その後、巫女の見送りを断り紫は村を去るために道を歩いていた
道中で、組んで回収していた機械たちをパーツへと分解しながら今後の事を考える
「水そのものこそ得られなかったが……進展がなかったわけではない。イデア論の再現性の証明とそれによる物質循環の方法の確認はできた。であれば、『どう自身のできる技術に落とし込むか』だ」
研究ノートに新たに線が引かれていく
「最初から使えるものとして生み出された龍種に理論の説明は期待できないこと、龍種の解析よりも他種の解析のほうが容易であることなどから考えると、探すべきは『主』とやらの居場所か天使種か……」
紫が思案しようとしたその時、木陰から息を切らしてみさきが飛び出してきた
「知りたいことがあるなら、私占う!案内してる時、色んなことを教えてくれたお礼として受け取って!」
「…………どうやって私の居場所に気づいた、というのは父親に頼ったと考えるのが妥当か?」
紫の呆れ混じりの目線に、みさきは両手の人差し指を交差させて否定を示す
「お父さんはそういう小さなことに水龍様の加護を使ってくれないから、私が自分で占った!いきなり消えてびっくりしたんだからね」
「占い……随分と不確かな物に頼るんだな」
「大丈夫!私の占いは当たるから!実際、此処に来れたでしょ?」
自慢気な笑顔で、手に持った本を掲げるみさきを見て紫は先入観を持たぬために頭を振った
「私に害がないのであれば好きにするといい。無造作に足を運び情報収集から始める以上、占われようとそうでなかろうと大した差ではない」
「ありがと!」
返事をしてすぐに、みさきはポーチからカードの束を取り出す
混ぜ合わせ、分け、再び混ぜ合わせることを数回繰り返した後に3枚だけ引き、それらを表にした
「えっと、出たカードは……栄光の騎士、大きな嫌悪、ケルベロスの唾液……これを本と照らし合わせると『守りを固める者の下へと向かうならば、試練の先に望むものがある。されどそれを自らの手にするか、身を蝕む毒となるかは汝の在り方次第である』になるのかな。守りを固める者の下はたぶん……北?かも」
「守り……北……なるほど、その占いは四神思想が源流か。ケルベロスなどの西洋的な要素を含むことは奇怪だが……まぁいい、一度北上をしてから情報収集をするようにしよう」
行動を決めた紫に、みさきは少し驚いた
「私から言っておいてなんだけど、そんなに簡単に信じるの?」
「信じているわけではない。しかし善意を無視するつもりもない。ただ行く先を提案され、それを承諾しただけだ」
「そっか。紫なりに私のこと考えてくれたんだね」
微笑むみさきへ紫は首を傾げる
「どのように解釈をすればそうなるのかは知らないが……そう思いたいのであれば好きにするといい」
それを聞いてみさきはクスクスと笑う
「素直じゃないなぁ……ね、紫」
「なんだ」
「いってらっしゃい」
笑顔で手を振るみさきに、小さく手を振り返して紫は水龍の村を離れた
ーーー
花咲 花。彼女の首を刎ねたあの日、想定外だった彼女の娘の存在に僕は動揺してその場から逃げ出した。
けれど、今になってひどく憎悪が湧いてくる。あれほど全てに等しく優しかった彼女が、ただ一人の『自分の娘』のためだけにこんな世界を肯定したという事実が、堪らなく憎い
こんな偽物の、『作り物の世界』に長く居ることで幼く縮んでしまった我が身への呪いを込めて手に持ったオートマチックピストルのメンテナンスを行う
「壊してしまおう。こんな世界も、この世界に住む者全ても」
故郷の仲間達の名前を刻んだプレートが風に揺れた