太陽のさわやかお兄さん風の自立思考型AI搭載のタイムマシンは【今】を変える。 作:たくみきんぱつ
アニメ完結記念に書きました。
色々妄想注意です。
【今】を変えるのには何が必要だろうか? その答えを、時間の王である僕は持ち合わせていなかった。
ここは、どこにでもあるようなリビングだ。そして、僕と一人の男が机を挟み話している。
僕は僕が何者なのかを、目の前にいる二十一世紀の人間である彼、────に説明するのに少し手間取った。
なにせ、正確に話しすぎると彼は水を得た魚のように一つ一つの説明に食いつく。
『StopStop、落ち着いてくれよ。僕だって話たくてもそこまで正確には話せない。ただのホラ話程度に聞いてくれなきゃさ、だろ?』
僕は自身を作り出した存在の声を元に作られた、その人間らしい合成音声を発しながら、上機嫌な声で僕に質問し続ける男を止める。
そうすると彼はああ、すまない、とだけ言って先程よりも少しだけ質問を変えながらもその口を閉じようとはしなかった。こういう場合、どうすればいいのか育ての親たちには聞いていない。
彼に僕が未来からやって来たことを伝えるべきではなかったか?
彼と接触を図ってみたのは、僕の興味本位ではあるけど。どの道、『彼の息子』には関わることになる。間接的にでも、直接的にでも。全人類の石化が起こる前に先んじて、彼の息子に近づいておこうと思っただけだ。
彼とこうしてたわいない会話をしているのは、ついでにすぎない。
「そういえば──」
目の前の男が何気なく、なんの悪意もなく、とある一つの質問をした。
その三千七百年後の自分は、いったいどうなっているのか?
それは、至極当たり前に気になる質問だろう。
それに対して、僕はなんの悪意もなく、何気なく答えた。
『…君は、明日死んでしまうんだ。だから、STONEWORLDは、君には縁のない話なんだ』
僕らの会話が一時停止した。
残酷だろうか? だが、今日という日は歴史のシミにもなりはしない。彼に何を伝えようと、三千七百年後の未来どころか明日すら変わることもない。
僕の目の前でお元気いっぱいに話していた彼は、確実に明日死ぬのだ。そして、彼の息子は人類最後の生き残りとなる宇宙飛行士に引き取られる。
これは、決定事項だ。同時に、一番最初のターニングポイントでもあるだろう。
……僕はいま、この人の『偶然』を『必然』に変えてしまったんだろうか?
沈黙の時間は、十秒も過ぎない内に彼に破られた。
僕の言葉を聞いた彼は、未来からやって来たのに過去を変えようとはしないのかい、と答えた。
その姿勢は、とても自分が死ぬ未来を聞いた人間の様子には思えなかった。彼の元気は変わらない様だ。
こういうのって、もう少し困惑したりするものじゃないのか? この時代の人間だから、僕の知る人類とは違うってことなのか?
『未来を変える権限は、僕にはないんだ。でも、こうやって記録に残らないことには少し干渉できる。君と話せるのも、そういうことさ』
僕がそう答えれば、何やら納得した様子で少しだけ笑った。
彼がまた楽しそうに口を開く。
──だったら、未来の話をすべて聞かせてくれよ。
彼のその提案は、ただ知りたいという好奇心に溢れたものだった。
僕は自身に課せられた重大な使命、グランドミッションにおいて、彼に未来を伝えることが邪魔になることはないだろうと判断し、彼の望みを叶えることにした。
この行動に大した理由はなかった。ただ、望まれたことを実行する機械的行動の一部に過ぎなかった。
僕は彼に大雑把ながら、人類が、そして彼の息子が背負う未来の困難を説明した。
そして物語の終着点、彼の息子がついに月に行き着くことまで話せば、彼はとても満足そうに笑っていた。
僕は、彼の笑顔がよくわからなかった。
僕は彼から目線をずらし、スヤスヤと眠っている科学者の幼少の姿、彼の息子の姿を確認する。
この子が未来、タイムマシンを作り出す。僕を作り出す。
──そうだ。一つおねがいがあるんだが。
彼が、僕にそんな口調で話しかける。内容は、少しだけ面倒なもので、未来でこの子をほめてあげてくれ、そんな内容だ。
『手助けじゃなくて、ほめるでいいかのかい?』
それだけでいい、そう彼は答える。
おかしいな? 僕は一応、色々と彼の息子が危ない目にあうことも話したけど、それだけでいいのか?
