モンハンやってたら異世界に飛ばされた!   作:卍錆色アモン卍

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十二話 モンスター

 

 

「イヤーーーッ⁉」レイコが絶叫を上げた。「ちょっとアンタ! なんてモンを拾ってきたのよ⁉ 今すぐ捨ててきなさい! クソオスなんて百害あって一利なしよーっ‼」

 

 荒ぶるレイコがギャオりにギャオり、先ほどからバスタードが落ち着くようにと窘めている。どうやら、皮肉を込めることもユーモアを織り交ぜる余裕もないらしい。流石はレイコと言ったところだ!

 

「見ての通り、レイコは癖が強い」紅蓮は言った。「バスタードは謎に許されてる。俺はメス化したから許されてる。だけど、おっさんのオジさんはクソオス判定に引っかかってるらしい」

「こいつはたまげたねぇ……⁉ 初邂逅の貴重な女性モンハンユーザーがここまで癖強(くせつよ)とは」オジさんが()()()、と嘆いた。「おじさんはどこにいっても報われないよ……」

 

 哀愁を漂わせる背中が惨め過ぎて、紅蓮は憐憫の情を抱かざるを得なかった。流石に可哀想なので、フォローしてあげることにした。

 

「おいレイコ、流石に失礼だろ。オジさんだって好きでおじさんをしてる訳じゃない。時の流れでおじさんになってしまったんだぞ!」

「うるさいわよ! クソオスはクソオス! キング・オブ・クソオスなのよーっ!」

「駄目だこりゃ」

 

 紅蓮は諦めた。仕方がないので、複雑そうな瞳でこちらを見ているオジさんを引き連れて、東の森でキノコ狩りを始めた。今現在の時刻はおおよそ十六時過ぎだ。夕食集めはバスタードに期待はできないし、紅蓮たちで集める他ないだろう。多少なりとも貢献をすれば、レイコの溜飲も下がるに違いない。

 まさかここに来て人間関係で悩むとは。紅蓮は大きなため息をついて、オジさんの居心地を悪くさせた。

 

「なあ、オジさんはなんで薪がパチパチ鳴るのか知ってるか?」夜の帳が降りたレイコハウスの前で、焚き火を囲う紅蓮は言った。それに対してオジさんは、「いや、知らないなぁ」としっかりと考えた上で答えた。

 

「正解は薪に含まれる水分が急激に膨張してるからだ。それで薪が割れてるんだよ。水蒸気爆発、実は薪の中にはネロミェールがいるんだな」

「そうだったんだね! いや~、薪の中に古龍がいるだなんて。おじさん驚いちゃったよ!」

「んな訳ねえだろうが‼」

「ええっ⁉」

 

 なんで怒鳴られたのかと困惑しているオジさんを他所に、紅蓮は焚き火を挟んだ先にいるレイコを見つめた。物凄く息が荒い。フー!フー!と呼吸を荒げて、クソオスにギャオらないように努めていた。もはやあれは病気なので、慣れてくれるまでは放置だ。一応レイコはこの世界で三ヶ月もの間、生き延びてきたほど優秀なので、理性が感情を上回ることを期待している。

 バスタードは鼻歌──英雄の証──を歌いながら、網の上でアオキノコを焼いていた。レイコ池で釣ったサシミウオは串焼きにされていて、もちろん味付けは塩だ。パリッと焼けた皮からは油が滴り落ちて、食欲をそそる香りが漂っていた。

 

 夕食を堪能する紅蓮は、そういえば今日あったことを話してないな、と思い至った。そのため、各々が食事を楽しむ中、話を切り出した。

 

「皆、聞いてくれ」紅蓮は言った。「オレたちがこの世界へやってきたのは偶然じゃなかった。今日、かつてこの地に居たとされる獣人族の痕跡を見つけたんだ。オレは何らかの儀式場と思われる洞窟の中で壁画を見つけた。それを見た限り、オレたちの知らない謎のモンスター──おそらく古龍が関わってる。モンスターや獣人族に畏怖されていて、嵐と共に全てを大空に持ち上げるような存在だ。オレは翼の生えた蛇の姿から、仮称ウロボロスと呼んでる」

 

 静かに聞いていた面々の中から、声を上げる者がいた。それはレイコだ。

 

