるか? ……いや、ダメだ。この先にいるであろう香織を助けるために、元凶を倒すために魔力は温存しておきたい。
「……っ! しま──」
高速で移動する光球を掻い潜って、犬型の魔物の一体が突っ込んできた。
防御と回避は……間に合わない!
迫る魔物の牙。
次の瞬間、魔物は炎に包まれた。
「え……?」
その魔物だけでなく他の魔物も火達磨になっていく。いや、氷漬けになっている魔物もいる。
いったい、なにが……。
『ふぅ……さっそく仕事をしてくれたようね、フワンソン』
ワルルが妙なことを言った。
フワンソンが……?
なぜフワンソンの名前が出てきたのだろう……それを問い詰めるより先に頭上から強い魔力の気配が降りてきた。
「間に合った!」
「大丈夫、ノワール!?」
聞き覚えのある声、見上げればそこには赤とピンクの魔法少女と水色と青の魔法少女が降りてきていた。
「あなた達、どうして……」
「フワンソンからお願いされたの!」
私の右側に着地したローズが答えた。
「ノワールがヴェールを助けに行くから手助けをしてほしいって!」
私の左側に着地したブルシエルが言葉を引き継いで答える。
「行って、ノワール! ヴェールを助けて!」
「私の声はヴェールに届かなかった。でも、あなたなら、きっと届く!」
前に踏み出しローズとブルシエルがそれぞれの武器、赤熱するレイピアと冷気を放つ弓を構える。
だが大丈夫なのか?
「あの魔物は普通じゃない。大丈夫なの?」
「うん! 私たち強くなったから!」
「刮目せよ! 新たなる力を!」
ローズとブルシエルが左腕の袖を上げ、その手首に付けられた腕輪──私が持つ物と同型のフュージョンリングを(ブルシエルだけ少し興奮気味に)掲げる。
「いくよ、ブルシエル!」
「行きましょう、ローズ!」
──フュージョン!
二人の掛け声が重なり、一糸乱れぬ動きでフュージョンリングの水晶を撫でる。水晶から二体の魔物が飛び出す。
ローズの腕輪からは炎を纏った不死鳥。
ブルシエルの腕輪からは鎧を装着した冷気を纏う八本足の軍馬。
不死鳥はローズの頭上を旋回して、急降下。ローズの体に突撃。
爆炎が生じ、炎の中から至る所に羽飾りのある衣装と極彩色の翼を背中に生やしたローズが現れる。
軍馬はブルシエルを中心に駆け回り、冷気の渦を生み出す。氷がブルシエルを包み、彼女が腕を振り払うと氷が砕け散り、左側に布面積が偏ったアシンメトリーな衣装のブルシエルが現れ、近づいてきた軍馬に跨った。
今の二人の姿を私は知っている。たしかあの形態の名前はローズフレイムとブルシエルブリザードだったか。
ローズフレイムは超高熱と再生能力。
ブルシエルブリザードは超低温と能力封印。
どちらも強力な形態である。
「……二人とも頼んだわ」
「うん!」
「そっちもヴェールのこと、頼んだわよ!」
ブルシエルブリザードの言葉に頷いて返し、群れに向かって駆ける。
出現した闇の魔力の魔物が行く手を遮るが、ローズフレイムの炎が波となって押しのけ、ブルシエルブリザードの生み出した氷柱が魔物を遮るように地面に突き立てられ道を作る。
氷柱で区切られた道を私は駆け抜ける。
『着いたわ。ここが一番魔力の濃い場所』
森の奥、木々の開けた場所に出た。不自然に円形に開けたその場所の中央には黒い液体の池がある。
「これは……」
『闇の魔力よ……濃度が高すぎて液体になっているけど』
これが全部、闇の魔力……。
近づいて池の様子を見ると、水底から気泡がいくつも浮いてきており湯気のように黒いガスが立ち上って空気に溶けている。
気分が悪くなりそうだ。
『ようやく来たか……待ちわびたぜ』
「っ……誰?」
