12月、海利の残したノートを元に様々な研究を済ませた紫は、雪の降る紺理小学校へと戻ってきた
「私が道中で推測したことと、このノートの研究内容を照らし合わせれば套値現とやらは此処、紺理小学校から繋がる場所に居るらしいな」
「正解だよ。だからこそ資格の無い者は間引く必要がある」
放たれた光の矢を、紫は結晶の広がる空間へと繋がる輪で防ぐ
「随分と非科学的に成長したようじゃないか。花咲紫」
「…………最初から、私は理解ができる範囲なら非科学的だろうと使用に躊躇いはない。この花世界も造世の語った法則と私の集めたデータで論理構築をしたものだ。それで、資格とやらはなんだ天羽」
一対の純白の大きな翼をを羽ばたかせながら天羽ホワイトが紫の前へと降り立った
「そう急くな。まず私の安らぎの矢を無力化したことで第一関門は通った。着いて来ると良い、道中に試練を用意してはいるが主の居る場所へと案内してやろう」
一度殺された恨みなど欠片も感じさせない様子で天羽は弓を消した
ーーー
校内へ戻れば、紫は蜂場養護教諭と遭遇した
「おぉ!紫、お前学校に戻ってきたのか……ってわけじゃあなさそうだな。天羽と一緒に居るってことは」
「理解が早いようで助かる。私はもう2度と戻るつもりはないため、学籍を消してもらえないか。何年も存在していても学校側としても扱いに困るだろう」
「………………分かった。お前がそれで良いなら、俺は止めねぇよ。にしても紫、なんかお前、大きくなったな」
蜂場が雑談をしようとすると、天羽がそれを遮った
「失礼、保健室の蜂場先生。今花咲紫は児童としてではなく世界の主への客人として招かれているんだ。あまり時間を取らないでくれ」
「っと、そりゃすまねぇな。だが、二度と帰らねぇと言うならこれだけは言わせてもらうぜ。卒業おめでとう。紫」
「…………前にも言ってしまっていたけれど、改めて。長い間、お世話になりました。蜂場先生」
その会話を最後に蜂場は去っていった
「正確には卒業ではなく退学ではないかな?」
「どちらにしても構わない。私にとっては大差のないことだ」
天羽の横槍は紫には響かなかった
ーーー
生徒会室の前では一年生程度の身長の小さな天使が桃色の翼をはためかせていた
「白様〜と……貴女は!花咲紫!私達天使の敵!」
「天羽、其奴は何だ」
「…………そう睨みつけないでやってくれ。その子、天野川恋音(あまのがわここね)は主より天使創造の顕現を賜り私が初めて生み出した子なのだから」
天羽に紹介された恋音は羽を逆立たせて紫へと威嚇する
「白様とギロちゃんをイジメた貴女のことなんか嫌い!白様と違ってあなたは恋も知らないくせに!」
「…………貴様の価値基準が何に重きを置いているかなど知ったことではないが、自身の恋愛至上主義を他者にも強要し相手を下に見るというのは自己は前頭葉の麻痺による倒錯へ固執していると露見しているようなものだ」
「うるさいうるさい!そんなこと言えるのも恋を知らないからだもん!」
駄々をこねる恋音のことを天羽が後ろから抱き上げる
「すまないね、躾がまだ入り切って居ないんだ。ほら、恋の天使といえども恋よりも天使らしさを優先しなきゃいけないよ」
「…………………………天使の概念を司る天使たる白様が言うなら。でも、貴女のことなんか大嫌いだから!」
恋音は舌を突き出して走り去っていった
ーーー
生徒会室の椅子で天羽はわざとらしく両手を広げる
「改めて、歓迎しよう花咲紫。君は主と同等にその力を制御しているようだ。しかし、消化器官をウツボカズラのように、その他の人間的機能の一切を排し人の姿でありながら完全性を手にするとはね。潔癖主義の君らしくはあるがいささか驚いた」
部屋に響く拍手は正しく称賛を表していた
「…………母が愛した私の姿はこの外見だ。故にその点は変化させない。だが、人間というものを、人という存在を私は嫌う。であれば当然の帰結だ」
紫の返答に天羽は目を細め紫の胸元の黄色いタイを見つめる
「今の君は内臓も何もかもを捨て去って纏った衣服も含めて『自己のイデア』として登録しているようなものだよ。老化も死亡も心変わりも、その他の生物としての振る舞いも全て何一つしないなんて人外種達よりもよほど人外だ。いや……神と、そう呼ぶべきかな。独学でどのような方法を用いたのか、非常に興味深いよ」
「『花』の力を用いて自身を不老不死へと変化させた時、怪異の身体というものを手に入れ自己を作り変える経験を得た。そして私の手元には虚琴海利の残した【イデアを存在させ、それを操る異能力】の研究データがあった。であれば自身も持つその異能力を調べ上げるのは容易だ。多少理論化に苦戦はしたがイデア操作は不随意筋を操作するように、本来自身の操作できるレイヤーとは異なる箇所を操作していると言い表すのが最適だった。私はそのようにして自己の細部を調整した」
紫が結晶を生成し、それを手の中に入れて握ると結晶がトリカブトを模したぬいぐるみへと変化した
「なるほどね、君はその頭脳で神の座へと至ったのか。実に素晴らしい、昔、私が見込んでいた以上に君は主と相見えるに相応しいようだ。先に進んでもらうとしよう」
生徒会室の大きな窓が開き、その先の空間が歪む
青く渦を巻くそれに紫は足を進めた