現れた人影は少し化粧の濃い20代を超えたか超えないか程度の女性だった
「びっくりした。時見のお姉さん、言っちゃ駄目ってどういうこと?」
「この子は生まれる前にお父さんを、5歳の時にお母さんを亡くしてるのよ!しかも大切にしてた人工知能の子まで壊されて、とっても大変だったの!」
ベラベラと大声で語る時見に紫は大きく苛立っていた
「……他者のプライバシーを考慮せず語る行為は不誠実だと思うが?そもそも何処で知った」
「あら!ごめんなさいね、私ったら見えちゃった過去を全部言っちゃうから。伝統とかどうでもいいわ、大変だった貴女に協力させてちょうだい」
山羊のように横に裂けた瞳孔を向けながら、時見は紫の持つ紙を強引に奪い取り、サインを書くとまた押し付けた
「覗く許可も得ず、一方的に過去を閲覧し身勝手な同情を振りまく。自身が良い人間であるように他者へ見せかけるためだけの、相手のことなど一つも考えていない薄っぺらな偽善だな、私は貴様のような人間が大嫌いだ」
「うふふ〜、ツンケンしてるのも自分を守るためなのよね。大丈夫、私は分かってるわ!じゃあね〜」
「二度と顔を見せるな」
スキップでもするかのように軽やかに離れていく時見とは対象的に、紫は憎悪と怒りを表していた
「えっと、紫、大丈夫?」
「……それが行動可能なストレスか否かという意味合いであれば平気だ。この程度の害で動けなくなるほど弱くはない」
「そういう意味じゃないけど……ていうか、時見さんが言ってたのって本当のことなんだよね?えっと、紫は……」
かける言葉に迷うみさきを睨みつけ、紫は遮る
「下手な同情や共感を示すようなら、貴様もあの女と同一と見做すが」
「……ごめんなさい」
「……いや、いい。気が立っていた。少し休んでから次へ向かう。毒があるから触れるなよ」
そういうと紫は旅をしてきた時と同じように結晶に包まれ眠りについた
ーーー
30分後、結晶を砕き中から紫が出てくる
「あ、おはよう……」
気まずそうにするみさきだったが、なんとか話題を絞り出そうと次に向かう家について話し始めた
「えっと、私の家を除くと最後かな。浮雲先生の家なんだけど彼処は道場になってて、きちんとした作法じゃないと入ることも許してもらえないから気をつけてね。良い人ではあるんだけど」
「……私はそういったことは専門外だ。故に外に呼び出す。品に欠ける行動ではあるが、用を伝えるだけならそれが一番早い」
そう口にする紫に、みさきは少し目を丸くする
「紫にもできないことってあったんだ」
「……何を期待していたのかは知らないが、私はまだ10年しか生きていない。当然、相応に知識には偏りがある」
「それもそうだったね……」
それからは会話が続かず、道場へ着くまではお互いに無言だった
湿った土の匂いが嫌になるほど印象的だった