池の周囲に木霊する低い声。辺りを見回しても人の姿はない……いや、こんな所に人がいるはずがない……。
「まさか……魔物?」
『ククク……惜しい、
ワルド、妖精……。
それが香織を乗っ取っている者の正体。
妖精なら知っているんじゃないと思い、ポーチの中にいるワルルに視線を下ろした。
「ワルル……?」
『ふん……一緒にしないでちょうだい。あなたは魔に堕ちた……もはや同族とは呼べないわ』
「同郷だってのに、つれないねぇ……まぁ、いいさ」
池の中央が沸騰したように泡立ち、水中から人影が。
……香織。
顔から感情が抜け落ちた香織が水面に立っている。
「香織!」
『呼んでも意味はないぞ。こいつの意識は深ーく沈み込んでいる』
香織は不敵な笑みを浮かべ、彼女の口からワルドの低い声が響く。
「香織を解放しなさい!」
『断る。これほど魔力に富んだ人間は珍しい。手放すわけがないだろう』
「香織の体を乗っ取って、どうするつもりなの!?」
『王になるのさ。“闇の王”にな』
「“闇の王”……? なんなの、それは……」
『闇の魔力を統べる王のことだ。かつて世界を滅ぼしかけた災厄の力……それを完全に我が物にすることで世界を俺のモノにする──これだけの魔力を有した身体ならば、王の器に相応しい!』
ワルドに乗っ取られた香織を中心に莫大な魔力が渦を巻く。暴風にも似た魔力の圧に飛ばされないように踏ん張る。
『だが、いまだにこの身体は俺に馴染んでいない。この娘の意識がいまだに抵抗しているからだ──だが、お前がここに来てくれたことでそれも解決できそうだ』
口角を上げ、ハイライトのない瞳が私を見る。
「どういう意味……?」
『この娘にとって大切な人間であるお前をこの手で殺せば、この娘は絶望し、完全に闇に呑まれるだろう』
渦巻く闇の魔力の動きが激しくなり、香織の体を包み込む。
それが弾けた時、香織は廃倉庫で戦った時の黒と灰色のエーテルヴェールに変わっていた。
『さぁ、俺の野望のための……犠牲となれ』
「そう簡単に、思い通りにはさせない……」
杖を構えて対峙する。
『いいね。この身体の肩慣らしにちょうどいい……』
黒いエーテルヴェールが指を鳴らすと、景色が塗りつぶされるように変わっていく。
逃げ場のない闘技場のような空間。
黒い雲が空を覆う。
魔物の結界だ。
『さて、開始早々終わってくれるなよ?』
「いいえ、一刻も早く終わらせる!」
──お前を倒して!
魔法陣を黒いエーテルヴェールを囲うように複数展開。
一斉にビームを放つ。
ビームは速く、射線に完全包囲されている。
避けられない。
そう思った──しかし。
『当たるかよ』
黒いエーテルヴェールが腕を一振した。
その瞬間、竜巻のように闇の魔力が奴を守るように吹き荒れ、決まった紫色の光線が散らされる。
魔力の密度で負けている……。
『この程度か……』
「まだよ!」
魔法陣からさらにビームを放つ。でも、狙いは黒いエーテルヴェールじゃなく──彼女の足元の地面。
ビームが直撃して、粉塵が舞う。
これで奴の視界は塞がれた。
「エーテル・スフィア」
展開する光球は八つ。
ビームより遅いが、密度は高い。
──いけっ!
粉塵に包まれた黒いエーテルヴェールを八方向から攻撃する。
一つ、二つは反応できても、他は食らうはずだ。
『そんな小手先が通じるとでも?』
粉塵が闇の魔力の波動が粉塵もろとも光球を吹き飛ばす。
……っ、なんて出力だ。
『今度はこっちからいかせてもらおう』
その言葉と共に黒いエーテルヴェールの姿が一瞬消え、私の眼の前に現れた。
──転移!?
現れた途端に繰り出された拳を杖で受け止め──
「く……っ!」
重すぎる……!
