魔道具職人の美少女転生者は、適度な自己満足で生きていく 作:まぎてっくなー
私、テクナには親がいない。
気がついたら路地裏で一人、前世の記憶を抱えてうずくまっていた。
前世の私は少し手先が器用で、プラモデルとかを作るのが好きなオタクだ。
別にそれを本職にしようというつもりはなく、あくまで趣味程度の手先の器用さ。
ただ、その器用さはどうも生まれ変わっても引き継いでいたようで、それと前世の記憶がなければ私はどこかで行き倒れていただろう。
あるいはもっとひどいことになっていたか。
もともと前世の頃から、自分が満足できる生き方をできればそれがいいという性格で、それはテクナになってからより一層加速したように思える。
何せ、そもそも他人を気にかけている余裕すらないのだ。
自然と私は、少しでも自分が良いと思える生活を重視するようになったのである。
悪行以外ならなんでもやった。
特に掃除とか、服の修繕とか、そういう部分では私のスキルも相まって幼いながらに重宝はされていたと思う。
ただまぁ幼い子どもであることも相まって、何とか手に入れた給金を年上の少年たちに暴力と共に奪われ、痛みにこらえながらひもじい思いをしたこともあった。
貞操を今まで守ってこれたのは、本当に奇跡としかいいようがない。
女になって見てくれは良くなったのは少し嬉しいけれど、それによってもたらされる不利益を考えると、差し引き若干マイナスだ。
――正直、生きている意味なんてあるのかな、と思った。
この生活が改善するとは思えない。
成長しても、前世のような漫画やアニメといった娯楽はもう存在しないのだ。
退屈な世界、自分を満足させるにも苦労する世界。
だったらいっそ、今の人生を諦めて”次”に賭けたら……なんて思考もよぎったりした。
そんな人生が劇的に変化したのは、今から十年ほど前のことになるだろうか。
偶然、とある魔道具屋で手伝いをすることになった。
偏屈な婆さんが営む魔道具屋で、道楽としか言えないような商売っ気のない店だ。
しかしそこで――私はある適正に気付いたのである。
それは魔道具職人となるには最適といってもいい適正で、私の転生チートのようなものだった。
何よりそれを面白いと思ったのか、婆さんは私を引き取って、魔道具作りを一から叩き込んでくれたのだ。
そこからはもう、人生が楽しくて仕方がなかった。
魔道具は素晴らしい。
私に才能があるというのもあるが、自分の思い描いたものが形になっていくというのは実に心地よい工程だ。
何より、アレほど苦しかった生活が、今では現代並に豊かになっている。
しかも制作費は全部魔道具屋の手伝いと魔道具を売買した金で成り立っているから、実質タダ。
婆さんは「また変なものを」と言っているが、それがたまに金になったりもするし、別にいいだろう。
それから私は、魔術を学んだりして生活のクオリティを高めつつ、自分の生活を良くしていった。
ただ、途中で少しだけ「もっと良い立場に成り上がることのできるチャンス」が私の前に転がり込んできた事がある。
リティア様を助けた時など、まさにその典型だろう。
――しかし私は、それをことごとく避けてきた。
だって、私は自分が満足できればそれでいい。
それも、ただ満足するだけではない。
目立ちすぎたりすれば、きっと仕事はもっと増えるだろう。
そうすれば、忙しくてとてもゆっくりはしていられなくなる。
――だから私は、こういう事態を避けてきたつもり、だったんだけどな。
リティア様――レクレティア王女は、どうやら本気で私を探していたらしい。
そういうのを見捨てるとなぁ、それはそれで適度な満足から逸れてしまう。
何よりレクレティア王女は、なんというかこう……私を逃さない
■
流石にあの場所で話をするのは……ということになって、私たちは場所を変えることにした。
やってきたのは、元々これから訪れる予定だった魔道具屋。
婆さんは不在のようで、適当に奥の部屋を借りることとする。
いいのか? とリティア様は聞いてくるけれど、元々ここは私の家みたいなところもあるので問題ない。
話している最中に婆さんが帰ってきたら小言の一つでも言われそうだけど、それくらいは許容範囲だ。
「……改めて、会いたかったよ、テクナ」
「お久しぶりです、ええと……」
「リティアで構わないよ、君にはそう呼んでほしい」
「……リティア様」
「相変わらず、ちょっと他人行儀だな」
「性分なものでして」
表情筋は元から動かない方だ。
常にぼーっとしていると言われるくらいである。
心外な。
「それで、どうしてリティア様は私を探していたのですか?」
「……母が魔力斑点症というのは、本当だ。そしてアレを直せる魔術師、薬師、魔道具職人のうち、私が他の派閥に気兼ね無く頼れるのは君しかいなかった」
「なるほど、心中お察しいたします」
ロクサス王国の第四王女レクレティア。
王女という肩書だけ見ればすごい人のようにみえるけれど、十人近くいる王族としてみると、末席もいいところ。
庶子であること、女性であることも相まって皇位継承権は最下位なんじゃなかったか?