「……アンタの話が事実として、それでどうするのよ? そのウロボロスとやらと話し合おうっての?」

 

 次にバスタードが口を開いた。

 

「その壁画、僕も気になりますねえ! ですが、そうですか。この不可思議な冒険譚には古龍が関わっていると……いやはや、年甲斐もなくはしゃいでしまいます!」

 

 最後に、オジさんが意味深にも告げた。

 

「そうだったのか。なら、あれは……」

 

 オジさんの反応が気になった紅蓮は、知ってることを全て話すようにと催促した。オジさんは話す内容をまとめているのか、少し間をおいてからゆっくりと話し始めた。

 

「紅蓮ちゃんはあの宝玉を見たよね? 実はあの空間に繋がる神殿は、最近まで建ってたんだ。訳あって倒壊しちゃったけど、元々は大きな壁画があったんだよ。それを読み解く限り、あの宝玉は嵐に乗る方舟、その鍵なんだ」

 

「鍵……?」紅蓮は片眉を上げた。

 

「そう、鍵。紅蓮ちゃんの言う西の森の最奥には、獣人族が作り上げた大きな階段状ピラミッドがある。その周囲には朽ちてはいるけど沢山の舟が残されてるんだ。付近に水辺なんて無いんだけどね」

 

 オジさんが意を決したように言った。

 

「おじさんが知ってるのは、あの宝玉の力によって嵐が引き起こされることさ。それはもう空へ吸い上げられるほどの大嵐だよ! かつての獣人族は、その嵐に乗って遥か高い空の上に昇っていったんだ。ごく一部の獣人族は残ったみたいだけど、彼らはこの世界で新天地を目指したみたいだね。行き先は遥か南だ。その先に安住の地があると壁画が物語っていたよ」

 

 語り終えたオジさんが口を閉ざした。その内容はあまりにも衝撃的なことだった。一度考えを整理しようと紅蓮は頭を回すが、混乱してしまう。一体どうするべきだろうか? 元の世界へ帰りたいなら、獣人族がしたように嵐に乗る他ないだろう。しかし、元の世界へ帰れる保証なんてないし、死ぬ可能性だって高い。なら諦めてこの世界で暮らすか? 紅蓮は頭を悩ませた。

 

「……一旦、皆の意見を聞かせてくれ」紅蓮は言った。「オレは元の世界へ帰りたい。この世界に骨を埋めるなんて御免こうむる。オレは嵐に乗るぞ」

 

「僕も紅蓮さんと同じ思いですよ!」バスタードが答えた。「僕だって元の世界へ帰りたいです。それに、僕らは物語の主人公だ! きっとどんな困難にも打ち勝てますよ!」

 

「私は反対よ!」レイコが叫んだ。「宝玉とか、獣人族とか、嵐とか……そんなのよく分からないし、どうなるか分かったものじゃない! まずはしっかりと調べるべきよ! 私は馬鹿をやって死ぬなんて嫌!」

 

「おじさんも、嵐に乗りたい派かな」最後にオジさんが言った。「少なくとも、空に昇った獣人族は戻ってきていない。希望的観測だけど、きっと遥か遠い世界へ旅立ったんだ。でも、レイコちゃんの言うように慎重になるべきだよ。不確定要素が多すぎるし、まずは色々と調べたり、検証してみないといけないと思う」

 

 それぞれの意見を聞いた限り、嵐に乗る者が多い。レイコも反対はしているが、それは不安要素が多いからだろう。流石に一人でこの世界に残る選択肢はとらないようで、「死ぬならバスタード君と死ぬ!」と大声で叫んでいた。

 

 ひとまず調査をするべきだろう。まずは西の森の最奥にあるとされる階段状ピラミッドだ。オジさんが言うには、その頂上部には宝玉を収める石像があるらしい。なお、嵐を呼ぶためには条件があるようで、雲一つない蒼穹の日、太陽が頂点に達した時間帯でなければならないとか。そんな日があるのかと思った紅蓮だったが、今思えばこの世界には雲が少ない気がした。もちろん雨は降るし、曇り空だって見たことがある。でも、晴れの日は総じて快晴だった記憶があるのだ。まるで、空から地上を観察しやすいかのように。

 

