モンハンやってたら異世界に飛ばされた!   作:卍錆色アモン卍

2 / 5
二話 サバイバル生活

 

 まだ暗い時間帯だったが、紅蓮は目が覚めた。葉っぱで作った絨毯から起き上がり、背伸びをする。背中がパキパキとなった。

 喉が乾いたが、ここにあるのは残していたワイルドマンゴーが一つだけ。紅蓮は水筒やコップを用意するのは当然として、魚や肉を集める必要があるぞ、と思い至った。

 

 洞から出て小川に向かって歩いていると、段々と空が明るくなってきた。それと同時に密林に活気が溢れ出して、鳥たちの囀りが聞こえ始める。

 小川に到着した紅蓮は顔を洗い、革ジャケットを脱いだ。今上半身に身に纏っているのはミニ丈のシャツと、その下のインナーだけだ。用心深く周囲を見渡した紅蓮は意を決して(ぼたん)を外し、シャツとインナーを脱ぎ捨てた。

 我ながらデカい、と紅蓮は思う。元男としてはあまりにも複雑な気分だったが、それはそれとして眼福だった。あえて省略するが胸を懇切丁寧に洗うと、再びインナーとミニ丈のシャツを身に着けた。代わりが必要だ、と紅蓮は心のメモ帳に刻んだ。

 

 ベルトを外して剥ぎ取り用ナイフを大きな石の上に置き、ひとまず足鎧を脱いだ。膝鎧はベルトで止まっていたり、脛当(すねあて)や鎧靴は特殊な方法で止まっていたりと、外すのには大変苦労した。しかし、やがて長靴下だけとなり、それもするりと脱げたので今は素足の状態だった。

 我ながら太い、と紅蓮は思う──このやり取りはもうやったので省略するが、筋肉質ながらも素晴らしい美脚を懇切丁寧に洗った紅蓮は、今度は毛皮製の腰蓑を外した。そしてゴクリと唾を飲み込むと、その下に身に着けていた下着──パンツに手を掛けて、足元に下ろした。

 初めて見た、と紅蓮は思った。じっくりと観察するのも気分が悪いし、だからといって自分の身体を知らないのは不味いので、分かる範囲で勉強をした。その結果、興奮してしまった。

 とりあえず()()()()が可能な範囲まで勉強したので、紅蓮は懇切丁寧に洗ったのち、脱いだ防具類を再び身に着けた。

 

 他の部位も軽く洗った紅蓮は、タオルと石鹸が欲しいと思った。そのため、心のメモ帳に追加した。

 

 そこらの木の枝を適当な大きさに切って、何度も先端を裂くように切れ込みを入れると、即席の歯ブラシの完成だ。なお、歯ブラシと思っているの紅蓮だけだが、それは些細な問題である。

 あまり強く擦らないように気を使いながら歯を磨き終えたら、紅蓮は髪を少し整えて、ようやく身支度を終えた。その頃にはとっくに日が昇っており、体感午前九時頃だった。ここまで時間が掛かった理由は、濡れた身体を乾かす時間が大きい。どう頑張ったって、すぐには乾かない。紅蓮は現代生活は本当に快適だったんだな、と遠い空を見つめながら思ったものだった。

 

 それはさておき、時間は有限だ。紅蓮はやるべきことを一つ一つ終わらせていくことにした。まずはタオルだが、これは大きな葉っぱを綺麗に洗って、大量に取っておくことにした。どんどんと枯れていくが、それだけ水分が抜けるのだ。あまり話題に上げたくないが、お花摘みの際にも役立つことだろう。

 

 次に水筒とコップだ。ひとまずコップを作った。片手じゃ握れない程度の木をナイフで切り倒し、大体の長さで切断。ナイフで地道に中をくり抜いて、おまけに蔦を上手に巻きつけて、取ってを作ったら完成だ。随分と不格好であり、形も悪いが最初にしては悪くない。この経験を次に活かせば無問題である。

 

 石鹸については、偶然にも発見した。小川の近くに大きな鞘を実らせた、マメ科の植物が群生していたのだ。最初は食べられるのかと思って小川で洗ってみたら、あらびっくり。きめ細やかな泡が立つではありませんか! 紅蓮はそれを使って手を洗ってみると、すごく艶々とした肌に生まれ変わったのだ。ソープビーンズ。それがこの植物の名前である──もちろん、紅蓮が名付けた。

 

 肉と魚が欲しかった。しかし、たとえあっても生食(せいしょく)なんてできるわけがなく、食べるためには調理が必要で、その調理には火が必要だった。紅蓮にとっては、これが非常に難題だった。

 

「火ってどうやって起こすんだ……?」

 

 洞の中で考え込む紅蓮は、頭を捻った。摩擦熱、圧縮熱、火打ち石。これらが頭に浮かんできたが、前者二つは仕組みと起こし方が分からず、後者は当然ながら持っていない。また、もし火打ち石を探すにしても正体が分からないため、無駄骨になる可能性が非常に高かった。

 紅蓮はため息をつく。その間にも手は動かしており、そこらに茂る蔦を使ってロープを作っていた。必ず役に立つと信じて。

 一旦この問題は置いておいて、衣服の代わりについて考えてみた。しかし、こちらも現実的ではない。紅蓮はタオルを葉っぱで誤魔化しているのだ。衣服なんて夢のまた夢で、それ以前に布なんてどうやって作るのか、皆目見当もつかなかった。

 

 ──紅蓮、万事休す!

