モンハンやってたら異世界に飛ばされた!   作:卍錆色アモン卍

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三話 原住民族発見!

 

 徐々に白み始めた空の(もと)、紅蓮は身体を清めていた。ソープビーンズで懇切丁寧に身体を洗い、葉っぱタオルで身体を拭き上げる。自然から作った櫛で髪を梳かすと、防具類を身に着けていった。

 小川から洞に帰ってきた紅蓮は食事を済ませて、剥ぎ取り用ナイフ、スリング、スリング用の小石をしっかりと身に付けているかの確認をした。次に投げ槍をロープで束ねて肩に担ぎ、空いた手には小石を入れた篭──取って付き!──を持って、ついに洞から出発した。

 

 海岸に向かう道中、投げ槍と、籠に入れた小石を一定間隔に置き、逃げる際に役立てるようにした。もしもの際はこれを使えば抵抗できると踏んだのだ。そうならないことを願うばかりだが、最悪を想定するのは当然のことである。

 あと少しで海岸が見えてくる。既に投げ槍は残り三本だけになっていて、篭は道中に置いてきた。紅蓮はここからが本番だぞ!と気合を入れた。

 その時、前方に見知れぬ影が蠢いているの発見したのだ。紅蓮は驚くが、急いで物陰に身を隠して、頭を覗かせる。

 ナニかが屈んで地面を見つめていた。かなり距離があり、後ろ姿のため正体が分からない。黒い全身をしていることは見て取れた。 

 ナニかが立ち上がった。人型だ。頭は嘴のように尖っていて、左肩には翼のようなマントを掛けている。全身を包んでいるのは鋭くも気品を感じさせる鎧のようで、一見すると貴人のような印象を受けた。しかし、騙されてはいけない! あの鎧は間違いなくモンスターの外殻なのだから!

 

 ──正体を現したな! この人を(かた)る化物め!

 

 紅蓮は勢い込んで立ち上がり、投げ槍を一本担いで、助走をつけながら思いっきり投擲した。

 

「うおおおラァッ‼」

 

 密林に木霊する裂帛の声は化物にも聞こえたようで、こちらにバッ!と振り返った。しかし、既に投げ槍が木々の合間を縫って襲い掛かっているのだ。化物は幸運にも気づいたようで、慌てて回避していた。

 紅蓮は二槍(ふたやり)目を投擲した。その時には化物は一目散に逃げ始めており、紅蓮は全速力で追いかけた。

 

「待てゴラァ!」

 

 右手でスリングを振り回しながら、紅蓮は自然に溢れた密林の中を駆け抜ける。木の根を飛び越え、倒木を乗り越え、化物の背中を目指して足を回す。化物も相当な俊足のようで、一向に追いつく気配がなかった。

 少し(ひら)けた場所に出たので、紅蓮はスリングを大きく振り抜いて小石を猛烈な勢いで飛ばした。人間相手なら余裕で骨は折れるだろうし、頭部に直撃でもすれば即死して、足に当たれば間違いなく動けなくなることだろう。

 化物は紅蓮がスリングを放ったところを二度見したかと思えば、斜め前方に緊急回避──頭から突っ込んだ。その僅か頭上を小石が空気を切り裂いて飛んでいく。獲物を逃した小石は細木をへし折り、姿を消した。

 

 ──チッ、外したか!

 

 小石用ポーチから小石を取り出して、紅蓮は再びスリングを回して走り出した。化物はそれを見留めて、ことさら大慌てで駆け出していた。

 

 全く、惚れ惚れするほど俊足だ! 紅蓮は小石もスタミナも底をついて、目も当てられないほど息を荒げて走っていた。紅蓮の少し前方には苦しそうに走る化物がおり、今いる場所はあの不気味な体験をした海岸だ。

 もはや歩いた方が速いんじゃないか、なんて思いが浮かぶ程度にはヘロヘロで、もし足を止めたらしばらく動けなくなることは必至だった。きめ細やかな砂浜は否が応でもスタミナを奪い続けていて、ついには限界を迎えて、紅蓮は倒れ込むように砂浜へ寝転がってしまった。

 化物も、もう限界!とばかりに砂浜に両手、両膝をつき、息をこれでもかと荒げていた。物凄く苦しそうだ。

 

 しばらくの間、紅蓮は化物の動向を伺いながらも、呼吸を整えることに全神経を注いだ。やがて滝のようにかいた汗を拭い、立ち上がる。化物も紅蓮に釣られるように立ち上がって、こちらへ振り向いた。

