モンハンやってたら異世界に飛ばされた!   作:卍錆色アモン卍

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十話 突撃!

 

 あれから三日が経った。その結果、無事に紅蓮とバスタードが寝泊まりできるログハウスが完成した!──もちろん二軒である! 紅蓮は少し意匠を凝らして、ヤオザミやイーオスの素材を使って装飾を施したりして、個性を出しておいた。紅蓮のお気に入りポイントは、窓枠に並んだイーオスの毒牙だ!

 

「さて、無事に家が完成したわけだ──」野外テーブルを囲う紅蓮は言った。「湖の西側を探索したい奴は挙手してくれ!」

 

 紅蓮の眼前でテーブルを囲う二人──バスタードとレイコ。二人は、全くと言っていいほど手を上げる素振りを見せなかった。

 

「申し訳ないんですが、僕はあまり運動が得意ではないので……」

「私も嫌よ。死ぬ可能性が高いじゃない」

「お前らそれでもハンターかぁ!」

 

 どうしてだよ!と思った紅蓮は、ハンターの卓越した肉体の素晴らしさを力説した。しかし、二人は思うところはあるものの、決して探索に名乗り出ようとはしなかった。

 

「僕は釣りをするのが一番貢献できるかなと。あとは野草集めでしょうか? かつての僕は、素材採集クエストを好き好んでやっていましたよ!」

「これはゲームじゃなくて現実なんだから、思うように動けないわよ。私なんてランポス相手に逃げ回ってるんだから。もし追われたら、反撃できずに死ぬ自信があるわ」

「軟弱者ーっ!」

 

 結局、探索をするのは紅蓮一人となった。不貞腐れた紅蓮だったが、バスタードがあるものを渡してくれる。それは、ヤオザミのとがった爪とイーオスの毒牙で強化をして、持ち手にはイーオスの毒抜きされた皮を巻きつけた狩猟鞭だった。以前、バスタードが貸して欲しいと言っていたので渡したが、まさか強化されて帰ってくるとは。紅蓮は純粋に驚いた。

 

「こちらの狩猟鞭を強化しておきました。さしずめホープウィップⅡ! 微量ではありますが、毒属性です!」

「おお、これはすごい! 鞭の部分にも手が入ってる!」

「ネンチャク草のおかげですよ。武器の耐久性はもちろんのこと、攻撃力もぐんと上がっています!」

「おほーっ!」

 

 用意周到なバスタードが案山子を立ててくれたので、一度狩猟鞭を振るってみれば、たったの一撃で案山子は粉砕した。何という威力! 以前よりも力を込めやすくなって、扱いやすくなっていた。紅蓮はバスタードに一頻り感謝を告げると、意気揚々と湖の西側の探索へ出向いた。

 

「もしかしなくても、良いように使われてるのでは?」紅蓮は何かと空気の読めるバスタードを訝しんでいた。なお、今紅蓮がいるのはちょうど湖に初めてやってきた辺りで、湖の最も北に位置する場所だった。ここから左回りに進んでいき、南下する予定なのだ。

 

 砂浜が途中まで続いていて、そこから先は岩場となっていた。仕方がないので、紅蓮は森の中に入っていく。植生は東側と比べて、ジャングルに近かった。東側を温帯とするなら、西側は亜熱帯といった感じだ。ここまで環境が変わることに紅蓮は驚くが、そういうものだと割り切った。

 程々に自然に溢れていて、歩くのが大変だ。紅蓮はナイフを振って道を作るが、その行為が密林にいた頃を思い出させた。あの頃に比べれば随分と生活がしやすくなったし、仲間も増えた。彼らを喜ばせるためにも、何か成果を上げたいと思う紅蓮だった。

 

 しばらくの間は何もなく、道に迷わないように、木々に目印を刻み続ける時間が続いた。紅蓮はあまり深入りしないように、気をつけながら進む。その時、上空から鼓膜を震わせる重低音が聞こえてきた。紅蓮はさっとしゃがみ込んだ。

 紅蓮の頭上は木々の葉で覆われているが、空はしっかりと見える。そこへ一瞬影が映ったかと思えば、物凄い爆風が吹き荒んで、木々が荒れ狂い、大量の葉が散った。驚いた紅蓮は訳も分からず近場の木に寄り添い、状況把握に努めた。

 

 再び影が頭上を通り過ぎ、爆風を撒き散らす。ざわめく森が不安を示すかのように葉擦れを起こして、涙を流すかのように葉を落とした。一体何者だ? 紅蓮は飛翔する影の正体を掴めなかった。あまりにも速過ぎたのだ。

 

 三度目が来る。ほんの僅かに聞こえた重低音から、紅蓮はそう判断した。そして空を見上げようとした瞬間──森を切り裂き、木々を薙ぎ倒し、鋭く尖った弾丸の如き物体が、紅蓮目掛けて突っ込んできたのだ!

