「次行くあの場所だけど、霧に包まれた迷路なんだよね。その奥に建ってる小さな小屋に霧谷さんたちが住んでるんだ。だからぶつからないように私について歩いてね」
みさきに指を差された先の濃霧を見て紫は首を横に振る
「……申し出には感謝するが必要はない。その情報が分かっていれば対策はできる」
そう言って紫は背負ったバックパックからパーツを取り出し組み上げる
数分と経過せずにカメラのようなものが組み上げられた
「この機械を通して視認すれば屈折率の違いによって何処が固体がない場所かを識別できる。借りは作らない」
そう言って止まることなく進む紫に、みさきはただ驚いていた
「……紫ってもしかしてかなり賢い?」
「定義によるだろう。私は自己を賢者とは思わないが」
「そっか……」
そう話しているうちに2人は霧の奥、小さな小屋へと辿り着いた
屋根の上から、男が3人飛び降りてくる
「聞いてるぜ聞いてるぜ!お前うちの村の秘密を知りたいんだろ?」
「見ていたぜ見ていたぜ!お前変なもん作れるみたいじゃねぇか」
「知ってるぜ知ってるぜ!お前は許可の印を欲してるんだろ?」
「うっわ相変わらず」
みさきが少し引き気味に口にすると同じ顔、同じ服装をした男達はゲラゲラと笑う
「星空のとこのみさき、お前余所者の監視のくせに仲良くなってたな」
「星空のとこのみさき、お前この余所者と話して笑顔が増えたな」
「星空のとこのみさき、お前の幼い心は随分と絆されたみたいだな」
「いや、それは……」
「仲良くなったというのは誤解だな。あくまでも害意のない他者であるため放置しているだけだ」
紫の言葉に霧谷の男達は首を傾げ、みさきは少し肩を落とした
「なんだ、つまらん。お前の言葉が嘘に聞こえん」
「なんだ、つまらん。お前の瞳に揺らぎは見えん」
「なんだ、つまらん。お前の知りたいことは結局了承か否かだけのようだな」
「迅速な理解は評価に値するが、返答が遅ければ意味はないのだが」
紫の発言に3人は同時に眉を顰め首を横に振る
「許可はしない。お前の言い分は聞くに堪えない傲慢だ」
「許可はしない。お前のことを見ていたが他者を自身と無関係と切り捨てる様は評価に値しない」
「許可はしない。お前の行動原理は理解したが、そのために譲るほど俺達は他人に優しくはない」
「じゃあどうしたら紫に教えるの許してくれるの?」
みさきが問うと、男達は返す
「俺達は男。負けた相手には従う」
「俺達は男。女子供に暴力は振るわない」
「俺達は男。今からすることに耐えて俺達を降参させるダメージを与えてきたら許してやる。無理だろうが」
そう言うと周囲の霧が突然晴れる
そして球状に3人の右手へと収束していった
「「「被れ」」」
その言葉と共に紫の頭へと3つの球が重なった
「紫!?なにこれ、大丈夫なの?!」
「意識を失えば解放してやろう」
「意識を失えば、救助してやろう」
「意識が続くなら、これを続ける」
男達は最初から許可をする気などないと言外に示していた
しかし、霧は徐々に薄まる
球の中から紫の声がした
「性別や年齢で自己のアイデンティティを保つ思考は他に自身を肯定する材料のない者がすることだ。今の攻撃、明確な害意と捉えた。故に今から行うのは外敵の排除だ。降参したければ勝手にすればいい」
いつの間にか、紫の手元には無くなった水量と同等の大きさの結晶があった
それを何処か色の変わっている足下の地面へと突き刺して、紫は指輪を男達へ向ける
「その指輪では、それほど傷つけられないのだろう?」
「その指輪では、しゃぼんを割るのがやっとだろう?」
「電気のことは知らないが、その指輪のことは知っているぞ?」
「……閉鎖的な村だけあって、学が足りないようだな。せいぜい後悔するといい」
指輪から放たれた紫電は男達3人の皮膚を強く焼く
「痛い、痛い、助けてくれ!」
「熱い、熱い、やめてくれ!」
「苦しい、苦しい、分かった謝る!」
紫は放電を止め、無表情のまま苦しんでいた3人の耳をまとめて掴んで聞こえるように言い放つ
「他者を危険にさらすということは自身も危険にさらされていいという意思表示に他ならない。たとえ貴様らなりの正義があったとしても私はその加害を許容しない」
「えっと、じゃあ降参したから紫は許可もらえるってことでいいの?」
みさきの現在の空気に合わない発言に、3人は変わらず無表情のまま、必死なように激しく首を縦に振っていた
ーーー
紙に3人同時に書き込むという奇妙な光景を最後に2人は霧の迷路を離れた
「霧谷さんたちは普段からああやって少し人のことを小馬鹿にしてたから、ちょっとスッキリしちゃった。紫ってすごいんだね」
再び次の家へと向かう道中、みさきがした発言に紫は不機嫌になる
「そういった自己投影による制裁意識に私を使うな。私は害されたから排除した。貴様はそれを見ていた。ただそれだけだ」
「あ、ごめんなさい」
紫の言葉に少し怯えた様子のみさきだったが、すぐに別のことを話しだす
「紫はさ、この村に調査に来る前はどんな生活してたの?やっぱりすごい発明をする研究者とかしてた?」
「……機械を組み、その成果を提供することで行政から生活支援金を受け取り、学校へ通っていた。それだけだ」
「へ〜、そんなに小さいのにもうお金稼いでたなんて、お父さんお母さんは相当喜んでたんじゃない?」
みさきの何気ない言葉に、突然現れた人影が待ったをかけた
「こら!みさきちゃん!この子にそんなこと言っちゃ駄目!」