太陽のさわやかお兄さん風の自立思考型AI搭載のタイムマシンは【今】を変える。 作:たくみきんぱつ
僕に課せられたグランドミッションは言ってしまえば二つある。一つはもう終えたことで、三千七百年前の人類のあらゆる電子情報を持ち帰ること。二つ目は、現在月に居座っている知的機械生命体を集団としての単位で観測することだ。
二つ目のこの観測がなにに役立つのかは、わからないがそれを僕が考える必要はない。情報を使うのは僕の役割じゃないのさ。
僕はその内、第二のグランドミッションを遂行するための下見に向かうだろう。
なぜ、下見に向かう必要があるのか。
僕が月にいる連中を観測するのは、本来はそう難しいことではない。重力を無視して、直接月に赴き機械生命体の集団を観測するだけでいい。
だが、それだけで話は終わらない。その手段が取れるのは僕が実質的に奴らの複製体としての側面を持つタイムマシンでなかったらの場合だ。早い話、僕は奴らにその正体を悟られてはいけない。
もし、正体がバレれば人類はあの寄生機械生命体から迷惑な合格点をいただくはめになるかもしれない。それを避けるため、僕の月旅行は慎重に行わなければならないワケだ。
そんな僕が現在進行形で向かっているのは、富士の山の山頂だ。なぜそんなことをしているか、それは現在が僕にとってのフリータイムだからに他ならない。僕はせっかくできた時間を社会見学に割り当てているとってもイイ子だ。
先んじて記録しておくが、これは先ほど言った下見とは何の関係もない。
彼……トモダチの【お願い】を叶えるためにも僕は千空のそばにいるべきなのかもしれない。だが、僕は透明人間ではない。そもそもニンゲンではないケド、物事には限度があるという話さ。
実際、千空のそばにいるだろう宇宙飛行士の子孫で未来の宇宙飛行士でもある少女の目はかなりいい。鳥あたりに変身して様子を見る手もあるが、長く続く気はしない。
一番楽な方法はカメラを持つ子機とつながり、いつでも彼らの様子を見れる状態することだがそれもできない。なぜならそれは電波を使うことになるからだ。
電波を使えば月にいる奴らに僕の存在バレる危険はもちろん、千空たちに変に勘付かれる可能性もある。
一応、月の連中にバレたとき用の最終手段はあるが、それは本当に最終手段だ。それにこれは月にいる連中にしか通用せず、千空たちニンゲン相手に何かできる手段はない。
結論、僕はターニングポイントごとに千空たちに接触するのが安牌だ。
グランドミッションの観測に関しては、千空たちが月に行って機械生命体との交渉がたった一体以外と決裂したその直後に行うしかない。数分程度の時間しかないが、僕に搭載されている観測機能を持ってすれば十分だ。
そうして今回の目的をおさらいしている内に、富士の山の山頂に着いた。時間もちょうど朝日が昇るの時間で、輝きを放つ太陽がよく見える。
ここにたどり着くまでの移動中はあえて宙には浮かずにニンゲンの体をそれらしく動かして、登山家の真似事をしながら登ってみた。僕に疲労感という概念はないが、おそらくこういった一歩一歩がニンゲンが感じる達成感に繋がるんだろう。
たしか、こういうときするお決まりの行動があると聞いたことがある。僕はそれを、山頂から見える壮観な景色の一部になった感覚を覚えながら実行する。
まずは自身の手元に、カップラーメンと水の入ったヤカンを形成する。水はできれば自然のモノを持ってきたかったが、このホログラムでは水はおろかあらゆるモノは通り抜けてしまうし、僕のこの体自体もホログラムによるニセモノだから何かを食べようとしたら、この山頂の場にすべてぶちまけるのと同じになる。
そもそも、僕に必要なのは食物ではなく電力なんだケド。でも、すべては形からだろう。
意味がなくても、できるからやってみる。これは何事にも共通する大切な精神のハズさ。
そこら辺の落ちていた風の薪も形成する。これも自然物を使いたかったが、あいにく僕のこの体は世界に触れることができない。
薪と棒を合わせて棒をコマのように回転させ、燃焼を起こす過程を再現する。物理演算を使用して火の自然な動きも再現し、ニセモノの火を起こした。もちろん火のホログラムなんて指からでも出せるし、こんな工程は必要ないが、さっきも言った通りすべては形からさ。
……そもそも二十一世紀の人類は充電式のIHでも持ってきてヤカンを温める気がするが気にしたら負ケだ。
起こした火の上にヤカンをのせて中の水が沸騰する時間まで待つ。もちろん水の物理演算も使用しながらだ。
そうして沸騰した水が用意できたら、それをカップラーメンの中に注ぐ。そして、蓋をして三分間待つ。
……なぜ、富士山の山頂までやって来てする行動のお決まりがこんなことなんだろうか? 普通に手間がかかるし、そもそもここまで登るのに険しい道程だ。
いや、それは三千七百年前と現在でかなり違うだろうが、それでもこの行動を行うことは何か変だ。僕は誰かにダマサれているのか?
