蒼の向こうでそれでも君を待つ   作:ハマジロウ

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第32章 新しい生活

 

 

九月の始業式を目前に控えた、八月最後の週末。

 

俺はこれまで暮らしていた独身用の職員宿舎から、

 

野球部寮にもっとも近い世帯用の宿舎へ引っ越すことになった。

 

理由は単純だった。

 

これから野球部の監督として、選手たちの近くにいる必要がある。

 

とはいえ、世帯用というだけあって、部屋は一人暮らしには少し広すぎるくらいだった。

 

二階の部屋。

 

そして、その上の階には佐伯青と岡谷蒼太が住んでいる。

 

引っ越し当日は、青と蒼太、それに松本まで手伝いに来てくれた。

 

「よいしょ……っと」

 

最後の段ボールを床に置く。

 

俺は部屋を見渡した。

 

まだ家具もまばらで、段ボールがあちこちに積まれている。

 

それでも、とりあえず生活できるところまでは持ってこられた。

 

「ふぅ。こんなもんか」

 

俺が腰を伸ばすと、三人がそれぞれ顔を上げた。

 

「ありがとな、みんな。手伝ってくれて」

 

青は冷蔵庫の位置を確認しながら、コンセントを差し込んでいる。

 

「俺引っ越しのバイトやってたんで、こういうの得意なんで。大丈夫です」

 

「さすがアオ」

 

その横で、蒼太が部屋の中を見回す。

 

「それにしても、一人で住むには広いですね」

 

「そうだな。俺一人にはちょっと広すぎるな」

 

「佐々木コーチ……」

 

蒼太が一瞬考えてから、

 

「あ、違った。佐々木監督。これからご近所ですね」

 

「そうだな。お前らからしたら、俺が近所って嫌じゃないのか?」

 

「いやいや、そんなことないですよ」

 

蒼太は笑った。

 

「でも、いくら監督だからって、一人でこんな広い部屋、どうするんですか?」

 

「どうするって言われてもな」

 

蒼太は突然、部屋の奥を指差した。

 

「じゃあ、ここが監督の部屋」

 

「うん」

 

「ここが監督の執務室」

 

「勝手に決めるな」

 

「で、ここがトレーニングルーム」

 

「おい」

 

俺が呆れていると、蒼太は楽しそうに続けた。

 

「監督専用トレーニングルーム。毎日ここで筋トレ」

 

「俺、毎日筋トレしないから」

 

「じゃあ、ゲストルームにでもしとくか」

 

松本が口を挟んだ。

 

「客なんかそんなに来ないだろ」

 

「いやいや」

 

松本がニヤリと笑う。

 

「同棲とか、普通にできそうだな」

 

俺は一瞬、言葉に詰まった。

 

「……松ちゃん」

 

蒼太が笑いながら、

 

「確かに。僕たちも二人で住んでも全然余裕ありますもん」

 

「お前まで乗るな」

 

俺は苦笑した。

 

そんな俺たちのやり取りを、青は少し離れたところから黙って聞いていた。

 

やがて、冷蔵庫の設置を終えると、青が何気なく口を開いた。

 

「……今日、青柳先生は?」

 

俺は一瞬だけ動きを止めた。

 

「ああ……今日は用事があるって」

 

「そうなんですか」

 

青はそれだけ言った。

 

松本が段ボールを畳みながら、

 

「用事って?」

 

「え?」

 

「また個展とかか?」

 

「ああ……」

 

俺は少し言いにくそうに答えた。

 

「いや、とくに詳しくは聞いてない」

 

その瞬間、青の表情が変わった。

 

ほんのわずかだった。

 

けれど、俺には分かった。

 

青が何かを考えている。

 

「……そうですか」

 

それ以上、青は何も言わなかった。

 

部屋の中に、ほんの少しだけ妙な沈黙が流れる。

 

俺はその空気を打ち消すように、手を叩いた。

 