 

 汗でびしょ濡れになっているが、化物は驚いたことに人間と極めて近い姿をしていた。嘴と思っていたものは、先端が嘴のように(とが)ったとんがり帽子のようだった。貴人を思わせる防具もよくよく見てみると、ラバラ・バリナと呼ばれるモンスターの素材から作成できる、ラバラ装備に極めて近いことが分かった。しいて異なる点を上げるなら、防具の至るところが黒く染められている点だ。

 

 紅蓮は化物と対面するが口を開くことはせず、相手の動向を伺った。その時、化物が意を決したように口を開いたのだ。それも、大仰に。

 

「ああ、びっくり! 見かけによらず野蛮人(ワイルズ)だ! 僕はてっきり、怒れるドスファンゴに追い掛け回されたのかと思いましたよ!」

「誰がドスファンゴだ!」

 

 突進するしか能がない猪と勘違いされたことに、紅蓮は腹を立てた。すかさずナイフを抜き放ち、化物に突きつける。

 

「やい! お前は何者だ! いつからオレのことを観察してる!」

「順序立ててお話しますよ!」化物が落ち着くようにと、ジェスチャーを送ってきた。「僕はバスタードです──もちろん、ゲームキャラの名前ですよ? 僕は日本という国で順風満帆な、それはもう順風満帆な日々を送っていました。そんな日々を彩るスパイスの一つとは……そう! モンスターハンター! この世界へやってきた一週間前、僕はモンスターハンターワイルズをプレイしていました──」

 

 この男の話があまりにも長かったので要約すると、どうやら紅蓮と同様にモンスターハンターを遊んでいると台風に攫われて、いつの間にやらゲームキャラの姿でこの世界にいたというのだ。そして、紅蓮を知ったのはこの海岸近くを探索している際に、波打ち際で寛いでいる紅蓮の背中が見えた時とのことだった。

 

「なんで声を掛けなかった?」

「そりゃあ、今の貴女と同じで疑っていたんですよ! 僕はずっと一人だった。もしかしたら幻覚かも知れないし──ホロロホルルに出会ってしまったのかも!──悪い人かも知れない! ここは穏便に済ませようと思ったんです」

「じゃあ、オレが誰かいるかと誰何(すいか)した時、なんで答えなかったんだ!」

 

 紅蓮は、頭一つ分背の高い青年──バスタードに詰め寄った。金色(こんじき)の瞳をじっと見つめ返して、嘘がないかと真意を探る。

 

「なんてタイミングが悪い! 僕はキャンプから食料を持ってこようとしたんです。もし僕と同じ境遇なら、イビルジョーのように飢餓に苦しんでいたことでしょうから! 一応、僕の存在を明かすために目印を残したんですが、見てくれました? 小石を積み上げて、砂浜に文字を書いたんですが……」

 

 紅蓮はそう言われて記憶を探ってみた。すると、砂浜に書かれた文字──『ぼくは敵ではありません』が、朧げながらに浮かんできたのだ。今思えばそこまで怖がらなくてもよかったのかも知れないが、当時は本当に怖かった、と紅蓮は思い返す。

 この青年を化物と勝手に決めつけたことに対して、紅蓮は多少の申し訳無さを覚えた。しかし、馬鹿正直に怖かったと伝えるのは憚られたし、弱みを見せたくなかったため、「小石の山しか見てない!」と叫んだ。

 

「気づかなかっただって? そんな! ゴア・マガラだって視認できるほど大きく書いたのに!」

 

 バスタードががっくりと項垂れた。よっぽど悲しいらしい。もし紅蓮が砂浜の文字を見ていたら、投げ槍やスリングが飛んでくることはなかった、と思っているのかも知れない。残念ながら、見た結果がこれである。

 

 紅蓮は眼前の青年が、そこまで悪い人物ではないような気がした。もちろん油断はできないし、心は全く許していないが、この未知の世界で誰かと会話が出来たことに喜びを感じていたのだ。そのため、紅蓮はナイフを鞘に納めると、ぶっきらぼうに手を差し伸べた。

 

「襲い掛かって悪かったな。オレは紅蓮だ。できれば、お前と仲良くしたい」

「ようやく貴女の名前を聞けましたね! ええ、こちらこそよろしくお願いしますよ、紅蓮さん!」

 

 にこやかな笑みを浮かべたバスタードと、紅蓮は握手を交わした。

 