 紅蓮は無意識のうちに横っ飛んでいた。その僅かばかりの(のち)、その弾丸は紅蓮が背にしていた大木を根本から粉砕して、地面に深く突き刺さった。あと数秒遅れていたら、間違いなく死んでいただろう。その事実に戦慄する紅蓮だったが、下手人が翅を広げて重低音を鳴り響かせる様を見て、気を引き締めた。

 

 再び空に舞い上がった下手人が、器用に宙返りをしてホバリングを始めた。天をも穿つような大きな角、スズメバチを思わせる悪人面の複眼に大顎、そして深い緑色をした体色に、鮮やかな橙色が目を引く鎌状の前肢(ぜんし)が見て取れた。

 

「アルセルタス……⁉」紅蓮は驚き、叫んだ。「久しぶりに見た!」

 

 金切り声を上げた下手人──アルセルタスが器用に脚を折り畳んで突撃を繰り出してきた。紅蓮は腰に吊るしていた狩猟鞭を即座に握り込み、横へ回避すると同時にアルセルタスへ強かに叩きつけた。

 ほどよく(しな)る狩猟鞭が、アルセルタスの立派な角に傷をつける。それが決め手となったのだろう。アルセルタスが、完全に紅蓮のことを敵視した。

 

「やるしかないってんなら……()ってやんよぉ!」

 

 この世界で初めての、本格的な狩猟だ。相手はヤオザミやイーオスとはレベルが違う。紅蓮は一瞬の油断が命取りとなることを肝に銘じつつも、狩猟鞭の有利な範囲へ近づこうと突貫した。

 

 アルセルタスが再び突撃してくる。物凄い速さだった。周りの草木が悲鳴を上げるほどの暴風が吹き荒れた。しかし、既に見切っていた紅蓮は突撃が当たる直前で回避をして、狩猟鞭をアルセルタスの翅目掛けて振り下ろした。

 重低音が突如として乱れて、片翅の制御を失ったアルセルタスが派手に錐揉み回転をしながら墜落した。土砂が舞い、細木が薙ぎ倒され、アルセルタスが大木に打ち付けられる。紅蓮は大地に失墜した哀れな徹甲虫に、情け容赦なく狩猟鞭を振るった。

 ひっくり返っているアルセルタスへ、右に左にと大きく狩猟鞭を振るい、音速を超える先端部で的確にダメージを与えていく。アルセルタスの脚は一本が折れ、二本の先端が欠けた。他にも翅を守るための外骨格──鞘翅(しょうし)に罅が入った。しかし、それでもアルセルタスは倒れず、手痛い反撃を受けたはずの翅を羽ばたかせて飛翔したのだ。

 

「硬すぎるだろ……!」

 

 悪態をつく紅蓮は、天高く舞い上がり、弧を描いて地上へ突撃してくるアルセルタスから必死に逃げた。木々の合間を縫って駆け抜けるが、アルセルタスは時に木々をへし折り、低木を突き抜け、紅蓮を貫かんと的確に仕掛けてくる。それは何度だって紅蓮の脇をえぐり抜いて、何度だって紅蓮に冷や汗をかかせてきた。

 

 やがて、スタミナの尽きかかった紅蓮は大木の前に立ちはだかった。アルセルタスは今までよりもさらに鋭く、(はや)く突撃を繰り出して、紅蓮を貫かんと迫る。紅蓮は湧いてくる恐怖を打ち消すように気合を入れて、声を張り上げた。そして、アルセルタスの立派な角が目前に迫った瞬間、狩猟鞭でカウンターを繰り出しながら横っ飛んだのだ。

 

 雷鳴のような轟音が響き渡った。即座に体勢を整えた紅蓮が見たものとは、アルセルタスが大木の半ばまで角を食い込ませた様子だった。大木は大きく引き裂かれていて、今にも砕け散りそうだ。紅蓮は重低音を鳴り響かせて、刺さった角を引き抜こうと暴れるアルセルタスへ襲い掛かった。

 

 剥ぎ取り用ナイフを逆手に持って、鞘翅が開いているおかげで顕になった腹部に思いっきり突き立てた。柔らかな腹部は簡単に切り裂くことができて、大量の体液が飛び散る。紅蓮の全身にはドロリとしていて、異臭を放つ体液がべったりと付いた。だが紅蓮は気にする様子もなく、何度も何度もナイフを突き立てた。

 アルセルタスが死に物狂いで暴れる。しかし、紅蓮は翅を切り裂き、鞘翅を引き千切り、肘まで埋まるほど深く、腹部にナイフを突きこんだ。アルセルタスは次第に動きが鈍くなって、やがて動かなくなった。僅かながらに脚が痙攣しているが、もはや死んだも同然だろう。

 

 息を荒げていた紅蓮は顔に付着していた体液を拭い、呼吸を整えた。そして勝利を手にしたことを喜び、雄叫びを上げたのだ!

