魔道具職人の美少女転生者は、適度な自己満足で生きていく 作:まぎてっくなー
旅に出ると言っても、それには色々と準備が必要だ。
私が持ち込む機材は馬車の中に収まる程度とはいえ、運び込むにはそこそこ手間がかかる。
他にも食材やらなんやらの買い出しは必須ということで、今日一日は準備に時間を当てることとなった。
まずはリティア様を黄金の羊の蹄亭に送り届け、それから私は工房へ移動。
荷物をまとめたら、また夕方に宿へ……といった予定。
「……護衛はつけていないのですか?」
「私より弱い護衛は必要ない、人質に取られると面倒だ。それに一人は身軽でね」
「絶対、王宮は騒ぎになってますよ」
「私が一人で出歩くのはいつものことだ、いつも通りの騒ぎにしかならないさ」
何ともそれは、破天荒なお姫様もいたもので。
とかく、まずはさっさと宿まで移動しよう。
リティア様はフードを被っているから認識阻害が効いているとは言え、隣に貴人がいるというのは落ち着かない。
「騎士として行動している時は、どのようにお呼びすればいいですか?」
「リティア、で構わないよ。その名前で行動しているからね」
「……ではリティア様……と」
「騎士なんだから、様はいらないとおもうけど」
「平民ですから」
こっちの吹けば飛んでしまう立場も考えてほしい。
フードとローブを上から羽織っているとはいえ、今のリティア様は明らかにお偉い騎士様だ。
私みたいな平民が、おいそれと触れていい立場の人ではないのである。
なんて話をしながら、人通りの少ない道をすいすい進んでいると――
「あ、テクナ姉ちゃんだ!」
「テクナお姉ちゃん!」
複数人の子ども達が、私の名前を呼びながら突撃してきた。
とんでもない勢いだ。
幾人か、そのまま飛びついてきそうな子どもがいたため、私は軽く横に避ける。
ついでにリティア様をかばうのも忘れない。
「おっと、ありがとうテク――」
「おいこらガキ共! 人が道案内をしてるのが見えてないか!? 危ないだろ!」
「ごめんなさーい!」
で、どやしつける。
子供達は解っていたようで、ちゃんとリティア様には危険のないように突撃しているし、私が避けたら後は追わない。
まぁ、後ろにいるのが偉い騎士様であるってことは、解ってないみたいだけど。
まったく、仕方のないガキ共だ。
「お、おぉ……テクナ、この子たちは?」
「面倒を見ている孤児達です。近くに孤児院があるんですけど、たまにそこへ顔を出してます」
私と、婆さん、それから孤児院を運営しているシスターが作った孤児院だ。
こちとら孤児で住む場所もなくて苦労したからな。
私だから何とかなったけど、他の子はそうも行くまい。
「……で、どうしてそんなに感心した様子なんですか?」
「いや。……ふふ、そうか……いいお姉さんなんだな」
「やめてくださいよ、こいつら元気がいいだけで人の言う事なんて聞きやしない。私にいいお姉さんなんてできません」
んで、リティア様は目を丸くしてから私に子供達のことを聞いて、それからは何とも楽しそうにニヤニヤしている。
少し怖い。
「お姉さん、テクナ姉ちゃんの友達?」
「ん? ああそうだ、テクナとは古い友情があってね、久しぶりの再会で友好を温めていたところだ」
「それは……いえ、まぁいいですけど」
友情……と呼べるかはわからないけど、まぁそこそこ関係があるのは事実だ。
なんだかむず痒いので、あんまり掘り起こしてほしくない友情である。
「へぇー! 姉ちゃんのくせにこんな美人と知り合いなんだ!」
「姉ちゃんのくせに、とはなんだ。くせに、とは。悪かったな、チビのガリガリで」
「うぇ、べ、別に姉ちゃんのこと悪く言ってるつもりはねぇし」
「んだとぉ?」
「うわー!」
言いながら、私は視線を合わせて文句を言ってくる子どもの頭をガシガシする。
それから、他の子供達に視線を向けながら子供達に問いかけた。
「それで、ちゃんと勉強はやってるんだろうな?」
「や、やってるよぉ! 姉ちゃんがやらないとお仕置きだって言うから!」
「テクナお姉ちゃんのお仕置き、こわいもんねぇ」