「ま、とにかくだ」

 

三人を見る。

 

「今日は本当にありがとう。あとは俺一人でぼちぼち片付けるから」

 

俺は段ボールの山を指差した。

 

「今日は飯、俺が奢るわ」

 

蒼太の顔がぱっと明るくなった。

 

「やったー!」

 

「お前、そこだけ反応早いな」

 

「だって引っ越し手伝ったんですよ?」

 

「まあ、それはそうだけど」

 

「じゃあ、焼肉!」

 

「いきなり高いものを要求するな」

 

「えー」

 

蒼太が不満そうな顔をする。

 

松本が笑った。

 

「いいじゃん。監督の新居祝いってことで」

 

「新居祝いって、お前らが俺に祝われる側になってないか?」

 

青も小さく笑った。

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

俺は三人を見ながら笑った。

 

新しい部屋。

 

そして、これから始まる監督としての新しい生活。

 

この部屋で、俺はどんな日々を過ごすことになるのだろう。

 

そんなことを考えながら、俺は最後の段ボールを壁際へと移動させた。

 

 

焼肉店を出ると、夜の街には少しだけ涼しい風が吹いていた。

 

夏の終わりを感じさせる風だった。

 

店の前で、青が俺に頭を下げる。

 

「佐々木監督、ごちそうさまでした」

 

蒼太も続く。

 

「ごちそうさまでした!」

 

「いや、いいよ」

 

俺は苦笑しながら蒼太を見る。

 

「しかし岡谷、めっちゃ食ったな」

 

「だって、お祝いですから」

 

「お祝いってただの引っ越しだろ」

 

「だからですよ」

 

蒼太は満足そうにお腹をさすった。

 

「しっかり働いたんで、しっかり食べました」

 

「まあ、いいけどな」

 

その様子を見ていた松本が、ふと思い出したように言った。

 

「そういえば、蒼司くんも来ればよかったのにな」

 

「ああ」

 

俺は何気なく答えた。

 

「でも、明日の夕方から蒼司に会うから」

 

「そうなんだ」

 

松本が俺を見る。

 

「蒼司の実家のリフォーム、完成したから」

 

「ああ!」

 

松本が頷いた。

 

「竜司がリフォームしたってやつか」

 

「そうそう」

 

俺も頷く。

 

「結構時間かかったみたいだけど、やっと完成したらしい」

 

松本は少し笑うと、俺の肩をぽんと叩いた。

 

「……海斗、明日頑張れよ」

 

「……?」

 

俺は松本を見る。

 

「何を?」

 

「あの放送以来始めて会うんだろ」

 

「まあ、そうだけど……」

 

俺は何を頑張るのか、よく分からなかった。

 

けれど、とりあえず頷く。

 

「おぅ。しっかりやってくるわ」

 

「それでいい」

 

松本は満足そうに笑った。

 

その横で、青が静かに口を開く。

 

「じゃあ、僕たちはこれで」

 

「うん。今日は本当に助かった」

 

「もし、また何かお手伝いがあれば、いつでも呼んでください」

 

「ああ、頼むよ」

 

蒼太が手を振る。

 

「さようなら、佐々木監督!」

 

「おう。気をつけて帰れよ」

 

青たちの車が出ていく。

 

少しして、松本が振り返った。

 

そして、また俺の肩をぽんと叩く。

 

「青くんか……」

 

「ん?」

 

「海斗、モテ期だな」

 

俺は思わず顔をしかめた。

 

「松ちゃん、冗談でもよしてくれよ」

 

「悪い悪い」

 

松本は笑った。

 

「海斗、しっかりな」

 

「……何だよ、それ」

 

俺も笑いながら手を上げた。

 

「わかった。じゃあな」

 

「じゃあな」

 

松本の車が、少しずつ遠ざかっていく。

 

俺はその場に一人残った。

 

明日の夕方には、蒼司に会う。

 

リフォームが完成した実家を見に行く。

 