 親睦を深めたい!と言ったバスタードの後を追って、紅蓮は密林の中を進んでいた。入り江にある海岸を越えて、その先にあるというキャンプに向かっているところだ。

 キャンプと言ってもバスタードが頑張って作った代物のようで、探索の最中に人工物を見つけたことは今までに一度もなく、あるのは肌身離さず身に着けていた装備だけとのことだった。

 しかし、ラバラ装備のベルトにはショートソードや、身幅が非常に広い短剣──チンクエディアを思わせる剥ぎ取り用ナイフが吊られており、他にもポーチが二つ三つあった。詳しいことはキャンプについてから話してくれるようで、道中はもっぱらバスタードの雑談に付き合う紅蓮だった。

 

 やや開けた海岸が続いている。右側には疎らに木々の生えた密林が広がっており、左側には綺麗な海が広がっているが、ほんの目と鼻の先に離れ小島があった。

 離れ小島には橋が架けられていた。細木を束ねて橋板として、波で流されないように、地面に打ち込んだ支柱と繋がっている。なお、橋といっても水深は足首ほどしかなく──潮の満ち引きについては詳しくないが──干潮の際には陸地ができそうなほど浅瀬に作られていた。きっと足を濡らしたくないがために、この橋は作られたのだろう。

 

 予想通りというべきか、バスタードのキャンプは離れ小島にあるようで、紅蓮はターコイズブルーの海に浸った橋板を踏み越えて、離れ小島に渡った。

 そこは横に広がる海岸と、その海岸を囲うように聳える岩山だけと非常にシンプルな島だった。岩山の上には草が生い茂っていて、木々は一本も見当たらない。

 海岸の奥に見窄らしい掘っ立て小屋があった。岩壁を上手いこと利用して作られているようだ。

 

「ここが僕のキャンプです!」掘っ立て小屋を前にして、バスタードが言った。「特等マイハウスにも引けを取らない雄姿! 環境生物は放ち放題ですし、少し行った場所では釣りを楽しめるおまけ付き! どうです? 実に甘美な響きでしょう!」

 

 そうだな、と軽く流そうとした紅蓮だったが、聞き捨てならない言葉を反芻して、問いかけた。

 

「ちょっと待て、釣りができるのか?」

「おや、実に素晴らしい着眼点ですねぇ! 流石は紅蓮さん、僕の一押しポイントに目敏く気づくとは! そうです! それは、海岸の端にある──」

「話が長い! それとオレが聞きたいのはどうやって釣りをしてるかだ!」

 

 はっきりと物申さないと、延々と喋り続けるバスタードには困ったものである。しかし、若干の苛立ちを覚えつつも、紅蓮はバスタードとの関わり方が分かってきた。それは会話の主導権を必ずこちらが握ることだ。

 

「釣り竿を持ってるのか? それとも自作したのか?」

「説明するよりも、見てもらった方が早いでしょう。どうぞ紅蓮さん、僕のマイハウスへお入りください!」

 

 掘っ立て小屋の入り口、そこに掛けられた葉っぱのカーテンを押しのけて、バスタードが中へ入るように促してきた。紅蓮は決して表には出さないが、罠の可能性が非常に高い!と警戒する。しかし、ここで不信感を抱かれたくなかったので、最大限背中に気を配りながらも、掘っ立て小屋の中に入っていった。

 

 おおよそ六畳ほどだろうか。部屋はそれなりに広く、生活感に溢れていた。大量の葉っぱで作られたベッド、野性味に溢れたテーブル、丸太のイス。壁にも小物があり、そこに釣り竿が掛かっていた。

 素材は竹だろうか? 程よく(しな)りそうな外観をしていて、手元に金属製のリールがついている。当然の如く、糸と針も見て取れた。

 

「これはどうしたんだ?」

「最初から持ってたんですよ。あれです、アイテムポーチに釣り竿ってあったじゃないですか? それじゃないかと僕は見てます!」

「オレは剥ぎ取り用ナイフしか持ってなかった……」

「そうなんですか?」

 

 情報交換をしてみると、意外なことが分かった。なんとバスタードは釣り竿の他に、携帯砥石、投げナイフ、捕獲用ネット、双眼鏡、携帯焚き火台を持っていたのだ! どれもこれもゲームでは常備されているアイテムたちなのだが、何故か紅蓮は一つも持っていなかった。

 考えられるのは、紅蓮は腰装備を身に着けておらず、その代わりにインナーを身に着けていたので、それが影響してるのでは?というものだ。真相を確かめる方法などないため、紅蓮はもう終わったことだと割り切ることにした。

 

