TS代理女神の終末管理局   作:ジーニアス佐治

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よろしくお願いします。


一人目『TS代理女神の異世界救助PROTOCOL』

「——お待ちしておりました、異世界の使徒様。我が名はリリィル、傀儡の女神リリィルと申します」

 

 四時限目の物理の授業。

 クラス全体に微睡みが漂う、そんな昼下がりのことだった。

 

「——」

 

 突如として意識が遠のき瞼を閉じる。

 そして、次に目を開けた時には、ぼくたちは見知らぬ空間に立っていた。

 

「へ、あ? なにこれ」

「誰だあれ? ……てかどこだぁここ?」

「皆、落ち着いて行動しよう! こういった時は冷静を保つことが——」

 

 混乱広がる視線の先、一人の少女が佇んでいた。

 

 真っ白な短い髪に、赤く綺麗な瞳。

 絵画にも勝る美しい顔立ちで、ぼくたちを見据えていた。

 

「皆様、どうかお聞きください。貴方方は、不幸にも死んだのです」

 

「は——ぁ?」

「ヤベェ女がヤベェことを呟いてる」

「これ異世界転生……!?」

 

 騒ぎ立てるクラスメイトたち。

 喜ぶ者、怒る者、現実逃避する者。

 誰も彼もが、思い思いの言葉を口にしている。

 

「——」

 

 ぼくはただ沈黙していた。

 必死に状況を把握しようと周囲を見渡しても、物事の辻褄が合わなかったからだ。

 

 突如襲ってきた強烈な眠気。

 それに身を任せた直後に、この状況。これが「死」の結果だとは、どうしても結びつかない。

 

 そんな困惑の渦中の中、彼女は告げる。

 彼女は大きく両腕を広げ、まるで舞台役者のような大袈裟な仕草で告げた。

 

「貴方達には終末の排除を頼みたいのです。異世界を救助する、英雄譚を——」

 

 

 ◆

 

 

 

 ——そこから数時間後。

 ようやく、自身に起きた状況を把握した。

 

 やはり、ぼく達は死んだらしい。

 

 校外学習のバスで、不運にも落石があったんだと女神リリィルが言っていた。

 ぼく達に記憶が無いのは、死亡時のショックを薄くするためだと言っていた。

 

 正直、本当に落石で死んだのかさえ怪しい。

 ……が、いずれにせよ、そんな理不尽に見舞われたぼく達を女神リリィルが魂をこの空間に拾い上げたということになるらしい。

 

 そして当然、美味い話には裏がある。

 ぼく達には、その対価として「崩壊しかけた異世界の救助」という仕事が割り振られることになった。

 

 滝ケ原高校一年生二組、生徒数三十一人。

 つまり、三十一の異なる世界に、生徒が一人ずつ割り振られるらしい。

 

「……」

 

 ちなみに、この事象はクラス転生と呼ぶんだとか。

 クラスの隅にいる、オタクとも言い難い影の薄い男児が、この事象をそう呼んでいた。

 

 彼が言うには、この後は「加護」や「スキル」が配布され、各々が好きに活動を始めるらしい。

 人によっては英雄に成ったり、人によっては居酒屋を経営したり、多種多様。

 運が悪い場合は……死ぬこともあるらしい。

 

 死ぬ。

 そのワードは聞き捨てならない。

 

 ぼくはそいつの元へ歩み寄り、問いただした。

 どこからその情報を得た。その情報のソースはどこ?とね。

 

 

 そうしたら、気まずそうに視線を逸らしながら——

 

 

「ごめん。これネット小説の話で……」

 

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

 ◆

 

 

 それから、体感にして一月近くが経過した。

 経過したらしい、と言うべきか。この空間には、正確な時間の進みという概念が存在しない。

 詳しくは知らない。

 

 そして、そんな中ぼくは危機感を感じ始めてきていた。

 

「なぁ、お前ってどんな祝福を授かったんだ?」

「え? 私? 私はね——」

 

 ——祝福。

 周りは祝福のことを『スキル』だとか『加護』だとか好き勝手に呼んでいる。

 それで、大体のニュアンスはそれで伝わるだろう。

 すなわち魔法。世界の理を捻じ曲げるチートパワーというやつだ。

 

 各々が発現する力は千差万別。

 性格や生まれが起因するらしいが、詳しくは理解していない。

 

 それもそのはず、何せぼくには何も力が宿っていないからだ。

 

「何も発現しないなんてことがあるのかな」

 

 もしそうなら……どうなる?