ガシガシしていた子どもが慌てて答え、隣の女の子が楽しそうに笑う。
なんだ、何がそんなに面白いんだ。
最近の子はわかんないなぁ。
「ならよし。……そうだ、姉ちゃんしばらく王都に行くから、私がいなくてもちゃんと勉強したり、シスターの手伝いするんだぞ」
「え、テクナお姉ちゃん王都に行くの!?」
「えー!」
そういえば思い出したので、子供達に予定を伝えておく。
今の私は成人してるし、独り立ちもしてるから婆さんやシスターに予定を伝える必要はないんだけど、誰かしらに言伝は必要だ。
その点、子供達に話しておけば後で勝手に話が広まってくれることだろう。
「いいなぁ、王都ってすげー広いんだろ!?」
「お姉ちゃん行っちゃやだぁ」
「行くって言っても、往復で二ヶ月くらいだからそこまで時間はかからないよ。それに王都もちょっと寄ってくるだけだし……お土産を買ってくる余裕くらいはあるかな?」
「楽しみにしてる!」
「いい子だ!」
わしわし、と手の勢いを弱めて、褒めるように撫でる。
んで、私が頭を撫でていた子がふと、もじもじした様子で何かを懐から取り出そうとしていた。
なんだなんだ?
「あ、あのね、姉ちゃん! コレ見て!」
「これは……魔力造花か? よく出来てるじゃないか」
魔力造花、名前の通り魔力で造った花で、使用用途は観賞用と非常時の魔力補充用。
特に優秀な職人の造った魔力造花は、それ一本で大魔術の発動をも可能にする。
この子の造った魔力造花は、使用した魔力量よりもその美しさに目を見張るものがあった。
「……うん、すごくキレイだ。君は手先が器用だからな、きっといい職人になるよ」
「…………っ! ありがとう、姉ちゃん!」
私が軽く笑いながらそう言うと、少年はぱぁっと華やぐように笑みを浮かべた。
それから、更に少しもじもじして、何やら恥ずかしそうに――
「こ、これ……姉ちゃんに上げる!」
――と、言ってきた。
えっ。
それは……普通に困るな。
いや普段ならいいんだけど、これからしばらく旅に出るわけだし、そうなるとこの造花は持っていけない。
かといって、それを理由に断ってもこの子を傷つけるだけな気がするし――
子供達はなにやらドキドキした様子で私を見ているし、後ろのリティア様から「どうするんだろう」みたいな気配を感じる。
ええい、こういう時は……こうだ。
「――これは、君が持ってるといい」
「……え」
その子は少し、残念そうな顔をする。
私はそれを耐えながら、続けた。
「これは君が、一人前になるための最初の一歩だ。すごいじゃないか、以前造ったものと比べて見違えるような出来だよ」
「……姉ちゃん」
「これから先、君が迷った時、その度に振り返ってこの花を眺めるんだ。君はこれを作れるだけの実力がたしかに備わっていると確認するために。私が保証しよう――」
そして、最後に。
「君は、素敵な職人になる」
そう、いい切ったのだ。
「…………うん」
「よし、君が本当に一人前の職人になった時、その時改めて花を受け取るよ。そのときには、これくらいの造花はいくらでも作れるようになってるだろうからね」
「……うん!」
よし、納得してくれたみたいだ。
それから子供達を見送って、私はリティア様の方に振り返る。
「すいません、お手数をおかけしました」
「いや、それはいいんだが……」
「なんです?」
何か含みのある言い方だなぁ。
「あの子、見たところ斥候としての才能もあったようだが」
「手先も器用ですし、すばしっこいですしね。でもまぁ、本人が職人になりたいというなら、いいのではないでしょうか」
「いやなりたいというか……はぁ、君はいつもああなのかい?」
「ああ……とは?」
「……わからないならいい。まったく、罪深いことだ」
そう言いながら、リティア様は先に行ってしまった。
罪深いとは一体……よくわからないが、とりあえずリティア様を一人にするわけには行かない。
私は慌てて、彼女の後を追うべく駆け出すのだった。
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