 

「うおおおおおーーーーッ‼」紅蓮は呵呵大笑をする。「ハーハハハ‼ オレの勝ちだあ! でけえだけのカナブンがオレに勝てるわけねえだろーーーッ‼」

 

 一頻り声を上げて笑った紅蓮は、アルセルタスの死骸をなんとかして木から引っこ抜いて、ロープを巻きつけた──無残にも散っていた鞘翅や体液も集めておいた。そして森の中を引きずって、駆け足で拠点に向かったのだ。

 

 おおよそ午後一時頃。紅蓮はレイコハウスの前で楽しそうに昼食をとっているバスタードとレイコに突撃した。二人は紅蓮が謎の体液に(まみ)れていることに驚きと嫌悪感を顕にして、次に紅蓮が引きずってきた全長六メートル近い巨大な甲虫種モンスターに目を剥いた。

 

「オラァ! 刮目せよ!」紅蓮は凄惨な笑みを浮かべた。「オレが仕留めたアルセルタスだああああ‼」

 

 アドレナリンが出過ぎてハイになっている紅蓮は、またもや大笑いをした。そして固まっているバスタードとレイコに、こっちへ来るように手招きした。

 

「ぐ、紅蓮さん、本当に凄いですね⁉」バスタードが大袈裟に手を広げる。「探索の初日でもうモンスターを狩ってるだなんて! いくら何でも狂戦士(バーサーカー)過ぎますよ! 尻尾を切断された激高したラージャンだって、初日は大人しいに違いないのに!」

「アンタ、ヤバイ奴じゃないの。お願いだから手当たり次第にケンカを売って、恨みを買わないでちょうだいよ……?」

 

 散々な言われようだったが、今の紅蓮は全ての反応が心地良かったので満面の笑みを浮かべた。それを見たバスタードが「アン・イシュワルダにも引けを取らない顔の恐さ……⁉」と呟いたが、紅蓮は寛大な心でスルーした。

 

「解体は任せたぞ! 俺はひとっ風呂浴びるぜー!」

「ちょっとやめなさいよ⁉」

 

 レイコの静止の声など無視をして、紅蓮はレイコ池に飛び込んだ。全身に付着した体液と、かいた汗が落ちていって気持ちがいい。紅蓮は「フォー!」と声を上げて、心()くまで水遊びを堪能した。

 

 レイコが持っていた、アプトノスの皮で作られた合羽を羽織った紅蓮は、焚き火の前でもしゃもしゃと焼きアオキノコを食べていた。味付けは塩だけだ。なお、焚き火の近くには物干し竿があって、そこには紅蓮の防具が干されていた。

 

「なんか疲れたぜ……」

「ようやく落ち着いてきたのね。さっきのアンタは発情期の犬以上にやかましかったわよ」

「悪かったな!」

 

 どっと疲れが押し寄せてきた紅蓮は──合羽の下が全裸なこともあって──動きたくなかった。今は焚き火をぼんやりと眺めて、時間を潰している最中だった。

 少し離れた場所ではバスタードが黙々とアルセルタスを解体していた。時折驚きの声が聞こえてくるので、意外と解体を楽しんでいるのかも知れない。

 

「西の森はきっとすごいぜ?」紅蓮は言った。「アルセルタスがいるんだ。他にもモンスターがいるに違いないぜ!」

「そうね、いきなりアルセルタスと出会うくらいなんだもの。深奥部なんて魔境なんじゃないの?」

 レイコが少し躊躇いがちに告げた。

「……くれぐれも気をつけなさいね。アンタが死ねば、私とバスタード君が一生ここで幸せに暮らすことになるわ」

「いや行動を起こせや⁉」

 

 もしかしたら子供が出来ちゃうかも!と気持ち悪いことを頬を赤らめて(のたま)うレイコを無視して、紅蓮は自分の仕留めたアルセルタスを見つめた。

 既に頭部と胴体部が切り離されていて、溢れた体液がココナッツのお椀に集められていた。六本あった脚はバスタードによって綺麗に整列されていて、その隣には鞘翅と大きな翅が並べられている。紅蓮はあの素材たちは間違いなく役に立つ、と思った。アルセルタスの甲殻は頑丈にも関わらず、非常に軽いといった特徴があるからだ。どうにか強度をあげることができれば、武器や盾ぐらいにはなるだろう。

 

 大きく息を吐いた紅蓮は空を見上げた。深くて青い空がいっぱいに広がっている。もし己がアルセルタスだったら、何処までも飛んでいけるだろうな、と自分でも笑ってしまうようなことを考えた。甲虫種になりたい願望はないが、大空を自由に飛び回ることができれば、きっと今以上に自由を感じられるだろうな、と紅蓮は思ったのだ。

 

「人生ってのは、ままならないもんだな……」

「なに悟ってんのよ。アンタはそんなしょうもないことを考えてないで探索すんのよ」

 

 醜い鳥の囀りが聞こえる中、紅蓮はコップを傾けて果実水を飲んだ。喉を通る冷たくて美味しい水が生きてることを実感させてくれて、生きることの素晴らしさを教えてくれた気がした。

 




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