 あまりにも馬鹿げた発想に紅蓮は首を振った。ひとまず今日は身体を休めて、明日から精力的に活動すべきだろう。全く、休む暇がないな。そう思った紅蓮は、オジさんの寝床がないことに気付いて、バスタードに声を掛けた。

 

 

 

 翌日、紅蓮はオジさんと共に西の森の最奥を目指して歩いていた。大きな階段状ピラミッド──祭壇場まではあと少しらしく、既に神殿跡地は通り過ぎていた。

 

「昨日、訳あって神殿が倒壊したって言ってたよな?」紅蓮は聞いた。「なんで倒壊したんだ?」

「ああ、それはね、ダイミョウザザミ亜種とゲネル・セルタスの縄張り争いに巻き込まれてしまった結果だよ。おじさんは必死に神殿を守ろうとしたんだけど、奮闘虚しく破壊されてしまった。本当に勿体無い!」

 

 ゲネル・セルタスといえば、アルセルタスと雌雄の関係だ。そう考えると、この森に生息していてもおかしくはないのかも知れない。しかし、西の森がさらに魔境になっていく。よっぽどこの地が素晴らしいんだな、と紅蓮は思った。

 

「それで、勝者は?」

「ダイミョウザザミ亜種さ。ゲネル・セルタスは空高く飛んだザザミ亜種に潰されて亡くなったよ。ご臨終だ」

「大自然は怖いぜ……!」

 

 周囲に気を配りつつも、紅蓮はオジさんとの会話を楽しみながら歩き続けた。

 

 祭壇場に辿り着いた。そこは森の中では珍しく開けた場所にあって、平坦な大地の上に見上げるほどに大きな階段状ピラミッドが鎮座していた。威風堂々たるその姿は、長い年月が経っていてもその威容を遺憾なく誇っていて、かつて住んでいたとされる獣人族の高度な文明が垣間見えた。

 

 紅蓮はオジさんと頷き合い、ピラミッドを上り始める。四角錐の形をしたピラミッドの四面には階段が設けられていて、苦労もなく頂上部に辿り着けた。そこには小さな小部屋があって、その中に宝玉を収める台座があった──とぐろを巻いた蛇の胴体が台座になっていた。

 大きな翼を広げた蛇の石像が印象的だ。また、小部屋には浮き彫り(レリーフ)があって、太陽や星、雲、雷雨といった自然現象が彫られていた。その中でも特に目を引くのは、やはり翼の生えた蛇──仮称ウロボロスだろう。長大な胴体に、三対の翼。羽毛が生えている様子も見て取れる。紅蓮は、三対の手足を持っているのは古龍の特徴に当てはまるのではないか?と思った。

 

「おじさんはてっきり、獣人族が創り出した神様だと思ってたんだけど……まさか、実在するとはねぇ」

「それだったら、神様は獣人の姿だろ」

「確かに!」

 

 宝玉を収める台座を確認した紅蓮は、祭壇場周辺の探索に乗り出そうかと考えた。しかし、外から大きな咆哮が轟いたのだ。急いで外を確認してみれば、紅蓮は驚き、すぐに身を潜めることになった。

 

 大空を翔けるための大翼を持ち、大空と同等の蒼い外殻を持つ飛竜。翼膜は森林に溶け込む緑色で、長く伸びた首と尻尾の先には凶悪な頭部と鋭い棘の生えた尾先があった。

 

「リオレウス亜種⁉」紅蓮は叫んだ。「蒼き王者なんて冗談じゃないぞ! 見つかったら逃げられない!」

「紅蓮ちゃん、あっちを見て!」

 

 オジさんが指を指した方角、そこは森の中だ。だが突如として紫色の影が飛び出し、大きく飛び跳ねた。やや小柄ではあるが、それはリオレウス亜種と比較すればの話だ。人間からすれば十分巨体であり、俊敏さを覚えるすらりとした体型をしていた。

 くちばしが頭部の大部分を占めていて、大きな耳が特徴的な鳥竜種だった。紅蓮はこちらのモンスターも非常に獰猛かつ狡猾なことを知っていて、思わずといった様子で顔を歪めた。

 

「おいおい、イャンガルルガまでいるのかよ……!」

「おじさんも初めて見たよ! でもどうしてだろう、ここ最近はモンスターたちが活発だ。そういう時期なのかな?」

「さっぱり分からない!」

 

