魔道具職人の美少女転生者は、適度な自己満足で生きていく   作:まぎてっくなー

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1 魔道具職人として生きていく

 この世界に生を受け、初めて作った魔道具は温度を自在に調整できて、水を生み出すことのできる魔道具だった。

 何しろ入浴という文化がないものだから、自分で道具を作らなければ風呂に入ることもままならない。

 魔術で生み出した水で汗を流して、清浄の魔術で清潔さを保つ。

 魔術でそういうことができる世界だから、わざわざ風呂で身を清める必要がないため、入浴文化は育たない。

 それでも前世並の清潔さを獲得することはできるわけだが、だからこそこういうこだわりは大事だろう。

 誰からも理解されないことではある。

 自分自身ですら、非効率だなと思って清浄魔術で済ませるときもあった。

 だとしても、こだわりを持って自分のペースを守ることも肝心だ。

 

 そういう自己満足が人生を豊かにしてくれると、私は本気で信じていた。

 

 成り上がりとか、無双とか、そういうことには興味はない。

 ただ自分が満足できる生き方ができれば、それで十分。

 それだけ――の、はずだったんだけどなぁ。

 

 

 ■

 

 

 私は冒険者ギルドに冒険者登録こそしているものの、その等級は全八級のうち五級止まりだ。

 一人で戦闘系の依頼を受けることのできる等級。

 それだけアレば十分である。

 何しろ本業は魔道具職人なもので、冒険者ギルドに訪れる用事は魔道具の納品であることがほとんど。

 冒険者として仕事をすることなんて、よっぽど素材に困ってる時くらいだ。

 だからまぁ、納品にやってきた冒険者ギルドがやたらと賑わっていても、それに私は意識も向けないのである。

 

「納品に来ました」

「あら、いらっしゃいテクナちゃん。今日も早いわね」

「いえ、他に回るところもありますので」

 

 ギルドの受付嬢さんは私にやさしくしてくれるが、こちらとしてはあくまでギルドは取引先。

 失礼のない程度に淡々と、事務的な対応をする。

 

「ところで聞いた?」

「はい、なんでしょう?」

 

 まぁ、向こうが話を振ってきたらそれに対応する程度の社交性は持ち合わせているつもりだけど。

 空間が拡張されていて、見た目より中身の入る拡張袋からギルドで使う使い捨て魔道具を取り出しつつ、聞き返す。

 

「実はね、王都のお姫様がここで依頼を出したいそうなの」

「はぁ……それはまた、変な話ですね」

「そのお姫様が、第四王女レクレティア様だっていうから、もう大盛り上がりで!」

 

 実に奇妙な話だ。

 王女が、わざわざ地方の冒険者街で依頼?

 どう考えても普通じゃないだろ……

 王女レクレティアといえば、天使だの聖女だの、やたらと市民の間で人気の高い王女様だ。

 見た目が良すぎるせいで、特に人々の前に姿を表すわけでもないのに人気があるという、変な王女様。

 ただ聞くところに寄れば庶子だそうだから、王宮内での立場は低い方だという。

 まぁ、苦労しているんだろうな……とは思った。

 そんな王女様が、どうして?

 ――とか思っていると、扉が開く。

 どうやら、件の王女様……の部下だろう騎士がやってきたようだ。

 フードを目深く被った騎士鎧の女性が、ギルドに堂々と入ってくる。

 

「来た来た」

「ははぁ」

 

 少しだけどよめいてから、しん、と静まり返るギルド。

 普段よりずっと人がいるのに、普段よりずっと静かだ。

 何とも不思議な光景であるが、この状態で道具の納品はガチャガチャうるさくて悪目立ちする。

 私はできるだけ静かに、かつ迅速に道具を納品すると、受付嬢さんに頭を下げてその場を離れた。

 まぁ、私には関係ないことだろう。

 そう思いながら、声を張り上げる騎士の言葉を小耳に挟む。

 

「今回、依頼を出したのは第四王女レクレティア様の母君が罹ってしまった病気を治すためだ。この病気は非常に珍しいもので、それを治すための薬は王宮ですら手に入らない」

 

 病気は、魔力斑点症というらしい。

 体内の魔力が悪い方向に作用して、体に斑点を浮かび上がらせつつ人を衰弱させてしまうのだとか。

 あれ、たしかその病気……

 

「そこで、各地を周りこうして依頼を出している。この病気を治すための薬を所有しているもの、あるいは治すことが可能なものは、黄金の山羊の蹄亭まで足を運ばれたし、以上!」

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()な?