 

 現実逃避をしたところで、時間が過ぎていくだけ。既に日暮れが近づいてきており、先ほど集めておいたワイルドマンゴーだけが紅蓮の生命線だった。

 食が偏るのはよろしくない。栄養が偏るからだ。紅蓮は一刻も早く問題を解決しなければならなかったが、焦ったってどうしようもなかった。明日は探索をメインにして行動してみようと紅蓮は心に決めた。

 

 

 

 翌朝、食事を済ませて軽く身体を洗い終えると──ソープビーンズと葉っぱタオルが最高の仕事をしてくれた!──紅蓮は探索に出かけた。小川の上流を目指して進んでみる。

 耳に心地良いせせらぎの音を聞きながら、緑のトンネルの中を抜けていく。道中には真っ青な花──すごくまん丸な花を咲かせた植物がところどころに自生しており、紅蓮は調べてみた。葉や茎を折ってみると物凄い勢いで水が弾けて、花はスポンジのように柔らかく、多量の水が絞り出せた。驚いた紅蓮はこの植物を流水草と命名した。使い道は沢山あるだろう。少しだけ絞り出した水を飲んでみれば、フルーティーな香りが漂う美味しい水だったのだから。

 他にも真っ青なキノコを見つけた。すごく立派であり、傘だけでも顔ほどの大きさがあった。随分と毒々しい外見だが、少しだけ切り取って肌に乗せたり舐めたりしてみたが、特に体調を崩すことはなかった。しかし、キノコを食べるのはリスクが高かったので、今回はスルーした。

 

 やがて緑のトンネルが姿を消し、少しだけ川幅の広がった森の中となった。紅蓮が側を歩く川中には苔()した石や岩がゴロゴロと転がっていて、少し起伏の上がった川辺には多くの植物が生を謳歌している。少しだけ休憩を挟むことにして、紅蓮は近場の石に腰掛けた。

 僅かに見える青空に浮かぶ太陽は時折確認していて、紅蓮はこの小川が曲がりくねりながらも南の方角へ続いていることに気づいていた。このまま向かっていっていいものか? なんとなくだけど、山に当たりそうな気がする。紅蓮は今後の方針について、思考を巡らせた。

 

 一度海辺の探索をしてみようか、と紅蓮は思った。小川には魚影を確認しているが、調理ができそうもないため泣く泣く無視をしていて、海辺に行けば新たな食材──たとえばココナッツのような──が手に入る気がしたのだ。

 思い立ったが吉日。紅蓮は小川を後戻りして、拠点たる洞を通り過ぎて、さらにはワイルドマンゴーの木の側を通って、この世界で初めて目覚めた場所に向かうのだった。

 

 おおよそ十メートルほどの断崖だ。降りるのは厳しそう。爽やかな潮風に吹かれる紅蓮は、そう独りごちた。しかし、ちょうどこの場所が高さの頂点のようで、周囲をしっかりと観察してみると、紅蓮から見て右方面──東の方角にはちょっとした入り江があって、そこには海岸があるようだった。陽の光を一心に浴びて、白い砂浜が輝いている。

 紅蓮はナイフを振りながら、海沿いに進んだ。やがて起伏が下がり、海面と同程度の高さになった頃に目的地の砂浜に着いた。

 

 さり、さり、と砂浜を鳴らして、紅蓮は波打ち際を歩く。ターコイズブルーからコバルトブルーに変わっていく海は感動を覚えるほどに綺麗で、遥か遠い地平線の彼方には大きくて真っ白な入道雲が漂っていた。太陽は暖かな日差しを照りつけてきて、爽やかな潮風が身体を攫うように通り過ぎていく。

 

 ──なんて美しい世界だろう。

 紅蓮は砂浜に足を投げ出し、寛いだ。今この時だけは不安や寂しさを忘れて、心地良い気分に浸れた。元いた世界じゃ、こんな経験は死ぬまでできなかったろうな、と思い、この世界へやって来たことを、そう悪いことじゃないと思えるようになっていた。

 

