紫色の花が咲く   作:花咲@ただの花

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20話:龍の村

 

「それで、帰ってきたのか。おかえりみさき」

 

「うん、ただいま」

 

みさきの父親は紫の監視と案内をやり遂げたことを褒めるように、優しい手つきでみさきの頭を撫でる

 

「……説明にあったように了承の確認をしたいのだが、返答はどのようなものだ」

 

「………………正直に言おう、個人の感情としては拒絶したい。だが私の目に映る未来は、是と答えるべきだと語る」

 

気がつけば父親の瞳孔は縦に裂け、黒に近い茶だったはずの色は金に染まっていた

 

「……それも水龍の加護とやらか」

 

「あぁ。しかし君は動じないな。外に異能力というものがあれど実際にあれを目にする機会は少ない。もっと驚くと思っていたのだが」

 

「私の身の回りでは大勢がそれを振り回していたからな。おそらくは天羽の……学内の天使種の言っていた『主』とやらの影響だろうが」

 

紫は思い出したくもない相手の顔を脳裏に浮かべ、頭を振った

 

「なるほど……そういうことならば納得がいく。妙に高圧的で他者を冷めた目で見ているのもそれらの影響なのか?」

 

「それはただの私の性格だ」

 

言い切る紫に、みさきが少し笑う

 

「紫、ちゃんと面白いことも言えるんだ」

 

「何が面白いかは理解できないが……それで、承認するということで構わないか?」

 

「そうだ。水龍様の下へもう一度向かいなさい」

 

その瞬間、辺りに鈴の音が響いた

 

「全家庭の了承を得たということで、お迎えに上がりました。不要でございましたでしょうか?」

 

龍の座す間にて、巫女が紫に問う

 

「……いい。手間が省けた」

 

「それは何よりです。では、水龍様との対話をどうぞ満たされるときまでお続けください」

 

再び鈴の音がして、巫女はその場から消える

 

そして、水龍が落ちる雫のような速度で、瞼を開けた

 

「花咲紫、主と同様の力を持つ者。貴殿の願いは『水資源の尽きぬ理由を知ること』それで相違ないか?」

 

「……適宜質問は挟むつもりだが、それで間違いない」

 

水龍の視線を、紫は目で受け止める

 

「では、まずは前提となることから語るとしよう。貴殿はイデアというものを知っているか」

 

「不確かな記憶だがプラトンの唱えた、万物はイデアの影であるという理屈だったか」

 

水龍は静かに頷く

 

「それは決して哲学などではなく、事実イデア界というものは存在したのだ」

 

そうして、巨大な身に秘める知識を紫へと伝え始めた

 

ーーー

 

この世の出来る前、主はイデアを司る力を持って生まれた

周囲へ広がる広大な「有」しかしそれらは無秩序であった

主はイデアを集め、自らの望む世界へと作り変えた

そして4体の龍を作った

火、水、陽、陰、それぞれに対応したイデアの操作権限を主は我らに与えたのだ

世界を生み出した後、主は姿を消した

今では新たに「主より生み出された」と名乗る天使が増えるばかりである

 

そして、我の賜った権能は『水』

万物を水に関連した物へ変え、水からもまた万物を創造できる

 

花咲紫。貴殿もここまでを聞けば、察しもついたであろう

 

ーーー

 

「此の水は亡き村民らのイデアより作りしもの。死するその時我が権能によって水としたのだ」

 

語る水龍の瞳には慈愛が滲む

 

「我ら龍種とは主より同質の権能を与えられたもの。しかして主のために生きる道理は在らぬ。故に我は此の土地の者共が苦しむことなく摂理に還る道を作って居るのだ。苦しみの中に絶える命など、在ってはならぬ。幸福のままに次代の糧となることこそ誉れ」

 

相容れぬ価値観でこそあったが、紫はそれを否定はしなかった

 

「…………彼奴ら村人がそれを望むのであれば、それが正解なのだろう。私に押し付けさえしないなら口出しも関与もしない」

 

「まだ幼いというのに、それほど道理を理解しているとは。我は此の地の龍であるがゆえ手助けなどはせぬが……貴殿の未来が美しいものであるように願っていよう」

 

大きな龍と小さな少女、2つの影は混ざることなくその場で分かれた

 

 

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