全ての財を素材へ変え、一人機器を組み上げる
おそらく、天羽は私への加害を止めるつもりはないのだろう。奴の目的は「心を折ること」だと言っていた。なんのためかは知らないが、であるならば私は拒絶を持って応えよう
たとえ法に反しても
銃は私の身体では撃てない、だから銃弾を発射するラジコンのような小さな戦車を作った
斬りつけるには素早く動くものが要る、だから小さなドローンを作った
大量に、それらを材料の許す限り作製した
ただ排除するそのためだけに
異能は、どうやっても使えなかった
ーーー
6月6日土曜日、紺理小学校の正門前で天羽ホワイトはいつもよりも厚着をして歩み来る花咲紫を見つけ、話しかける
「休日だというのに、伝えた日付にやってきたということは復讐しに来たと捉えていいのかな?やはり君も人の子、家族を奪った相手は憎いのだろう?」
見透かすように、既に知っているかのように、天羽は紫の内心を予測し口にする
しかし、紫は首を横に振り否定した
「奪われたから苦しみを与えるなど幼稚な理由を私は持たない。……1つ問うが、貴様はこの先も私を害するつもりがあるか?」
予想外の言葉に天羽は首を傾げながらも答える
「害なら与えるよ、君の心が折れ何の行動もしたくなくなるまではね。けれど復讐しに来たのではないのなら何の用でやってきたのかな」
「なるほどな……それなら用はたった一つ、害獣駆除だ」
紫がコートの内側の紐を解き、小さな戦車とドローンが天羽に襲いかかった
「ハハハハハ!なるほど、実に君らしい!いいじゃないか受けて立つよ。天使を害獣とする人間には天罰が必要だ!」
ふわりと空を飛び回避した天羽は高笑いを上げて空に手を翳す
するとその場が発光し弓矢の形をとる
「不当に空を飛ぶハエには止まってもらおうか」
放たれた矢が3本に分かれ、射抜かれたドローンたちがピタリと止まる。紫にとって既視感のある、しかし知らぬ力だった
「さぁさぁ花咲紫、君の力全てを否定してあげよう。この天使天羽ホワイトが直々にね!」
そうして、戦いが始まった
ーーー
停止し墜落したドローンを回収し、矢の効果を分析する。充電残量がゼロになっていること、前日の足への影響から、『停止させる』ことがこの矢の役割であると紫は理解した。おそらく、先ほどの停止はバッテリーを狙い、電子の移動を停止させたのだろうと推測する。
充電をし、再び稼働を開始する。その間、半自動操縦のドローンや戦車たちには回避を優先させながら攻撃を指示する。回避された矢の軌道の先の挙動も見逃さず頭に叩き込む
「なるほど、あの矢は光に近いようだな」
校庭の水溜りに当たった矢は、弾かれた地点から折れ曲がった直進をしていた
「であればこうしよう」
紫はポケットから手鏡を2枚取り出し、ドローンへ付ける
天羽の放つ矢は明らかに反射された
「!!ハハハ!面白いよ花咲紫!既に安らぎの矢の弱点を見つけるとはね!」
楽しそうに笑う天羽に、1つのドローンだけは攻撃に参加させず回避だけをさせていることが気づかれていないと確認し、注意を向けられぬように紫は舌戦を仕掛ける
「人の幼子に見透かされる程度の神秘とは、天使の権能も底が見えるな」
「今更、君をただの幼子と思う気はないさ!さて、ではこんなものはどうだ?」
天羽は天に向かって弓を向け、空高く矢を放つ
すると、光の矢は無数の小さな矢に分かれ雨のように振り注いだ
ドローンや戦車は回避をするが、数台避けきれずに動きを止められ、紫自身もいくつか被弾し転倒する
「……面倒な。しかし、それを放つには少しの溜めが必要なんだな?」
停止を解除するため、自身に電流を流し痛みに耐えて再び立ち上がる
「今の一瞬でそう推測しているとはね。その知性、やはり主の隣に相応しい!」
紫へ天羽が急落下してきた。咄嗟にエアダスターで勢いを弱め、そのまま回避してスタンガンを押し当てる
天羽の白い羽根が少しだけ焦げ付いた
「なるほど、電撃は効くのか。毒は効かず銃弾は傷を負わせども決定打にならないように見えていたが、理屈が分かってきた。貴様の防御の権能は『神聖な逸話』がないものへの耐性だな」
「ハハハ、今のを躱されるとは!炎王猿との争いで経験値を積ませてしまっていたか!権能は君の推測の通りさ、正確には『悪とされるものへの耐性』だけどね。毒や銃弾はいつだって『悪』だ。私には効かない」
ドン、と戦車が発砲をするが、天羽の衣服が焦げることすらなかった。弾丸は天羽のスカートのポケットへ入って止まる