ただ、それだけのことだと思っていた。

 

少なくとも、このときの俺は――

 

松本がなぜあんなことを言ったのか、まだ分かっていなかった。

 

*

 

翌日。

 

昼過ぎ。

 

俺は蒼司と一緒に、新しくリフォームされた蒼司と竜司の実家へ向かった。

 

車を降りて、家を見上げる。

 

俺は思わず言葉を失った。

 

「……すごいな」

 

それが、一番最初に出てきた言葉だった。

 

以前の家の面影は、ほとんど残っていない。

 

外壁も、玄関も、窓も。

 

まるで別の家に建て替えたように見える。

 

「すごいな」

 

隣で蒼司が笑う。

 

 

俺たちは玄関に向かった。

 

チャイムを鳴らしドアを開ける。

 

「おっ」

 

中から声が聞こえた。

 

「やっと来たな」

 

玄関に竜司が立っていた。

 

「竜司、久しぶり」

 

竜司の隣には、もう一人いた。

 

「海斗さん」

 

「ん?」

 

「お久しぶりです」

 

「流星くん」

 

俺は笑って声をかけた。

 

「元気そうだな」

 

「はい!」

 

流星は嬉しそうに笑った。

 

「海斗さんも元気そうですね」

 

「俺は元気だよ」

 

「監督になったんですよね?」

 

「ああ。」

 

流星の目が輝く。

 

「俺、海斗さんが監督って聞いて、すごく嬉しかったです」

 

「そうか?」

 

「はい!」

 

竜司が苦笑する。

 

「最近そればっかりだからな。

 

とりあえず、上がれよ」

 

「お邪魔します」

 

俺と蒼司は玄関を上がった。

 

廊下を抜けてリビングへ入る。

 

「おお……」

 

思わず、また声が出た。

 

広い。

 

そして明るい。

 

以前の家を知っているだけに、余計にその変化が分かる。

 

「すごいな、竜司」

 

「だろ?」

 

「本当に全部やったんだな」

 

「まあな。せっかくなら、ちゃんと住みやすくしたかったから」

 

リビングには、竜司の両親もいた。

 

「おかえり、蒼司」

 

「ただいま」

 

「海斗くんも、いらっしゃい」

 

「あっ、どうも。お久しぶりです」

 

「元気そうね」

 

「はい。元気です」

 

母親が蒼司をじっと見る。

 

「蒼司……」

 

「ん?」

 

「ちゃんと食べてる?」

 

「食べてるよ」

 

「また痩せてない?」

 

「え?」

 

蒼司が苦笑する。

 

「そんなことないって」

 

「ちゃんと食べなさいよ」

 

「はいはい」

 

俺は思わず笑ってしまった。

 

「相変わらずだな」

 

蒼司が俺を見る。

 

「カイトまで笑わないでよ」

 

「いや、いいなと思って」

 

「何が?」

 

「こういうの」

 

俺がそう言うと、蒼司は少し照れたように笑った。

 

その横では、流星が俺のすぐそばに立っていた。

 

さっきからずっと俺の近くにいる。

 

「流星くん」

 

「はい?」

 

「どうした?」

 

「いや……」

 

流星は少し照れながら言った。

 

「海斗さんと話したかったんです」

 

「そうなのか?」

 

「はい。高校の話です。

 

 俺も蒼陵高校に行きたいなって」

 

その言葉に、竜司が困ったような顔をした。

 

「最近、流星はそのことばっかり話すんだよ」

 

「だって……」

 

「あんなに勉強して中高一貫校に入ったってのに……」

 

「でも、蒼陵高校で野球やりたい」

 

「流星、お前なぁ……」

 

「だって海斗さんが監督なんだよ?」

 

「それは分かるけど」

 

「カイト、流星に高校野球の厳しさ教えてやって」

 

「わかった、わかった」

 

俺は笑った。

 

流星がすかさず口を挟む。

 