ただでさえフィジカル面の弱い
私の体は軽々と吹き飛ばされ、背中を壁に叩きつけられた。
壁まで飛ばされた……。
顔を上げ、奴を見る。
弄んでいるのか、追撃をしてくる様子はない。
『前より強くなってるわね。かなり闇の魔力に浸かって、元の病弱な体を強化している──これは様子見をしている場合ではなさそうよ?』
ワルルの言葉に頷く。
『どうした? 倉庫の時はもっと強かったぞ。なんならその腕輪でも使ったらどうだ?』
挑発するように黒いエーテルヴェールが言う。いや、実際そのつもりなのだろう。奴は私を殺すことで香織を絶望させると言っていた。
この腕輪……フュージョンリングを使えば、間違いなく自滅する。私は腕輪の中にいる魔物に相当嫌われているから。
だから、これは最後の手段だ──それに、まだ打てる手はある。
「……腕輪を使わなくても、あなたを倒すことはできるわ」
『ほう? いったいどんな手があるんだ?』
立ち上がり、杖を突き立てるように構える。
「エーテル・イリュージョン」
足元に魔法陣が浮かび、私の身体が光に包まれる。
私の身体が二つに分かれ、エーテルノワール(マジシャンフォーム)とエーテルノワール(ファイターフォーム)になった。
本来片方の形態でしか存在できないエーテルノワールが同時に存在している。
これが奥の手──エーテル・イリュージョン。
「行くよ、ワルル」
隣に立つエーテルノワール(マジシャンフォーム)の主導権を握るワルルに声をかける。私はファイターフォームの姿をしている。
『ええ、よくってよ。ただし最後の一滴まで絞り出しても三分が限界よ』
「それだけあれば十分だ」
言うやいなや私は駆け出した。
『何かと思えば分身か──その程度で勝とうとはなぁッ!』
黒いエーテルヴェールが腕を振るい、いつぞや香織が使った切断能力のある葉っぱを大量に放ってきた。黒い葉っぱは密集して大蛇のように動き、迫ってくる。
勘違いするなよ、エーテル・イリュージョンはただの分身攻撃の魔法じゃない。
『アクセル』
ワルルが魔法を唱えた。
その瞬間、私の体は加速する。
黒い葉っぱを掻い潜り──黒いエーテルヴェールにトンファーを叩き込む。
『おっとぉ! ──うごっ!?』
トンファーは腕で受け止められたが、ワルルが飛ばしたエーテル・スフィアの光球が奴の体を激突、たたらを踏ませた。
その隙を見逃さず、私は蹴りを叩き込んで、今度は黒いエーテルヴェールを壁に叩きつける。
『なるほどな、自分を割ってコンビネーションってわけか』
大したダメージを受けた様子はなく、黒いエーテルヴェールは服の埃を払い落としながら感心したように言う。
私は肯定も、否定もせず──構える。
『しかし、いいのかぁ? この身体はお前のお友達のものなんだぜ。ケガさせていいのかぁ?』
攻撃を躊躇させる事を言ってくる。
たしかにそれは懸念点ではある。だけど、倉庫での戦いでは彼女の身体を気遣ったせいで止められなかった節もある。
手を抜くわけにはいかない。
「……ケガさせたら謝るよ。お前から助け出してから、何度でもっ!」
飛び出す。
今は効いた様子はなくても、いずれ効いてくるはずだ。
『それはできねぇな』
黒いエーテルヴェールの足下から植物の蔦が生え、鞭のように振るわれる。
『アクセル』
ワルルの加速の魔法で蔦を躱して走り抜けた。
奴の目の前まで踏み込み、トンファーを振り被る。
その時、奴の口角が上がった。
「……っ!?」
踏み込んだ左足に地面から飛び出した蔦が絡みつく。
『隙だらけだぜっ!』
黒いエーテルヴェールの回し蹴りが来る──
『ジャンプ』
景色が変わる。
ワルルの転移の魔法。
蹴りを空振った奴の後ろ姿が見え──一気に踏み込む。
「はぁっ!!」
トンファーで黒いエーテルヴェールの後頭部を打つ。
意識外からの攻撃だったのか、奴の顔は驚きと痛みに歪んでいた。
ふらつく身体にトンファーを振るう。
首に、胴に、腹に。
最初の一撃が効いたのか、黒いエーテルヴェールの防御は間に合ってない。
──ここが正念場だ!