 リオレウス亜種とイャンガルルガが縄張り争いを始めたので、紅蓮はオジさんと共に逃げ出した。幸いにも距離があり、ピラミッドの反対側から逃げられたので見つかることはなかった。

 

 急いで森の中を駆け抜けて──途中で天然洞窟を経由したりして──いつしか紅蓮とオジさんは湖に着いていた。場所は湖の最も北に位置する場所だ。しかし紅蓮は慢心せずに、息を切らすオジさんに叫んだ。

 

「立ち止まるな!」

「そんなこと言ったって、オジさんスタミナが……!」

 

 その瞬間、西の森方面から木々を薙ぎ倒す音が響いた。ついで派手な破砕音が鳴り響き、巨大な頭骨が砂浜に衝突したのだ。

 体を起こしたダイミョウザザミ亜種がこちらへ振り向く。何を考えてるかは全くわからないが、間違いなく紅蓮たちを見つめていた。

 

「まずいな。ダイミョウザザミは基本的に温厚だが──」紅蓮は冷や汗を流す。「亜種個体はとりわけ凶暴だ!」

 

 紅蓮の叫び声と同時に、ザザミ亜種が巨大な両腕を掲げた。明らかな敵対行動だ。紅蓮は全速力で逃げ出した!

 

「とりあえず森の中で撹乱するぞ! 拠点に連れてく訳には行かない!」

「ちょっ、紅蓮ちゃん待ってー⁉ おじさんまだ死にたくなーい‼」

 

 オジさんを助ける方法などないので、紅蓮は気にせず走った。一応、後ろからオジさんの息遣いが聞こえるため、無事なのは確かだ。しかし、ちらりと後ろを見やった時、もう既にザザミ亜種が間近に迫っていた。あと少しでも距離を詰められてしまえば、オジさんは巨大なハサミで挟まれて、抵抗する間もなく両断されるだろう。一気に肝の冷えた紅蓮は「走れーっ⁉」と声を荒らげるが、現実は非情だった。

 

 オジさんに振り下ろされた巨大なハサミが──湖から放たれた長射程の水ブレスに弾き飛ばされた。盛大に体勢を崩したザザミ亜種は派手に転び、巻き上げられた土砂が紅蓮たちに降り注いできた。

 

「どわーっ⁉」

 

 大量の土砂に叶うはずもなく()けてしまった紅蓮は、激しい水飛沫を上げる湖に目をやった。そこには巨大な背びれがこちらに向けて舵を切っていて、今にも地上に衝突しそうだった。しかし、水面がおおきく盛り上がったかと思えば、巨大な影が──太陽さえ覆うほどに巨大な影が飛び出してきたのだ。

 

 もはや大きいなんてものじゃない。これが生物とは思えないほどに巨大なガノトトスが姿を現した。大量の水を滝の如く滴らせて、ただそこに立っているだけで砂浜を大きく陥没させる。首を痛めるほどに見上げなければ頭部は視界に収められず、土砂に(まみ)れて地面を這いつくばる紅蓮は、自身を包み込む大きな影に底冷えするほどの恐怖を覚えて、無意識のうちに声が漏れた。

 

「デカすぎんだろ……⁉」

 

 体を起こしたザザミ亜種が口元から泡を吹き、両腕を掲げていた。間違いなく怒っている。それに対してガノトトスも臨戦態勢だった。もしかしたら、縄張りを侵されたと判断してやってきたのかも知れない。紅蓮は今にも始まりそうな大怪獣バトルから避難するため、一目散に逃げ出したオジさんの後を追った。

 

 背後から轟いていた恐ろしい戦闘音が聞こえなくなった頃、紅蓮はレイコハウスに辿り着いた。ここへ来るまでにどれだけ肝を冷やしたことか。さしもの紅蓮であろうと深いため息をついて、当分は探索を控えたいと思うほどだった。これでは命がいくつあっても足りない、と身に沁みて感じたのだ。

 無言で呼吸を整えるオジさんも同様のようで、ザザミ亜種に殺されかけた時から余裕が消えていた。先ほどから周囲に気を配っていて、明らかにモンスターを恐れていた。流石にフォローしなければ今後に影響が出るだろうと思った紅蓮は、オジさんに声掛けした。

 