 紅蓮は躊躇いがちに告げる。「オレは異世界生活四日目って話したよな? その間、ずっと果物だけを食べてたんだ……! 頼む! 魚を食わせてくれ!」

 

 その場で膝をついて、紅蓮は必死に懇願した。初日に比べて痩せてきているし、体力も落ちてきている。免疫力が下がれば、必然的に病気に掛かりやすいものだ。紅蓮は何がなんでも、体力を回復させなければならなかった。

 バスタードが顎に手を添えて悩む素振りを見せた。見せつけるように「う〜ん」と唸り、とんがり帽子をこちらに突きつけて、金色の瞳で射抜いてくる。

 何を思い悩んでいるのか? 紅蓮はヘンな要求でもされた際には、躊躇わず眼前の青年を殺害して物資を奪うつもりだった。非道に思うかも知れないが、ここにルールなんてないし、誰も咎めることもない。それは紅蓮のみならず、バスタードにだって当てはまることだ。ここは大自然の中である。食うか食われるか、生きるか死ぬかを判断するのは己自身だ。

 

 熟考の末、バスタードが口を開いた。

「いいですよ? しかしィ……条件があります!」

 紅蓮は地面に膝をついて伏せた状態のまま、冷徹な瞳を浮かべた。まずはタックルを繰り出してバスタードを吹き飛ばし、左手でナイフを逆手に抜き放つ。可能なら馬乗りになって、滅多刺しにすれば勝利を掴めるだろう。紅蓮のイメージトレーニングは完璧だ!

 

「その条件とはなんだ……?」と、紅蓮は問いかけた。

「クククッ! それはもちろん──貴女のカラダですよ!」

「死ねよやーッ‼」

「ウワーッ⁉」

 

 掘っ立て小屋の入り口からバスタードが吹き飛んでいった。紅蓮のタックルが決まったのだ! 紅蓮は瞬時にナイフを抜き放ち、外に飛び出しては、地面に倒れ込むバスタードに襲い掛かった。

 バスタードに馬乗りとなって、天高くナイフを掲げる。ギラリと剣身が輝いた。そしていざ、バスタードの心臓へナイフを突き込もうとした瞬間──バスタードが叫んだのだ。

 

「ジョークですジョーク! 僕は貴女に労働してもらいたいんですよ! 本当です!」

「オレに性奴隷となれと言いたいのか! この変態め!」

「ちょっと待って! 本当に待ってください! マジです!」

「マジだと⁉」

 

 必死に暴れるバスタードに押し退けられて、紅蓮は倒れ込んでしまった。しかしすぐさま跳ね起きて、姿勢を低くした戦闘態勢をとった。

 ──ここで息の根を止めてやる!

 紅蓮は頭に血が上っていたが、心は冷静さを心掛けて、冷たく燃ゆる炎の体現者となっていた。相手とはまるで士気が違う、必ずや勝利を収めるだろう!

 

 眉間に眉を寄せて、紅蓮は唸り声を上げる。それに対してバスタードは、「今の紅蓮さんと比べたら、ランポスだって可愛く見える⁉」と軽口を叩くほど余裕があるようだった。

 

「紅蓮さん、一旦話し合いましょう!」バスタードが叫んだ。「まずは謝らせてください! 不快な発言をしてしまい、大変申し訳ありませんでした! 盛大に勘違いされているようなので──スキルの仕様のように!──簡潔にお伝えします! 僕は紅蓮さんと協力してこの世界と言いますか、この土地を調べたいんです! それに生きていくだけでも一人では大変です! どうか、僕の謝罪と誠意を受け取ってくれませんか!」

 

 奇しくも先ほどの紅蓮と同じように膝をついて、バスタードが懇願をしてきた。紅蓮は決してナイフを下ろさなかったし、一歩もバスタードに近づかなかったが、この男がジョークをよく好んでいて、お調子者であることは──短時間の付き合いとはいえ──気づいていた。そのため、紅蓮は譲歩することにしたのだ。

 

「条件がある! 一つ目、オレにヘンな気を抱いた時点で私刑に処す! 二つ目、オレとお前は対等だが、俺の発言に優先権がある! 三つ目、オレを騙そうとしたら問答無用で八つ裂きにしてやる!」

「最後の文言が怖過ぎる⁉ ですが、分かりました。その条件を呑みましょう!」

 

 膝をついていたバスタードが両腕を広げて、大仰に(こうべ)を垂れた。それ見た紅蓮は気を落ち着かせて、ナイフを鞘に納めたのだった。

 




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