 ぼくは無能のまま異世界に赴くことになるのか?

 

「——マズいなあ」

 

 はぁ、と全てを乗せて息を吐いた。

 

 少しの不安はあるが、まあいい。

 祝福を発現させていない人間はまだ数人存在する。

 

 この空間で半年も経過すれば、誰でも祝福を受けることができると聞く。

 

 

 きっと、大丈夫だ。

 

 

 

 多分。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 どこか企業の事務室を思わせる空間で、女神リリィルがぼくを見据えていた。

 

「残ってしまいましたね」

 

 残念。

 半年が経っても、ぼくに能力が発現することはなかった。

 

「こ、これってぼくは一体どうなるんです? このままだと——」

 

 ——死ぬことになる。

 

 そう、ぼく達には終末救済の報酬としてある物が提示されている。

 クラスメイトの殆どは、それを手にしようと藻掻いているのだ。

 

「んじゃ、また会おうぜ」

「お前もなー。死ぬなよ」

 

 視界の端。

 クラスメイトが笑顔を浮かべながら、それぞれの異世界へと向かっていく。

 

 拉致監禁、強制労働。

 そんな異常事態を彼らが大人しく、従順に受け入れていたのには、明確な理由が存在した。

 

 そうそれが、異世界救助の報酬。

 つまり——現世復活の権利。

 

 生への執着、それがパニックに陥らなかった理由だ。

 中には異世界に残りたいという人間もチラホラいたが……それは別問題だろう。

 

「……」

 

 翻って、ぼくの状況はどうだ。

 祝福がない。すなわち、異世界を救済する兵隊としての価値がない。

 

「安心してください同志よ」

 

 同志、と女神リリィルは優しくそう呼んだ。

 彼女が机の向こうから身を乗り出し、ぼくの手をいたわるようにそっと握りしめる。

 

「安心——ですか?」

「ええ。私は貴方に祝福が宿らなくても一向に構いません。……当然、宿ってくれた方が戦力として嬉しかったんですけどね?」

 

 ニコリと、こちらに気を遣わせないための優しい微笑み。

 

 だが「祝福が宿らなくても構わない」とはどういう意味だ?

 まさか労働の義務を免除され、無償で現実世界へ帰してもらえるとでもいうのだろうか。

 もしそうなら、願っても無い事だ。

 

 だけど、そんな思考に反し女神リリィルは——

 

「この領域に能力を持たない魂が残った場合、自然と消滅します。……でも大丈夫です、痛みはありませんからね」

「な……え? 何が?」

 

 おっと、驚きのあまり敬語が崩れてしまった。

 誤魔化すようにコホンと咳をする。

 

 そして落ち着いて一度、脳内でリリィルの言葉を反響させる。

 ——この領域に能力を持たない魂が残った場合、自然と消滅します。……でも大丈夫です、痛みはありませんからね。

 

 え、マジで何が?

 

「ふふ」

「ちょ、ちょっと待ってください! そ、それって死ぬことと何ら変わりないように思うのですが!」

「し、死ぬのとは違います! 魂が消滅するのですから歴史の因果から消滅するという事、そもそも生まれてこないので悲しみも怒りも、しまいには痛みも存在しないんです!」

「なんかさらに怖いこと言ってない君!?」

 

 ダメだこの女、どうにかしないとぼくが死ぬ。

 

 この空間から出ようにも……多分この女神は邪魔してくるだろうし。

 神相手にステゴロっていけるのか?いや、でもやらないと死ぬ可能性があるし……。

 

 うーーーーん………………よし、やろう。

 ぼくが手を振上げたその瞬間だった。

 

 女神が机の上に身を乗り出し、妖しく目を細めた。

 

「同志。そこで一つ提案があります。私にも貴方にも、非常に利益のある提案が」

 

 ……一転して、胡散臭いビジネスめいた話を始めるリリィル。

 ぼくは話半分で耳を傾けることにした。

 

「……聞きましょう」

「安心してください同志よ。ごく簡単な業務ですので」

 

 警戒しているぼくに、ぐっと距離を縮める女神リリィル。

 ふわりと、花のような匂いがした気がした。

 

「異世界救助に向かった人々、そのサポートを頼みたいのです」

「……と、いいますと?」

「それが、私が異世界に直接向かってしまうと、世界に色々問題が発生してしまうんですよね」

 

 ですから、と言葉を付け加え。

 

「貴方に私の肉体を貸すので、彼らのサポートをしてほしいのです。その間、私は仮の肉体で裏に回り仕事をしておきます。あ、もちろん、仕事を成し遂げてくれた暁には、皆さんと同じ現世への復活を差し上げますよ」

「ぼくが、女神様の肉体に入って……?」

「はい。この一月近く、私は貴方のことを見続けてきましたから。貴方は、恐らく……この仕事に最も適しています。周囲が浮足立つ中で、冷静にに状況把握と情報収集に努めていたのは、すべて見えていましたよ」

 

 本当か?女神相手にステゴロしようとした奴だぞ?

