紫が遊園地を出ると、造世が待っていた
「……火龍とは何かやりとりをしたのか?随分と満足そうだが」
「ん……あの子たちも、誰かを、大切に思うことはあるみたいって知れて、なんだか、よかった」
「…………そういえば、水龍もそのような表し方のできる性格だったな。まあいい、次の目的地についてだが」
紫が進路を確認しようとしたその時、大地が揺れ大樹の森が大きく隆起する
森は山というべきものへと恐ろしいほどの速度で変化していった
「…………陽龍に、何か、あったのかも。此処からは、真っ直ぐ行ったほうが、いい……?」
「そうだな、状況確認も兼ねてそのようにルートを変更する。移動には…………速度を考慮してこれを使うのが最適だな」
バックパックから取り出したのは水龍の村でも使用したキャタピラを、搭乗者を増やせるように大型にしたものだった
ーーー
辿り着いた山頂では、額に穴を空けた龍と腐り爛れた様子の男が倒れ伏していた
その前の人影が紫と造世へ振り返る
「おや、君達も陽龍に用事があったのかい?残念だったね。僕が殺してしまったよ」
夢や不可思議な空間で居た時よりも無骨な武装をした虚琴海利が其処には立っていた
「かいり……けれど、どうやって……?紫や火龍の話を聞く限り、龍は、外の世界の人の身では、抗うことも、できないんじゃないの?」
「うん?そこの花さんの娘から僕が武器に龍の死骸を使っていることは聞いていると思っていたのだけれど……あぁいや、龍の秘術、イデア操作の権限による敵対者のイデアの剥奪のことか。ははは、それについても陰龍に感謝だね。このペンダントが見えるかい?これにも陰龍の死骸が入っていてね、知り合いの研究者が所持者のイデアを操作されないように保護する調整を施したものなのさ」
何処までも軽薄さを感じさせるように振る舞いながら、海利は首から下がったペンダントを指で弾く
「とは言っても、彼もとっくに死んでしまったけどね。う〜ん、やっぱりさっさとこの世界の主とやらを殺して崩壊させるしか道はないなぁ」
海利がくるくるとオートマチックピストルを回転させ紫へと視線を向けると、造世は庇うように間に入った
「………………まだ手は出さないよ。今手元にあるのは陽龍を殺すための装備であって、君たちを相手取る準備はしてないからね。あ、そうだ。折角だから教えてあげるよ。情報収集の権能を陽龍に与えられた、この男から聞き出したこと。天使種の語る『主』套値 現(かさね うつつ)は【イデアを存在させ、それを操る異能力】の持ち主だ。偉ぶって引きこもっている割に、僕に殺される程度の龍の力とほぼ同等の能力でしかないんだよ、套値現とやらは。いや〜、呆れた呆れた。もっと複雑な能力かと警戒していたのに」
ヘラヘラと海利は腐った死体の首を掴んで持ち上げる
「……陽龍から得るつもりだった情報自体は得られたな。だが、後に害すると宣言した以上貴様は私の敵だ。逃がすと思うか」
睨みつける紫へと海利は笑顔のまま返す
「思う思わないじゃなくて出来るんだよ。そもそも……」
突如として造世と海利の間に流星が落ちてきた
「天使様が来るから、僕が何もしなくとも君達は彼の方の相手をしなきゃだしね」
流星の落下地点から六枚三対のくすんだ灰色の翼が広がった
「主よりの命に従い陽龍の暴走を鎮めに来たら、旧世界の残骸共と主の劣化コピー、そして陽龍の死骸。この場の全てを罰するべきだと判断した。其処に直れ」
灰色の天使が三方向へと光の鎖を放つが、紫は結晶で、造世は造花で壁を作り弾く。海利へと伸びた鎖は陰龍のペンダントに触れた途端腐り落ちた
「じゃ、君たち頑張ってね。死んでくれるなら都合がいいけど。また今度」
そう言って海利は姿を消した
「む……懲罰の鎖が効かないとは奇怪な奴らめ。まあいい、罪状の書を読み上げるので心して聞け」
仰々しく、天使は石板を取り出し宙に浮かせて文字を発声した
「逃げた彼奴、そして其処の模造品。貴様らは不当な侵略行為として斬首だ。そして花咲紫、君は天羽ホワイトを殺害した時には罰を欲していただろう。喜べ、天使を殺した罰として心臓破壊を処刑天使たるボクが施してやる」
正当性と善意のみであるといった態度を取る灰色の天使に紫は強い嫌悪を示す
「そうさせたのは貴様らの側だろう。求めてもいない罰を言葉の曲解で押しつけるというのなら、貴様も天羽と同様に排除する」
「何処までも無礼な奴だ。天罰の概念を司るこの天津ギロの慈悲に感謝しながら死するがいい!」
十字架を模した大剣が地上へと振り下ろされた