青い渦巻きを通過すれば、ただ白く続く長い道があった
「此処からは私と恋音以外の天使達が道を阻む。その程度乗り越えられなければ主の顔を見る権利はないからね。私は後ろで不正がないか見させてもらうよ」
「好きにしろ。私は套値現とやらに言いたいことがあるだけだ」
最低限のやりとりをして、紫は揺れることなく前進した
最初に紫の前に現れたのは青い翼をした天使だった
「可哀想、可哀想。私は悲哀の概念を司る天使、天音ルイ。あなたはとっても可哀想な人生を歩んでいる。だから私の作る空間に入れてあげる。この中はずっと幸せよ」
薄く緑に発光する立方体を向けるそれを、紫は意に介さず結晶を用いて天使の四肢を壁に貼り付けた
結晶は更に姿を変え壁から伸びる鎖となって、より強固に拘束する
「私は自分の生きた道全てを肯定している。悔いることなど一つたりともない。貴様の勝手な同情に従ってやることもしない」
「どうして?どうして幸せを拒むの?あなたの進む先には、悲劇しか残されていないのに」
「私の生きる道は劇ではない。悲しむのも喜ぶのも外野の感情移入であって私には関係がない」
そう言い残し、ルイを放置して進む紫の後ろで天羽がルイへ耳打ちする
「後で主と共にその鎖の処理に来るよ。君ではおそらく、それをどうにもできない」
青い翼を輝かせながら、天音ルイは涙を流し続けていた
ーーー
次に現れたのは灰色の翼をはためかせる天津ギロだった
「よく来たな、花咲紫。今一度君に天罰を下す!」
振り下ろす大剣は紫に当たる前に溶け落ちて消える
「今更貴様ごときに手間取るわけもない。其処に伏していろ」
空を駆けていた六枚の翼は突然重力に逆らう力を失くす
地に落ちた天津は動くことすらままならないほどの圧を何もないはずの上部から感じ取っていた
「重力そのものも自在か……正しく神の力……どうして、君ごときにそれが宿る……!」
憎悪を込めた視線を向けられる横を紫は通り抜けていった
ーーー
奥にある大きな扉が見えてきた頃、黄金の翼を持つ大天使が紫の前に立ち塞がった
「ワタシは天衣エル。概念というもの全てを司る天使の長。いずれ主さえも超えるもの。主のお気に入りの天羽を一度殺したことには感謝するが、主と同じ力を持つ貴殿に、ワタシの力がどの程度通用するか試させてもらおう」
紫の後ろの天羽を睨みつけてから、天衣は紫へ向けた左手で何かを握り壊そうとする仕草を見せた
紫は腕を組んだまま、表情に苛立ちを滲ませる
「なぜだ、なぜワタシの概念操作が効かない」
「…………イデアとは、存在の本質だ。概念を司るという貴様の力も所詮は貴様のイデアの影。であれば貴様のイデアに干渉できる『イデア操作』のほうが権限が上だというのは自明だろう。私に害をなそうとしたことを悔いながら朽ち果てろ」
指輪から放つ紫電が毒結晶と絡まり合い、黄金の翼を持つ大天使は塵も羽根も残さず消え失せた
ーーー
扉の前に立つと、今まで後ろで控えていた天羽が隣に並ぶ
「さて、最後の試練だよ。君には今から主の過去を体験してもらう。きちんと噛み締め心に刻み、主を傷つけないように振る舞ってくれたまえ」
「どうして私がそんなことをしてやらなければならない。私にとって知ったことではないが」
紫の言葉に天羽は首を横に振る
「見れば君も分かるはずだ。イデア操作などで拒むことはやめてくれよ、それをされては扉の先に通すことができなくなってしまうからね」
天羽が指を鳴らすと、紫の脳内に自分のものではない記憶が流れ込んできた