ああでも、ここから見える景色はとても綺麗だ。この景色を体感しながらランチをしたいというのは理解できなくもない。
……せっかくなら、一人よりも誰かと体験したほうが良い感触が得られそうな感じがする。まぁ、そんなことはグランドミッションを達成してからの話だケド。未来に帰ったら提案してみようかな。
考えにふける内に三分経ったと体内時計が告げる。
僕はカップラーメンの蓋を開いて、自動で再現される湯気を眺めてみる。よくわからないが、多分これがいいんだろう。
カップラーメンを一旦地面において、手元に割りばしを形成する。それを真っ二つに割って箸としての機能を生み出す。
左手でカップラーメンを持ちながら、右手に割りばしを持つ。すべてがニセモノだが、外から見れば完全に日が昇る富士山の山頂でカップラーメンを食べるさわやかお兄さんにしか見えない事だろう。
『いただきマス』
そう言ってから、僕は箸で麺を持ち上げる。
それを口に持ってきて啜って見ると、いくつかの水滴が飛び散ってしまうことだろう。だが、飛び散ってどこかに触れる寸前に光の粒子になる演出を挟み消えてしまう。
これは僕が意図してやっていることだ。僕も一気に大量のホログラムを出すと、全体的に動作が重くなってしまう。地形を再現する程でなければそこまで行き着くことはないが、少しでも消費を抑えるのはイイことだろう。
適度に噛んだりしながら、ラーメンの続きを食べる。
僕は食事ができない。ところ詰まるところ、味覚というモノを感じる機能がない。だからこれはすべてフリではあるのだが、何か足りないものがあるような気がする。
一旦、食べる手を止めて地べたではなく、足を空中に浮かして椅子に座るような体勢になって考える。はたから見れば空気椅子というやつになる。どちらかといえば少し斜めに倒れる体勢ではあるので、安楽空気椅子のほうが正しいかもしれない。
ニンゲンはこうやってアツアツの食べ物を食べるとき、他にも何かしら用意するものな気がする。
だが、ニンゲンがランチをする光景は言伝でしか聞いたことがない。というか、タイムスリップのために僕に与えられ情報は圧倒的に少ない。他の色々な機能を過去に送り込むためではあるが、結局は容量の話になる。
いや、そんな話はいい。問題は他に何が足りていないのかだ。
…………あ。そうか、飲み物だ!
こうやってアツアツのモノを食べる時には、当然口の中を冷やす飲みモノがいるに違いない
でも、飲み物にも種類がある。こういう時にふさわしいやつは……オレンジジュースは違うだろう、なんとなくお兄さんっぽくない。お子様向けの飲み物という感じがする。
コーヒーもまた違うだろう。コーヒーは苦味を味わう食べ物だと聞く。苦味がどんなものなのかは知らないが、ラーメンには合わないハズ。
無難なのかはわからないが、お茶や水がこういう時の鉄板だろうか? ただ、この二種類はなんにでも合うだろうし、特別ラーメンに合うのかどうかはわからない。
…………コーラ? コーラはどうだろうか?
いや、炭酸の飲み物がラーメンに合うんだろうか? 炭酸はシュワシュワでピリピリな感じだとは聞いたことがある気がする。それとラーメンの組み合わせ…?
