ブレスレット部分についたダイヤルを回し、指輪部分から発生する放電の周波・電圧が変化することを確認する
完成したそれを腕に付け、荷物を纏め車輪とプロペラを組み込んだバックパックを背負った
前髪の紫の花の髪飾りを整えて、ロングブーツの靴紐を編み上げる
組み上げた機械たちを並べ、最後の言葉を投げかけた
「……もう、帰ってくることはないが此処は私の生まれ育った家で、人間の税金がどうという話で奪われるのは我慢ならない。故に、お前たちが管理と維持をしていてくれ。誰かが故障すれば他の誰かが修復をすることも、新たに生み出すことも、私の研究データの使用も自己学習も自己進化も許可する。庭の花々とこの家を、どうか守ってやってくれ」
そう頼まれた機械たちは、全て頷くような仕草をして
一番大きなキャタピラのついたロボアームが、親指を立てた
「それじゃあ、元気でな」
パタリと閉じた扉を合図に、ロボットたちは動き始めた
ーーー
決めたことの報告と手続きの破棄を行うため、紺理小学校へ向かう最中に、紫は九知と出会った
反射的に結晶を構えるが、対面した九知は何かを言おうとしている様子を見せるが、言葉に詰まるように何も声を発さない
「……要件があるのなら手短に済ませろ木梨九知」
「〜っ!この前は酷いことしてごめんなさいっ!くそ、これでいいか花咲紫!」
紫に急かされて、意を決したように放ったのは謝罪だった
「…………それは、本心から出た言葉か?誰かから言わされているのであれば不必要だが」
「本心だよ!蜂やん先生と相談して、自分勝手なことだったって思ったから謝っておきたかったんだ!僕は思ったことをすぐ行動に移すタイプなんだ!けど勘違いすんなよ!僕が悪かったのは能力を使って攻撃に出たことだけで元々はこの僕の力をきちんと評価しないお前も悪いんだからな!そこは許してないからな!」
包み隠されていない本心に、一応は信用をして紫は返す
「謝罪を受け取るつもりはない。それは加害された事実を許すことと同義だからだ。しかし、自己の意思で言葉を交わしに来たことは褒めてやる。互いに、許さずに居ればいい」
「……お前、そんな変な奴だから虐められるんだよ。じゃあな」
言い終わると、九知はさっさとその場を離れていった
ーーー
保健室の扉を叩くと、いつものように蜂場が対応する
「どうした?何か困ったことでもあったか?」
「逆だ。私は、もう資金に拘る必要がなくなった。だから本当の意味で1人で生きられる方法を知るための旅に出る。今までのような社会の制度やライフラインに頼ることのない完全な独立をするために」
突然の宣言に、蜂場は困惑しつつも質問を続ける
「困ることがないっつったって食料も水も家の維持費もお前の身を守るための費用も必要だろ?」
「家については我が子たちに管理・維持を任せてきた。食料と水については……まぁ見てもらったほうが早い」
紫がバックパックから取り出した土に触れると、土は即座に乾燥していく
「見ての通り、水分を含んだ土壌があれば私は日光を浴びるだけで生きていけるようになったらしい」
「……なんだそりゃ。紫、お前たしかに人間種だったよな?何がどうしてそうなるんだよ」
「原理はこれから旅の道中に解明するつもりだが、おそらくコレの副作用のようなものだと考えている」
そう言って紫は掌の上に大きな結晶を生み出し、消す
「……異能力ってやつか。だとすればそれは20歳を過ぎれば消えるものだぞ。過信するよりも安全策を取るべきだ」
「コレが異能力であれば、蜂場先生の言うことは尤もだ。だが、どうやら違うものであると分析の結果分かった。戦闘時に集めておいた異能力持ちの同級生たちのDNAと一般的なDNA、そして天羽と私のものも含めて比較をした時、天羽と異能力持ちの同級生は一致する配列が見られたが、私には見られなかった。推測するに、一般的な異能力とは人外種の要素を含むことで発現するもので、それは20歳になれば消えるのだろう。机上論だが、シミュレーションでもそうなると計算できた。けれど私のコレは、根本的に異なるらしい。あり得ないことのはずだが、私の身体は植物の遺伝子が検出されるんだ」
紫の話すこと全てに蜂場は頭を抱える
「あのなぁ、責め立てるつもりはないが、倫理的にもまずいことをサラリとするのは良くないぜ。つーかなんだ?今のお前は半分植物ってことか?それはドリアード種なんかの人外種と何が違うんだ?」
「植物性人外種は細胞自体が植物細胞だが、私は『何故か植物の遺伝子も検出できる』というだけで通常の人間の遺伝子・細胞と変わらない部分が大半だ。異能力持ちのような天羽と共通した配列さえ持っていない」
思考を整理するため、コーヒーを飲み干し、蜂場は紫の意思を再確認する
「……現実的かどうかはこの際置いておく。俺よりお前のほうが技術者として、科学者として上なのは認めざるを得ない事実だからな。そのうえで後悔しないようにするために質問だ。機械を作ることは、もういいのか?」
「私の知識のコピーは、全て家に置いてきた我が子たちにインストール済みだ。私がわざわざ新しく作る必要性はもうない」
「そうか、なら、他にやり残してることはないのか?」
「ない。社会に頼らない生き方の模索と自身の身体の研究であればこのバックパックに収納したものだけで事足りる」
「……最後に、社会から外れるということは守られなくなるなどデメリットのほうが多く、法を破り社会を敵にすることになるということであると理解しているか?」
「承知の上だ。誰が敵になろうと知ったことではない。私は私らしく生きるために、邪魔をするのなら排する。ただ私の中の愛しい記憶と共にあるために」
紫の瞳を見て、蜂場は溜息を吐いた
「それで、その排するための手段はその不可思議な結晶と組み上げる機械たちってわけか。お前、決めたら曲げねえからなぁ」
蜂の頭で、髪もないのに髪を搔く仕草をして蜂場は荒々しく椅子に座り直す
「分かった、好きにしろ。ただ、いつでも帰ってこれるように在籍してることにはするからな。あくまでも俺が出すのは休学申請だ」
「……寛大な対応に感謝する」
「教育者としちゃ最悪な対応だけどな。まぁ俺の評価が下がることなんかどうでもいいさ。マニュアルとしての正しさよりも個人に向き合った行動が俺のモットーだしな。さ、そうと決まったら書類作成だ」
立ち上がる蜂場に、紫は御辞儀をする
「長い間、お世話になりました。ありがとうございます」
「やめろよ敬語なんて、お前らしくない。必要になったらまた来いよ」
「……あぁ」
その会話を最後に、紫は保健室を去った
ーーー
「見ていましたよ、蜂場養護教諭。全く、あなたはいつも独断専行しますね」
「げっ、母さん」
保健室の奥の職員用通路から現れたのは蜂場の母である校長だった
「あなたの個々に合わせた対応は悪いとは言いませんが、せめて私を通してからにしなさい」
「すんません、それしてる間にあいつらが不安を覚えてると思うとどうしてもね」
「木梨君の時も、良いこと悪いことを教えることを放棄して自分にとって間違えたと思ったことは何かを引き出すことだけに注力していましたね」
校長の台詞に蜂場は顔を背ける
「いやー、何のことか分からないなー」
「教育方法を責め立てるつもりはありません。一定の基準に準拠することで取りこぼされる子が居るのは事実ですから。しかし、やり方は考えましょう」
「……はいはい」
「こら、はいは1回ですよ」
そんな母の言葉に蜂場は久しぶりに子供に戻った気分になった