 私がそんなことをふと立ち止まって考えている中、騎士が去ったあとのギルドはどこか残念そうな雰囲気が漂っていた。

 まぁ、王女直々の依頼ということで、王女様とお近づきになれると踏んだ冒険者は多かったことだろう。

 しかし残念ながら、自分たちに依頼を解決する方法はないと言っていい。

 戦闘で解決できる依頼とかじゃなくて、残念だったな。

 それにしても、魔力斑点症か……どうしたものかな。

 

 

 ■

 

 

 まぁ結局のところ、自分が満足できるかどうかが大事なのだ。

 私には人並みに罪悪感というものがあって、眼の前で困っている人を見捨てたら自分が嫌な気分になってしまう。

 自分に助ける力がないのに関わろうとするのは却って迷惑になるから、その場合は仕方がない。

 だけど助けられる力があるなら、多少なりとも手助けするほうが私は満足できる。

 かと言って、目立ちすぎてしまうのはいただけない。

 そうなると助ける方法は自ずと決まってくる。

 治療のための魔道具を、騎士が言っていた「黄金の山羊の蹄亭」前に置いてくるのだ。

 使い方を記した紙も添えて。

 これを向こうが信用するかは、はっきり言ってわからない。

 だが、それでいい、むしろそれがいいのだ。

 

 コレこそ、私の好む適度な自己満足というやつなのだから。

 

 ――翌日、私は街の路地裏を一人歩いていた。

 この路地裏を通った先に、昔から付き合いのある魔道具屋がある。

 私は自分の店を持たず、いろんな店に商品を納品する形で商売しているから、こういう取引先との付き合いは大事だ。

 向こうが完全に道楽でやっているだけの、人が来ない魔道具屋だったとしても。

 昔世話になったことには変わらないのだから。

 まぁこれも、自己満足というやつだな。

 

 

「――――失礼する」

 

 

 不意に、声をかけられた。

 その声に、私は思わず息が詰まる。

 聞き覚えのある声――というよりも、昨日聞いた声の中で最も記憶に残っている声だった。

 

「ええと、何でしょう」

 

 フードを目深く被った王女レクレティアの女騎士が、そこにいた。

 すさまじく嫌な予感がする。

 いや、どう考えても――バレるわけがない。

 きちんと姿は隠したはずだし、夜に訪問したし、痕跡になりそうなものは隠匿している。

 だというのに――

 

()()()()()()()()()()()()

 

 眼の前の女性は、私を適格に見つけている。

 誤魔化すか? いや、フードの奥から覗く彼女の瞳は、確信に満ちていた。

 だが、気になる。

 どうやって私を見つけ出したのか。

 それに私としても、面倒事はごめんなので、一応誤魔化すポーズだけは取っておこう。

 どうせ無理でも、やらないよりはまだ納得できる。

 

「……何のことでしょう」

「一つ、この街にあの魔道具を作れる職人は君だけだと、調査で判明している」

「…………」

 

 高度な技術で作った魔道具ではあった。

 そこから辿られる可能性は、確かに存在する。

 だがそれなら、わざわざ直接私を探し出す必要はないはずだ。

 紙にも報酬は不要だと書き添えてある。

 だからふと、思った。

 逆なのではないか?

 治療のための薬や魔道具を探しているのではなく――

 

「そして、もう一つ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ――私を探しているのではないか?

 

 

 ……ん、()()

 

「ようやく……ようやく見つけた。私を救ってくれた命の恩人」

 

 私が以前魔力斑点症の治療を行うために魔道具を作った相手は、一言で言うと()()()()()()()()だった。

 その正体まで私は知らない。

 だから、もしその正体が――()()だったとしたら。

 

「――会いたかった。会いたかったよ、()()()

 

 フードを脱いだ女騎士は――否。

 ()()()()()()()()()()()は、涙を瞳に浮かべて私の名を呼んだ。

 

「ええと……()()()()()

「相変わらず、正体を隠しているのに様付けなんだな、君は」

「当時から、高貴な身分であろうことは理解していましたし……」

「構わないよ、君はその方が君らしいだろう」

 

 かつて私は、リティアという身分を隠して旅する少女を救ったことがある。

 その時も、自己満足からリティア様の正体までは聞かなかった。

 助けられれば十分だったから。

 ただまぁなんというか、面影はある。

 

 美しい金の髪に、凛とした瞳。

 背丈はそこまで高くはないけど、小柄な私からすると見上げるような感じになる。

 出るところは出ているスタイルは、豪奢な装飾の騎士鎧も相まって優美という他にない。

 ただ何と言っても、圧倒的なのはその存在感。

 そこにいるだけで人々を圧倒してしまうようだ。

 

 これはまた、良いものを見れたな、なんて他人事のように思ってしまう。

 ギルドの連中も惜しいことをした。

 おそらく魔道具を届けた時の私のように、フードで認識を阻害しているのだろう。

 しかし、まさかあそこにやってきた騎士が王女本人だとは誰も思わなかったはず。

 そういう意味では少しだけ約得だな、なんて思ってしまったりもするわけだけど。

 

「――私は、君に会うためにここまで来たんだ」

 

 その王女様からこんな風に言われては、はてどうしたものかな……と私自身考えてしまうのだった。

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