 疲れも取れたことなので立ち上がり、紅蓮は探索を再開しようとした。森に向かって歩いている最中、ある違和感に気づく。それは森の手前に積まれた小石の山だった。

 この海岸に来た時はなかったような気がしたが、記憶に自信はない。紅蓮はそこはかとない不気味さを覚えつつも、ナイフをしっかりと握り込んでゆっくりと近づいていった。

 

『ぼくは敵ではありません』

 

 砂浜に書かれた日本語を見て、紅蓮は飛び上がった。急いで周囲を見渡してみるが、誰の気配もない。もしかして、森の中に隠れているのだろうか。

 

「お前は誰だ! 姿を見せろ!」

 

 いくら待っても、返事がない。紅蓮は身を隠せる場所もない海岸と、不可思議な現象に恐怖を覚えた。やがて逃げるように駆け出した。

 息を切らせるほどに走り続けて、いつしか海岸から遠ざかっていた。紅蓮は呼吸を整えると、ナニかがこの森にいる!と怯えて、戦慄した。未だ出会っていないが、こちらを襲える野生動物は怖いものだ。しかし、それ以上に知性のある存在がこちらを認識していることが怖かった。

 

 ──どうすればいいのだろう? こちらは武器なんてナイフしかない。

 紅蓮は早急に武器を作る必要性に駆られた。素材はうんとある。まずは槍を作って、弓と矢の製作にも挑戦してみよう、と思い至った。

 

 道中で素材を集めながら、紅蓮は洞に帰ってきた。手始めに比較的真っ直ぐに伸びた木の先端をナイフで尖らせて、即席の投げ槍を作った。お世辞にも丈夫とは言えないが、軽くて持ち運びがしやすく、昨日作っていたロープを使えば束ねることだって可能だろう。紅蓮は二十本ほど製作すると、満足げに頷いた。

 

 弓と矢の製作は難航した。素材に適した木材が分からず、手作りのロープでは上手いこといかなかったのだ。時間だけが過ぎていき、ついぞ弓矢が完成はすることは無かった。

 

 紅蓮は考え方を変えて、まずは投石器(スリング)を作ってみることにした。偶然にもおおよその外観は知っている。そこら中にある蔦を掻き集めて、沢山の試作品を制作。そして小川に行って良さげな石を沢山集めた。その際に持ち運ぶのが大変だったので、有り余った蔦を上手いこと編んで籠を作った。不格好で隙間が多いが、拳大の石を運ぶ分に申し分なかった。

 

 ヒュン、ヒュン、と軽快な音を立ててスリングを指先で回転させ、徐々に速度を上げていく。そして十分だろうと思ったタイミングで利き足たる左足を大きく踏み込み、まるで下からすくい上げるように、勢い良く右腕を振り抜いた。瞬間、鋭い風切り音が鳴り響く。

 握っていた紐──人差し指に掛けていた、投石紐の反対側を右腕を振り切る前に離して、受け皿に収まっていた小石を解放した。遠心力に背を押されて飛び出した小石は猛烈な勢いで(そら)を飛び、瞬く間に目標の大木を打ち抜いた。

 

 ゴッ!と鈍い音を響かせた大木は僅かに葉擦(はず)れを起こしていた。紅蓮はたったの数回目にしてスリングをモノにしたことを喜ぶが、それ以上に感嘆すべきことがあった。それは自身の肉体があまりにも超人的だったことだ。

 

「流石はハンターの身体だ! 身体能力が違い過ぎる!」

 

 紅蓮は思った通りに動く──なんの過不足も無く答えてくれる自身の肉体に興奮した。地面に刺していた投げ槍を手に取って、ステップを刻みながら、弓なりに身体を反らして投げてみる。投げ槍は綺麗な放物線を描きながら飛んでいき、狙いを定めていた大木に突き刺さった。思った通りの、予想した通りの動きと結果だった。紅蓮は声を出して笑った。つい面白くなってしまって、日が暮れるまでスリングと投げ槍で遊んだ。

 

 ほんの僅かな月明かりが差し込む洞の中で、紅蓮は耽る。今日は海岸で怖い体験をした。何者かが紅蓮を観察していたのだ。のんびりと寛いでいた紅蓮は、そのことに気づかなかった。なんたる不覚、と紅蓮は顔を歪める。しかし、いつまでも優位でいられると思うなよ!と心を奮い立たせた。

 寝転がっていた紅蓮は、腰に手を這わせてスリングを触った。その隣には蔦で作った小石用のポーチがベルトに吊るされている。

 ──相手が何だろうと、こちらは武力を有してるんだ。どんな化物相手だろうとやってやるぜ!

 紅蓮は明日が決戦だ!と言わんばかりに決心して、英気を養うために早々に眠りについた。願わくば、相手がモンスターでないことを祈りながら。

 




 高評価、お気に入り登録で応援よろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。