「あぁぁぁっ!!」
ひたすらに打つ。
絶え間なく、打ち続ける。
『っ……調子に、乗るなぁ!』
黒いエーテルヴェールが口から霧状の何かを吐いた。
もろに浴びて、途端に目に痛みが走り涙が出る──目が開けられない……毒か。
奴の手が私の首を掴んだ。凄まじい力で首を握り潰さんばかりに絞められていく。
トンファーを手放し、両手で腕を引き剥がそうとしてもビクともしない。
これは、まずい……っ、首を折られる……っ!
『ノワール!』
『お前も、いい加減……目障りだ!』
黒いエーテルヴェールの反対の手がワルルに向けられ、足下から生えた木々がエーテルノワールの身体に絡みついて締め上げる。
苦痛に呻くワルルの声が聞こえる。
なんとか、しなくては……!
その時、赤い腕輪が目に入った。
──……一か、八か!
フュージョンリングの水晶を撫でる。
ノイズ混じりの音声が鳴ると同時に、わずかに力が漲った。
二倍にはほど遠い。
でも、この力に賭けるしかない。
思いっきり蹴った。
黒いエーテルヴェールの左腰にある──端末が入ったポーチを。
ワルドは妖精。
だから、ポーチの中に端末状態で収まっているはず。
パキンッ
静かに、だが確かに壊れる音が聞こえた。
『うっ、ぐ……っ、ああ──ァァァアアアッ!!』
私の首を離し、悶え苦しみ出す黒いエーテルヴェール。
石の床に崩れ落ち、手足をばたつかせてのたうち回り──香織の体から黒い何かが飛び出す。
人魂のようにも見える黒いモノ。
あれがワルドの本体か……?
いや、それよりも──
「香織……っ」
倒れ伏す香織に駆け寄ろうとして──踏み出した途端に脚の力が抜けた。
前のめりに倒れると同時に変身が解け、入院服の格好に戻る。
フュージョンリングの魔物め……魔力を根こそぎ持っていったな……!
力の入らない体をなんとか動かして、香織のそばにたどり着く。
肩を掴んで揺らす、何度も呼びかける。
お願いだ。目を覚ましてくれ……!
「う……っ」
うっすらと、香織の目が開く。
「双葉……?」
「っ……香織っ!」
彼女を抱きしめた。
温かい。
生きている。
よかった、本当によかった……っ!
「ごめんね、私のせいで……双葉が」
彼女の言葉に首を振る。
ちがう、香織のせいじゃない。
「香織は何も悪くない……私が香織のことを追い詰めたせいだ──ごめんなさい」
全部、私の身勝手のせいだ。
「……じゃあ、どっちも悪かったってことにしよう」
香織の腕が私の背中に回されて、より強く抱きしめられる。
彼女の鼓動が強く感じられた。
「謝りっこはこれぐらいにして……助けてくれてありがとう、双葉」
「香織……」
彼女の言葉が胸に染みた。
体の緊張が解けて、魔力の枯渇とは別の意味で体の力が抜ける。
っ……意識が。
瞼が重い。
頭に霧がかかったように思考が判然としない。
『ク、ソが……ッ! まだ、終わってねぇぞ……!』
──っ。
憎しみのこもった声が聞こえ、氷を当てられたように微睡みから意識が浮上する。
ワルドはまだ生きている。
体が少しずつ消えかかっているように見えるが、その身体から溢れる闇の魔力は健在だった。
『ウオオオォォォォ────ッッッ!!』
雄叫びのような絶叫。
闇の魔力が波紋のように広がり、闘技場を揺らす。
ワルドが宙に浮かび上がる。
闘技場の外──結界の外から黒い何かがワルドに向かって飛んでいき吸収されていく。
何が起こっているのか、分からない。だが、良くないことなのははっきりと分かる。
「双葉……」
密着している香織の体が強張った。
不安げな彼女に、何か言おうとして──言えず。
「……っ」
ただ、彼女を抱きしめることしかできなかった。