『おはよう!今日もいい天気になりそうだよ!』
紫がトリカブトを連れ帰ってから、数日が経っていた。コップから植木鉢へともう一度移し替え、栄養剤を土壌に刺してから、トリカブトはすっかりと元気を取り戻していた
そんなトリカブトをじっと眺めて、紫は少し考え込んでから口を開く
「……おはよう。いきなりだが、ここ数日思っていたことを聞いてほしい。あいさつを返したあと、何と呼べばいいかを迷うことが面倒だ。……名前を、つけてもいいか?」
紫の言葉にトリカブトは大きな声で肯定を示す
『うん!やった、私、お名前もらえるんだ!』
今にも動き出しそうなほど元気な声のトリカブトが、実際には少しも動いて居ないことに不思議な感覚がありつつも、紫は考えている名前を伝える
「百の花と書いてももかというのはどうだろうか」
『とっても素敵なお名前〜!えへへ、私、今日から百花!』
上機嫌な百花へ優しく水をやり、紫は朝の準備を始めた
ーーー
昼下がり、必要のなくなったラジコンのような小さな戦車やテスラコイル、ドローンたちを分解し紫は新しく設計図を引き始める
「立体的な移動は、やはり私の身体では負担が大きい。あまり動くことなく自衛ができる機器を作り出す必要があるな……天羽のように排除しなければならない相手でもなければ殺傷能力はそれほど高くなくともいいし、普段使いでは低周波化改造をやめて見た目で脅すことを優先するか。通常時の外観自体は見た目として警戒されないものである必要もあるな」
大きく広げた図面へ、滑らかに線が引かれていく
小さな指輪から、繋がっているブレスレットの電力を放電する仕組みを作り上げる放電時に自身の方向へは通電しないように空気よりも絶縁性の高いラバーで調整をした
設計が完成すると、紫は紙を片付けてアルバムを本棚から取り出した
『お昼はいつも読んでるけど、その本ってなーにー?』
「珍しいな、百花が昼に私に話しかけるのは。これは本ではなくアルバムだ。私の、家族の思い出が遺ってる」
紫はどこに視界があるのかは分からないが百花の方へと頁を開き見せた
「これが、私のお母さん。私を育ててくれた人だ」
紫は写真の中の母を指差し、どんな事があったかを百花に語る
「名前の由来を聞いた時は『みんなと縁があるようにっていうのと、生まれてきただけでと〜っても尊いから!』と答えていた。今ではその願いは叶えられてはいないが、そう願いつけられた名前が嬉しかった。何故私には父親が居ないのか聞いた時は、病により死したが父も私を愛していたのだと教えてくれた。毎日、私が話す内容を聞いてくれて、ただ褒めてくれた」
紙をめくる音と共に想起する記憶はどれも暖かく、
それが紫にとってただ苦しかった
そんな紫へ、百花は言った
『じゃあ、あなたは私にとってのお母さんなんだね!』
百花の言葉に、ノワールの姿が重なり、紫は動揺する
「……私は、違う。親には、なれない」
守れなかった、守られて死なせてしまった自分が親となれるはずがないと自身に言い聞かせるように放つ震えた声を百花が否定した
『お名前をくれて、お世話もしてくれて、死んじゃうだけだったはずの私をこんなに大切にしてくれた。だから、私はあなたのことをお母さんって呼びたいの……だめ?』
問に否を返そうと思考を巡らせるが、理屈をまとめることができない。揺れる視界の中で紫は絞り出すように、小さな声で答えた
「………………百花が、そう呼ぶことを望むのであれば、そう呼べばいい」
『!!うん!お母さんありがとー!大好き!』
返事をすることなく紫は布団に身を隠し、精神的な疲労を回復させるため睡眠を始めた