「俺が勝手に行きたいって思ったんです」

 

「まあ、嬉しいけどな」

 

俺が流星を見る。

 

「俺が監督になったからって、それだけで高校を決めるのはやめとけよ」

 

「……はい」

 

「ちゃんと考えて決めるんだぞ」

 

「でも……」

 

「でも?」

 

「海斗さんが監督なら、絶対行きたいって思うんです」

 

俺は思わず笑った。

 

「でもな、高校野球はそんなに甘くないから」

 

「厳しいですか?」

 

「そりゃ厳しいよ」

 

「じゃあ、もっと頑張らないと」

 

流星は真剣な顔をした。

 

竜司が頭を抱える。

 

「ほら……またやる気になってる」

 

「いいじゃん」

 

俺は笑った。

 

「目標があるのはいいことだろ」

 

「まあ、そうだけどな」

 

そのとき、竜司の母親が声をかけた。

 

「蒼司、海斗くん」

 

「はい」

 

「今日はご飯食べていってね、せっかく来たんだから」

 

父親も頷く。

 

「そうだ。今日は新しい家のお披露目も兼ねてるんだから」

 

「ありがとうございます」

 

俺は頭を下げた。

 

「じゃあ、ご馳走になります」

 

蒼司も続ける。

 

「わかったよ」

 

「よかった」

 

母親が嬉しそうに笑った。

 

竜司が立ち上がる。

 

「じゃあさ。家の中、案内するよ」

 

「いいのか」

 

「せっかくリフォームしたんだから、見ていってくれ」

 

俺と蒼司は顔を見合わせた。

 

「じゃあ、お願いします」

 

「行こうか、蒼司」

 

「うん」

 

竜司は先に歩き出した。

 

「まずは一階からな」

 

流星もすぐに立ち上がる。

 

「俺も行く!」

 

「お前は何回も見てるだろ」

 

「いいじゃん!」

 

「はいはい」

 

俺たちは笑いながら、竜司の後をついていった。

 

新しく生まれ変わった家。

 

そこには、以前とは少し違う空気が流れていた。

 

 

竜司の案内で、俺たちはまず一階を見て回った。

 

「ここが両親の部屋」

 

「へぇ、一階になったんだ」

 

「キッチンも新しくしたんだな」

 

「もちろん」

 

キッチンには収納も多く、動線もよく考えられている。

 

「かなり機能的だな」

 

「母さんが料理するからな。使いやすいほうがいいだろ」

 

「なるほど」

 

その隣にはリネンスペースまであった。

 

「リネン?」

 

「タオルとか、まとめて収納できるようにした」

 

「ホテルみたいだな」

 

さらに浴室を見せてもらう。

 

「風呂も広くなったな」

 

「バリアフリーにした」

 

「両親のためか」

 

「ああ。これから年を取っていくからな」

 

浴室の入口には段差がなく、手すりも設置されている。

 

「すごいな」

 

俺は改めて家の中を見渡した。

 

「ちゃんと先のことまで考えてるんだな」

 

竜司は少し照れくさそうに、

 

「まあな」

 

と答えた。

 

そして俺たちは二階へ上がった。

 

階段を上がると、竜司が一つの部屋の前で立ち止まった。

 

「ここは蒼司の部屋な」

 

「え?」

 

蒼司が少し驚いた顔をする。

 

「俺の部屋なんか、いいのに」

 

「まあ、いいじゃねぇか」

 

竜司がドアを開ける。

 

「前の部屋より一回り大きくなってる」

 

蒼司が中を覗く。

 

「結構広いね」

 

「絵も余裕で描けるだろ」

 

「……うん」

 

蒼司は部屋を見渡した。

 

どこか素っ気ない返事だった。

 

「休みの日とかさ」

 

竜司が言う。

 

「気軽に帰ってこいよ」

 

「……分かった」

 

蒼司は少し間を置いて、

 

「たまにはね」

 

と答えた。

 