──それにしても。
彼は僕へのお願いは済んだのか、また別の話を始めた。
──────。
それは、人類に寄生しようとした存在たちへの言葉だろうか、それとも明日自身に起こりうる運命に対する言葉なのだろうか。
もしかすれば、彼の息子に起こりうる困難に対する言葉かもしれない。
僕の感想は言葉に出した通りで、しいて何かしたといえば、彼の言葉を記録しないことだった。
彼の言葉は、僕の記憶にだけ残っている。
──ああ、そうだ。
彼がまた話を変える。それは、僕の見た目に関することだった。
なんでも、その姿だと未来で息子がびっくりしてしまうだろうからやめたほうがいいという話だった。どうやら、彼の中では僕が未来で彼の息子とその仲間たちを応援するのは確定事項らしい。
まぁ、少し過去(ここからは未来)に飛んで【ほめる】だけなら、さしたる問題はないだろう。そう思考しては、彼のおねがいを叶えることにした。
話を戻そう。今の僕の見た目は、僕の制作者を元にデザインされている。僕の声も同様だ。
たしかに、言われてみれば多少成長していても自分と同じ声や姿をした存在が目の前に現れれば警戒されてしまうだろう。
僕は椅子から立ち上がり、ホログラムによる花びらで自身の姿を包む。
僕の全身もすべては幻術のようなもので、実際には実在していない。だから、このような小洒落た演出も本来必要ないのだが、こういうのは形からだろう。
日本人とはかけ離れた金色をした短髪に、カラフルなシャツと黒のジャケットと黒のズボン。そんないい感じの姿を選出し、僕は彼の前に再び姿を現す。
『どうだい? さわやかお兄さんって感じの姿だけど、これならいいだろう?』
そう言うと、声は? と返された。
声は一応、他にサンプルがないわけではない。
だが、制作者が声を当てることは昔のゲームにあった手法と同じだとか、そういう事をなぜかよく語っていた人物のことを思うと変えるのは少し憚られた。
『あー、あー、あー』
試しに通常時よりも高い声や低い声を出してみる。
そうすると彼は、変えたくないなら変えないでもいい、と言ってくれた。
……まぁ、声の元の本人もそこまで気にすることはないだろう。
そうして、僕と彼の会話は明日が来るまで、朝日が昇るまで続いた。
その間には、たった一日だけの友情と呼ぶべきかはわからないが、たしかに僕の【友達】ができたと気がした。
そうして僕は、時間がすぎると同時に、この時代から姿を消した。
そして、三千七百年後にタイムスリップした。
本来ならもう少し先にジャンプしなければならないが、彼にお願いされたことがある。
僕は偽りの体で地に足をつけて、原始世界に存在する人工物、たった一人の高校生が作ったツリーハウスに近づいた。
正確には、ツリーハウスのそばにある小屋──石化からの復活液を作るための実験場に近づいた。
彼は一人だった。当然だ。彼のお友達がいない合間に近づいたのだから。
彼が、こちらに気がついた。
誰だ! とでも言おうとしたのだろう。そう叫ばれる前に、僕が先手を打つことにした。
『太陽がきれいだ。こんな朝日が昇る日は、きっといい日になるね。ああ、おはよう……千空』
「…………誰だ、テメー」
明らかに警戒されている。何かを庇っているようにも見える。だとすれば、それはおそらく復活液なのだろう。
どうしようか? 説明なんてできることはほとんどないし、とりあえず当初の予定通りほめよう。
僕は拍手をしながら、彼に近づく。
『ン? 僕は通りすがりのさわやか太陽のお兄さんさ! それよりもターニングポイント2、突破おめでとう! それにしても、大きくなったねぇ千空』
「あ゙あ?」
ターニングポイントというのは、僕が、というか後の歴史家たちが勝手に決めたこのSTONEWORLDの重要ポイントだ。未来からすれば別段、大した意味はない。
僕は多少遠慮なしにツリーハウスの近くまで歩を進めて、ツリーハウスを見上げる。
それにしてもこれはすごいな。博物館で見るのとは大違いだろう。
「待て、そこで止まれ。止まれつってんだろ。止まれよ!」
『これ、千空が作ったんだろう? 随分、凝ったモノだねぇ』
「話聞けよ! テメー何者だ? どっから来た?」
『さっきも言っただろう? 通りすがりの太陽のさわやかお兄さんさ! それと、僕は森から来たよ』
「そういうことじゃねー。答えになってねーだろうが」
千空は僕の一挙手一投足に注目している。武器は持ってないだとか、僕の服装に注目したりしてるみたいだ。
この格好は、少し文明的すぎたかな? まぁいいか。
「……なんだ、それ?」
『ン? どうかしたかい、千空?』
千空の視線は僕の首からかけられている奇妙な形をしたアクセサリーに注がれていた。
そのアクセサリーの形状は、メビウスの輪に似ていて、知恵の輪にも見えるだろう。
結論を言ってしまうと、僕の本体でいわば超小型化されたタイムマシンだ。他の機能も色々あるけど。
どうしようか。僕は仕様上、人間に嘘はつけない。だとするなら、誤魔化す一択だ。
『ン。これかい? キレイだろう? プロの技師がデザインしたものなんだよ』
「……そうかよ。それよりも、復活者が他にいるんなら教えろ。マンパワーが足んねぇんだ」
『ン? 僕は千空をほめに来ただけだから、そんなことはしないよ?』
「は?」
そういえば、この後宇宙飛行士の子孫と出会うんだったっけな。で、そこからどんどん復活者も増えていくはず。なら、こうやって一体一で話せるのも今回だけかも知れないな。
「テメー、何が目的だ? そもそも何で俺の事を知ってる?」
『それは、別に気にしなくていいよ。それよりも、お友達がそろそろ帰ってくるみたいだから、僕はもう行くね!』
「行くってどこにだ?」
僕はそそくさとツリーハウスから離れて森に入る。
『またね! グッバイナラーヘン〜』
「おい、テメー待て!」
木を一歩挟んで、姿を消す。
正確には、ほぼほぼ本体のみ小人状態にホログラムを縮小して、道交法を遵守する程度の速度でスタスタ歩く。
さて、この程度離れればいいだろう。それにしても、せっかくなのだからこの世界を巡ってみるのも悪くはないかもしれない。
タイムマシンの機能を使うにもエネルギーがいる。僕に課せられたグランドミッションのためにも、ここ十数年はタイムスリップはするべきではないだろう。
僕は誰もない野原で再び自身の体を花びらで覆う様に形成し、地面に寝転がる。
……本当に、綺麗な太陽だ。
僕は、ただ一人の空間でそう思った。