「ようこそ!アミューズメントパークふわりランドへ!」
城を出て次に向かったのは風船をテーマにした遊園地だった
「どうして、此処に来たのか、説明するね……?紫が、図書館で、調べている時に、私も人に聞いてたの。此処の宝探しの館に、お化けが出るって。もしかしたら、何か参考になる怪異が居るかもしれない」
「であれば優先して其処へ向かうべきか。謎解きなどの論理展開であれば私の得意とするところでもあるしな」
マップを開き始める紫に、造世は確認を取る
「…………紫は、ジェットコースターとか、惹かれない?」
「……心臓への負荷がかかるものは苦手だ。体力を大きく消耗する」
「そっか……ん、大丈夫。無理強いはしない」
そう言って造世は紫の手を引いて宝探しの館の列へと並んだ
ーーー
「入り口でコンパスを手渡され、『きた道の反対を探せ』という文で分かれ道の逆側ではなく南へ誘導する……言葉遊びだが、それもまた娯楽としては良いものか。費用を抑えつつも立体迷路自体を探索する時間を延ばすためにもなるとは、設計者はセンスがあるな」
立体迷路の中を歩みながら分析を始めた紫に造世は小さく笑う
「そんなふうに、考えて作ったわけじゃ、ないと思うよ。みんなに、楽しんでほしかったんだよ、きっと。…………あ、見て、紫。彼処にあるの、宝箱じゃない?」
赤い文字で大きくGOALと記された看板の下には茶色く四角い箱が置いてあった
「たしか、この中にあるタグのついたバトンを持って入り口へ戻ればいいんだったか」
紫が箱を開けようと手を伸ばしたその時、突然大きな腕が現れ紫を掴もうとする
バックパックの横収納に収まっていた騎士の人形から青い光と共に防御壁が展開され、その腕は後ろへと弾かれた
「宝を奪う奴は誰だぁ」
腕の根元へ目を向ければ何処に隠れて居たかも分からぬ鬼の様な形相の巨人が居た
「……財宝、突然現れる、巨人…………スプリガン?」
「気配もなかった点から精霊種の何かかと思ったが、造世の言う怪異の可能性もあるな。私は精霊種であると仮定して行動をするが、造世は造世で動いてくれ」
紫が指輪を向け結晶を展開すると巨人はさらに激しく怒る
「縄張りから我らの世界から出ていけぇ!宝を奪う奴には罰をぉ!」
叫ぶ言葉にはこの場ではない何処かへの怨みが込められていた
「…………紫、もしも、私の想定を試してくれるなら、攻撃しないで、離れてみてほしい」
「……いいだろう。その後の解決も造世がするのか?」
「ん……そのつもり……」
造世の提案に従い紫が距離を取ると、巨人は姿を変化させていく
縮んでいくそれを追うように宝箱の隅に視線を移していけば、小さな三角帽を被った見た目の白く特徴のない人型の何かが見つかった
「まず、私は、奪わないので、話を聞かせてほしい。あなたは、大切な何かを、奪われたの……?」
小人は造世の問いに頷いて返す。宝箱に近づいていく造世へは既に敵対もしていない様子だった
「そう……もう少しだけ、聞かせて。もしかして、あなたは、海外から、来て、大きな何かに、巻き込まれた……?」
「そうです、そうだよ。私は、僕は、子供を、父母を、呑まれ、奪われ、あれ?アレ?違うよ、これは私の、それは僕のじゃない。思い出、ぐちゃぐちゃ」
造世は取り乱す小人の背を擦りなるべく優しい口調で語りかけた
「落ち着いて……大丈夫、もう、取られたくなかったんだね。だから、知っている、宝物を守る姿を真似した。でも、此処はあなた達の生きた世界ですらない」
「嘘だよ、嘘だね、僕らの、私たちの、奪ったもので、取ったもので、できてるくせに、できてるくせに」
小人の顔に怒りが浮かぶ
けれど造世は小人の肩を掴んで、目を合わせて語った
「そう思うのも仕方はないのかもしれない。でも、あなたが本当にしたいことは、こんなことじゃないでしょ……?この箱は、本当にあなた達の『宝物』?」
小人は宝箱の方を向くと、少しずつ姿が薄まっていく
「元の世界には、今は何もなくなってしまったかもしれないけれど、それでも、故郷で居たほうが、きっといいよ」
造世が小人の手を握れば、それは小さく笑って空へと溶けた
立ち上がってスカートの埃を払う造世へ、観察していた紫は懐疑の目を向ける
「……終わったのなら説明をしてもらおうか。最初から分かっていたような振る舞いだったことも含めてな。わざわざ遊園地を目的地に定めたのは怪異かもしれないという理由だったな」
