「世界と言うには、人が居ないな」
輪を覗き、視点を動かした紫は造世へと言葉を投げる
「ほとんど、全ての『人間』の要素を、奪われてしまったから。外に生き残った数人も、何かをきっかけに……死んでしまった。今は……ただ風化を待ってるだけの、滅んだ世界」
懐かしむような、悲しむような造世の表情に自身には分からぬ何かを察し、紫は詮索を一度止めることにした
「…………話の途中だったな。たしか、花咲造世という怪異、だったか。人外種でもない怪異というものに対して私の知識は及ばないが」
「ん……そうだった。及ばなくていい、よ。そもそも、私はどんな世界からも、はぐれものだから。私……私たち、花咲造世は、『花』が誕生した瞬間に、同時に生まれ、この造花世界でオリジナルを観測し続ける。ほら、彼処にも、花咲造世がいるでしょ……?」
造世の向いた方向へと視線を移すと、たしかに其処には人が居た。桜の造花の下に佇むそれは何処となく紫と似通っている顔立ちだが、纏う空気が紫にとって未知のものだった。桜の木の造花の洞には同じ顔をした少女が花見をしている様子が映されていた
「なるほど、複数の世界を繋いているのが、この造花世界というわけか」
「その認識で正しい……なぜそうなのかは、私たちには分からないけど。私たち『花咲造世』は、様々な世界の『花』という存在に対してのドッペルゲンガーのようなもの。花があれば造花がある、そうして見た目だけを似せた私たちが生まれる。そうして、生き続けている」
受け入れづらいことではあるが、目に映る光景の説明として別解の証拠も見つけられないため紫は嘘ではないと仮定した
よくよく見れば、全ての造花には1種に1人の造世が存在している
其処でふと紫は疑問を抱く
「であれば、私に似た『造世』もいるんじゃないのか」
見渡したところ、何処に視線を向けても紫と同じ顔をした造世は存在していない。それが不可思議だった
「…………貴女は、私たちにとって、イレギュラー。本当は、『花』は、永遠に生き、そうでなければ転生を続け、1つの世界に1人だけで在り続けるもの。故に、貴女の造世は生まれなかった。だって、本来居ないから。世界の内に新たに世界が出来るなんて、誰も思って居なかったから。きっと私たちを作った神様でさえも」
「……随分と、私は歪な存在らしい。それで、それを伝えてどんな結果を引き出そうと考えている?」
自身が異常な存在であるという事実から来る視界の揺れを理性で抑え、紫は造世へ尋ねる
しかし、造世は目を丸くして首を傾げた
「最初に言った、よ……?仲良くなるために、お話してるだけ」
当然のことのように言う造世を見て、紫は思考を整える
「……………………なるほど、自己の知識の開示による警戒心の減少を図っていたのか。私の前提が、敵対的だっただけだな」
自虐的に小さく笑った紫を見て、造世は考えるよりも先にそっと紫を抱き寄せた
「私は………貴女がどんな人生を歩んだか、よく知らない。でも、貴女がとっても頑張ったのは、分かる」
造世は、優しく紫の頭を撫でる
母を亡くした5歳の頃から、誰に対しても最低限の警戒を解かなかった紫にとって、とうに忘れていた温もりだった
「よく、頑張りました。えらいえらい」
「………」
鼻を通り抜ける匂いが、頭に感じる手のひらの重さが、とても懐かしかった
紫は、声を出すこともせずに涙を流した。傷が癒えるわけではない。それでも、母に、その面影にただ包まれた事実に、何よりも救われた
造世は、紫が泣き疲れて眠るまでそのままでいた
ーーー
「大人のように振る舞っても………この娘はまだ、10歳。………貴方達のせいで、強くあろうとしているけれど」
造世が言うと、何も無い筈の空間が揺らぎ、少年が現れた
「別に僕のせいじゃないよ。というか、誰のせいでもない。それが、その娘の運命なだけだ」
「相変わらず………運命がどうだとか、主人公にでも、なったつもり?」
造世は怒りを声に滲ませた
少年は返す
「まさか。僕は、僕らはいつだって主人公サマに傷つけられる被害者さ。今は君に免じて攻撃しないけど、その子とはいずれ殺し合うことになるだろうね。またね、花咲花の模造品」
そう口にして、少年は消えた。まるでそこには元から誰もいなかったように