前に、婆さんがそんなことを言っていた覚えがある。
私の政治知識は八割が婆さん由来だ。
何者だよ、あの人。
とにかく、王宮の中での立ち位置は、失礼な物言いをすると
「今、王国は父が病床に臥せり、不安定な状態だ。そのタイミングで他の派閥を頼るのは、あまりにも国の状況を左右しすぎる」
「仮にリティア様が政治的な意図を持っていなくとも……ですか」
「そうなるな」
なんとも、リティア様としてはただ母親を治したいだけなのに、その一挙手一投足が周囲を刺激してしまう。
国民に人気が高い、というのもよくないのだろう。
「不甲斐ない話だ。もとは平民の子であり、王宮でも地位の低い母を守るために騎士の道を選んだというのに。結果として、それが母を苦しめる結果になってしまうなど」
「……そうですか」
なんと答えればいいのやら。
私にはわからない苦労というやつだ。
そうして、リティア様が本題に入る。
「……こうして、ひと目につかない生活を送っている君に頼むのは心苦しいと理解しているのだが、一つ、頼めないだろうか」
「…………とりあえず、お話はお聞きします」
昔、リティア様の魔力斑点症を治した時、私の物臭な性格はリティア様も把握している。
だからどこか伺うように、リティア様は切り出したわけだ。
はっきり言って、普通なら断る。
いくら眼の前の困ってる人を助けないと罪悪感があると言っても、国の
「単刀直入に言う、開発してほしい魔道具があるんだ」
「魔道具、ですか。とりあえずその内容をお聞きする前に、私にかかる負担はどれくらいでしょう」
「……君らしいな」
「率直に言うと、魔道具開発には興味があります」
多分これこそが、リティア様の持ち込んだ
私に益があることなら、確かに受ける可能性はある。
私がこのくらいなら負担を負っても構わないと思うくらいの内容なら、むしろ受けてもいいと思うだろう。
「今回開発する魔道具は、他の王族や貴族には絶対に知られたくない代物だ。よって、君には秘密が漏れない場所まで来てもらう必要がある」
「……王都、ですか」
「ああ。……結果として発生する厄介事は、可能な限りこちらで排除する。どうだろうか」
――正直に言おう、ナシだ。
それは流石に私の流儀に逸脱する。
いくらリティア様が庇ってくれると言っても、やってくる火の粉は一つや二つじゃ済まないだろう。
だが、流石に本命を聞く前に答えは出せない。
「開発して欲しい魔道具は……なんですか」
「――
「……っ!」
エリクシル、この世界においてもそうそう作ることの出来ない魔道具の最上位品。
錬金術で作るんじゃないの? と思うかもしれないが、この世界での錬金術は魔道具製作の一部である。
それを……作れる? まさか、材料もリティア様持ちで……?
魔道具職人として、魔道具を作ることを楽しんでいるなら、絶対にこの条件は首を横に振れない。
けど、しかし――
「……とりあえず、素材は当然こちら持ちだ。制作費は色を付ける……どう、だろうか」
「…………ああ、もう」
そんな時、リティア様がそう言ってこちらを覗き込んできた。
以前と変わらない、見た目に似合わない、年相応な瞳。
他者に弱みをみせることができない人の、私にだけ向ける瞳だ。
「…………いま、リティア様は素材を持ち歩いていますか?」
「あ、ああ……私が手元に所有するのが、私の関係者にとって一番安全な保管方法だからな」
ふと、考える。
思うのだ。
私が納得できる条件で。
私が満足できる方法で。
エリクシルを、作ることができるのではないか、と。
一つだけ、可能かもしれない方法がある。
「リティア様。やはり私は、王都には寄りません」
「……そうか」
残念そうに、リティア様はこぼす。
だけど、私は続けた。
「
「な――――」
普通なら、エリクシルの製作には本格的な設備が必要だ。
私が知る限り、一流の職人でも条件を満たせるのは王都か私の工房くらいだろう。
でも、私は違う。
「私なら……移動中にでも完成させられます。おそらく設備も……馬車に載せられる程度の物があれば、十分です。秘密だって……リティア様の側であれば十分守れるはず……ですよね」
「そ、れは――」
「ここから王都に戻るのであれば……どちらにせよ一月の時間が必要なはず。時間も……それだけあれば……そうですね、問題ありません」
どこか、自分の考えを自分の中で反芻するように、言った。
そう、これなら私の流儀に反しない。
王都の厄介事も私には関係ないし、なんだったらちょっとした旅行程度に考えればいいだろう。
お金がもらえて、エリクシルなんていう素晴らしい魔道具の作成までさせてもらえて、旅行もできる。
完璧じゃないか、これは。
そんな私の言葉に、リティア様は――
「ああ、そうか……君は、そういう人だったな――」
どこか、懐かしむように微笑んだ。
かくして私は、魔道具開発の依頼を請け負って、王都を目指すこととなる。
一月の、気楽な、楽しい旅。
この時は、そう思っていた。
ああでもまさか、事態があんな方向に進むなんて。
さすがの婆さんでも、想像もできなかったことだろう。