でも確か、僕の制作者……千空のお友達にコーラ好きなヒトがいたっけな。別にだから何だという話ではあるケド、そのヒトならラーメンと一緒に食べるかもしれない。
……おいしい食べ物とおいしい飲み物の組み合わせは最強理論でとりあえずやってみるか。
僕は富士山のふもとにある売店で買えそうな感じの少しぬるいコーラのホログラムを形成する。もちろんペットボトルのコーラだ。
僕は地べたに座る形の体勢に戻り、ペットボトルを少し振る。コーラを振るのはそれがお決まりなのだという、あっているのか間違っているのかわからない知識があるからだ。
そうして、ペットボトルの蓋をひねって空けるとプシュっという音と共に泡立ってボトルから溢れ出る。手と袖が濡れてコーラの雫が物理演算に従い滴り落ちる。すべて高度なごっこ遊びだが、なんとなく楽しい感覚がする。
僕はラーメンとコーラの組み合わせで山頂メシを堪能できた。うまく言ったのかはわからないが、いい社会勉強ができたといっていいだろう。
余談だが、ここ数ヶ月は自然溢れすぎる日本を堪能し、社会勉強をしていた。奈良の大仏も観に行ったし、富士山以外の霊峰と呼べる山にも行った。だが、いつまでもそうはしていられない。
さて、次のSTONEWORLDのターニングポイントは、宝島でのメドゥーサもといホワイマンとのご対面だ。
それに僕も宝島には用がある。登山のときおさらいしていた下見の事だ。
未来ではこの宝島がロケットの発射地点であり、僕の月旅行もそのロケットの発射に合わせる形で行うことになるだろう。
一応、月行きのためのデータはあるにはあるが、当日何が起こるかはわからない。万全を期すために本来は三千七百年前からロケットの発射数週間前にタイムスリップする予定だったが、僕のアドリブで十数年前に飛ばせてもらった。
トモダチに何かを【お願い】されるなんて経験は初めてだったし、まだ余力があると判断できたのだから仕方がない。
帰ったら叱られるかもしれないが、それはつまり言い換えれば帰るまで叱られないということだ。
僕は宝島を海の上に立って観察する。僕に内蔵されている機能、サーモグラフィーを使えば千空たちが今何をしているのか遠目でもある程度はわかる。
……あれは、何をしているんだろうか? 千空のお友達が間隔をあけて並んでいる。そしてその前方の方から順に石像になっている…。
ああ、等間隔に並んで石化光線の速度を測っているのか。石化の光線が見えるのは、対象の生物だけだから僕には見えず、彼らの行動が不明なものに思えたんだ。
自身に内蔵されている一部の機能に納得がいった。
僕もあの石化光線とは違うが、とある光線を自身の本体から拡散することができる。それがなぜ対象外にも見えるように作られているのか疑問だったが、こういう時に困るせいか。
千空が上空に何かを投げる行動をした。そして、千空だけが石化しなかった。さっき投げたのは復活液なのだろう。そして、これであの島にいるニンゲンは現状二人。増えるとしても一人だろう。
僕は宝島に海の上をスタスタ歩きながら近づく。たしか、ロケットの発射地点は海沿いで千空たちと鉢合わせになることはないハズ。
僕はその地点に着くと、素早く周りの状態を読み込む。そして僕が月に行くまでのシュミレートを開始する。
整地された状態とは大きく違ってはいるが、おおむねは予測データと一致。ここからの飛行で問題なしと判断できる。
これでこの宝島での下見は終わり。あとは直前の確認のみで十分だろう。
さて、そろそろ……誰だっけ? オジサン? オジチャン? からホワイマンを奪取した頃だろう。
僕は島の森を抜けて、重い荷物を背負った少年の後ろ姿を確認して話しかける。
『やぁ、千空。また会ったね! ターニングポイント3、到達おめでとう!』
僕は運がいいのかもしれない。また千空が一人のときに話しかけることができた。千空と一体一の方が幾分も色々と楽であることは想像に難くない。
千空はすぐに僕の声に反応し、こちらを向いた。千空は僕のことを見るとすごく驚いたようだったけど、すぐに顔を変えてこちらに返事をしてくれた。
こうやって接してみると表情の移り変わりが激しいヒトだなぁ。
「……あ゙ー、そうだな。こっちも数日前からまたテメーに会いたくて仕方がなかったとこだ。ククク、探す手間が省けたじゃねーか」
『…………?』
「まだるっこしいのはなしだ。単刀直入に言う。テメーの持ってるメデューサと情報、全部こっちに寄越しやがれ!」
……前言撤回というやつかもしれない。一体一でも楽じゃない。過去介入が楽であるはずないんだ。
だが、それでも時間は巡る巡る過ぎ去るものらしい。そんな一瞬が、今この空間にはあった気がした。