「おい、大丈夫か?」

「あ、ああうん。おじさんは大丈夫、心配いらないよ」

「心配しかねえよ。とりあえず休め、ここは安全だ」

「……そうするよ、流石にトラウマになったかも!」

 

 一人にはなりたくないようで、オジさんは焚き火跡を囲うように置かれた丸太に腰掛けた。ゆっくりとした動きで小枝を運んでいる。

 紅蓮は昼過ぎにも関わらず見当たらないバスタードとレイコに疑問を覚えた。流石に死んでないと思うが、少し不安だった。とりあえず紅蓮も休みたい気分だったため、いつまでもトロくさいオジさんに変わって焚き火を作った。

 

「もう大変だったわ! まさかドスランポスと鉢合わせるなんて!」サシミウオにかぶりつくレイコが忌々しそうに叫んだ。それに続くようにバスタードが言った。

 

「なんとか撒けましたが、すごい執念でしたね! レイコさんは美人ですから、もしかしたら顔を覚えられてるのかも!」

「あらやだ、私が好きなのは美男子よ! 爬虫類系なんて勘弁してちょうだい!」

「意外と余裕あるだろお前」

 

 こっちは死にかけてる訳だが、それは向こうも同じなので共感はしてくれても、恐怖の度合いを測ってはくれなかった。おかげさまで、紅蓮とオジさんの感じた恐怖はドスランポスと同等になってしまったのだ。何たる理不尽!

 

「何よその顔は」レイコが睨んできた。「聞いたわよ、リオレウス亜種にイャンガルルガ、ダイミョウザザミ亜種にガノトトス。そりゃあ恐ろしいでしょうけど、こっちだって怖い思いしてんのよ!」

「分かってるよ!」

 

 紅蓮が「攻撃的な女は怖いぜ! なあ?」とオジさんに愚痴をこぼせば、オジさんが神妙な面持ちで紅蓮を見つめてきた。そして「うん、そうだね……!」と妙に実感の篭った声音で言ってきた。

 

「それで、今後はどうします?」バスタードが話を切り出した。「モンスターたちが活発ですし、安易に探索ができません。しばらくはこの状況が続きそうですが……」

 

 オジさんの真意を探っていた紅蓮は、バスタードの意見を聞いて頭を悩ませた。どうするべきか? 正直なところ、紅蓮の心のうちは決まっている。嵐に乗るのだ。そして元の世界へ帰る。だが、不安要素が大きいのも事実だった。

 

「この状況が続けば、いつかモンスターに食い殺されるのがオチだ。オレは嵐に乗るべきだと進言する!」

 

 紅蓮が啖呵を切るように声を上げれば、しばしの静寂が訪れる。レイコが必ず反対すると思ったが、意外にも声を上げない。よっぽどドスランポスに襲われたことが堪えたのだろうか?

 

「……乗るにしたって、準備がいるんじゃないの?」レイコが言った。「方舟とやらを作らないといけないんでしょ?」

「そうだね、獣人族は大勢いたから、それはもう沢山の舟を造ったみたいだよ。でもおじさんたちは四人だし、小舟でいい気がする」

「祭壇場で造るのはリスクがありそうですし、ここで造って、持っていった方が安全ですかねえ」

 

 話は嵐に乗る方向に進んでいた。皆が皆、この世界に長居することは厳しいと判断したのかも知れない。そうと決まれば、次の目標に全力を注ぐのみだ。

 

「嵐に乗るってことは、材質は可能な限り軽い方がいい!」紅蓮は叫んだ。「それでいて丈夫で、水が漏れないような素材がいいだろう!」

「そんな都合のいい素材なんて無いわよ」

「いえ、ありますよ! あれです!」

 

 バスタードが指を指した先には、アルセルタスの素材が山のように積まれていた。それを見たレイコが「あるわね……」と小さく呟き、オジさんが「凄いじゃないか!」と続いた。

 

「加工できるかは試してみないと分からないけど、隙間はネンチャク草で埋めればいいし、ロープが欲しけりゃオレが蔦を取りに行く。帆が欲しけりゃアプトノスでもイーオスでも狩ってきてやるよ!」

「いいですねえ! ひとまず舟の設計図を書いてみましょうか!」

 

 舟に詳しい人物なんていないので、全員で意見を出し合いながら考えた。それは食事を長引かせるほど続いて、数時間後に舟の設計図が完成した!

 




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