「ん……分かった。でも、全て最初からと、いうわけじゃない。この世界に来てみてから、私は怪異と出会わなかった。外の世界だと、稀ではあるけど、見かけたのに。だから、怪異だとしたら、外の世界の残骸と推測した。……怪異じゃない可能性もあったけど、話してみたら、当たりだったってだけ。姿形は、恐らく、財宝を守る神話の巨人スプリガンのイメージから作られていたんだと、思う。奪われた宝物が、とっても、大切だったんだろうね」
宝箱から2人分のバトンを取り出しながら、造世は続ける
「紫に見せたかったのは、この、怪異という存在の在り方。私達怪異は強い願いや想いが形を成し、自己の周辺にルールを新たに敷く。前にも説明言った通り『花』は世界の望んだ人間、つまり怪異ととても近しい。だから、紫が自分のできることをなるべく多くしたいなら、見せた方が良いと思った。けれど『花』には怪異とは違う点がある。それは、『自身もまた、望んできた世界と同等の権限を持っていること』。自分の意思で自分と同じような存在を生み出すことさえ、できてしまう。怪異にはそれは叶わない、だって誰かから影響されなければ揺らぐことすらないのが怪異だから」
「…………私の『花』としての在り方のサンプルとして他の怪異も絡めて説明をしたかったという要点は把握したが、相変わらず分かりづらいな。まあいい、つまり私には私の生まれる原因となった世界の人格とやらと同等の自己操作権限があるというわけだ。これまで分析した『花』の力由来の事象から考えるに、それもまた思考が大きく影響するのだろう。また道中でいくつか試し結果をまとめることにする」
「ん……ごめんなさい。私は、そんなに、話すのが上手くない」
眉を八の字に下げる造世に、紫は顔を背けた
「いや、今のは私が浅慮だった。許せ」
「ん……分かった。あ、そうだ。紫も、これ持って」
「あぁ、そうか景品があるんだったか」
造世からタグのついたバトンを受け取り、紫はタイを軽く締め直した
ーーー
宝探しの館を出て、風船の詰め合わせを貰った紫と造世は「特に他に興味を惹かれるものもない」という紫の発言でふわりランドを後にしようとしていた
「……使い道が無いのだが」
「一応、持ってても、いいんじゃない……?」
持て余したそれをバックパックに収納した時、前方の広場で男が大声で何かを叫んだ
「おいおい、雇われて来たってのに獲物が既に狩られてんじゃねえか!どうなってんだよ火龍さんよぉ」
『そう言うな……我とて想定外だ。外の世界からの負の念の塊が陽龍も水龍も関係なく消失するなど初の経験なのだ』
腕に巻き付いた赤色トカゲのような生き物と会話するその人物に、紫は見覚えがあった
「…………何処かで見た顔だと思えば貴様か。資本主義の炎弾使い」
「やめろやめろ、なんだそのクソダサい呼び方。俺は炎王猿って名前があんだよ。つーか、お前誰だよ………って俺が依頼でお人形壊したガキじゃねぇか」
「紫……知り合い……?」
『マシラ、その娘と交流があったのか。水龍が見逃した唯一の余所者と』
奇妙な出会いに、四者各々が反応を示す
『ふむ……とりあえず、私と其処の外の世界由来である異物が離れれば邪魔にはなるまい』
「……まあ、いいよ。私も、龍というのを、見るの初めてだから、興味もあるし」
『決まりだな』
そう言って火龍が造世を連れて、瞬きの間に何処かへ消えた
「なんだ彼奴……保護者ヅラしやがって。そういえばお前、俺のこと恨んでねえのか?仇を見たにしては大人しいけど」
「今更恨み、嘆いたところで過去には戻らないことくらい理解できない軟弱な知能はしていない。執拗だった鳥モドキは始末したがな」
不機嫌さを隠さずに腕を組みながら紫は猿を睨みつける
「…………わっかんねぇなぁ。理解したとて、不当に害されたならやり返したくなるもんだろ。俺は少なくともそのために金稼いでんだぜ」
「していいのなら今すぐにでも殺めてやろう」
途端、猿の首筋に煌めく毒の結晶
「……わり、許してもらった立場で言うことじゃねえわな」
猿はそれ以上紫を刺激しないように、両手を挙げて一歩下がる。その様子に、紫は溜息を吐き結晶を消した
「許しなどしていない。非効率だというだけだ」
「そうかよ…………二度と会わねえことを祈るぜ」
「私にとってもそれが望ましい」
互いに吐き捨てるように言葉を交わし、紫は出口へ、猿は遊園地内部へと歩いていった
「…………おっかねぇ奴だ。さてと、俺は俺の宝探しでもすっかね。他のターゲットはこの辺だと誰だったか」