 無理だろ、と反射的に言いそうになったが言葉を飲み込んだ。

 

 当然だ。ここで頷かなければぼくは死ぬ。

 魂の消滅なんてファンタジー紛いの事象で、ぼくは歴史から消滅する。

 

「どうでしょう?」

 

 元の世界に、これといって大層な未練や願望があるわけじゃない。

 

 クラスメイトは言った——異世界は夢のよう場所だと、ハーレムはできるし英雄にも成れる。

 が、ぼくにはそんな大層な夢も欲望も無い。

 

「——」

 

 深い理由は無い————が、死にたくない。

 それで、十分な理由だった。

 

「……ご慈悲に感謝します。その提案、全身全霊で受けさせてもらいましょう」

 

 

 ◆

 

 

「ふん……」

 

 鏡に先ほどまで喋っていた女神がいた。

 白い衣のような、天使のような衣服に身を包んでいる。

 

『どうですか? 少女の肉体に入った気分は?』

 

 脳内に直接、女神リリィルの声が響き渡る。

 魂を共有化するとこうなるらしい。魔法の理屈はよく理解できない。

  

「いやぁ、素晴らしいですよ。女神様の肉体だからでしょうか、いやはや、内側から力がみなぎってくるというか」

『そうでしょう、そうでしょう!』

 

 手足を動かしてみる。重心の位置や骨格の差はあれど、機能的な不具合は特にない。

 ああは言ったが、正直、肉体の差異は感じられない。

 

『あ、一応釘を刺しておきますが、同志……私の肉体で、その、変なことはあまりしないでほしいと言いますか……』

 

 たまにだったらいいのか——と口から出かかったが、ギリギリで飲み込み。

 

「しませんよ。今のぼくは異世界を救助するので手一杯でしょうし」

『し、信じてますからね?』

 

 

 ◆

 

 

 女神となって一日経過した。

 一つ、驚くべき事実を発見したので此処に追記しようと思う。

 

 そもそも、この空間は何処なのかという話だ。

 ぼく達が仮住まいとして与えられていたエリアは、空一つ見えず無機質な壁に囲まれた、SFに出てくる地下基地のような場所だった。

 神殿とか期待していた人には申し訳ないがね。

 

 その空間でぼく達が過ごしている間、女神リリィルは偶に『9』と書かれた巨大なゲートを出入りしていた。

 ちなみに、ぼくたちは立ち入りを禁止されていたため、その先を見ることはできなかったのだが。

 

 その先、女神リリィルになったおかげか、通行許可を貰えた。

 当然気になり、ぼくはその先に向かったのだが。

 

 厳重な隔壁がプシューと開き、神々しい世界の真実が明らかになる——と思いきや。

 

「おーい、こっちの世界の時間縺れが狂いだしてるぞ!」

「第二部署の淫乱女神が暴れ出して——」

「納期間に合わねぇ!」

 

 耳を突き刺すのは、怒号、悲鳴、キーボードを叩き壊すような打鍵音。

 

 ——————??????

 

『あー……同志、嘘を吐いているつもりは無かったのですが、やはり夢という物は大事ではないでしょうか?』

「これは……」

『異世界というのは嘘じゃないですよ? そもそも嘘は一切ないんです。ただ、ここが——』

 

 ぼくが呆然と視線を上に逸らすと、そこには大きな文字で——

 

 

 

『——終末管理局という、貴方達で言う企業だってだけです』

 

 

 

 ぼくが唖然と、怒号と悲鳴が轟く空間を見据えている時だ。

 脳内の少女が、コホンと咳を入れた。

 

『同志。早速ですが異世界救助プロトコルを開始します』

「……は、い。もちろん」

 

 驚きが全く治まらない状況だが、ぼくはできるだけ気を引き締め——

 

『第一救助対象——ラルバトロス。同志の友人、愛原さんが向かった異世界です。えーっとですね、言いずらいんですけど……その世界で愛原さんはハーレムを築いているようでして……』

 

 ん……?

 

 

 …………ハーレム?




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