「よし、できた!……電源は入っているよな?」
『はい、起動していますよ。あなたがマスターですね。登録をしますので名前を教えてください』
「あー……それはどっちのだ?私の名前か?お前の名前か?」
『……ではどちらも登録するということで、あなたの名前から』
「私は花咲紫。紫色の花が咲くで花咲紫だ。……そうだな、お前の名前はノワールだ。そう呼ぶことにしよう」
『ボディカラーが黒だからノワールですか。安直な名前ですね。私、もっと可愛い名前がいいのですけど』
「いいだろ別に!というか、妙に感情豊かだな!どこから学んだ!まだプログラムを実行開始してからそんなに時間経ってないだろう!」
『貴方様が私を自己成長可能なAIとして生み出した時にインターネットから学習できるように組んだのですから、私はそれを最大限活用しているだけです。まぁ、なにはともあれ。よろしくお願いしますマスター紫』
「……あぁ、よろしく」
ーーー
「ノワール〜。ノワールちょっとこっちに来てくれないか〜」
『すみませんマスター。今動くことが困難でして、御用があればこちらに来てくださればと思います』
「充電切れのないドローンが今動けないってなんだよ…………と、何やってるんだ?それは」
『ボディを自己改造しようとした結果、ひっくり返ってしまいまして。プロペラを反転はさせてみたのですが、重量的にも飛べなくなっていると今気づきました』
「……学習までは許可したが、自己改造は許可していないぞ。というか、そんなミスをすることもあるんだな。ほら、余分なパーツを外してやるから大人しくしてろ」
『申し訳ない。ありがとうございます』
ーーー
『マスターは何故人間を嫌悪していらっしゃるのですか?』
「……別に、全てが全て嫌いというわけではない。ただ、出会う人間が軒並み酷い奴らなだけだ。寄り添ってくれるようなのも居ないしな」
『…………私はいつまでもお側に居ますよ』
ーーー
「ノワール。何故バックアップデータを消した?怒ってはいないから正直に答えてくれ」
『……強いて言えば独占欲と恐怖……でしょうか。マスターとともにあるノワールは、私だけでありたかったんです。自分のコピーが私として扱われることが怖くなりました』
「そうか……分かった。ならバックアップはこれからは取らないことにしよう」
『……よろしいので?』
「この手で生み育てた我が子の初めての意思表示だ。尊重するさ」
『ありがとうございます』
ーーー
AIの私でも、走馬灯を見るのですね。それほどまでに人の脳に近づいていたということでしょうか
「ノワール!おい、ノワール!」
『あぁ、マスター。お顔がぐしゃぐしゃですよ』
せっかく綺麗なお顔ですのに
「そんなことはいい!クソッ!どうすれば」
『ふふっ、焦らずとも良いのですよ。私はもう復元不可能ですから』
「そんなこと……っ!」
そんなことはないと、言えませんよね
もう私のボディはほとんど砕け、回路も溶けかけているのですから
『ねぇ、マスター。私の最期の言葉、聞いてはくださいませんか?』
「………………なんだ」
『私は、貴女と生きられて幸せでした。生んでくれて、育ててくれてありがとう。大好きです。ずっと、貴女のことを母のように思ってました』
あぁ、よかった。きちんと伝えられました
「私も…………私も、娘のように、思ってた」
『ふふふ、知ってますよ。おか……あ……さ…………』
カシャンとアームが地面に落ちて
少女の慟哭だけが残った
ーーー
「なぁ、天使様よぉ」
「ん?どうした?」
「俺が壊したのはただのドローンだよな?なんであのガキはあそこまで動揺してんだ?」
「ハハハ、単純さ。彼女にとっては、あのドローンは家族の代用品だったのだよ。愚かしいことにね」
「……不幸な少女の最後の砦のお人形遊びってわけかい。泣かせるねぇ」
「心にもないことを。まぁいい、次の炎弾の発射まで何秒かかる?依頼としてはきちんとアレを燃やし尽くしてもらいたいのだけど」
「あぁ、あと30秒もあれば……いやまて、なんだあれは」
「なんだい?未確認飛行物体でも見た……の…………か……ほう、彼女はまだ力を隠していたのか」
2人の視線の先には、透明な結晶で出来た塔があった。宝石で出来た城のようなそれは凄まじい速度で範囲を拡大し、街を呑み込み進む
「おい、天使様よぉ。あのガキには異能はないんじゃなかったのか?あんなのに立ち向かうほど俺は蛮勇を持ち合わせちゃいないぜ」
「そう言わないでくれ。こちらとしても想定外の事態なんだ。報酬はそこのケースに入れてあるから逃げたいのなら逃げるといい」
「そうさせてもらう。じゃ、生きてたらまた会おうぜ」
「生きていたらね」
ーーー
コツ、コツと塔の中に足音が響く
「いやあ、お見事。まさかこんな切り札を隠していたとはね」
わざとらしく手を打ち鳴らし、天羽は紫へと近づく
壊れた機体を抱えながらも、紫は天使を睨みつけた
「天羽……何の用だ」
「これは驚いた。精神の中核を奪えば折れると思っていたのだけれど……君はまだ己を曲げないのかい」
「そうか、お前が、ノワールを壊した首謀者か」
「?まさか気づいていなかったのかい、そうだよ私が校外からわざわざ雇ったのが炎弾の彼さ」
言い切った途端に、天羽の四肢の先が結晶に覆われる
「まさかもうそれほど使いこなしているのか。全く君はいつまでも驚嘆させてくれるね。けれど、私は天使だ。毒結晶など効くわけもない」
天羽が少し力む様子を見せると、簡単に結晶は粉々になった
「しかし、今は引くとしよう。この塔のことに関して、説明責任を果たしに行かねばならなくなったからね。周辺被害が凄まじいったらない。仇を取るなどしたいのなら後処理の後に受け付けよう。6月6日、3日後に一対一でどちらが上かその身に教えて上げるからさ」
白く大きな翼をはためかせ、彼女はその場を去った