「どうやら確かに効かないらしい。であれば、貴様を地に引きずり下ろそう。いつまでも上から見下されるのは不愉快だ」
そう紫が言うと、天羽の背後から地面に落ちて止まっていたはずのドローンが天羽の右の翼を切り裂いた
用意していた様々な素材の刃、その中でも太陽と関わりの深い、金でできたものだった
「っ……!困るなぁ、私の翼は主のお気に入りなんだ。あまり傷をつけないでおくれ」
振り返り再び射抜くと、今度こそドローンは停止する
「その傷は予備バッテリーへ充電していたことを予測できなかった貴様の怠慢だろう。受け入れろ」
「天使に向かって『怠惰』とは、言ってくれるじゃないか」
飛翔ができなくなった天羽は、弓を構え直す
「飛翔を封じたのは、矢を回避する距離を自らなくしたのと同義だよ。さぁ避けてみるといい」
紫は天羽の視線の先を観察する。そして、予測通りに飛ぶ矢を躱し、スタンガンを押し当てるために天羽へ近づいたところで
後ろから、スタンガンを持つ右手が射抜かれた
天羽が微笑みながら語りかける
「曲射と言ってね。弓は単純な直線軌道だけでなく、こういったトリックショットもできるものなんだ」
愉快そうな天羽へ紫は毒を吐く
「神秘だ天使だと言っていたというのに、翼をもがれれば頼るのは人間の技術か」
「人への敬意も忘れないからこそ、天使は神の使いたり得るのさ。さて、今から君の身体能力では逃げることもできないだろう。一度心臓を止めてあげるよ、私に負けたと実感させるためにね。安心するといい、蘇生や治療は私の得意分野だ」
天羽が再び矢をつがえると、紫は周囲のドローンを自身を囲うような位置に配置し稼働を止める
その様子に天羽は首を傾げた
「おや?まさか降参するのかい?君はそれだけはしないと思っていたが」
「するわけないだろう。貴様が死する未来が確定した故にもう展開する必要がないというだけだ」
落ち着き払った紫に、天羽は同情の目を向ける
「可哀想に。絶望で現状を正しく理解できなくなったのか。いいだろう、心停止をもって事実を飲み込み給え」
天羽が矢を放とうとするその瞬間、紫は左の手でスカートのポケットを叩いた
突然、1つのドローンから空気中に大量の紫電が放たれ
それはすべて天羽へと向かった
崩れ落ちる天羽に、紫は説明する
「テスラコイル。高電圧を放電する機械だ。低周波化と同時にドローンへ小型化して積むのは骨が折れたが。貴様へ撃ち込んでいた弾丸は銀製だった。感電するのは貴様だけというわけだ」
天羽は、ほとんど動けなくなっていた
しかし、胸が上下することから生きてはいるようだった
焦げによって、もはや白の残らぬ天羽を校庭まで引きずり、投げつける
「答えろ鳥モドキ。貴様は何故私をつけ狙った」
「ゴホッゴホッ……それを聞くために生かしたのかな?」
「ふざけろ。殺すつもりの放電でも勝手に生き残ったのは貴様だろうが。さっさと答えてこの世を去れ」
睨みつける紫に、天羽は感嘆を表する
「君もボロボロだろうに、大した精神力だよ、本当に。いいさ、答えてあげよう。私は、主のために、主と似た君を、連れていきたかった。けれど、主は繊細だからね。同じように心が折れた人間でなきゃダメだったんだよ。だからとにかく追い詰めてみた。失敗だったけどね」
「私を貴様の空想を叶えるために利用したかったと。反吐が出るな」
不快感と、原因を排除できた高揚感を抱え、ゆっくりと紫は天羽との距離を縮める
「どうとでも思えばいいよ。私は最初から主以外の人間なんか嫌いで、利用対象としか思ってない。救済なんてパフォーマンスだった」
「そんなことはどうでもいい。くだらない妄想につき合わされたことが私は不快だ。二度と、私に手を出すな」
放たれたスタンガンの電流が、天使の胸を貫いた
「ノ…………いや、もう居ないんだったか」
つぶやくと同時に少女の足が震え出す
「あぁ……無理をしすぎたか」
そう言って紫はその場に横たわる
黒く焦げた羽根の山だけが、何が起こったかを語っていた
ーーー
暗闇だけの部屋
生徒会長を模したぬいぐるみの心臓部を、誰かが裁縫用の針で貫いた
すると、ぬいぐるみは空間を巻き込んで渦を巻き、人の形を形成した。そこには確かに死んだはずの天羽ホワイトが蘇っていた
「……我が主。勧誘も失敗に終わり、勝負にも負けてしまいました。彼女のことを少し甘く見すぎていたようです」
「別にいーよ。どーでも。それより、あの学校の生徒会長続けてよ?管理は君に任せてるんだから」
「了解しました。我が主」