「……母を殺害したのは、20歳ほどの男だったと記憶している。画面に表示されているのは私と年の変わらない子供に見えるが?」
紫の疑心の目に、造世は説明を始める
「彼は、元々、貴女のお母さんに恋してた一回り年下の男性だった。そして貴女のお母さんが貴女のお父さんと結ばれた時に普通に祝福できる子でもあった。でも、ある日突然、世界が滅ぼされた。誰によって、どうやってかは、私は知らないけど。そして、生き残った彼は、この世界にやってきて、蝕まれ……今の姿に変わってしまった」
何処からか取り出されたのは2枚の写真
男の見た目と、少年の見た目を写したそれらを並べて比較すれば、たしかに同一人物であると分かった
「……それで、滅ぼした元凶が居るこの世界を恨んだというのは理解するが、だとすれば何故その虚琴海利とやらは私や母を害する?」
「彼にとってこの世界は……略奪の象徴。きっと、この世界で生きることを受け入れた、オリジナルのことさえ、憎く思うほどに。貴女のことを、殺そうとするのは、おそらく貴女が、花咲紫が、この世界の『花』だから。『花』は世界を映す鏡。憎悪が向けられることは当然の帰結。でも、安心して。私が、貴女を、守るから」
手を取る造世の言葉に紫は少しばかり不機嫌になる
「私は守られなければならないほど、弱者ではない。善意であろうと、私を勝手に定義しないでくれ」
「…………分かってる、よ。貴女が、とうに一人で立っていることは。弱い子供だなんて、定義しない。それでも、私の自己満足のために、どうか、しばらくは、私のオリジナルの娘として、貴女のことを守らさせてほしい。……だめ?」
まっすぐと、悪意も偽善もなく見つめる造世に、紫は顔を背けた
「……保護者としての振る舞いをしたいと言うなら好きにしろ。ただし、私の行動を阻害するようならその時は敵として扱う」
「ん……それで、いい。とても嬉しい。紫は、優しい、ね」
「…………無理に褒めなくともいい。やめろ、頭を撫でるな!」
手を払いのける紫を、造世はしばらく笑顔で見つめていた
ーーー
「紫は、これから、どうしたい……?」
互いの感情に一段落をつけて、造世は紫の意志を確認する
「…………ひとまずは、情報収集の旅を再開する。虚琴海利を理解し対処するためにも、私の目的を果たすためにも、『この世界を生み出した存在』とやらのことは調べなければならないと考える」
バックパックから紙を取り出し、ロードマップを造世にも共有する
「それは、どう集めようと思ってるの……?」
「龍を探す。水龍と接触し把握したが、奴らは主と名乗るそれに生み出されたらしい。造世の語る世界の構造が事実なのであれば、詳しく知っているはずだ。水龍は村の存続以外に興味のない姿勢からして、再び会おうと情報は落とさないだろうが」
「龍……そんなものも、居るんだね。この世界は、まだよく分からない」
造世の反応に、紫は少し思考する
「…………何を知り、何を知らないか、そして知っていることの概要を箇条書きで共有しておく。そちらもそうしておいてくれ。旅に着いてくるというなら、細かい解説は道中でいいだろう」
紫の言葉に、造世は花の咲くような笑顔でゆっくりと頷く
警戒し、対処可能な態勢を取り続けていた紫が、初めて『行動を共にする未来』を自ら示したことが造世にとってはとても嬉しいことだった