その言い方は、どこか妥協しているようにも聞こえた。

 

竜司もそれ以上は何も言わなかった。

 

俺は二階の廊下を見渡す。

 

「すごいな……二階にもトイレと洗面所作ったんだな」

 

「それだけじゃないぞ」

 

竜司が別のドアを開ける。

 

「シャワー室まである」

 

「え?」

 

俺は思わず笑ってしまった。

 

「二階にシャワー室まで作ったのかよ」

 

「まあな」

 

竜司が少し得意げに笑う。

 

「これは俺のこだわり」

 

「いや、こだわりすぎだろ」

 

「いいだろ別に」

 

「確かに便利だけどな」

 

「だろ?」

 

次に竜司が向かったのは、別の部屋だった。

 

「ここが流星の部屋な」

 

「えっ」

 

竜司がドアを開けようとすると、流星が慌てて前に出てきた。

 

「あっ、中はダメだよ!」

 

「少しくらいいいだろ?」

 

「ダメ!」

 

「なんで?」

 

「散らかってるから!」

 

「ははっ」

 

俺は思わず笑った。

 

「中学生らしいな」

 

「笑わないでくださいよ」

 

流星が少し恥ずかしそうにする。

 

「ちゃんと片付けろよ」

 

「分かってるって!」

 

竜司も笑っている。

 

「夏休みの間はほとんどこっちに来てたんだよ」

 

「そうなのか?」

 

俺が流星を見る。

 

「はい」

 

流星は嬉しそうに頷いた。

 

「新しい部屋、気に入った?」

 

「はい!だって、自分の部屋ですよ?」

 

「そりゃそうだな」

 

「寮と違ってちゃんと個室だし」

 

「よかったな」

 

「はい!」

 

流星は満面の笑みを浮かべた。

 

竜司はそんな流星を見て、少し嬉しそうだった。

 

「で、次」

 

竜司が廊下の先へ進む。

 

「ここが俺の部屋」

 

「竜司の?」

 

「ああ」

 

ドアが開く。

 

俺は少し中を覗いた。

 

そこには大きめのデスクがあり、その上にはノートパソコン。

 

さらに隣には、何台かのデスクトップまで置かれていた。

 

「へぇ……」

 

俺は思わず声を漏らす。

 

「俺の知ってる竜司の部屋じゃないな」

 

「なんだよ、それ」

 

「もっとこう……」

 

俺は少し考える。

 

「雑然としてたイメージがある」

 

「失礼だな」

 

竜司が笑う。

 

「ちゃんと社会人してるだろ?」

 

「まあ、確かに」

 

「仕事、ここでやってるからな」

 

「なるほど」

 

机の上には仕事関係の資料も並んでいる。

 

「ちゃんと仕事場になってるな」

 

「だろ?」

 

竜司は少し得意げだった。

 

「で、最後」

 

廊下の一番奥にある部屋の前で、竜司が立ち止まる。

 

「ここはゲストルームだな」

 

「ゲストルーム?」

 

「ちょっと狭いけど」

 

竜司がドアを開ける。

 

「急な来客とか、荷物置きとかにも使える」

 

俺は部屋の中を見る。

 

ベッドを置くには十分な広さ。

 

必要最低限の家具なら置けそうだった。

 

「なるほどな」

 

俺が頷く。

 

そのときだった。

 

竜司と俺の目が合った。

 

ほんの一瞬。

 

けれど、竜司の視線が妙に意味ありげに感じられた。

 

――まるで、この部屋について俺に話しているような。

 

俺は何となく、その視線から逃げるように目を逸らした。

 

「……まあ、こんな感じだな」

 

竜司が何事もなかったかのように言った。

 

「うん」

 

俺もそれ以上は何も言わなかった。

 

新しくなった家。

 

きれいになった部屋。

 

そして、以前にはなかった「ゲストルーム」。

 

俺はその部屋を、もう一度だけ振り返った。

 

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